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D イオンの生成と分子の形成
イオンの生成
►原子やイオンのモデル
教科書に示したような原子やイオンのモデルを,ボーアの原子模型という。原
子核と電子の間には,距離の2乗に反比例する静電気力が働いている。これは,
太陽と惑星の間に働く引力の関係と同じである。したがって,惑星と同様に電子
も原子核の周りを回っていると考えられる。古典力学の考え方では,電子がスペ
クトルに示す光を放射するとエネルギーを失って速度が遅くなり,やがて電子と
原子核が結合して,安定な原子は存在できなくなる。この矛盾を解決するため,
ボーアは次のように考えた。たとえば,水素原子は,陽子1個と電子1個からで
きているが,この電子はある特別の軌道上しか運行せず,それ以外の軌道はとれ
ないと考えた。原子核に最も近い軌道の半径をrとすると,その外側にある軌道
の半径は,22r,32
r,42 r,……であるとした。電子はこれらの軌道間を移りかわ
り,そのとき固有のスペクトルを示すと考え,スペクトルを定量的に説明した。
彼が計算で求めた水素のスペクトルの波長は,実測値と完全に一致した。この考
え方は,その後の量子力学の発達によってさらに発展した。
►イオン結合
電荷Q1〔C〕をもつ陽イオンと電荷Q2〔C〕をもつ陰イオン間の引力は,イオ
ン間距離をrとすると,クーロン力
またはポテンシャル(エネルギー)−![]()
に比例する。また,イオンが相互に接近しすぎると,原子核間の反発力が目立って
くる。この反発ポテンシャルは,
の形で表される(a,bは定数)。したがって,
引力と反発力の和を計算すると,イオン結合のポテンシャルエネルギーが求めら
れる。
気体状のNaCl分子についてポテンシャルエネルギーを計算すると,下図のよう
になる。この図の曲線の極小点が,安定な核間距離を表す。共有結合によるポテン
シャルエネルギーも同時に示したが,その値はイオン結合より大きく,イオン結合
のほうが安定であることがわかる。
|
NaCl分子のポテンシャルエネルギー(ムーア著,新物理学より) |
►イオン結晶のイオンのつまり方
イオン結晶では,陽イオンと陰イオンとが規則的に配列され,クーロン力で結合
している。各イオンは,反対電荷をもつイオンに囲まれている。この取り囲むイオ
ンの数を配位数といい,主として陽イオンと陰イオンの半径比によって決まり,結
晶型も変わってくる。
(1) NaCl型結晶 NaClの結晶は, Cl-がつくる面心立方格子の八面体間隙にNa+
が配置された構造をしており,それぞれのイオンは異なる6個のイオンに取り
囲まれ,配位数は6である。この構造でCl-が互いに密着していると仮定する
とき,Cl-がつくる八面体間隙よりNa+が小さいときは,Na+はすべてのCl-と
密着できず,不安定となる。したがって,安定な結晶をつくるには,Cl-に対し
てNa+の半径が一定以上の大きさでなければならない。
NaCl型結晶の陽イオン半径をr+,陰イオン半径をr−として,r+/ r -の限界値
を計算すると次のようになる。
下図から,三平方の定理より,

したがって, ![]()
つまり,
であれば,NaCl型結晶は安定となる。

(2)セン亜鉛鉱ZnS型結晶
S2-が面心立方格子をつくり,その四面体間隙の半分(8個のうち4個)にZn2+が配置
された構造である。それぞれのイオンは4配位で,SとZnを区別しなければダイヤモ
ンドと同じ構造となる。
NaCl型と同様の考え方で,半径比を考えると,

r−=r++r−
したがって,![]()
つまり,
であれば安定となる。

(3)CsCl型結晶 Cl-が単純立方格子をつくり,その立方体の中心にCs+1個が
配置される構造である。それぞれのイオンは8配位である。
NaCl結晶型と同様に半径比を考えると,
![]()
![]()
したがって,![]()
つまり,
であればCsCl型結晶は安定となる。

ここまで説明した3つの結晶型以外にもいろいろな結晶型があり,配位数にも2〜12
までいろいろなものがある。そして,それぞれに適当な半径比がある。
ここで説明した3つの結晶型について考えると,
の半径比の値で可能な結晶型は次
のようになる。
半径比0.225〜0.414 ZnS型
半径比0.414〜0.732 ZnS型,NaCl型
半径比0.732以上 ZnS型,NaCl型,CsCl型
また,イオン結晶では,配位数の多いほど安定である。したがって,半径比が0.732
以上では,ZnS型やNaCl型の結晶型も可能であるが,配位数の多いほうが安定であり,
CsCl型となる。もちろん例外もあるので,単純に結晶型が決まるものではない。実際
に
を計算してみよう。
►イオン結晶の格子エネルギー
イオン結晶のイオン間の結合エネルギーは格子
エネルギーとよばれ,1molの結晶をばらばらの構成イオンにするとき必要なエネ
ルギーで表される。
格子エネルギーの大きさは,当然,結晶の融点に関係する。下の表にその値を示
し,格子エネルギーの比(NaClを1とする)を示す。
イオン結晶の溶解熱は,その結晶の格子エネルギーとイオンの水和熱の差として,
大まかな値を知ることができる。
格子エネルギー〔kJ/mol〕と融点〔°C〕 すべてNaCl型結晶
|
化合物 |
イオン |
イオン半径 |
中心間距離 |
格子エネルギー とその比 |
融点 〔°C〕 |
|
|
〔×10-1nm〕 |
〔×10-1nm〕 |
|||||
NaCl
|
Na+ |
1.16 |
2.82 |
771 |
1 |
801 |
|
KCl |
K+ |
1.52 |
3.15 |
701 |
0.909 |
770 |
NaI
|
Na+ |
1.16 |
3.24 |
697 |
0.904 |
651 |
|
MgO |
Mg2+ |
0.86 |
2.11 |
3760 |
4.877 |
2826 |
|
CaO |
Ca2+ |
1.14 |
2.41 |
3371 |
4.372 |
2572 |
|
BaO |
Ba2+ |
1.49 |
2.76 |
3019 |
3.916 |
1918 |
分子の形成
►共有結合
H2分子が形成されるとき,H原子は電子を1個しかもたない1s電子軌道を互いに重ね
合わせて,2個のH原子の間で電子の行き来ができるようになる。このようにして,2個
のH原子はより安定なH2分子をつくる。この際,原子が結合して生じる安定な分子の結
合力や性質を解明するために,原子間にまたがった分子軌道を考える。電子は分子軌道
に従って両原子間を行き来し,原子どうしを結びつける。このように,電子を共有する
ことによってできる結合が共有結合である。
水素分子の解離エネルギーは436kJ/molであることが知られている。これは次式のよう
に示される。
H2(気)=2H(気)−436kJ
2個のH原子が完全に離れているときのポテンシャルエネルギーを0とすると,この2
原子が互いに近寄って共有結合を形成する場合のエネルギー変化は,下図のようになる。
2つの原子核の間の距離がr(0.074nm)になったとき,2原子は最も強く結合して安定にな
っていることがわかる。この場合,Hの2原子が完全に離れているときに比べて,D
(436kJ/mol)だけエネルギーを放出している。
をH原子の共有結合半径と呼んでいる。

分子軌道が形成される場合,その形と電子密度の関係をH2分子について考えて
みよう。Heの電子配置は1s2である。1s軌道の形は球状で,図 (A)のように
なっている。原子核を通る直線を横軸に,直線に垂直な面内の電子密度を縦軸に
とって図示すれば,図(a)のように表される。そこで,Heの原子核を二分し,そ
れぞれの+eの電荷を少しずつ離していくと考える。+eの2つの核が十分離れた
状態では,2個のH原子が離れて存在しているのと同じ状態とみなすことができ
る。そのような状態になるまでの軌道の形は,次ページの図の(A)→(B)→(C)→(D)を
たどる。実際のH2分子の核間距離は0.074nmであり,この場合の分子軌道は(C)に
相当する。この分子軌道はもともと1個のHe原子核を包んでいた1s軌道であるか
ら,2個の1s電子は2個の核電荷から同じ影響を受けている。
1sの電子配置のH原子2