ホーム新編化学I>第1部 物質の構成>第2章 原子の構造と結びつき>D イオンの生成と分子の形成

D イオンの生成と分子の形成

 

 

イオンの生成

原子やイオンのモデル

教科書に示したような原子やイオンのモデルを,ボーアの原子模型という。原

子核と電子の間には,距離の2乗に反比例する静電気力が働いている。これは,

太陽と惑星の間に働く引力の関係と同じである。したがって,惑星と同様に電子

も原子核の周りを回っていると考えられる。古典力学の考え方では,電子がスペ

クトルに示す光を放射するとエネルギーを失って速度が遅くなり,やがて電子と

原子核が結合して,安定な原子は存在できなくなる。この矛盾を解決するため,

ボーアは次のように考えた。たとえば,水素原子は,陽子1個と電子1個からで

きているが,この電子はある特別の軌道上しか運行せず,それ以外の軌道はとれ

ないと考えた。原子核に最も近い軌道の半径をrとすると,その外側にある軌道

の半径は,22r32 r42 r……であるとした。電子はこれらの軌道間を移りかわ

り,そのとき固有のスペクトルを示すと考え,スペクトルを定量的に説明した。

彼が計算で求めた水素のスペクトルの波長は,実測値と完全に一致した。この考

え方は,その後の量子力学の発達によってさらに発展した。

イオン結合

 電荷Q1C〕をもつ陽イオンと電荷Q2C〕をもつ陰イオン間の引力は,イオ

ン間距離をrとすると,クーロン力またはポテンシャル(エネルギー)

 

に比例する。また,イオンが相互に接近しすぎると,原子核間の反発力が目立って

くる。この反発ポテンシャルは,の形で表される(abは定数)。したがって,

引力と反発力の和を計算すると,イオン結合のポテンシャルエネルギーが求めら

れる。

気体状のNaCl分子についてポテンシャルエネルギーを計算すると,下図のよう

になる。この図の曲線の極小点が,安定な核間距離を表す。共有結合によるポテン

シャルエネルギーも同時に示したが,その値はイオン結合より大きく,イオン結合

のほうが安定であることがわかる。

 

NaCl分子のポテンシャルエネルギー(ムーア著,新物理学より)

 

イオン結晶のイオンのつまり方

 イオン結晶では,陽イオンと陰イオンとが規則的に配列され,クーロン力で結合

している。各イオンは,反対電荷をもつイオンに囲まれている。この取り囲むイオ

ンの数を配位数といい,主として陽イオンと陰イオンの半径比によって決まり,結

晶型も変わってくる。

(1)  NaCl型結晶 NaClの結晶は, Cl-がつくる面心立方格子の八面体間隙にNa

が配置された構造をしており,それぞれのイオンは異なる6個のイオンに取り

囲まれ,配位数は6である。この構造でCl-が互いに密着していると仮定する

とき,Cl-がつくる八面体間隙よりNaが小さいときは,NaはすべてのCl-

密着できず,不安定となる。したがって,安定な結晶をつくるには,Cl-に対し

Naの半径が一定以上の大きさでなければならない。

NaCl型結晶の陽イオン半径をr,陰イオン半径をrとして,r/ r -限界値

を計算すると次のようになる。

 下図から,三平方の定理より,

 

したがって, 

 

 つまり,であれば,NaCl型結晶は安定となる。

 

(2)セン亜鉛鉱ZnS型結晶

 S2-が面心立方格子をつくり,その四面体間隙の半分(8個のうち4)Zn2が配置

された構造である。それぞれのイオンは4配位で,SZnを区別しなければダイヤモ

ンドと同じ構造となる。

 NaCl型と同様の考え方で,半径比を考えると,

 

 rrr

したがって,

 

つまり,であれば安定となる。

 

(3)CsCl型結晶  Cl-が単純立方格子をつくり,その立方体の中心にCs1個が

配置される構造である。それぞれのイオンは8配位である。

 NaCl結晶型と同様に半径比を考えると,

したがって,

 

 つまり,であればCsCl型結晶は安定となる。

 ここまで説明した3つの結晶型以外にもいろいろな結晶型があり,配位数にも212

までいろいろなものがある。そして,それぞれに適当な半径比がある。

ここで説明した3つの結晶型について考えると,の半径比の値で可能な結晶型は次

のようになる。

  半径比0.2250.414  ZnS

  半径比0.4140.732  ZnS型,NaCl

  半径比0.732以上   ZnS型,NaCl型,CsCl

 また,イオン結晶では,配位数の多いほど安定である。したがって,半径比が0.732

以上では,ZnS型やNaCl型の結晶型も可能であるが,配位数の多いほうが安定であり,

CsCl型となる。もちろん例外もあるので,単純に結晶型が決まるものではない。実際

を計算してみよう。

 

 

 

 

イオン結晶の格子エネルギー

 イオン結晶のイオン間の結合エネルギーは格子

エネルギーとよばれ,1molの結晶をばらばらの構成イオンにするとき必要なエネ

ルギーで表される。

 格子エネルギーの大きさは,当然,結晶の融点に関係する。下の表にその値を示

し,格子エネルギーの比(NaCl1とする)を示す。

 イオン結晶の溶解熱は,その結晶の格子エネルギーとイオンの水和熱の差として,

大まかな値を知ることができる。

 

格子エネルギー〔kJ/mol〕と融点〔°C すべてNaCl型結晶

化合物

イオン

イオン半径

中心間距離

格子エネルギー

とその比

融点

°C

〔×10-1nm

〔×10-1nm

NaCl

Na+
Cl-

1.16
1.67

2.82

771

1

801

KCl

K+
Cl-

1.52
1.67

3.15

701

0.909

770

NaI

Na+
T-

1.16
2.06

3.24

697

0.904

651

MgO

Mg2+
O2-

0.86
1.26

2.11

3760

4.877

2826

CaO

Ca2+
O2-

1.14
1.26

2.41

3371

4.372

2572

BaO

Ba2+
O2-

1.49
1.26

2.76

3019

3.916

1918

 

 

分子の形成

共有結合

 H2分子が形成されるとき,H原子は電子を1個しかもたない1s電子軌道を互いに重ね

合わせて,2個のH原子の間で電子の行き来ができるようになる。このようにして,2

H原子はより安定なH2分子をつくる。この際,原子が結合して生じる安定な分子の結

合力や性質を解明するために,原子間にまたがった分子軌道を考える。電子は分子軌道

に従って両原子間を行き来し,原子どうしを結びつける。このように,電子を共有する

ことによってできる結合が共有結合である。

 水素分子の解離エネルギーは436kJ/molであることが知られている。これは次式のよう

に示される。

  H2()2H()436kJ

 2個のH原子が完全に離れているときのポテンシャルエネルギーを0とすると,この2

原子が互いに近寄って共有結合を形成する場合のエネルギー変化は,下図のようになる。

2つの原子核の間の距離がr(0.074nm)になったとき,2原子は最も強く結合して安定にな

っていることがわかる。この場合,H2原子が完全に離れているときに比べて,D

(436kJ/mol)だけエネルギーを放出している。H原子の共有結合半径と呼んでいる。

 

テキスト ボックス:  
H2分子のエネルギー

 

 分子軌道が形成される場合,その形と電子密度の関係をH2分子について考えて

みよう。Heの電子配置は1s2である。1s軌道の形は球状で,図 (A)のように

なっている。原子核を通る直線を横軸に,直線に垂直な面内の電子密度を縦軸に

とって図示すれば,図(a)のように表される。そこで,Heの原子核を二分し,そ

れぞれの+eの電荷を少しずつ離していくと考える。+e2つの核が十分離れた

状態では,2個のH原子が離れて存在しているのと同じ状態とみなすことができ

る。そのような状態になるまでの軌道の形は,次ページの図の(A)→(B)→(C)→(D)

たどる。実際のH2分子の核間距離は0.074nmであり,この場合の分子軌道は(C)

相当する。この分子軌道はもともと1個のHe原子核を包んでいた1s軌道であるか

ら,2個の1s電子は2個の核電荷から同じ影響を受けている。

1sの電子配置のH原子2