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C 物質の存在のしかたと混合物の分離
単体
►単体
純粋な物質で,ただ1種類の元素のみからなるものをいう。よって,単体以外の純
物質は化合物ということになる。元素の単体は1種類だけのこともあるが,同素体の
あることが多い。たとえば,酸素には酸素(O2)とオゾン(O3)とがある。
►同素体
原子の配列や結合のしかたの相違のため,同一元素から性質の異なる2種類以上
の単体ができる場合,これらを互いに同素体という。教科書に示した炭素,酸素,
リン,硫黄の他に,スズ,セレン,テルル,ヒ素などが知られている。
よく知られているように,炭素の同素体にはダイヤモンドと黒鉛がある。どちら
も無数の炭素原子が連なって作られた共有結合結晶であるが,近年,60個の炭素
原子でできた安定なC60分子が発見された。炭素の新しい同素体が見いだされたの
である。
C60分子の存在は,豊橋技術科学大学の大沢映二教授が,北海道大学時代の1970
年に最初に予想した。p 電子が3次元的に移動できる分子を考察しているなかで予
想されたものである。しかし,C60は1985年に英米の化学者(H.W.Krotoサセックス
大学(英),R.E.Smalleyライス大学(米) )の共同研究により実際に発見された。二人は
クラスターについて研究し,一連の物質をフラーレンとよんだ。
クラスターとは,原子が数個〜数百個集まった集合体のことで,結晶や個々の原
子・分子とは異なった性質を示す。真空中で黒鉛に強力なレーザーを照射すると炭
素原子となって蒸発するが,真空中で炭素原子が集まると共有結合性の分子すなわ
ち炭素クラスターができる。Krotoたちは,炭素蒸気中にごく微量のC60とともに
C70を見いだし,次の図のようなサッカーボール・ラグビーボール型の分子を想定し
た。得られたクラスターは微量であったが,その大部分はC60であったという。
KrotoたちはC60を検出したものの,これを単離することはできなかった。C60
をグラム単位の量で取り出すことに成功したのは1990年で,W.Krätschmerマッ
クスプランク核物理学研究所(独),D.R.Huffmanアリゾナ大学(米)の共同研究に
よる。彼らは,ヘリウムガス中で黒鉛に電流を通じてススをつくり,その中のベン
ゼンに溶ける成分をカラムクロマト法で分離して取り出した。
C60の正確な分子構造は,5Kに冷却した結晶の中性子回折により求められた。
そして,12個の5角形と20個の6角形からなるサッカーボール型であることが確
定した。C60分子の直径は約0.7nmで,分子内に金属イオンや小さい分子を取り込
む余地が十分ある。そのような化合物の研究が進んでいる。

C60は空気中で安定である。真空中では600°C以上に加熱しても壊れないので,
昇華法で精製することができる。C60が安定で反応性に乏しいのは,芳香族分子で
あることの他に,分子に端がないことがあげられる。また,分子内の炭素原子がす
べて等価で,p 電子密度に偏りがないことも安定性に寄与しているであろう。
1990年以降では,ATTベル研究所が発見した,C60の超伝導性が目を引く。カ
リウムを添加したC60を19.28Kに冷却すると電気抵抗が0になる。C60そのもの
は絶縁体であるが,いろいろなアルカリ金属を添加すると,金属になったり超伝導
体になったりするのである。このように,黒鉛とC60は,ともに不飽和の結合をも
つ同素体であるが,その性質には大きな違いがある。
1996年度のノーベル化学賞は,フラーレンC60の発見に対して,サセックス大
学のクロトー(イギリス),ライス大学のスモーリーとカール(アメリカ)の三教授に
与えられた。
►オゾン
オゾンは乾燥酸素中の放電で得られる。また,フッ素と水との作用,リンの酸化,
硫酸の電解,紫外線・X線・陰極線を空気に当てたときなどにも発生する。簡単な
オゾン発生とその確認には,下図のように黄リンを用いる方法がある。オゾンは,
成層圏上部において酸素分子が太陽からの波長240nm以下の紫外線を受けて酸素
原子に解離し,この酸素原子が酸素分子と結合して生成する。
O 2+hn→2 (O) (O)+O 2→O 3

一方,オゾンは主として波長320nmの紫外線を吸収して分解し,酸素分子に戻る。
成層圏中ではオゾンの生成と分解のバランスによってオゾン濃度が一定に保たれて
いるオゾン層が形成され,生物にとって有害な太陽光線中の320nm以下の紫外線の
地表への進入を防いでいる。
ところが,電子部品の洗浄剤や,エアコンや冷蔵庫の冷媒,スプレーの噴射剤な
どに用いられてきたフロンによりオゾンの生成と分解のバランスが崩され,オゾン
層が破壊されているという事実が,近年になって明らかになり,深刻な問題になっ
ている。
フロンは,炭素,塩素,フッ素からなる一群の化合物の総称である。これらが大
気中に放出されると大気中では壊れにくい(大気寿命100年程度)ため,成層圏まで
拡散し,太陽からの紫外線を受けて塩素を遊離し,連鎖的にオゾンを分解する。こ
のため,成層圏のオゾン層は所々で薄くなった部分が観測されるようになってきた。
特に,南極大陸上空のオゾンホールは1980年代後半から定常的に観測されている。
オゾン層の破壊によって地上まで到達する紫外線量は増加しており,これによっ
て最も心配されるのは紫外線による皮膚がんの増加である。今日,皮膚がんの増加
の原因がオゾン層の破壊による紫外線量の増加によるという正式な報告は出されて
いないが,この種の環境問題は地球規模であり,時間的には,100年以上の歳月を
かけて進行するものである。
このようなことから,1990年のモントリオール議定書で西暦2000年までのフロ
ン全廃が決議されるに至った。また,フロン使用後の回収方法ならびに代替物質の
開発も急ピッチで進められている。
►参考実験 同素体をつくる ((A)オゾン,(B)リン,(C)硫黄)
【目的】供覧実験で同素体をつくり,理解と関心を高める。
【準備】
(A) オゾン オゾン発生器,誘導コイル,蓄電池(6V),洗気びん,ゴムふいご,
濃硫酸,ヨウ化カリウムデンプン紙,ゴム管
(B) 赤リンと黄リン 一端を封じた硬質ガラス管,スタンド,鉄板,蒸発皿,
ピンセット,赤リン,黄リン(水中に保存),二硫化炭素,ろ紙
(C) 硫黄 時計皿,漏斗,試験管はさみ,ビーカー,薬さじ,ルーペ,粉末硫黄,
二硫化炭素,ろ紙
【操作】(A)オゾン
(1) 図Aのように,オゾン発生器にゴムふいごを使って乾いた空気を送る。一方,
誘導コイルを作動させて高電圧をかけ,無声放電をさせる。
(2) オゾン発生器の排気口から出る気体の臭いをかぐ。また,湿らせたヨウ化カリ
ウムデンプン紙を排気口に近づけてみる。
(3) 電源を一度切った後,排気口にゴム管をはめ,もう一度オゾンを発生させる。
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図A オゾン発生装置 |
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図B 赤リンから黄リンへの変化 |
図C 赤リンと黄リンの発火と燃焼 |
(B) 赤リンと黄リン
(1) 一端を封じた硬質ガラス管に少量の赤リンを入れ,図Bのようにスタンドにと
め,赤リンの入っている部分を加熱する。
(2) 試験管に黄リン1粒をピンセットでとり,少量の二硫化炭素を加えて振り,溶
かす。蒸発皿にろ紙を入れ,黄リンの二硫化炭素溶液をふりかけ,暗くして観察
する。赤リンについても,二硫化炭素に溶けるか試す。
(3) 図Cのように,スタンドの輪の鉄板上に赤リンと黄リンを少量とり,加熱する。
どちらが先に発火するか,また燃焼の様子を観察する。
(C) 硫黄
(1) 粉末硫黄を小さじ1杯試験管にとり,二硫化炭素2cm3を加えてよく振り,溶
かす。この溶液を,ろ紙の上端を指で押さえて広がらないようにして,漏斗でろ
過する。ろ液は時計皿にとり,通風のよいところで放置して二硫化炭素を蒸発さ
せる。析出した斜方硫黄の結晶を,ルーペで観察する。
(2) 粉末硫黄を試験管に1/4とり,弱火でゆっくり加熱して融かす。全部融解して
黄色液体になったとき,図Dのように,漏斗に水で張りつけたろ紙上に流し込む。
冷えて表面が固まりかけたころ,ろ紙をとりだして広げる。十分に冷えたところ
で,生じた単斜硫黄の結晶をルーペで観察する。
(3) (2)で用いた試験管に粉末硫黄を1/3とり,振りながら強く熱して融解する。融
解硫黄は,加熱を続けると,さらさらした状態から流動性のない状態に変わり,
さらに加熱すると再び流動性を示すようになり,やがて沸騰が始まる。このとき,
図Eのように冷水を入れたビーカーに流し込む。冷えてから生じたゴム状硫黄を
とりだし,引き伸ばして観察する。
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図D 単斜硫黄の生成 |
図E ゴム状硫黄の生成 |
【実験上の注意】
(A) T.オゾン発生器の作動中は,高電圧がかかっている。触れないよう注意する
こと。生徒には臭いをかがすだけにして,近づけないよう注意する。
(B) T.黄リンは毒性が強いから,触れないよう注意する。生徒に,黄リンの二硫
化炭素溶液に関する操作をさせてはいけない。
U.実験終了後,ガラス管中の黄リンを除くには,希硝酸を加えて放置してお
けばよい。酸化してリン酸に変わるので心配ない。
V.Aは,暗い場所で観察すると,リン光を見ることができる。
(C) T.二硫化炭素は有毒かつ引火性である。火気から遠ざけて実験すること。
U.Aでは,弱火でゆっくり加熱するよう注意すること。高温になると粘い赤
褐色の液体になるので,その手前の黄色流動性のときにろ紙に流し込む。
V.観察終了後,つくった同素体は全部回収してびんに保存する。1年後くら
いには,すりつぶして粉末硫黄として再び使用できる。
【結果】(A) (1)火花を出さずに放電する。
(2) オゾン特有のなまぐさい臭いがする。ヨウ化カリウムデンプン紙が青紫色
に変わる。 2KI+H2O+O3→2KOH+O2+I2
(3) ゴム管が切れてボロボロになる。したがって,ゴム中に二重結合のあるこ
とがわかる。(二重結合に対するオゾンの反応)
(B) (1)だんだん黄白色に変わる。(ガラス管の口が狭いので,空気が中に入って
リンが燃えることはない。)
(2) 黄リンは二硫化炭素に溶けるが,赤リンは溶けない。ろ紙にふりかけた黄
リンの溶液から二硫化炭素が蒸発するとともに,黄リンは室温で酸化され,
暗い場所で見るとリン光が観察できる。
(3) 黄リンのほうが先に発火し,遅れて赤リンも燃え始める。火がついた後の
燃える様子は両者とも同じで,ともに白煙を激しく出す。赤リンの発火点は
260℃,黄リンは室温で自然発火する。 4P+5O2→P4O10
(C) 斜方硫黄,単斜硫黄はルーペで観察し,結晶形が異なることを理解する。ゴム
状硫黄は無定形固体であり,弾性があって変形しやすいことを確かめる。
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図F 斜方硫黄,単斜硫黄の結晶 |
化合物
純物質と混合物
物質の状態変化
►分子の運動と固体・液体・気体の状態
(1) 固体 温度が下がって粒子の運動エネルギーが小さくなり,粒子間に働く結合力
で粒子が規則正しく密に並んだ状態。したがって,一定の形,体積をもつ。この状態
で粒子が行う運動は,一定位置を中心にした振動に限られる。
(2) 液体 固体の加熱により,温度が上昇して粒子の運動エネルギーが大きくなり,粒
子間に働く力による束縛を振り切って一定位置から離れて動けるようになった状態。
まだ粒子間の引力が多少残っており,粒子はほぼ密着しているが,一定位置に固定さ
れないので,一定の形を示さない。
(3) 気体 液体を加熱してさらに温度を上げると,粒子の熱運動に比べて粒子間の引
力がほとんど無視できるようになり,粒子が自由に運動できるようになった状態。気
体では,物質の種類や分子量に関係なく,一定体積中の粒子数がほぼ似た状態になる。
→(モル体積)
参考 結晶と無定形固体
(1) 結晶 単結晶は,外見的に明瞭な結晶形を示すことが多いが,狭い意味ではこれを
結晶という。広義には,外見上結晶の形が明らかでない小結晶の集まり(多結晶)も結
晶という。核酸やタンパク質のような高分子物質でも部分的には結晶構造をもつも
のが多く,結晶は,一般的には固体の正常な状態ということができる。
(2) 無定形固体(非結晶固体) 塩化ナトリウムやナフタレンのような結晶に対して,
ガラス,ゴム,寒天,樹脂などは無定形固体である。このような無定形固体は,一定の
形をもたないし,一定の融点をもたない。
水晶を高温にして液体にしたあとで冷却すると,非結晶性の石英ガラスが得られ
る。水晶は1447℃でとけるが,石英ガラスは熱するとしだいに軟らかくなり,いつと
はなしに液状になってしまう。
水晶の結晶ではSiO2が網目構造の規則正しい配列をつくっているのに対して,石
英ガラスは網目構造はつくっているが,それがきわめて不規則であって,結合の強さ
もまちまちである。したがって温度を上げていくと,弱い部分から結合が切れて軟ら
かくなっていくので,明確な融点を示さない。
無定形固体は,状態は固体であるが,粒子配列の上では液体に近く,液体状態の物
質をそのまま固化させた物質とも考えることができる。
参考 液晶(液晶ディスプレイ)
一般に,「液晶ディスプレイLCD」のことを「液晶」といっている。厳密には,「液
晶」とは,液体と固体の中間にある物質の状態(例えば,イカの墨,セッケン水など)を指
す言葉である。見た目にはほぼ透明な液体で,すこし粘りがある。液晶は,1888年にオ
ーストリアの植物学者ライニツァーによって発見された。1963年,RCA社のウイリアム
ズは,液晶に電気的な刺激を与えると,光の通し方が変わることを発見し,5年後に同社
のハイルマイヤーらのグループが,この性質を応用した表示装置をつくった。これが液
晶ディスプレイの始まりである。
液晶物質のほとんどは,細長い棒状の分子からなる有機化合物で,自然状態では分子
がゆるやかな規則性をもって並んでいる。この液晶に電圧をかけると分子の並び方が
変わり,その結果,光の通し方が変わることになる。TN型液晶とよばれるものでは,電
圧をかけていない状態では光が通り,電圧をかけると光が遮断されて画面は黒くなる。
つまり電圧がひきがねとなって,液晶が光のシャッターの機能を果たすことになる。こ
れが原理である。(シャープ先端技術ライブラリーVol.1より)
LCDの長所は,薄型で低電圧作動,低消費電力であるが,欠点としては,光に…弱く,
応答度が遅く,表示密度が小さいことがあげられている。しかし,目下急ピッチで改良
が進められている。(化学大辞典)
►昇華
固体から気体,気体から固体となる変化を,ともに昇華という。ヨウ素,ショウノウ,
ナフタレン,二酸化炭素などの無極性分子からなる物質に昇華がよく見られる。固体は
液体と同じように,一定温度で物質の種類により定まった蒸気圧を示す。昇華性物質は,
室温付近でもその蒸気圧が大きい。普通は昇華しない物質でも,外圧を極端に小さく
すると,昇華する。氷も,その三重点以下の圧力にすると昇華する。
(水の状態図を参照)
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氷の蒸気圧 |
|
|
温度 |
蒸気圧 |
|
〔℃〕 |
〔atm〕 |
|
0 |
6.05×10-3 |
|
−5 |
3.96×10-3 |
|
−10 |
2.57×10-3 |
|
−15 |
1.63×10-3 |
|
−20 |
1.01×10-3 |
参考 状態図と相律
物質の状態と,温度・圧力の関係を示した図を,物質の状態図という。次に水の状態
図を示す。
次ページの図のように,状態図は横軸に温度,縦軸に圧力をとって示す。各状態間の
境界線は,昇華曲線,融解曲線,蒸気圧曲線と呼ばれていて,この線上の条件では2つの
状態の間で平衡が成り立っており,2つの状態が安定に共存している温度と圧力を示す。
3つの境界線が交わる点Tは,固体・液体・気体の3つの状態が共存している圧力と温度
であり,とくに三重点と呼ばれている。(水では4.58mmHg,0.01℃)。

ギブスGibbsの相律によれば,成分物質の数n,共存する相の数Pのとき,平衡系の自由
度Fは,次式で表される。
F=