トップMaster化学I>第4部 有機化合物>第3章 酸素を含む脂肪族化合物3節 カルボン酸とエステル

3節 カルボン酸とエステル

 

A カルボン酸

カルボン酸(carboxylic acid)

カルボキシル基-COOHをもつ有機化合物をカルボン酸といい,一般式R-COOHで表す。

分子中のカルボキシル基の数が1個,2個,3個のものを,それぞれモノカルボン酸,ジカルボン酸,トリカルボン酸という。また,鎖状構造のみのモノカルボン酸は,特に脂肪酸と呼ばれる。

 遊離酸,または塩やエステルの形で生物界に広く存在する。脂肪やろうにはエステルの形で含まれている。

 炭素原子数の少ない脂肪酸は無色の液体だが,炭素原子数が多いものやジカルボン酸,芳香族カルボン酸は全て固体である。炭素原子数3以下は水に溶ける5以上は殆ど水に溶けない。アルコールやエーテルにはよく溶ける。

カルボン酸の沸点や融点は,分子量にほぼ等しいアルコールよりも高いが,これはカルボン酸が水素結合で二量体になっている為である。

カルボキシル基中のOは電気陰性度が大きい為,水素原子から電子が移動し,水素原子がHとして離れ易くなるのでカルボン酸は酸性を示すが,その酸性は弱い。

カルボン酸は酸としての性質を示す他,アルコールと反応してエステルを生じる。ソーダ石灰と熱すると二酸化炭素を放出して炭化水素になる。脱水すると酸無水物になる。酸化剤や還元剤には比較的安定で反応し難い。

 

ギ酸(蟻酸,formic acid)
 メタン酸ともいい,最も簡単な有機酸。無色の刺激臭のある液体で,酢酸より強い酸である。水素結合で二量体になるので沸点・融点が高い。アリの体中に含まれている。融点8.4°C,沸点100.08°C,密度1.2202g/cm3(20°C)で,水やエタノール,エーテルに可溶である。アルデヒド基を持つので還元性を示す。

酢酸(acetic acid)

エタン酸ともいう。食酢の主成分で35%含まれている。無色で,刺激性の強い臭気と酸味のある液体で,ほぼ純粋なものは氷酢酸という。合成繊維,医薬品の原料や,食品調味料に用いられる。融点16.635°C,沸点117.8°C,密度1.0492g/cm3(20°C),水やアルコール,エーテルに溶ける。
 工業的には,Mn(CH3COO)2Co(CH3COO)2を触媒として,アセトアルデヒドを酸素で液相酸化して合成する(常圧接触酸化法)
   CH3CHOO2 ―→ CH3COOOH   CH3CHOCH3COOOH ―→ 2CH3COOH

 また,現在ではロジウム系触媒を用い,ヨウ化メチルを活性剤として,メタノールと一酸化炭素を反応させて合成する(加圧合成法)方が経済的に有利である。
   CH3OHCO ―→ CH3COOH

その他,LPGやナフサ等を種々の触媒を用いて空気で酸化して合成する方法もあるが,この場合はギ酸,プロピオン酸等も同時に生じる。

 

無水酢酸(acetic anhydride)

 融点86°C,沸点140.0°C,密度1.0871g/cm3(15°C)の無色の液体。活性水素を有する化合物とは比較的容易に反応して,アセチル化物と酢酸を生じる。また,アミンと反応して酢酸アミドを生じる。用途としては,酢酸セルロース,アスピリン,酢酸エステル,染料等の合成がある。有機溶媒として使用する事もある。

工業的には,アセトアルデヒドから酢酸を製造する際,反応条件を変えて無水酢酸を得るか,酢酸を熱分解してケテンとし,ケテンを酢酸に吸収させて製造する。

 

CH3COOH ―→

CH2=COH2O

 

ケテン

CH2=COCH3COOH ―→

(CH3CO) 2O

 

酸無水物(acid anhydrideanhydride)

 カルボン酸2分子が水1分子を失って縮合した化合物で,一般式(RCO)2Oで表される。ジカルボン酸では,分子内から水分子が失われて環状の酸無水物を作る事もある。低級脂肪酸の酸無水物は刺激臭のある液体で,高級なものは無臭の固体である。ジカルボン酸や芳香族カルボン酸の酸無水物は,一般に無色の固体である。

 

名   称

融点〔°C

沸点〔°C

水溶性

無水酢酸

86

 140.0

無水プロピオン酸

45

167

無水安息香酸

4243

360

無水コハク酸

120

261

無水マレイン酸

 52.6

202

無水フタル酸

131.8

285

 

マレイン酸(maleic acid),フマル酸(fumaric acid)

 マレイン酸(シス形)を熱していくと,133134°Cで融解し,160°Cで水を失って無水マレイン酸になる。

フマル酸(トランス形)は,封管中で300°Cで融解し,空気中では160°Cに熱しても無水物を生じず,200°Cで昇華し始める。230°Cで無水物を作るが,生成物は無水マレイン酸である。

無水マレイン酸C4H2O3は,融点52.6°C,沸点202°C,比重1.5の白色昇華性固体。水と反応するとマレイン酸となり,眼や粘膜を刺激する。主に飽和ポリエステル樹脂の原料として用いられている。無水マレイン酸は,ベンゼンを空気酸化して製造されている(触媒はVMoの複合酸化物)

   2C6H69O2 ―→ 2C4H2O34CO24H2O3679kJ

 

アジピン酸(adipic acid)

 炭素原子数6の直鎖ジカルボン酸。エタノールに易溶,アセトンに可溶,エーテルには難溶。ベンゼンからシクロヘキサンを経て,その接触酸化によって作られ,主にナイロンの主原料となる他,塩化ビニル樹脂可塑剤,塗料,医薬品の製造原料に用いられる。

 

アミド(amide)

 アンモニアの水素原子をアシル基で置換した化合物をアミドまたは酸アミドといい,通常第一級アミドRCONH2をいう。第二級アミド(RCO)2NHはイミドという。一般に無色の固体で,低級なものは水に溶ける。アルコールやエーテルに溶ける。

 

ナイロン(nylon)

 ナイロンは,ポリアミド系合成繊維の総称。アジピン酸とヘキサメチレンジアミンから作られる6,6-ナイロンの他,ε-カプロラクタムから得られる6-ナイロンや,その他6,10-ナイロン,11-ナイロン,9-ナイロン,4-ナイロン等がある。

 ナイロンの命名は,H2N(CH2)mNH2HOOC(CH2)n2COOHから合成されるものをm,n-ナイロンH2N(CH2)n1COOHまたは

 

HN(CH2)n1CO

から合成されるものをn-ナイロンと呼んでいる。

 ナイロンは摩擦に対する耐久性が大きく,希酸や塩基等の薬品にも侵され難いので,靴下・衣服・漁網・化学工業のろ布等広く使われている。

 6,6-ナイロンを初めて合成したのは,アメリカのカロザースで(1936),その後ドイツでは1940年に6-ナイロン(パーロンL)と,6,6-ナイロン(パーロンT)を出し,日本では1941年に6-ナイロン(アラミン)を出している。

 6,6ナイロンの合成では,同じ物質量のヘキサメチレンジアミンとアジピン酸を同じ物質量の水に入れて混合し,生じた溶液に酢酸を少量加える。これを釜に仕込み不活性ガスを満たして熱する。生じた水蒸気は圧力を調節しながら逃がし,280°Cで重合させる。冷却後,ポリマーをペレットとする。6,6-ナイロンは265°Cで溶融するので,溶融紡糸で繊維とする。

 6-ナイロンの合成では,ε-カプロラクタムを溶融し,これに少量の水等を加えて熱し,重合させる。6-ナイロンの融点は220230°Cで,溶融紡糸で繊維とする。

 

B 乳酸と光学異性体

乳酸(latic acid)

 不斉炭素原子をもつα-ヒドロキシ酸。乳酸発酵の時や,動物体中で筋肉等の解糖作用で生じる。ヨーグルトやカルピス等の乳製品や漬物等の酸味として含まれる。解糖は酸素供給の少ない時に進行する為,乳酸は急激な運動や呼吸困難の時に動物体内で増える。

 

不斉炭素原子(asymmetric carbon atom)と光学異性体(optical isomer)

 4価の炭素原子に4個とも互いに異なる原子や原子団(置換基)が結合している時,この炭素原子を不斉炭素原子という。不斉炭素原子をもつ分子を,それを鏡面に映した形の分子と比べると,重ね合わせる事ができず,互いに異性体となる。この異性体は,鏡像体(鏡像異性体)の関係にある立体異性体で,光学的性質だけが異なる事から光学異性体と呼ばれている(ときには,結晶形が左右逆になる事もある)。この様な立体的関係は丁度右手と左手の関係と同じなので鏡像異性体同士を互いに対掌体と呼ぶ事がある。光学異性体の溶液に偏光を当てると,その振動面が右や左に旋回する。左に旋回させるものを左旋性があるといい,()で表す。右に旋回させるものを右旋性があるといい,()で表す。左旋性と右旋性のものの等量混合物は旋光性が無く,ラセミ体と呼ばれる。
 光学異性体には,構造からみた命名上の規約がある。これは,フィッシャーE.Fischerによるもので,基準物質にグリセルアルデヒドを用い,小型のD(Dextrorotatory,右旋性)L(Levorotatory,左旋性)の文字を用いて表すものである。この規約では,下図(a)の構造のものをDグリセルアルデヒドとする。四角形は不斉炭素原子を中心においた正四面体を表し,各頂点で置換基と結合している。HOHを結ぶ横向きの実線は紙面の手前にある事を示し,CHOCH2OHを結ぶ縦向きの破線は紙面の奥にある事を示している。図(b)は,(a)を平面に投影した図である。Lグリセルアルデヒドは,図(b)HOHを互いに交換したものになる。図(c)D型,図(d)L型であり,(c)(d)DLが鏡像体になっている事を示す。


 D () グリセルアルデヒドは,酸化されてD()グリセリン酸になり,更に数段階の反応を経てD()乳酸になる。この様に,Dグリセルアルデヒドから導かれる光学異性体をD型とし,DLは,旋光性と無関係に定められる。


 

乳酸は,ヨーグルト等の乳酸菌飲料や漬物等の酸味成分であり,乳酸発酵によってDL−乳酸ができる。また,筋肉等の動物組織中で糖代謝によりできる乳酸は,L()−乳酸である。
 糖の場合には,糖とグリセルアルデヒドの−CH(OH)CH2OHの構造を対比させ,同じ構造のとき記号も同じになる。アミノ酸の場合には,−NH2を−OHに置き換えて乳酸と対比させ,同じ構造のとき記号も同じになる。

 

天然のアミノ酸は殆どL型だが,旋光性は右と左のものがある。
 酒石酸には,
1分子中に2個の不斉炭素原子がある。そこで,2個ともD型またはL型のものと,D型とL型を1個ずつもつメソ体と呼ばれる対掌構造のものがある。メソ体は,ラセミ体と同様に,左旋性と右旋性が打ち消し合って旋光性を示ず,光学不活性体である。

 

一般に,不斉炭素原子n個をもつ分子の光学異性体は,2n個である。

光学異性体は,生理的には全く異なった挙動を示すもので,地球上の生物体内のホルモンや糖類,アミノ酸等は,どれも光学活性であり,そのどちらか一方の分子からできている。例えば,タンパク質のa−ヘリックスのらせん構造は,光学活性のL−型アミノ酸による三次元構造である。もし,この中にD−型アミノ酸が混入すると,規則的ならせん構造はできなくなってしまう。この様に生物体内では,一方の光学異性体のみが選択的に秩序よく配列され,安定な構造を保って生理作用を営んでいる。現在,この不斉が発生する仕組みについて,様々な研究が進められている。

 

参考 光学分割

 不斉炭素原子を含む化合物を人工的に合成すると,光学異性体の等量混合物であるラセミ体が一般には得られる。鏡像体の一方だけを合成する不斉合成もいろんな方法が試みられている。しかし,ラセミ体から一方の鏡像体を分離する方法は古くから研究されており,これを光学分割またはラセミ分割という。主として次の様な方法がある。

(1) 最も古い方法として,パスツールL.Pasteur1848年に発見した方法で,DL−酒石酸ナトリウムアンモニウム塩の水溶液を27℃以下で再結晶させると,D塩とL塩の2種類の結晶ができる。これを顕微鏡を用いて分け,強酸で処理して,酒石酸のそれぞれの対掌体を得た。しかし,この方法に適する物質の例は少ない。

(2) ラセミ体の飽和溶液の中へ,再結晶の種として一方の対掌体の結晶を入れると,種結晶と同じ対掌体の結晶が析出してくる。また,時には異なった旋光性の結晶を種として加えても,その刺激によって一方のみの対掌体の結晶が析出する事がある。例えば,DL−酒石酸ナトリウムアンモニウム塩の水溶液にL−アスパラギン酸の結晶を加えるとD−酒石酸ナトリウムアンモニウム塩が析出する。

(3) 酸,アミン及びアルコール類のラセミ体については,例えば,カルボン酸のラセミ体DL−酸の溶液に,Dの立体配置をもった光学活性の塩基を加えると,生じる塩は,D−酸D−塩基とL−酸D−塩基の混合物(これをジアステレオマーという)となる。この2種類の塩は同一のものではなく,再結晶やクロマトグラフィー等の方法によって,2種類の塩に分離する事ができる。この分離した塩を酸で処理してDLのカルボン酸をそれぞれ別々に得る事ができる。

(4) 生物体が生じる化合物(代謝産物)は,殆どが一方の対掌体である。これは酵素の基質特異性に起因する。この性質を利用して生物体外における酵素の作用により,ラセミ体のアミノ酸やテルペン類の光学分割を行う事ができる。

 

C エステル

エステル(ester)

 酸とアルコールから水分子が取れて縮合した様な構造をもつ物質をエステルといい,普通カルボン酸エステル(一般式RCOOR)を指す事が多い。アルコールの代わりにフェノール類を用いたものもー種のエステルだが,フェノールエステルの名称をつけて区別する。分子内エステルを作り環状のものは,ラクトンという。

 中性エステルは,一般に芳香のある揮発性の液体で,水に溶け難く,有機溶媒によく溶ける。比較的低級な脂肪酸とアルコールのエステルは,天然に植物精油中に含まれ,果実の芳香があり人工果実エッセンスとして食品の香料に使われる。高級な脂肪酸とアルコールのエステルはろうとして存在する。高級な脂肪酸とグリセリンのエステルは油脂の成分である。

 エステルは,無機物を触媒として,酸とアルコールを混合して熱すると得られる。この反応は可逆反応であり,エステルに水を加えて熱すると逆に加水分解反応が起こり,酸とアルコールが得られる。
   RCOOHHORRCOORH2O (触媒は酸)
 エステルにアルカリを作用させる反応はけん化といわれ,酸の塩とアルコールが得られる。

   RCOORMOH ―→ RCOOMROH

 

エステル化(esterification)

 エステルを生成する反応をエステル化といい,カルボン酸とアルコールによるエステル化は次の機構で進むと考えられている。

 これらの反応は全て平衡反応であり,酸性触媒によるエステルの加水分解反応は,これらの反応の逆反応になる。

 

加水分解(hydrolysis)

 水による化合物の分解反応をいう。狭義には塩が水溶液中で他のイオンや分子に変わる事をいう。有機化合物では,エステル,酸無水物,糖類,タンパク質等,多くの加水分解を受ける化合物が知られている。これらの加水分解反応のうち,エステルはけん化,スクロースは転化,デンプンやセルロースでは糖化と,特別の用語で呼ばれる事がある。

 

酢酸エチル(ethyl acetate)

 酢酸とエタノールから得られるエステル。強い果実様の香気を持つ無色の液体。融点−83.6°C,沸点76.82°C,密度0.907g/cm3(15°C)で,水にあまり溶けない。天然にはパイナップル等の果実油や,ワイン,日本酒にも含まれる。香料として飲料・菓子等に用いられる。溶媒や溶剤にも用いられる。

 

けん化(saponification)

 元は,油脂やろうからセッケンを作る反応を指していた。即ち,油脂やろうを水酸化アルカリと処理すると,セッケンとグリセリンまたは高級アルコールとを生じる。しかし,少し広く,油脂を加水分解してグリセリンと脂肪酸を得る反応,あるいは脂肪酸を炭酸アルカリ等で中和してセッケンを作る反応も含めて,けん化という様になり,更に意味が広くなって,一般にエステル類が水によって分解し,カルボン酸とアルコールを生じる加水分解反応をけん化という様になった。

   RCOORH2O ―→ RCOOHROH

 この場合,通常水だけでは反応が遅いので,酸またはアルカリを触媒として用いる。酵素もまた触媒の中に含まれる。アルカリによるけん化の促進作用は,一般に非常に大きいので,アルカリ性けん化がよく用いられる。

 工業界は,セッケンを製造する工程をけん化と呼んでいる。

 

D 油脂

油脂(fats and oils)

 脂肪酸とグリセリンのエステル,即ちトリグリセリドの構造をもつ物質で,天然の生物界に広く存在し,生物の主要成分となっている。天然油脂は,その出所から植物油脂と動物油脂に,室温での状態から液体のものを脂肪油(または脂油),固体のものを脂肪と分類される。

 天然油脂中に存在する脂肪酸には,炭素数4個の酪酸から,24個のリグノセリン酸に至る飽和脂肪酸と,各種の不飽和脂肪酸がある。飽和脂肪酸では,C16のパルミチン酸とC18のステアリン酸が大部分を占めている。不飽和脂肪酸にはC18のものが多く,オレイン酸C17H33COOHリノール酸C17H31COOH,リノレン酸C17H29COOH等がある。その他の不飽和脂肪酸では,魚油中のイワシ酸C21H33COOH,ひまし油中のリシノール酸C17H33OCOOH,きり油中のエレオステアリン酸C17H29COOH等がある

オレイン酸

リノール酸

リノレン酸

イワシ酸

リシノール酸

エレオステアリン酸

CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COOH

CH3(CH2)4CH=CHCH2CH=CH(CH2)7COOH

CH3(CH2CH=CH)3(CH2)7COOH

CH3CH2(CH2CH=CH)3{(CH2)2CH=CH}2(CH2)2COOH

CH3(CH2)5CH(OH)CH2CH=CH(CH2)7COOH

CH3(CH2)3(CH=CH)3(CH2)7COOH

 天然油脂には,グリセリドの他,少量の遊離脂肪酸,複合脂質,ステリン類,ビタミン類,炭化水素,色素等が含まれている。

 

参考 油脂の代謝

 油脂のトリグリセリドは,小腸内で酵素リパーゼによって脂肪酸とグリセリンに加水分解される。そして,胆汁酸塩,脂肪酸,ジグリセリド,モノグリセリド等の混合物ができ,これらが未分解の油脂の乳化促進剤として働き,乳化された油脂は腸壁から吸収される。

 体内の脂肪の代謝では,まず脂肪酸とグリセリンに加水分解される。グリセリンは,トリオースリン酸(ホスホジヒドロキシアセトン,3-ホスホグリセリンアルデヒド)を経てピルビン酸になり,TCA回路(クエン酸回路)に入っていく。

 脂肪酸は,β酸化によって,-COOH基に対してβの位置の炭素原子のところが切れ,アセチル補酵素(CH3CO-CoA)が順次に生じ,TCA回路に入って代謝され,最後には二酸化炭素と水になる。炭水化物,脂肪,アミノ酸の相互移行も,TCA回路が仲立ちとなって行われる。

 

硬化油(hardened oil)

 不飽和脂肪酸の脂肪油に,還元ニッケル等を触媒として水素を反応させ,固体状の脂肪に変えたものをいう。その主成分は硬化度によって異なるが,普通,飽和脂肪酸やイソオレイン酸のグリセリドである。硬化油の融点は,その不飽和度に関係する。これらは食品,セッケン等に用いられる。また,硬化条件により選択的に水素と反応させると,イソオレイン酸に富む半硬化油が得られ,特に大豆油や綿実油,落花生油のそれはマーガリン原料として優れている。

 

乾性油(drying oil)と不乾性油(nondrying oil)

 植物油は,その乾燥性の強弱により,一般に乾性油,半乾性油,不乾性油(semidrying oil)に分けられる。乾燥性は,油脂の脂肪酸中に二重結合を多く含む程強くなる。

(1) 乾性油 ヨウ素価130以上の植物油をいう。薄膜にして空気中に放置すると,比較的短時間に固化乾燥する。塗料として利用され,亜麻仁油やえの油,きり油等がこれに含まれる。

(2) 半乾性油 ヨウ素価100130の植物油をいう。やや乾燥性がある。食用やセッケン製造等に用いられ,ごま油や菜種油,綿実油,大豆油等がこれに含まれる。

(3) 不乾性油 ヨウ素価100以下の植物油をいう。乾燥性が弱く,固化しない。食用,セッケン,化粧品等の製造に用いられる。椿油やオリブ油,ひまし油等がこれに含まれる。

 

セッケンの製造

 セッケンは(soap),広義には脂肪酸の金属塩の総称だが,普通,ナトリウムやカリウムのアルカリ金属塩を指し,その他のものは金属セッケンと呼んで区別されている。また,アルカリセッケンは,硬セッケンと軟セッケンに区別される。

 硬セッケンの製造は,大別すれば次の2種がある。

(1) 油脂に水酸化ナトリウム溶液を加え,けん化釜で長時間熱してけん化させ,食塩水で塩析する。

(2) 油脂を過熱水蒸気で加水分解して脂肪酸とグリセリンに分離し,脂肪酸に水酸化ナトリウム溶液を加えて中和する。

得られたセッケンは,乾燥後,香料や着色料,ビルダー等と混合され,成型,型打ちされて製品となる。

 

 

乳化(emulsification)

 極性のある水分子と無極性の油分子とは混じり合わないが,これらも分子中に親水性の基と疎水性の基を合わせもつ物質,即ち両親媒性の物質を加える事によって,混合させる事ができる。この物質を乳化剤という。

 例えば,極性の強い親水性のカルボキシル基-COOHと無極性の疎水性のアルキル基-CnH2n1を分子中にもつセッケンCnH2n1COONaがその例である。

 水と油とを入れた容器にセッケン水を加えて激しく振ると,セッケン分子何個かが油の小滴を中心に,疎水性の基を内側,親水性の基を外側にして球状に集合し,コロイド粒子(球状ミセル)となり,この粒子が水の中に分散する。この現象が乳化である。

 

合成洗剤(synthetic detergentsyndec)

 セッケン以外の石油を原料として製造される洗剤を合成洗剤という。合成洗剤には主に陰イオン(アニオン)界面活性剤が用いられ,これにビルダーや蛍光増白剤の添加剤が配合されている。ビルダーは,洗剤の性能を著しく向上させる作用をもつ物質で,かつてはトリポリリン酸ナトリウムが用いられていた。しかし,ビルダーのリン酸化合物は,湖沼の富栄養化を促進するので,その配合率が次第に低下し,ゼオライトが用いられる様になった。

 合成洗剤に用いられる界面活性剤には,アルカリベンゼンスルホン酸塩,アルカンスルホン酸塩,aオレフィンスルホン酸塩,硫酸アルキル(ポリオキシエチレン)塩,アルキルポリオキシエチレンエーテル等がある。

 界面活性剤生産量の多くが家庭用合成洗剤に用いられている。1960年代以後,合成洗剤による水質汚濁が問題となり,特に多量に用いられていたアルキルベンゼンスルホン酸(ABS)が問題となった。ABS0.01ppmで藻類や硝化菌,15ppmで大腸菌を死滅させる事もある有毒な物質で,安定で分解し難く,510ppmで飲み水に異様な味臭を与える。ABSの微生物分解が多く研究され,従来の枝のあるアルキル基(ハード型)に対して,分解がより容易である直鎖型(ソフト型)ABS(LAS)が,その後用いられる様になった。

 

参考 界面活性剤(surface-active agentsurfactanttenside)

 2相間の界面張力が,少量の物質の溶解で大きく低下する事を界面活性といい,著しい界面活性を示す物質を界面活性剤という。界面活性剤には,界面に吸着し易いという特性と,臨界ミセル濃度以上でミセルを作るという特性がある。界面活性剤はその構造により次の様に分類される。水に溶けて電離するものをイオン活性剤といい,セッケンと同様の仕組みで働く。水に溶けて電離しないものを非イオン活性剤といい,-OH基等が親水基として働く。非イオン活性剤は,他の活性剤と混合して使用でき,疎水基の変化に応じて親水基の強弱を自由に変える事ができるので,利用範囲も広い。

(1) アニオン活性剤

@ セッケン類 RCOO-M ()アルカリセッケン,金属セッケン

 A 硫酸化物 ROSO3-M ()ロート油,高級アルコールの硫酸エステル

 B スルホン化物 RSO3-M ()脂肪族スルホン化物,アルキルアリルスルホン化物,芳香族スルホン化物

(2) カチオン活性剤

() 高級脂肪族アミン,ジアミン誘導体,第四級アンモニウム塩

(3) 非イオン活性剤

 @ エステル型 CH2(OH)CH(OH)CH2OOCR

 A エーテル型 RCH2O(CH2CH2O)nH

 また,界面活性剤の用途としては,(1)洗浄剤,(2)湿潤剤,浸透剤,(3)分散剤,凝集剤,(4)乳化剤,乳化破壊剤,(5)可溶化剤,(6)起泡剤,消泡剤,(7)平滑剤,減摩剤,柔軟剤,帯電防止剤,撥水剤,(8)殺菌剤,(9)防錆剤,等がある。

 

 

 

 








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