トップMaster化学I>第4部 有機化合物>第1章 有機化合物の特徴と構造>第2 有機化合物の分析

2節 有機化合物の分析

 

A 成分元素の検出

成分元素の検出(定性分析)

 有機化合物に含まれる各元素の検出法を,以下に解説する。

(1) 炭素 有機物である事が判っていれば,普通は検出試験を行わない。一般には,次の様な方法がある。

(A) 濃硫酸を加えて熱すると,Cは黒〜褐色となって生じる。

(B) 封管中で分解させると,Cは黒色物質になる。

(C) MoO3(黄色)と共に熱すると,これが青色のMo2O5に還元される。

(D) KN3と共に熱し,生じたKCNを検出する。

(2) 水素

(A) Na2SO3(またはNa2S2O3)と共に熱してH2Sを発生させる。H2Sは酢酸鉛紙の黒変等で検出する。

(B) CuOと共に強熱してH2Oとする。H2OCuSO4の青変等で検出する。

この方法はCも同時に検出でき,CO2が発生する。CO2Ba塩等の水溶液に通し,BaCO3の沈殿として確認する。

 

(3) 窒素

(A) CO2気流中でCuOと共に熱してN2とする。この混合気体は,KOH水溶液に通してCO2H2Oを除きN2を確認する。体積で定量する。

(B) 濃硫酸と接触剤(CuSO4HgSO4)と共に熱分解し,Nを硫酸アンモニウムにする。これを,NaOHの濃溶液に加えて熱し,発生するNH3を酸に吸収させて酸の消費量を知る。定量法である。

(C) 金属Naと加熱融解し,残りのNaがメタノールと反応後,ろ過して炭素を除く。ろ液にはNaCNがあり,液を酸性にしてFeSO4溶液とFeCl3溶液を加えると,ベルリン青が沈殿する。Nが少量のときは青緑色になる。

(D) CaOと共に熱するとNH3が発生する。このNH3を検出する。

(4) ハロゲン

(A) 熱してCuO被膜を作った銅線に試料を載せ,バーナーの酸化炎で熱する。このときClがあれば緑色炎,BrIがあれば青色炎になる。これは,揮発性の銅のハロゲン化物が生じる為である。

(B) 窒素の分析法(C)と同様に試量を反応させ,ろ液を硝酸で酸性にした後硝酸銀溶液を加える。AgCI白,AgBr淡黄,AgI黄の沈殿で確認する。

(5) 硫黄

(A) Na及びCa(NO3)2と共に加熱融解し,冷却後水に溶かす。Sは硫酸になっており,HClBaCl2を加えるとBaSO4の白沈となる。

(B) ギ酸ナトリウムと共に熱するとH2Sが発生する。これを酢酸鉛紙で検出する。

 

B 元素分析

元素分析(elemental analysis)

 有機化合物の構成元素を検出し,その量を決める方法。有機化合物はCHO等の一連の化合物であり,元素の検出だけでなくその成分比を求めなければ化合物を判別できないので,元素分析が行われる。

 有機物の元素分析を行うときは,化合物を分離精製した後,まず物理的性質(色,臭い,結晶形,融点,沸点等)を観察して,一定の見当をつけてから行う。

 

組成式の決定

 CHOを含む化合物は,完全燃焼させ,CO2H2Oとして定量する。装置の概要は以下の通り。

(1) 酸素または空気の精製  酸素または空気は,精製管を通して妨害ガスや水分を除く。このとき,線状CuOを詰めた加熱管で熱して不純物は完全に燃焼させ,生じたCO2はアスカライト(NaOHとアスベストから作られたCO2吸収剤,吸収能はソーダ石灰より高い),水分はアンヒドロンMg(ClO4)2に吸収させる。

(2) 試料の燃焼  試料は質量測定後,白金ボートに入れて燃焼管中に置く。試料は熱分解させて酸素で燃焼させ,これをCuOを詰めた固定炉に通して完全燃焼させる。

(3) 生成物の吸収  燃焼ガスは,まず550°Cに熱したAgに通す。これは試料中のSとハロゲンをAg2SO4及びハロゲン化銀として除く為である。続いて水吸収管,窒素酸化物吸収管,二酸化炭素吸収管に通す。水吸収管ではアンヒドロンMg(ClO4)2,窒素酸化物吸収管ではMnO2,二酸化炭素吸収管ではアスカライトが通常用いられる。N2は外部にそのまま放出される。

(4) 質量測定  水吸収管,二酸化炭素吸収管はそれぞれ装置から取り外し,質量を量り,反応前の質量と比較して生じたH2OCO2を求める。この値から元の試料中のHCの割合を求める。

 

分子量測定(molecular weight measurement)

 主な分子量測定法を以下に示す。低分子量物質では,分子量よりも他の物理的・化学的性質で化合物を推定する事が多いが,高分子では分子量を知る事が基本的な量として重要である。

(1) 質量分析計による測定  分子をイオン化して質量分析計で測定する方法で,分子量10000以下の物質に適用できる。この方法は測定時間も短く,試料は1mgもあれば可能である。多くは,化学式の決定も同時にできる。

(2) 蒸気密度の測定  気体を理想気体と仮定してその質量,体積,圧力,温度を測定し,気体の状態方程式から求める方法である。

(3) 気体の流出速度測定  小穴より,一定圧で一定体積の気体を噴出させるとき,気体が流れ出るのに要した時間tは分子量Mの平方根に比例する。既知の気体の流出時間t 1M1と未知の気体のt2M2を比べて,M2を求める。

 

 

(4) 沸点上昇測定,凝固点降下測定  試量の質量,溶媒の質量,及び沸点上昇度または凝固点降下度を測定し,分子量を計算する方法である。

 

 

(5) 浸透圧法  試料の質量,溶液の体積,温度,浸透圧を測定して分子量を計算する方法である。高分子に主に用いられる。

 

(6) 粘度測定  固有粘度[η]は,[η]KM aで表され,同じ高分子と溶媒では,Kaは定数となる。したがって,粘度の値から分子量が求められる。高分子に用いられる。

(7) 超遠心法  試料をセルに入れて超遠心機で高速回転させると,分子量が大きい程速く沈降する。したがって沈降速度から分子量を推定できる。この方法は生化学分野で主に用いられている。

(8) 光散乱法 高分子の希薄溶液は,分子量や分子の形によって,散乱される光の強度が異なる。その強度と分子量は一定の式(Zimmの提出した式)で関係づけられ,この式から分子量が求められる。この方法では,分子の形や大きさを同時に測定できる利点がある。

 

構造決定

 分子式が決まった物質は,種々の物理的性質や官能基による化学的性質を基に,その構造が決められる。ここでは,構造決定に関係する主な物理的性質を解説する(吸収スペクトルについては別項)

(1)   ニトロ化合物やヨウ素化合物,キノン類,アゾ化合物等は着色している。一般に有機物で着色しているものには,共役二重結合や発色団を含む。したがって,着色物質ならばこのような構造をまず考える。

(2) 臭い  臭いは信頼性のおけるものではないが,一定の物質の存在を推定できる。特有の臭いをもつものには,フェノール類,芳香族炭化水素,アミン類,脂肪酸,カルボニル化合物,チオール(メルカプト)類等がある。

(3) 結晶形  有機物は,結晶を作る方法によって外形の異なる事もあるが,参考データとなる。

(4) 融点,沸点,分解点  融点・沸点は物質を固定する重要なデータである。

(5) 比重  炭化水素等では,二重結合を有するもの程一般に比重が大きい。

(6) 溶解度  溶解度により物質の構造を直ちに推定する事はできないが,一般に「物質は似た構造をもつ溶媒に溶けやすい。対称的構造をもつ物質は溶解度が小さい。パラ化合物はオルトまたはメタ化合物と比較して溶けにくい。」傾向がある。

(7) 燃焼熱  燃焼熱が小さい物質は,不飽和結合が多く,生成熱が小さいと考えられる。

(8) 燃焼試験  芳香族は黒いすすの多い炎を出す。低級脂肪族は殆どすすを出さない。また,酸素の多い化合物の炎は青味がかった淡い色となる。ハロゲンがあるとすすの多い炎となる。タンパク質では特有の臭いを出す。

  爆発するものとしては,ニトロ化合物等がある。

  金属塩のときは,燃焼後灰分を残す。灰分に塩酸を加えたとき発泡すれば,NaKのアルカリ金属があるものと推定できる。

 

吸収スペクトル(absorption spectrum)

 試料にいろんな波長の光を当て,透過してくる光の強さを求めると,波長によって異なる割合で光が吸収される事がわかる。この吸光度を,波長毎にグラフで表したものが吸収スペクトルである。

 物質による光の吸収は,光のエネルギーに応じて物質のエネルギー状態が変わる事により起こる。光のエネルギーは,波長が短い程大きく,吸収される光の波長により,物質の分子構造を推定できる。

 各波長の範囲により,スペクトルがどんな原因で生じるかを次に示す。

(1) X線領域 主に,原子の内殻にある電子が,外殻または外へ叩き出される場合に対応し,元素分析や原子の性質の研究に用いられる。

(2) 紫外線・可視光線領域 原子の外殻電子をより高いエネルギー準位の励起状態に上げる場合に対応する。分子の場合は,結合電子や非共有電子対をより高エネルギー準位の励起状態に押し上げる過程に対応する。

(3) 赤外線領域 分子中の原子間の振動状態の変化に対応する。物質中のC=OO-HN-H等の基によって,それぞれ特有の吸収スペクトルが現れる。また,分子の形によっても特徴ある変化をするので,分子構造や性質についての知見を得る事ができ,物質の化学研究に広く用いられている。

(4) マイクロ波領域 分子の回転エネルギーの準位の変化に対応する。これから分子の慣性モーメントを求め,ひいては分子構造(原子間隔や原子価角等)を精密に決定する事ができる。

 

参考 質量スペクトル(mass spectrum)

 気体試料に電子線を当ててイオン(主に陽イオン)とし,これをまず電界で加速後,磁界を掛けてイオンの進行方向を曲げると,イオンの質量と電荷の違いによって進行方向がいろいろ変わる。このときのイオンの分布を質量スペクトルといい,これを行う機器を質量分析計という。質量スペクトルには,初め導入した分子から電子1個が取り除かれた陽イオン(親イオン)と,それが分解して生じた小さなイオンが出てくるのが普通である。これにより分子量の決定ができ,また,混合物試料との分析もできる。

 

 

 








本サイトに掲載された記事や画像の無断転載を禁じます。
Copyright(C) 2009 SHINKOSHUPPANSHA KEIRINKAN CO.,LTD. All rights reserved.