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1節 アルカリ金属とその化合物

 

A アルカリ金属の単体

アルカリ金属(alkali metals)

 アルカリ金属は,最も典型的な金属元素である。どれも類似した性質を持ち,単体は軟らかい銀白色の金属で,空気中では酸化され易く,石油中に蓄えられる。沸点・融点は原子量が大きくなる程低く,この事は,原子の電子配置や原子半径からも理解できる。

 アルカリ金属の原子の電子配置は,全て最外殻のs軌道に電子を1個もつ点で共通性がある。このs電子は放出し易いもので,これを放出すると1価の陽イオンができる。したがって,イオン化エネルギーは一般に小さく,原子番号の増大伴に一段と小さくなる。

 NaKは,デービーが白金皿の中でNaOHKOHを融解して電気分解する方法で初めて作った(1807)Liは,スウェーデンのアルフェドソンがぺタル石の成分元素として1817年に発見し,その単体はブンゼンが融解塩電解でとり出している(1855)

 RbCsは,ブンゼンらにより,1861年及び1860年に鉱泉水のスペクトル分析でそれぞれ見い出されているが,単体はどちらもそれらの塩の融解塩電解で得られた。Frは,1939年,フランスのキュリー研究所のベレーによって発見された放射性元素である。

 アルカリ金属元素のイオンが水溶液中で還元されて単体となるのは難しいので,どれもその塩の融解塩電解で単体を得ている。

 

ナトリウムの製造法

 Naの製造に用いられる原料は,一般にNaClNaOHである。

1ダウンス法  J.C.ダウンスの発明による。NaClを原料とする方法で,1930年頃よりこの方法で主に生産している。

  NaClの融点は801℃と高い為,融点降下剤としてCaCl2を加え,600℃で融解して電解する。製品の品位もよい。

2) カストナー法  H.Y.カストナーが1890年に発明した方法で,NaOHを溶融塩電解する。

  NaOHを融解し,NiまたはFeの陽極とCuの陰極を用いて電解する。この方法は現在では殆ど中止され,ダウンス法が主流となっている。

 

炎色反応(flame reaction)

 アルカリ金属,アルカリ土類金属等の塩類を無色の炎の中に入れて強熱すると,炎が各金属に特有の色を示す。これを炎色反応といい,炎色からそこに含まれる金属元素の種類を簡便に識別・確認する事ができる。この色は,揮発性の金属原子が励起されて発する輝線スペクトルのうち,ある波長の光が特に強い為に生じるものである。

原子の輝線スペクトルは,原子中の電子が熱エネルギーを受け取って,高いエネルギー準位のものになり,そこから低い別のエネルギー準位に移る時,そのエネルギー差が光となって放出される事で生じる。

 

金属の反応性一覧 温度については,カッコ内に示したが,単位℃は省いた。

元素名(記号)

気体に対する反応性

液体に対する反応性

亜鉛

Zn

湿気:灰白酸化被膜

空気(高温):燃焼,ZnO

ハロゲン(湿)ZnX2

無機酸酢酸塩基aq [Zn(OH)4]2H2:溶H2Zn2

電解金属99.999%,めっき,電池,合金

アルミニウム

Al

空気:(室温)酸化被膜,(高温)燃焼

ハロゲン(高温):燃焼

(高温)H2

無機酸(除濃HNO3)H2

塩基aq[Al(OH)4]-H2

展延性,電気伝導性,軽合金

アンチモン

Sb

空気:()光沢失う,(加熱)Sb203

ハロゲン:SbX3

王水硝酸,熱濃硫酸:溶

有毒

カドミウム

Cd

空気:(室温)表面酸化,(高温)CdO

ハロゲン(高温)CdX2

硝酸,熱硫酸HCl:溶

強塩基aq:不溶

有毒

カリウム

K

空気:(室温)酸化(高温)KO2

H2(高温)KH

ハロゲン:KX

水:発火,H2

エタノール:エトキシド+H2

炎色:赤紫

カルシウム

Ca

空気:(室温)表面酸化,(高温)CaO

H2(高温)CaH2

ハロゲン:CaX2

水:溶,H2

酸:激しく反応,H2

エタノール:エトキシド+H2

炎色:橙

Au

Cl2Br2(高温)AuX3

王水:[AuCl4]-

KCN(02存在):溶

展延性金属中最大

Ag

03Ag202

硝酸,熱硫酸:溶

電気伝性金属中,ハロゲン化物:写真

クロム

Cr

N2(高温):窒化物

ハロゲン(高温)CrX3

HCl,希硫酸:溶,H2

硝酸,王水:不動態

VI価化合物有毒,耐食性(めっき)

ゲルマニウム

Ge

空気:(高温)GeO2

Cl2GeCl4

 

熱硫酸,硝酸:溶Ge(IV)

強塩基aq:徐々に溶,

[Ge(OH)6]2-

半導体

コバルト

Co

空気:(400500)Co304

O2(1100)CoO

ハロゲン:CoX2

希硫酸,希硝酸,HCl:溶,Co2

塩基aq:不溶

強磁性,III価の安定錯化合物多数

水銀

Hg

空気:(300400)HgO

Cl2Hg2Cl2

硝酸,濃硫酸王水:溶

室温で液体,有毒,多くの金属とアマルガムを生成

スズ

Sn

空気:(高温)SnO2

ハロゲン:激しく反応,SnX4

酸:溶,Sn2+H2

濃硝酸:SnO2(沈殿)

強塩基aq:溶,[Sn(OH)4]2-

めっき,合金

ストロンチウム

Sr

空気:(室温)灰白被膜,(高温)SrOSr3N2

H2:水素化物

水,希酸:激しく反応,H2

濃硝酸,濃硫酸:徐々に溶

炎色:紅

セシウム

Cs

空気:酸化,(高温)CsO2

H2CsH

ハロゲン:CsX

水,酸,激しく反応,H2

エタノール:溶

炎色:青。低融点。最も陽性な元素

タングステン

W

空気(300):粉末酸化,WO3

F2Cl2Br2(加熱)WX6

硝酸WO3

王水:表面酸

HF+硝酸:溶

融点金属中最高,電球フィラメント

チタン

Ti

O2(610)TiO2

N2(800)TiNCl2(300)TiCl 4

無機酸():溶,H2

硝酸:メタチタン酸

HF:溶

耐食性(特に海水中)

Fe

空気(室温,湿):酸化

O2(高温)Fe2O3

Cl2FeCl3

濃硝酸:不動態

α:強磁性(769)

Cu

空気:(湿,CO2)緑青,(高温)CuO

F2(高温)CuF2

HCl(O2共存):溶

硝酸,濃硫酸:溶

NH3水: [Cu(NH3)4]2

熱,電気伝導性大

ナトリウム

Na

空気:(室温)酸化,Na2O2

H2(高温)NaH

ハロゲン:NaX

水:発火,H2

酸:激しく反応。エタノール:エトキシド+H2

炎色:黄

Pb

空気:(室温)表面酸化

ハロゲン:PbX2

熱硫酸,硝酸:溶

酢酸(O2存在):溶

軟らかい,蓄電池の電極

ニッケル

Ni

空気:微粉末発火

Cl2Br2(高温)NiX2

CONi(CO)4

HCl,硫酸,希硝酸:溶

硝酸:不動態

塩基aq:不溶

強磁性,水素化触媒

白金

Pt

Cl2(250)PtCl2

F2(高温)PtF4

H2:微粉吸蔵

王水:溶,[PtCl6]2

KCN水,熱濃硫酸,融解塩基:徐々に溶

水素吸蔵性大

バリウム

Ba

空気(高温)BaO

H2N2(高温)BaH2Ba3N2

ハロゲン:BaX2

水:溶

酸:激しく反応,H2

濃硫酸,濃硝酸:徐々に溶

炎色:黄緑

ベリリウム

Be

空気:(室温)酸化被膜,(高温)粉末燃焼,BeO

希酸強塩基aq:溶H2

濃硝酸:不溶

有毒,X線管窓

マグネシウム

Mg

空気:(室温)表面酸化,(高温)強い光,MgO

Cl2MgCl2

熱水希酸:溶H2

塩基aq:不溶

軽金属

マンガン

Mn

空気:表面酸化

O2CI2(高温) Mn3O4MnCl2

水:徐々に溶

酸:溶,Mn2H2

安定酸化数多数

リチウム

Li

空気:(200)燃焼,Li2O

H2(高温)LiH

N2(高温)Li3N

水:溶,H2

酸:激しく反応,H2

エタノール:エトキシド+H2

炎色:赤,最も軽い金属,固体金属中比熱最大

ルビジウム

Rb

空気(高温)RbO2

ハロゲン:RbX

水:激しく反応,H2

エタノール:エトキシド+H2

炎色:赤

 

アルカリ金属の反応

水との反応は,原子番号が大きい程激しく,水酸化物と水素を生じる。Liを除いて反応時は融解し,Naでは時折,K以上では常に発火する。

2M2H2O ―→ 2MOHH2

アルコールとも反応し,アルコキシドとH2を生じるが,エーテルや灯油とは反応しない。

空気中では湿気があれば水酸化物となり,乾燥空気中ではLiを除いて酸化される。高温にすると燃焼し,Li2ONa2O2KO2RbO2CsO2等が生じる。ハロゲンとも空気と同様に反応し,ハロゲン化合物MXが生じる。水素とは高温で水素化物MHを生じる。窒素,炭素,ケイ素等とは一般に反応しないが,Liだけは例外で,窒化物や炭化物,ケイ化物になる。

6LiN2 ―→ 2Li3N

 

B アルカリ金属の化合物

2・第3周期の金属元素の化合物

金属元素の酸化物は,元素の金属性が強い程塩基性が強い。したがって同周期では,原子番号が小さくなる程塩基性の強い酸化物になり,非金属元素との境界付近に存在する元素の酸化物は両性を示す。水酸化物も同様の性質を示す。

 

2周期・第3周期の金属元素の化合物

元素

水素化物

酸化物

水酸化物

水を含む反応

3Li

LiH イオン性

Li2O

LiOH 強塩基性

Li2OH2O ―→ 2LiOH

4Be

BeH2 イオン性

BeO

Be(OH)2 両性

Be(OH)2 ―→ BeOH2O

11Na

NaH イオン性

Na2O

NaOH 強塩基性

Na20H2O ―→ 2NaOH

12Mg

MgH2 イオン性

MgO

Mg(OH)2 弱塩基性

Mg(OH)2 ―→ MgOH2O

13Al

AIH3 分子性

Al2O3

Al(OH)3 両性

2Al(OH)3 ―→ Al2O33H2O

 

水酸化ナトリウム(sodium hydroxide)

 工業用語としてカ性ソーダともいう。純粋なものは融点が328℃だが,実際には水や炭酸塩が混じっており318℃を示す。溶解度は大きく,20℃で水100g109gも溶解する。溶解熱は44.52kJ/molと大きい。水溶液は強塩基性を示す。

 製法には電解法とアンモニア法があるが,副産物の塩素の需要が増えた為,主に電解法で作られている。電解法には,隔膜法とイオン交換膜法等がある。

 用途としては,レーヨン等の化学繊維工業を中心に,紙・パルプ・セッケン・染料・食料品等各種化学工業に用いられている。

 

潮解(deliquescence)

 固体が大気中にさらされている時,大気中の水蒸気を吸って自然に水溶液になる現象をいう。固体の飽和水溶液の水蒸気圧が,それと接触する大気の水蒸気の分圧よりも小さい場合,その固体は潮解性を示す。

 

水酸化ナトリウムの製造(食塩電解工業)

水酸化ナトリウムは食塩水の電気分解で製造される。主な製法に,隔膜法,水銀法,イオン交換膜法がある。水銀法は高純度の水酸化ナトリウムが得られ,1970年頃迄は大部分をこの方法によっていたが,有機水銀を含む排水により発生した水俣病を契機にして,隔膜法への転換が進められ,現在は中止されている。隔膜法では得られる水酸化ナトリウムの濃度が1012%と低く,不純物として塩化ナトリウムが1518%含まれる欠点があり,これを改良したイオン交換膜法の工業化が現在進められている。

(1) 隔膜法(diaphragm process)  隔膜法では,電解槽内部を隔膜により陽極室と陰極室に分け,陽極室から飽和塩化ナトリウム水溶液を注入して電解する。陽極には炭素,陰極には鉄網,隔膜にはアスベストを用い,通常隔膜は鉄網に密着させて使用する。

(陽極)2Cl- ―→ Cl22e-

(陰極)2H2O2e―→ H22OH-

(2H2O2Na2e- ―→ H22NaOH)

隔膜はOH-が陽極室へ浸入するのを防ぐ。隔膜が無い時は,両極の生成物が混合して次式の反応が起きる。

Cl2OH- ―→ HClOCl-   Cl22OH- ―→ ClO-Cl-H2O

2HClOClO- ―→ ClO3-2HCl

陰極室から得られた液は,蒸発濃縮してNaClを析出分離し,NaOHを得る。

 

(2) イオン交換膜法(ion-exchange membrane method)  隔膜法と異なるのは,隔膜にフッ素樹脂を主体とした陽イオン交換膜(ナフィオン等)を用いる点で,他はほぼ同様である。陽イオン交換膜はNaを通過させるがOH-Cl-は通過させない。したがって陰極室にはCl-が入らず,純粋なNaOHを得る事ができる。得られる水酸化ナトリウムの濃度は2040%である。

 

アンモニアソーダ法(ammonia-soda process)

 Na2CO3の工業的な製法は,1980年代迄はアンモニアソーダ法が主要な方法だった。この方法は,ソルベーE.Solvay1866年に工業的に成功したもので,ソルベー法とも呼ばれる。原料のNaClCaCO3から製品のNa2CO3を作る間に出る副生成物をことごとく有効に再利用し,この反応の収支においてCaCl2が副産物となる。副生成物が利用されて反応が進むという事は,原料が純粋なら不純物が混入する機会が少ない事を意味し,高品位の製品を得る上で,また,原料のコストの面からも利点となる。

 本法のNaClの利用率は7割で,日本ではこれをほぼ10割に高めた塩安ソーダ法が主流である。

 

参考実験 アンモニアソーダ法

【目的】アンモニアソーダ法により,NaClCaCO3から,NaHCO3を経てNa2CO3が生じる様子を観察し,この方法についてよく理解させる。

【準備】小型リービッヒ冷却器,ゴム栓,マグネチックスターラー,キップの装置,細いガラス管,三角フラスコ,塩化ナトリウム,濃アンモニア水,石灰石,6mol/L塩酸,フェノールフタレイン溶液

【操作と結果】(1) 濃アンモニア水を少量,三角フラスコに取り,水を加えて2倍に薄める。そこへ塩化ナトリウムを入れ,スターラー上で十分にかき混ぜて飽和溶液を作る(この操作は時間をとるので,予め準備しておくのがよい)

(2) (1)で作ったNaClが飽和したアンモニア水を,ゴム栓をつけたリービッヒ冷却器に入れ,下図のように装置を組み立てる。キップの装置で発生するCO2を細いガラス管を通して冷却管中の液に吹き込むようにする。この時,冷却管に水道水を流して内部を冷やす。

(3) 3040分間CO2を通し,冷却管の内部の底に白いNaHCO3の沈殿が生じてから,CO2を送るのを止め,この沈殿をとり出してろ別する(CO2は十分に通す。初期に現れる沈殿はNH4HCO3の場合が多い)

(4) 沈殿を少量の水で洗った後,少し試験管にとり水を加えて溶かし,そこヘフェノールフタレイン溶液を加える。NaHCO3であるので淡い赤色を呈する。

(5) 沈殿を試験管にとり,管口を少し下方に向けてスタンドにとめ,試験管を熱する。十分に加熱後,その一部を別の試験管に移し,水を加えて溶かした後フェノールフタレイン溶液を加えてみる。Na2CO3が生じているので赤くなる。

【その他】リービッヒ冷却器を使うのは,CO2をできるだけ多く溶かして反応させる為である。その為に水道水で冷やす。また,細いガラス管を液中に深く差し込む事によって,圧力の大きいCO2を通す事になり,これもCO2の供給を多くする事になる。

 

炭酸ナトリウム(sodium carbonate)

 Na2CO3は水によく溶け,加水分解して強塩基性を示す。

   Na2CO3H202NaHCO3OH

 塩酸で2段階に中和する。第1段階で酸性塩NaHCO3が生じ,終点はフェノールフタレインの変色で判る。第2段階で正塩が生じ,終点はメチルオレンジの変色で判る。

 炭酸ナトリウム水溶液からは,32℃以下の時十水塩Na2CO3·10H2O32℃〜35℃では七水塩,それ以上では一水塩が析出する。十水塩は,空気中に放置すると風解し,白色粉末状の一水塩Na2CO3·H2Oになる。一水塩を焼けば無水塩が得られる。

 セッケンやガラス,NaOHNaHCO3の製造原料,製紙,染料工業,アミノ酸工業,洗濯用,試薬,医薬品として用いられる。

 

炭酸水素ナトリウム(sodium hydrogencarbonate)

重曹や重炭酸ナトリウム,重炭酸ソーダとも呼ばれる単斜晶系の微細結晶。独特の弱い辛みがある。エタノールには溶けない。

 

水和水(結晶水,water of hydrationwater of crystallization)

結晶中に一定の化合比で含まれる水の事。結晶内で一定の位置を占め,その結晶格子の安定化に必要な水で,一定の温度範囲で一定の水蒸気圧を示す。熱すればある定まった温度で段階的に脱水が起こり,それに伴って結晶構造が変わる。

 

風解(efflorescence)

水和物の結晶が,空気中で自然に水和水の一部または全部を失って分解する現象。結晶を乾いた空気中に置く時,温度一定下で,物質の蒸気圧が空気中の水蒸気圧より大きければ,平衡に達する迄絶えず水和水が蒸発するので結晶が分解する。Na2SO4·10H2ONa2CO3·10H2O等は風解が著しくみられる。

 

 

 








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