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3節 電池と電気分解

 

A 電池のしくみ

電池(cellbattery)

化学的作用によって電流を生じる装置を電池といい,光が当たると電池として働くものは光電池という。

 

 

ダニエル電池(Daniell cell)

1836年,イギリスの化学者ダニエルによって考案されたもので,起電力の変化が少なく,気体も発生しないので,ボルタ電池よりも数段優れたものとして評価された。当初は銅イオンが亜鉛室に移って自己放電を起こすという欠点があったが,いろんな構造の改良を行い,電話交換機用電源として実用化された。

ダニエルJ.F.Daniellは,1790年ロンドンに生まれ,1845年没。1831年,ロンドンのキングスカレッジ設立の際に化学教授となる。1831年以降,英国学士院会員。ダニエル露点湿度計,ダニエル電池,銅‐亜鉛熱電対の発明で有名である。塩類の水溶液の電解による研究もある。

 

ボルタ電池(voltaic cell)

イタリアの医学者ガルバーニ(17571796)は,カエルを金属板の上に置くとけいれんを起こすのを見て,この現象を筋肉中の生物電気だと考えた。しかし,イタリアの物理学者ボルタは,カエルに起こるけいれんは,動物自身がもつ電気ではなく,金属の接触電気によるものと考え,これにヒントを得て,水に濡らした紙や布を亜鉛と銅で挟むと電気が生じる事を発見し,ボルタ電池を考え出した(1800)。これが電池の起源で,ボルタはこの電池はいつまでも使えると考えたが,実際は,水素イオンの吸着により銅表面の触媒能力が低下し,直ぐに使えなくなった。

ボルタAlessandro Voltaは,1745218日生,182735日没。初めPavia大学,1815年以後Padova大学の教授。ボルタ電池を発明し定常的な電流を得て,化学反応が電流を生み出す事を明らかにした。電位,電圧の単位ボルトvolt(記号X)は,彼の名にちなんでつけられた。

電池の原理を理解するには,ダニエル電池の方が解り易いので,最近は,電池の学習ではダニエル電池から入るのが一般的になっている。

 

B 実用電池

アルカリマンガン乾電池(alkaline manganese dry cell)

マンガン乾電池の改良品で,放電電圧の平坦性,貯蔵性に優れた大容量高性能電池であり,マンガン乾電池よりも重負荷連続放電用に適している。通称はアルカリ電池。現在,乾電池の大半を占めている。

 

マンガン乾電池(manganese dry cell)

乾電池は,メーカーによりその成分や構造が多少異なり,教科書では,最も多くの専門書や教科書に記載されているものを示した。

マンガン乾電池の反応は複雑で,簡単に説明できないが,一般的には次の様に説明されている。

負極では亜鉛が溶けて電子が放出される。この時の生成物は,pHによって変化する。
(1)
 pH5.15.8 Zn2NH4Cl ―→ ZnCl22NH42e-

Zn ―→ Zn22e- (Zn2として溶解)

(2) pH5.87.85 Zn2NH4Cl2H2O ―→ Zn(NH3)2Cl22H3O2e-

(Zn(NH3)2Cl2が沈殿析出)

(3) pH7.859.3 Zn4NH4Cl4H2O ―→ Zn(NH3)4Cl24H3O4e-

([Zn(NH3)4]2として溶解)

正極では,MnO2の粒子内部に,NH4H30から分離したHが拡散してくる。また,負極から導線を通して炭素棒に電子が流れ込み,MnO2は還元されてMnO(OH)(またはMn2O3H2O)になる。そして,このMnO(OH)は未反応のMnO2中に拡散していくと考えられる(0.751.5Vくらいの放電の間の反応)

MnO2NH4e- ―→ MnO(OH)NH3

MnO2H3Oe- ―→ MnO(OH)H2O   (MnO2He- ―→ MnO(OH))

正極での反応もpHにより,また反応が進むと変化する。反応が進んだ時はMn2が生じると考えられている(主としてpH0.56)

MnO24H2e- ―→ Mn22H2O

全体の反応としては,次式が一般的に受け入れられている。

2MnO22NH4ClZn ―→ 2MnO(OH)Zn(NH3)2Cl2

また,電解液に塩化亜鉛を多く含む塩化亜鉛型電池の場合は,全体の反応が次式の様になると考えられている。

8MnO28H2OZnCl24Zn ―→ 8MnO(OH)ZnCl2Zn(OH)2

マンガン乾電池は,休み休み使うと起電力が回復する特徴がある。

 

実用電池の種類

実用電池は一次電池と二次電池(蓄電池)に大別される。

実用一次電池

名   称

負極

電解質

正 極

電圧〔V

マンガン乾電池

Zn

ZnCl2 NH4Cl (ZnCl2)

MnO2

1.5

アルカリマンガン電池

Zn

KOH(NaOH)

MnO2

1.5

酸化銀電池(銀電池)

Zn

KOH(NaOH)

Ag2O

1.55

空気電池

Zn

NH4ClKOH (NaOH)

O2 (空気)

1.35

リチウム電池

Li

LiBF4(LiClO4)

(CF)n (MnO2)

3.0

 

実用二次電池

名     称

負極

電解質

正 極

電圧〔V

鉛蓄電池

Pb

H2SO4

PbO2

2.1

ニッケル-鉄電池 (エジソン電池)

Fe

KOH

NiO(OH)

1.2

ニッケル-カドミウム電池

Cd

KOH

NiO(OH)

1.3

ニッケル-水素電池

MH

KOH

NiO(OH)

1.3

リチウムイオン電池

C Lix

Li

Li1-x CoO2

4

酸化銀-亜鉛電池(銀電池)

Zn

KOH

AgO

1.5

 

鉛蓄電池(lead-acid batteryまたはlead storage battery)

鉛と硫酸から構成された代表的な二次電池。電圧が2Vと高く,品質安定性に優れ,安価であり,寿命は放電の深さに大きく依存する。自動車のバッテリーはこれを6個直列につないだ構造をしており,12Vとなる。

 

燃料電池(fuel cell)

一般に,電池は化学変化のエネルギーを電流という形に変換するものである。ここで,化学物質のエネルギーを電気的エネルギーに変換する例として,燃料電池について考察してみる。

今,白金板を水に浸し,その表面に水素を吹きつけると,水素の一部分はH+となって水に溶け込もうとする。したがって,白金板は水素から電子を与えられて負に帯電する。ある程度帯電すると,この負電気が上の反応をおし止めるので,電位は一定値より大きくはならない(平衡状態の電位)

 同様に,他の白金板に酸素を吹き込むと,酸素の一部はH2O (O24e-―→ 2O2-2HO2―→ H2O)となって水に溶け込み,極板は正に帯電する。この電極の電位も,平衡状態の値に達する。ここで,この2つの極を結び付けると,その間の電位差によって電極間に電流が流れ,液の中では水が生じる。

   H2―→ 2H2e-

   O24H4e-―→ 2H2O

 これらの反応をまとめると,結局,水素2molは酸素1molと化合して水2molを生じた事になる。その際に,化学エネルギーの一部を電気エネルギーに変換する事ができる。このような電池を燃料電池という。この燃料電池から発生する最大の電圧は,それぞれの電極が独立の状態でもっていた平衡の電位の差になる(1.2V)。但し,燃料電池としての発電をしている時には,流れる電流と共に電圧は低下してくる。

尚,上の例では水素が燃料となっているが,メタノール,エタノール,メタン等の可燃性物質を使う事もできる(多くは触媒によって燃料物質から水素を分離し,水素を燃料として利用している)。燃料電池では,燃料を酸素と化合させ,即ち燃焼させ,その際に出る熱によって発電機を回して発電する方法に比べ,原理的に効率が高く,有毒な排ガスを生じず,装置も比較的簡単で,無人でも働く等の利点がある。その為,灯台や宇宙船の発電装置として使われている。携帯電話・モバイルコンピュータや自動車への応用も注目されている。

 

C 電気分解

電気分解(electrolysis)

電気分解では,電極表面で溶液との間に生じる電位差の為に強い電界が生じ,電極と溶液の間で正負のイオンや電子の授受が起こる。電極間の電位差を0から少しずつ上げていった場合,陽極では液中で最も電子を放出し易い物質または電極が優先的に酸化される。陰極では最も電子を受け取り易い物質が優先的に還元される。

水溶液の電気分解では,水とイオン及び電極の反応を考えればよい。陰極では,水と主に陽イオンを考えればよい。pH7.0における水の標準電極電位は−0.828Vであり,このpHにおいてこれより標準電極電位の高い陽イオンがあれば,一般にはこの陽イオンが優先的に還元される。また,水より標準電極電位が低い陽イオンがあれば,水自身が優先的に還元される。

Zn22e ―→ Zn        E0=−0.7626V

2H2O2e―→ 20HH2()  E0=−0.828V

Al33e―→ Al      E0=−1.676V

したがって,AlAlより標準電極電位が低い金属イオンがあれば水が反応し,ZnZnより標準電極電位が高い金属イオンがあれば,イオンが反応する。

 陽極では,水,陰イオンの酸化を中心に考えればよい。この場合は,標準電極電位の低い反応(酸化反応だから反応式の逆反応について考える)の方が進み易いので,この値が水より小さい時は陰イオンが反応し,水より大きい時は水自身が反応すると考えてよい。また,電極の標準電極電位がより低い場合は,電極が酸化される。

 尚,[Fe(CN)6]3I3陰イオンであっても還元され易いもの,V3+Fe2+等陽イオンであっても酸化され易いものがある事にも注意する。

 

40H2H2OO24e-

E00.401V

2 II 2()2e-

E00.5355V

AgAge-

E00.7991V

2Br-Br2()2e-

E01.0874V

2H2OO24H4e-

E01.229V

2SO42S2O822e-

E01.96V

以上,電気分解を標準電極電位を中心に説明してきたが,実際の反応では,濃度や温度,電気化学反応の過電圧等の影響により,必ずしも前述の通りにはならない。化学反応に例えれば,標準電極電位は標準状態の反応熱に似たものと考える事ができ,活性化エネルギーや反応速度を考えると,反応熱が大きくても必ずしも反応するわけではない事が解るだろう。高校段階では,標準電極電位を1つの基準と考え,実際の指導では代表例について理解させれば十分と考えられる。

 

電気分解と電極

電気分解は,電極表面に電位差を生じさせ,電気エネルギーによって化学反応を起こさせるもので,電力(エネルギー)を消費して化学ポテンシャルの高い物質を作るという点で,電池と逆の変化に相当する。

電気分解では,電源の負極と連結した電極を陰極といい,正極と連結した電極を陽極という。しかし,反応は,負極・陽極で酸化反応,正極・陰極で還元反応が起こり,電極の名称と反応の内容が一致せず,生徒には解り難いので,電極の名称については,十分な指導が必要である。

電極の名称として,アノード,カソードを用いる事もある。この場合には,上記の負極・陽極をアノード,正極・陰極をカソードという。つまり,酸化反応が起こる電極がアノード,還元反応が起こる電極がカソードである。

 

参考実験 電気分解

【目的】NaCl水溶液やCuSO4水溶液の電気分解を寒天ゲル中で行い,電気分解における物質移動を理解させる。

【準備】3%のNaClとフェノールフタレイン少量を含む寒天ゲル,0.1mol/LCuSO4水溶液の寒天ゲル,ステンレス棒2本,電源(乾電池),導線,ガラス板,OHP投影装置一式

【操作】(1) NaClの寒天ゲルを適当な大きさに切り,ガラス板上に載せてOHP投影台上に置く。電源と導線で結んだ2本のステンレス棒を寒天に差し込み,変化を見る。

(2) CuSO4の寒天ゲルに(1)と同様の操作を行い,OHP投影台上で変化を見る。

【結果】(1)では,陰極付近が赤くなる。これは,OH生成によりpHが高くなり,フェノールフタレインが発色する為である。(2)では,陰極に銅が析出する事が判る。

【参考】(1) 寒天ゲル中の塩の濃度は1%程度でもよい。

(2) どちらの寒天ゲルにも少量のKIとデンプンを加えておくと,ヨウ素デンプン反応により陽極にも変化が見られる。  2I―→ I22e

(3) ガラス板に+,−の記号を書いておくと,反応が見易くてよい。

 

D ファラデーの法則

ファラデーの法則(Faradays law of electrolysis)

この法則は,1833年ファラデーM.Faradayによって導かれた電気分解に関する法則であり,電気分解の法則とも呼ばれている。

電気分解において析出または溶解する原子または原子団の物質量は,通じた電気量に比例する。

電気分解では電子1mol当たりの電気量9.6485×104C/molを単位に用い,これをファラデー定数という。この法則は,電気分解において変化する物質の量と電気量の関係が,電解質・電極の種類や量,溶液の温度や濃度に無関係である事を示している。

 

ファラデー(Faraday)

イギリスの化学者,物理学者。1791922日生,1867825日没。1813にデービーH.Davyの助手として王立研究所に入り,1833年に同研究所の化学教授となる。同年電気分解の法則を導く。他にも多くの業績がある。ベンゼンの発見(1825),ナフタレンスルホン酸の発見(1826)等は化学上のものだが,塩素の液化(1823),電磁誘導現象の発見(1831),電場・磁場の概念の確立(1837),真空放電におけるファラデー暗部の発見(1838),反磁性物質の発見(1845)等,物理学上での功績が大きい。

 

 

 








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