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1節 酸化と還元

 

 酸化・還元の定義

酸素・水素の授受と酸化還元

酸化という言葉(概念)を最初に提出したのは,A.L.ラボアジエである。彼は酸素が他の物質と化合する現象を酸化と呼ぶ事を主張し,激しくエネルギーを放出して炎や光輝を発生する燃焼,金属が錆びる反応,呼吸等生体内で起こる反応が全て酸化反応である事を明らかにした。また酸化の逆反応,即ち酸化物から酸素が失われて酸化物が酸化前の状態に戻る反応,金属酸化物と木炭・コークス等を一緒に熱すると金属が得られる反応,いわゆる冶金等,を酸化の逆反応として還元という言葉で呼んだ。

この定義はその後やや広げられ,酸素との化合のみならずハロゲンや硫黄との化合も含めて酸化と呼び,酸化物が水素と化合すると酸素を失う事から水素との化合も還元と呼ぶようになった。これらの酸素・水素の授受を中心とする古典的な酸化・還元の定義を狭義の酸化・還元の定義という。

 

電子の授受と酸化還元

マグネシウムMgが酸素Oと結合する時には,Mgの価電子はOに移り,Mg2価の陽イオン,O2価の陰イオンになる。

 このように,電子の移動に注目すると,酸化とは電子を失う事であり,還元とは電子を得る事であるといえる。Mgと塩素の反応でも,次式の様に同様の電子の授受が行われ,酸化還元反応である事がよく判る。

 

電子の移動に注目した酸化・還元の定義を,広義の酸化・還元の定義という。

酸化・還元を電子の授受と結び付けて定義する事は,現在一般に行われており,実際非常に有用な考え方である。教科書では狭い意味の酸化・還元,即ち酸素と化合する事が酸化であり,酸素が失われる事が還元という定義から始め,上記の電子の授受による定義へ,できるだけスムーズに結びつける様に配慮した。

 

参考 フロギストン説とラボアジエの燃焼理論
 可燃性物質が燃焼する際,炎と共に何かが逃げていく様に見える。この現象から,燃焼とは物質からフロギストン(燃素phlogiston)が失われる事であるというフロギストン説が生まれた。この説は,初めJ.J.ベッヒャー(ドイツ,16351682)が唱え,G.E.シュタール(ドイツ,16601734)によって発展した。シュタールはフロギストンという名称を与えたばかりでなく,フロギストンを用いた燃焼の理論体系を考え出した。即ち可燃性物質はフロギストンを多く含む物質であり,燃焼とはそれらの物質がフロギストンを失う現象であり,金属が錆びるのも燃焼と同じ現象で金属がフロギストンを失う現象と考えた。また金属酸化物が木炭等によって還元されるのは,金属酸化物が木炭等のフロギストンを多く含む物質からフロギストンを受け取るからであると考えた。

 

金属 − フロギストン ―→ 金属酸化物

金属酸化物 + フロギストン(木炭等から) ―→ 金属

 

A.L.ラボアジエは,リン・硫黄の燃焼,スズの燃焼の実験等から,これらの変化に際して空気のかなりの部分が固定され,その結果重量が増えると考えた。この固定される空気の部分がK.W.シェール(スウェーデン,17421786)J.プリーストリ(イギリス,17331804)によって独立に,かつほぼ同時に発見された酸素(プリーストリによれば脱フロギストン空気)である。この事を含めた燃焼理論を確立したラボアジエは,「フロギストンに関する省察」(1783)や「化学原論」(1789)によって,酸素による燃焼理論がいかに合理的か,それに反してフロギストン説による燃焼の説明がいかに複雑で,自己矛盾に満ちているかを指摘し,フロギストン説を訂正した。

 

気体の発見

年 代

発 見 者

気  体

発見者の命名

1754

J.Black(イギリス)

二酸化炭素

固定空気

1766

H.Cavendish(イギリス)

可燃性空気

176973

K.W.Scheele(スウェーデン)

火の空気

1772

D.Rutherford(イギリス)

フロギストン化空気

J.Preistley(イギリス)

塩化水素

酸の空気

1774

K.W.Scheele(スウェーデン)

脱フロギストン塩酸

J.Priestley(イギリス)

〃  空気

 

 酸化数

酸化数(oxidation number)

単体及び化合物中の価電子を,より電気陰性度の大きい原子に割り当てた時,それぞれの原子がもつ荷電を表す数を酸化数という。

電子の割り当て方は完全に一義的とは言えないので,物質によっては,その分子構造についての知識を必要とする場合もあるが,一般には,化合物中の電子構造を考えないでも,その値を計算し得るので,酸化還元反応を考える有効な手段として利用されている。酸化数の判定に当たってしばしば混乱を招くのは,構造の判っていない化合物の場合である。

酸化数の決め方で,化合物中の原子の酸化数を決める定義は,共有結合の概念から受け入れにくい事もあり,この定義が全く形式的で便宜的なものである事を強調した方がよい。

酸化数の定義に従えば,あらゆる酸化還元反応について,それに与る物質が酸化されたか還元されたかをはっきり見分ける事ができる。しかし,大部分の有機化学反応や多くの無機化合物の反応では,それに与る分子種が電子を失ったか,それとも電子を得たかがはっきりしないものが多い。それは,これらの物質の化学結合が,イオン結合と共合結合のどちらとも言い切れず,その中間のものが多いからである。

厳密な意味での酸化数を理解するには高校生にとって難しい部分がある。しかし,形式的に酸化数を決める事は,難しい事ではない。酸化・還元反応を考えるには酸化数の変化を見ていく方が判り易い。

 

参考 金属の激しい酸化還元反応

酸素との結合力(親和力)の強いAlを還元剤とする金属酸化物の冶金反応をテルミット反応といい,多量の熱が発生する。還元されて生じる金属が融解するので,電気設備の整わない環境下での鉄や鋼の溶接に用いられた。

 

 

 








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