トップMaster化学I1部 物質の構成>第2章 物質をつくる粒子>第4節 原子や分子からできた物質

4節 原子や分子からできた物質

 

A 分子と共有結合

分子(molecule)

ある物質がその性質を有しながら存在する最小の粒子であり,構成する原子の数によって単原子分子(または一原子分子),二原子分子,三原子分子,多原子分子等と呼ばれている。

 

分子式(molecular formula)

単体または化合物を構成する分子の組成を表す式であり,その構成元素の原子とその数を示したもの。例えば,酸素はO2,グルコースはC6H12O6と表す。

 

共有結合(covalent bond)

H2分子が形成されるとき,H原子は電子を1個しか持たない1s電子軌道を互いに重ね合わせ,H原子2個の間で電子の行き来ができるようになる。このようにして,2個のH原子はより安定なH2分子をつくる。この際,原子が結合して生じる安定な分子の結合や性質を解明する為に原子間に跨った分子軌道を考える。電子は分子軌道に従って両原子の間を行き来し,原子同士を結び付ける。このように,電子を共有することによってできる結合が共有結合である。

水素分子の解離エネルギーは436kJ/molであることが知られている。

H2()2H()436kJ

H原子2個が完全に離れているときのポテンシャルエネルギーを0とすると,この2原子が互いに近寄って共有結合を形成する場合のエネルギー変化は下図のようになる。2つの原子核間の距離がr(0.074nm)になったとき,2原子は最も強く結合して安定になっていることがわかる。この場合,H2原子が完全に離れているときに比べ,D (436kJ/mol)だけエネルギーを放出している。r/2H原子の共有結合半径と呼んでいる。

分子軌道が形成される場合,その形と電子密度の関係をH2分子について考えてみる。Heの電子配置は1s2である。1s軌道の形は球状で,下図(A)のようになっている。原子核を通る直線を横軸に,直線に垂直な面内の電子密度を縦軸にとって図示すれば,図(a)のようになる。そこで,Heの原子核を二分し,それぞれの+eの電荷を少しずつ離していくと考える。+e2つの核が十分に離れた状態では,2個のH原子が離れて存在しているのと同じ状態と見なすことができる。そのような状態になる迄の軌道の形は,下図(A)→(B)→(C)→(D)を辿る。実際のH2分子の核間距離は0.074nmであり,この場合の分子軌道は(C)に相当する。この分子軌道は元々He原子核1個を包んでいた1s軌道だから, 1s電子2個は核電荷2個から同じ影響を受けている。

1sの電子配置のH原子2個が,(D)の孤立した状態から近づいて接触した場合,2つの1s軌道は単に重なり合うだけでなく,436kJ/molもの熱を放出する事による安定化で大きな影響を受ける。(C)の状態では,どの電子がどの核に所属するかが決められなくなっている。即ち,電子2個は原子核2個に一様に束縛されている。これが分子を安定にしている主要な原因と考えることができる。つまり,電子2個は原子核2個に共有され,H原子2個は共有結合によって強く結び付けられている。

2分子の分子軌動

 

原子価(ionization number)

ある元素の1原子が,水素原子何個と化合または置換するかを表す数。分子の構造を定性的に考えるのに便利である。

 

構造式(structural formula)

分子を構成する原子の様子を平面的に書き表した化学式。原子と原子の間を原子価に相当する本数の価標でつないで結合を表す。有機化合物の化学構造を示す場合に用いられる。

置換基等一見して化学構造が判るような構造部分を簡略化した構造式を示性式というが,示性式は構造式に含まれる。

示性式を更に簡略化し,水素原子を省略したり,炭素原子は骨格の価標のみで示したり,適当な置換基をまとめてMeEtPh等の略号で表した構造式も用いられる。

 

価標(bond)

構造式を書くときに,共有結合で結ばれていることを書き表す為の棒線。

 

B 分子からできた物質

分子結晶(molecular crystal)

電気的に中性の分子が弱い相互作用,即ちファンデルワールス力や双極子相互作用,水素結合等によって分子が凝集してできた結晶を分子結晶といい,その多くは絶縁体である。弱く結合している為,結晶は軟らかく,融点も低く,昇華し易いものが多い。

 

C 共有結合の結晶

共有結合結晶(convalent crystal)

隣り合う原子2個が,電子のスピンが互いに逆向きの1対の電子を共有してできた共有結合結晶は,一般に結合エネルギーが大きく,融点が高く,硬い。ダイヤモンドやケイ素,ゲルマニウム,炭化ケイ素等が代表例である。

 

D 金属

金属結合

Naを例に,金属結合を考えてみる。隣接するNa原子2個の間では,それぞれの3s軌道から分子軌道2個がつくられる(一般に,分子軌道は用いられた原子軌道の数だけできる)。そして,それぞれの3s軌道の電子は対となり,エネルギー準位の低い分子軌道に入る。更にNa原子が増えて3個,4個,5個,となると,Na原子の3s軌道から作られる分子軌道の数も345と増加する。そして,Na原子の3s軌道の電子は,エネルギー準位の低い分子軌道から順に2個ずつ配置される。

Naの単体1molでは,原子の3s軌道から6.02×1023個の分子軌道が作られ,その数が多いので各エネルギー準位の間隔は極めて小さくなり,事実上連続した帯のようになる。このような帯をエネルギー帯やバンドと呼んでいる。エネルギー帯を構成する全ての分子軌道は,全原子に行き渡っている。したがって,どの電子も特定の原子に属することは無いので,金属結合は,全原子が全電子を共有する1種の共有結合であるといえる。

Naでは,3s軌道から構成されるエネルギー帯の半分が空であり,電圧を掛けると電子は容易に移動し,電流が通じる。Mg3s軌道に2個の電子をもち,3s軌道から構成されるエネルギー帯に電子が充満するので,Naとは電気伝導の仕組みが異なる。この場合は,3p軌道から構成されるエネルギー帯の一部が3s軌道によるエネルギー帯と一部重なり,電子は空の3p軌道を使って移動でき,電気が流れる。

 

参考 半導体(金属・不導体・半導体)

原子の中の電子のもつエネルギーは不連続であり,価電子を上のエネルギー準位に上げるのにエネルギーが必要である。原子が多数集まって結晶をつくるときは,原子が互いに作用し合う為,多くのエネルギー準位が密に集まり,帯のように幅のあるエネルギー準位が形成される。これをエネルギー帯またはバンドとよび,原子に幾つかのエネルギー準位がある様に,エネルギー帯にも幾つかの段階がある。エネルギー帯とエネルギー帯の間に,電子の存在することができないエネルギーの範囲があるとき,これを禁制帯と呼んでいる。

結晶中の電子は,エネルギーの低いエネルギー帯から順に配置され,価電子はエネルギーの大きい部分に配置される。価電子が入るエネルギー帯は,特に価電子帯と呼ばれている。そして,電子が全部エネルギー帯に配置された時,電子が入っていない部分との境界になるエネルギーをフェルミエネルギーという。

 

金属とは,上図(A)の様に,フェルミエネルギーが価電子帯の中にくる結晶である。この場合,価電子帯のフェルミエネルギーより上の部分は空だから,結晶に電圧を掛けると,フェルミエネルギーの値に近い電子から次々とこの空の部分に移動し,電流が流れる。これが金属の電気伝導現象で,このとき電子が移動できるエネルギー帯を伝導帯と呼んでいる。

不導体は,図(B)のように,価電子帯に電子が充満した結晶である。伝導帯は,禁制帯を挟んだ直ぐ上のエネルギー帯になり,フェルミエネルギーはこの禁制帯にある。したがって,結晶に電圧をかけても,電子の運動エネルギーが増すだけで,電子は容易に伝導帯に移動することができず,電流は通じない。

半導体は,図(C)の様なエネルギー帯をもち,その基本構造は不導体と同じである。但し,価電子帯と伝導帯とのエネルギー差が不導体よりは小さく,より少ないエネルギーで電子が価電子帯から伝導帯に移動することができ,ある程度電流が流れる。

ケイ素やゲルマニウムにリンやヒ素を少量加えると,電気伝導率が大きくなる。これは,禁制帯の途中に不純物のエネルギー準位ができ,そこに存在する電子が比較的容易に伝導帯に移動できる為である。このような不純物半導体をn(negative)半導体という。一方,ホウ素やアルミニウムを少量加えると,同様に禁制帯にエネルギー準位ができ,ここに価電子帯から電子が容易に移動するので,価電子帯に電子の存在しない部分ができる。これを正孔といい,正孔が移動して電流を通し,電気伝導率が大きくなる。このような不純物半導体をp(positive)半導体という。

 

金属の結晶構造

(1) 面心立方格子(面心立方構造,立方最密構造)

大きさの同じ球を,なるべく密に規則正しく並べる方法の1つに下図の様な方法がある。第2段の球Bは,第1段の球Aがつくる凹みに1つおきに入る。第3段の球Cは,球Bが埋めた球Aの凹みのうち,残った凹みの真上にくる様に配置される。第4段は,第1段の上にくる。このようにABCの順に次々と球を重ねた構造が面心立方格子である。単位格子を構成するのは,第1段のA1個,第2段のB6個,第3段のC6個,第4段のA1個の14個の粒子で,2個のAを結ぶ線が格子の対角線に当たる。BCの球は,それぞれ3個が格子の頂点,残りの3個が格子の面の中心に配置される。

この構造では1個の球は12個の球と接し,球は空間の74%を占めて最密構造となる。

面心立方格子の球の詰まり方

 

(2)  六方最密構造

面心立方格子の第3段を第1段と同じ位置に配置したのが六方最密構造である。単位格子は,第1段および第3段の球A4個,第2段の球B1個で構成される。

この構造も,球は他の12個の球と接し,球は空間の74%を占めて最密構造となる。

六方最密構造の球の詰まり方

 

(3)  体心立方格子(体心立方構造)

下図のように,同じ大きさの球をABの順に次々と積み重ねた構造が体心立方格子である。ABの球は接しているが,A同士やB同士の球は接していない。したがって隙間が多く,球は空間の68%を占める。1つの球は8個の球と接し,次に近い球は6個である。

体心立方格子の球の詰まり方

 

単位格子の大きさと,粒子半径,体積比,密度

半径r,質量mの粒子を,互いに接する様にして単位格子に配置したときの,格子の辺の長さや粒子の占める体積,物質の密度との関係を示す。acは結晶格子の辺の長さである。

(1)  体心立方格子

粒子数=(頂点)1(中心)2()

 

 図(A)の関係から,

(4r)2a2(a)2 より,a4 r/

 単位格子の体積=a364 r3/3

粒子1個の体積=4πr3/3



(2)  面心立方格子

(B)の関係から,

 

(4 r)22a2 より,a2r

 

(3)  六方最密構造

 

 

    2()

 図(C)の関係から,

  

 六方最密構造のcの長さは,球4個がつくる正四面体の高さの2倍に等しく,acの比は,

 

 

 








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