トップ化学II 改訂版6部 課題研究>第2章 課題研究の実践>第3節 テーマ例の展開指針

3節 テーマ例の展開指針

 

A テーマの例 学習指導要領解説には,次の様なテーマの例が挙げられている。

(1)特定の化学的事象に関する研究

ナイロン,尿素樹脂等の合成樹脂,アゾ染料等の合成染料,アスピリン等の衣料品,ラウリルアルコール硫酸エステル塩等の洗剤,パラレッド等の顔料等の合成

・色素,香料,食品添加物,酸化防止剤等についての資料を活用した調査研究

・茶からのカフェイン単離,牛乳からの乳糖とカゼインの単離等,天然物からの成分物質の単離。

・燃料電池,分子や結晶の模型等の製作

(2)化学を発展させた実験に関する研究

・質量保存の法則,気体反応の法則,ヘスの法則,電気分解の法則等の検証実験

・水の電気分解,金属の精錬,染料の合成,合成樹脂・合成繊維の発明等歴史的実験や発明の調査・研究

 

B 水の蒸発熱と融解熱の測定

(1) 身近な実験器具を用いて温度変化等を測定し,それから水の蒸発熱や融解熱を求める計算式を考え,化学的思考力を高める。

(2) 火力を使用せずに蒸発や融解をさせるので,蒸発熱や融解熱による吸熱を実感する事ができる。

 

準備上の留意点

1.温度計は棒温度計でもよいが,デジタル温度計を用いるとより正確な結果が得られる。

2500cm3吸引瓶とその口を塞ぐゴム栓を用意する。

3200cm3発泡ポリスチレン容器は,カップ麺の容器等を用いるとよい。

実験上の留意点

[実験1水の蒸発熱の測定

1.水の蒸発熱を測定する方法として,丸底フラスコ等を用いて正確かつ簡単に蒸発熱に測定する方法が島田らによって報告されている*1。この実験は,島田らの方法を更に簡素化したものである。

2.操作@で,吸引瓶に入れる水は温度,質量ともだいたいでよい。但し,水温が50℃未満では,水を沸騰させるのに時間が掛かる。

[実験2水の融解熱の測定

1.水の融解熱の測定は,溶解熱が発熱である程度大きな溶解熱をもつ物質でも代用できるが,塩化カルシウムは溶解度が大きく,安全に実験できる利点がある。

2.操作DとEで用いる0℃の冷水と氷は,事前に冷蔵庫を用いて,可能な限り0℃に近づけておく。

結果と考察

[実験1水の蒸発熱の測定

水の蒸発熱QJ/mol〕は,次の計算式によって求まる。

Q4.2×

測定値w1100.37g〕,w293.70g〕,t160.2〔℃〕,t228.2〔℃〕,t1t260.254.75.5〔℃〕を代入すると,

Q2.9×104J/mol〕=29kJ/mol(実験値)

となる。また,水の25℃での蒸発熱(理論値)44kJ/mol〕である。

[実験2水の融解熱の測定

操作Dで得られた,撹拌後の水溶液の最高温度を〔℃〕,操作Eの対照実験によって得られた,撹拌後の水溶液の最高温度〔℃〕(は,主に塩化カルシウムの溶解熱による温度上昇の補正値である)とすると,水の融解熱J/mol〕は,次の計算式によって求める事ができる。

4.2×111

(塩化カルシウム水溶液の比熱容量は,厳密には4.2J/(gK)〕ではないが,ここでは近似値として,水の比熱容量4.2J/(gK)〕を用いた)

測定値11.8〔℃〕,17.0〔℃〕を代入すると,

4.4×103J/mol〕=4.4kJ/mol(実験値)

となる。水の融解熱(理論値)6.0kJ/mol〕である。

発展研究

1.[実験1]の発展研究として,エタノール等の蒸発熱を測定してみるとよい。

2.[実験1]の発展研究として,塩化ナトリウム水溶液の蒸発熱を,濃度を変えて測定してみるとよい。塩化ナトリウム水溶液の比熱容量は,濃度によって変化するので,注意する必要がある。

 

<教材・参考資料等の紹介>

*1島田紘,安岡高志,岡本忠久,光沢舜明,「化学と教育」,38444447(1990)

テキスト ボックス: 準備に要する時間 約1時間
実験に要する時間 約1〜2時間

 

C 燃料電池の製作

●指導目標

 簡易型のアルカリ水溶液型燃料電池を製作し,その原理や仕組みを学習すると共に,広く実用化が進められている燃料電池への興味・理解を深める。

 

●準備上の留意点

1.ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物が入手できない場合,王水に白金を溶かし溶媒を蒸発させると得られる。また,塩化パラジウムでもパラジウムめっきができ,白金と同様の触媒作用がみられる。

2.アクリル板の代わりに,FDCD等のケースを利用すると簡単である。

3.ステンレス金網は60メッシュ程度。ニッケル金網の方がめっきし易く性能がよいが高価である。ゴム板の厚さは5mm程度(ケースを用いる場合,ゴム板2枚の間に隙間ができないもの)

4.電子メロディーは0.7V0.1mA以上で作動するもの。光電池用モーターでもよい。

5.デジタルマルチメーターの代わりに直流電圧計・直流電流計を用いてもよい。

6.接着剤はポリ酢酸ビニル系(またはホットメルトボンド)が便利である。

7.水酸化カリウムは水酸化ナトリウムで代用可能。

 

●実験上の留意点

1.教科書操作@では,各液に数十秒程度浸すだけでよい。

2.教科書操作Bでは,ビーカーやベトリ皿を用い,電圧は45V程度,金網両面が一様に黒くなる様に炭素棒を動かしながら1分程めっきする(金網から気泡が発生)。めっきは手で触れたり乾燥したりすると剥がれ易い。水に浸しておくと長期保存できる。剥がれたら再度めっきする(めっき液は栓をして保存)

 

3.ゴム板は水素,酸素を充填する空間をつくる為に用い,アクリル板や金網と密接させる(アクリル板にゴム板を接着しておくとよい)。アクリル板に開けた穴のうち,誘導管を付けなかい方は水素及び酸素の排出口であり,小さくてよい。

4.ろ紙に加えるアルカリ水溶液が少ないと作動しないので,使用毎に十分に湿らせる。逆に,実験中に装置から水溶液が垂れ落ちる事があるので注意させ,適宜拭き取る様に指導する。

5.水素及び酸素を送り始めると起電力が上がる迄に12分要するが,その後は0.71.0Vで安定する。電池作動中,水素は送り続ける必要があるが,酸素は時々補給する程度でよい。

 

●結果

1.水素及び酸素を適切に補給し続ければ,何分でもソーラーモーターや電子メロディーが作動する。

2.デジタルマルチメーターによる測定値起電力:0.71.0V,電流:70100mA程度

 

●考察

アルカリ水溶液型水素−酸素燃料電池の反応

負 極 H22OH―→2H2O2e …@

正 極 O22H2O4 e―→4OH …A

全反応 H2O2―→H2O ()…B

 

●発展研究

主な燃料電池の種類(池田宏之助,「燃料電池のすべて」より)

電解質

活物質

作動温度

リン酸型

H3PO4aq

H2O2

170200

溶融炭酸塩型

L-Na系炭酸塩

H2O2 COCO2

600700

固体酸化物型

ジルコニア系

セラミックス

H2O2CO

1000

高分子電解質型

高分子膜

(ナフィオン等)

H2O2

アルカリ水溶液型

KOHaq

H2O2

室温〜100

 

<教材・参考資料等の紹介>

堀川理介,「化学と教育」,5012(2002)

塚越博,「昭和61年度全国理科教育大会論文集」,p.212215(1986)

B.z.shakhashiri,「教師のための化学実験-ケミカルデモンストレーション-電気化学」,池本勲訳,丸善,p.3744

 

準備に要する時間 約50

実験に要する時間 約20

実験に要する消耗品の価格 約5000/12

 

●燃料電池

水素や酸素等の燃料気体を注意深く設計した環境で反応させ電気エネルギーを得る電池である。H2-O2燃料電池では,

正極で O2H2O4e―→4OH

負極でH22OH―→2H2O2e

が起こり,全体としては

2H2O2―→2H2O

となる。燃料電池は,乾電池や蓄電池と違い陰極・陽極で反応物を連続的に供給できるので,燃料さえあれば半永久的に電気エネルギーを作り出せる。また,その効率は75%で,燃料を燃やす発電所の効率40%に比べて高い。これらの点から,将来この電池はますます発展していくものと思われる。有毒な排ガスが生じず,装置も比較的簡単で,無人でも働く等の利点がある。その為,無人灯台や宇宙船の発電装置として使われている。携帯電話・モバイルコンピュータや自動車への応用も注目されている。

 

D ファラデーの法則

指導目標

電解生成物の物質量と,電流の大きさ及び電解時間の関係を調べ,ファラデーの法則を検証する。また,測定結果からファラデー定数を求めてみる。

発展研究では,誤差の少ない実験方法の検討を試みる実験として,生徒の探究的な態度を育成する。その為には,何回かに亘る試行が許される時間的なゆとりをもって授業計画を立てる必要がある。

実験上の留意点

1.銅板は表面の綺麗なものを用いる。錆びたり,汚れがある場合には希硝酸に浸して洗浄する。

2.電子天秤は感量が0.01g以下のものが望ましい。

3.ワニ口クリップは錆びていないものを用いる。

4.電流を一定に保つ方法として可変抵抗器を用いる。可変抵抗器がない場合は,電流計で一定時間毎に電流を測定し,平均値を用いてもよい。

5.乾電池を用いる場合には39Vが得られる様に接続して,可変抵抗器で流す電流値を調整する。

6.鋼板の間隔は1cm程度で行う。

7.硫酸銅(U)水溶液に希硫酸を加えて酸性に保った方が,よい結果が得られる。

8.回転子の撹拝が激し過ぎると析出した鋼が剥離し易いので注意させる。また,Fでの銅板の水洗・乾燥もそれぞれ穏やかに行わせる。

結果

測定例

電流値:1.0A

電解時間:15分間

電極

電解前(0)

の質量〔g

電解後(15)

の質量〔g

質量の差〔g

陽極

5.23

4.94

0.29(減少)

陰極

5.31

5.62

0.31(増加)

考察

測定例の結果に基づき考察する。

流れた電気量は,1.0A〕×900〔秒〕=900C

陽極:銅が,mol〕減少

陰極:銅が,mol〕増加

ファラデー定数をFC/mol〕とすると,陽極の結果からは,

 

陰極の結果からは,

 

発展研究

電流が大きかったり水溶液の濃度が大きければ析出量が大きくなり,陰極の析出物が剥離し易くなる為誤差が生じ易い。銅板の代わりに銅網を用いると,析出した銅の剥離が起こり難くなり誤差が生じ難い。

ファラデー定数の測定には,この他,ホフマン型電解装置を用いた水酸化ナトリウム水溶液や希硫酸等の電解によって,発生する水素の体積と電流・電解時間の関係を調べさせる事もできる(電極には白金を用いる事が望ましい)。この場合は,実験前に短時間電解させて気体を発生させ,予め飽和させておくとよい。

<教材・参考資料等の紹介>

大阪府高等学校理化教育研究会,「化学I」実験書

テキスト ボックス: 準備に要する時間 約30分
実験に要する時間 約40分

 

 

Eソーダ灰工業の発展

●指導目標

このテーマは,ソーダ灰工業の発展について資料を用いて調査すると共に,歴史的に著名な無機実験の再現を試みるものである。

アンモニアソーダ法は,工業的な炭酸ナトリウムの製造法だが,ソルベーが1861年に発明したので,ソルベー法ともいう。この反応の仕組みは,既に化学Iで学習している。原料のNaClCaCO3を用いて反応が巧妙に組み立てられ,副産物であるCaCl2を除き副生物が全て利用・回収されるので,合理的,経済的にNa2CO3の大量生産が可能となる。副生物を利用して反応が進むので,原料が純粋であれば不純物の混入の機会も少なくなり,高品位の製品を得る上でも有利な方法である。

尚,実験室では副生物の利用・回収を全て体験するのは難しいので,ここでは中間生成物のNaHCO3の製造と,これを熱してつくるNa2CO3の製造の主要な2つの反応を実際に行ってみる。

 

●実験上の留意点

1CO2は,長時間かけて大量に(300500cm3/)供給する必要がある。したがって二また試験管を用いた発生法では,多くの場合不足する。

2.リービッヒ冷却器を使うのは,CO2をできるだけ多く溶かして反応させる為である。また,細いガラス管を液中に深くさし込む事によって圧力の大きいCO2を通す事になり,これもCO2の供給を多くする為に有効である。

3CO2を十分な時間をかけて通じ,静置しないと,この実験は失敗する。初期に生じる白い沈殿は,炭酸水素アンモニウムNH4HCO3である。

NH3H2OCO2―→NH4HCO3

NH4HCO3は,熱しても後に何も残らない。

NH4HCO―→NH3H2OCO2

そこで長時間静置すると,NH4Naの交換反応が起こり,NaHCO3になる。

NH4HCO3NaCl―→NaHCO3NH4Cl

4.操作Aで生じたNaHCO3は,飽和水溶液でpH8程度を示すので,フェノールフタレイン溶液は僅かに赤色を呈する。NaHCO3の溶解度が小さく,HCO3は僅かしか加水分解しない為,極弱い塩基性である。

HCO3H2OH2CO3OH

5.操作Bで生じるNa2CO3は,飽和水溶液でpH12程度を示すので,フェノールフタレイン溶液は赤色になる。

CO32H2O―→HCO3OH

●操作と結果

@ 濃アンモニア水を三角フラスコに少量取り,水を加えて2倍に薄める。そこへ塩化ナトリウムを加え,スターラーで十分にかき混ぜ,塩化ナトリウム飽和の濃アンモニア水をつくる。この操作は時間が掛かるので予め準備しておく。

この塩化ナトリウム飽和濃アンモニア水をゴム栓をつけたリービッヒ冷却器に入れ,教科書p.276の図の装置を組み立てる。キップの装置で発生するCO2をガラス管を通して冷却器中の液に吹き込む。この時,冷却器に水道水を流し内部を十分に冷やす。

A 3040分間 CO2を通すと,冷却器の内部の底に白いNaHCO3の沈殿が生じるので,CO2を送るのを止め,この沈殿をとり出してろ別する。

沈殿を少量の蒸留水で洗った後,少量を試験管に取り水を加えて溶かす。フェノールフタレイン溶液を加えると,NaHCO3により僅かに赤色を呈する。

B 沈殿を試験管に取り,管口を少し下方に向けてスタンドに固定し,試験管を熱する。十分に加熱後,生成物の一部を別の試験管に移し,水を加えて溶かす。フェノールフタレイン溶液を加えるとNa2CO3が生じているので赤色を呈す。

準備に要する時間 約1時間

実験に要する時間 約1時間

実験に要する消耗品の価格

    実験室にある器具・試薬が利用できる。

 

アンモニアソーダ法

Na2CO3は,アフリカ等で天然品も得られているが,日本では,主としてアンモニアソーダ法でつくられている。この方法は,ソルベーが1866年に工業的に成功したもので,ソルベー法とも呼ばれる。原料のNaClCaCO3から製品のNa2CO3をつくる間に出る副生成物を事ごとく有効に再利用し,この反応の収支においてCaCl2が副産物となる。副生成物が利用されて反応が進むという事は,原料が純粋であれば不純物が混入する機会が少ない事を意味し,高品位の製品を得る上で,また,原料のコストの面からも利点となる。

 

NaHCO3Na2CO3の用途

(1) NaHCO3  重曹,重炭酸ソーダとも呼ばれる。工業的にはソルベ一法により製造される。湿った空気中や水溶液中では徐々にCO2を失い,分解する。熱すると急速に分解が進む。300℃で2時間熱すればNa2CO3になる。

他のナトリウム塩の原料として用いられる他,熱分解してCO2を出すのでベーキングパウダー(ふくらし粉)に,弱塩基性を示すので制酸剤として医薬品に用いられる。その他,粉末セッケン,消火剤,清涼飲料に用いられる。

(2) Na2CO3  ソーダ灰,無水炭酸ソーダとも呼ばれる吸湿性のある粉末である。セッケン,ガラス, NaOHNaHCO3の製造原料,製紙,染料工業,アミノ酸工業,洗濯用,試薬,医薬品として用いられる。

 

 

F 食品中の塩分量を調べる

指導目標

食生活の中で塩分の摂り過ぎは健康上問題である事はよく知られている。ここでは,モール法と呼ばれる沈殿滴定法で塩化物イオンの濃度を測定し,食品中の塩分量が求められる事を理解させると共に,実験を通して,身近な食品に含まれる塩分量を意識させる事を目標とする。

 

実験上の留意点

1.味噌汁やラーメン汁,魚の切り身等,その一部を取って実験する場合は,1人前の全体の質量と,そのうち実験に用いた質量を正確に測定して実験を始める。そうしないと,実験結果が出ても1人前の食品中の塩分量を知る事ができない。

2.味噌汁,ラーメン汁,醤油等液状のものは,ろ過して固形物を取り除いた後,直ぐ実験に使える。ホールピペットで10cm3取り,予め質量を測定したコニカルビーカーに入れ,質量増加分から10cm3の正確な質量を求める。液の色が濃く,そのままでは変化を観察し難い時は,コニカルビーカーに液を10cm3取った後蒸留水で薄めるとよい。

3.味噌汁等は元々水道水で塩素を含むが,日本では水道水の残留塩素濃度は0.1mg/L以下と決められているので,その量は塩分の多い食品中の塩化物イオンの量に比べると小さく,無視できる。

4.硝酸銀水溶液を入れるので褐色ビュレットを用いるのが望ましい。硝酸銀水溶液は手につかない様に注意する。

5.滴定はマグネチックスターラーを使用して撹拌しながら行うとよい。スターラーを使わない場合は,滴下の都度しっかり振り混ぜ,生じた沈殿が直ぐ消える事を確認する。赤褐色が消え難くなってきたら終点が近いので,1滴ずつ慎重に滴下する様に指導する。終点は薄く着色した点で,濃い赤褐色になった場合は終点を越えている。

6.実験後の廃液はクロムや銀を含むので,流しに捨てずに回収して処理する。

考察

塩化銀AgClとクロム酸銀Ag2CrO425℃での溶解度積は次の通り。

Ag][Cl]=1.8×1010 (mol/L)2

Ag2CrO42]=1.1×1012 (mol/L)3

Ag2CrO42]>1.1×1012

となって,Ag2CrO4の沈殿が生じ始めた時が終点で,この時溶液中に含まれるClはほぼ全てAgClの沈殿になっている。初めにクロム酸カリウム水溶液を入れ過ぎると, Clが残っているうちにAg2CrO4の沈殿が生じ始める為,終点が判らない。

参考

1.主な食品の塩分量は次の通り(かっこの数値の単位はg)。食品成分表等で生徒に調べさせるとよい。

・ラーメン1人前(4.0) ・梅干し110g(2.2)

・塩鮭1切れ80g(4.6)  ・たらこ150g(2.3)

・味噌10g(1.3)     ・たくあん1切れ10g(0.4)

・醤油5mL(1.0)    ・ソーセージ125g(0.5)

2.液状のものは塩分濃度によって次の様に辛さを感じる。

1.6%以上…非常に幸い  ・1.4%……幸い  ・1.2%……少し幸い

1.0%……普通  ・0.8%以下……薄い

発展研究

塩分濃度計は種々のものが市販されている。塩分濃度05%をデジタル表示してくれる小型のものが1万円程度で便利である。減塩テープという試験紙は,色の変化で塩分濃度が判る。食塩テープは,食品の塩分量を直接測るものではないが,朝一番の尿で,前日1日に摂取した塩分量をチェックできる。これらはどれも健康用品売り場や大きな薬局で入手できる。これらを用いた結果と,自分の実験結果を比較すると共に,数日間食べたものを記録して,どの程度塩分を摂取しているのか調べさせるとよい。一般に1日の塩分摂取量は10g以下がよいとされている。

<教材・参考資料等の紹介>

左巻建男,「楽しくわかる化学実験事典」,東京書籍

増尾清,「身近な食品テスト」,誠文堂新光社

テキスト ボックス: 準備に要する時間 約30分
実験に要する時間 約30分

 

G 手作り鏡の試作

指導目標

銀はイオン化傾向が小さく,銀イオンは還元され易い。また,糖類には還元性をもつものがある。これらの性質による銀鏡反応を利用して手作り鏡を作り,酸化還元と有機化合物の性質を理解する。

準備上の留意点

1.ガラスは磨き加工のものがよい。例えば,鉱物用スライドガラス(28×48mm)を秤量用バランスボート(中型)に入れると,少量の試薬でできる。

2.新品のスライドガラスは表面に触れなければ,洗わなくても銀鏡は綺麗にできる事が多い。

3.予めガラスの裏面(鏡面)の全面に,粘着力の弱いテープ(養生テープ等)を貼っておき,更にトレーの底に両面テープで密着固定しておくと,裏面に銀は析出せず,最後にテープを剥がすと鏡面が現れ,希硝酸で銀を拭き取らなくてもよい。

 

実験上の留意点

1.アルカリ溶液を使用時は保護眼鏡を使用する。

2.銀が析出した上面を純水で洗った後,更にエタノールで洗い,ドライヤーを用いると早く乾く。

3.黒ラッカースプレーの代わりに,黒アルミテープを銀面に貼って周囲を切り抜いたり,黒色水性顔料マーカーを銀面に塗ったりしてもよい。

4.使用後の溶液は塩酸に注いで処理してもよい。

5.めっき液は爆発性物質が生じる危険があるので長期保存せず,使用直前に調製する方がよい。

考察

1.銀イオンをアンモニア錯体にする理由は,以下の事が考えられる。

標準電極電位E(25)は次の通り。

Age―→Ag (E0.7991V)

Ag(NH3)2]+e―→Ag2NH3 (E0.373V)

これはAgの方が酸化力が強い(還元され易い)事を示しているが,硝酸銀とグルコースだけでは反応は起こらない。やはりAgは塩基性下の錯イオンでないと反応しない様で,銀鏡反応は,Eだけでは反応性を判断できない様である。

2.強塩基を加えると室温でも反応する理由は,以下の事が考えられる。

単糖類R-CHOの還元作用は次式の通り。

R-CHO3OH―→R-CHOO2e2H2O

強塩基により左辺のOHが増えると,反応はより一層右へ進む。実際,OHがカルポニル炭素を攻撃するので,一般にアルデヒドの還元反応は塩基性が強い方が起こり易い様である。

発展研究

1.銀鏡反応のポイントは反応の速さの制御である。銀の析出が液中ではなくガラス面で進む様に,速さを遅くする諸条件を整える。

(1)還元液の濃度:還元液を高濃度で調製しておき,その日の条件により希釈して用いると,速さが微調整できる。

(2)温度:夏の気温(30℃位)が最適。

(3)NaOH量:NaOHの添加量を多くすると,反応は確実に速くなる。速過ぎると暗褐色の固形物(恐らく酸化銀)が液中に生じる。混合溶液の状態で,0.17mol/Lが最適らしい*1

 

この実験の条件や方法は文献によって異なる。本書の濃度や方法も一例である*1

2.ペットボトルや塩ビ板の様な透明なプラスチックは銀鏡が生じ易い*2

<教材・参考資料等の紹介>

*1 日本化学会編,「実験で学ぶ化学の世界3〜有機・高分子化合物の化学」,丸善,p.68(1996) 等

*2 兼田照久,「化学と教育」,54198(2006)

テキスト ボックス: 準備に要する時間 約1時間
実験に要する時間 約50分
実験に要する消耗品の価格
鉱物用スライドガラス(磨き) 1300円/100枚
PE製バランスボート(中型) 900円/100個

 

H 酵素タンパク質の性質

指導目標

(1) 加水分解酵素リゾチームがタンパク質である事を,ビウレット反応やキサントプロテイン反応を用いて検証する。

(2) リゾチームの酵素活性を,変性の前と後で比較する。

準備上の留意点

1.ニワトリ卵白リゾチームと凍結乾燥ミクロコッカスルテウス菌は市販されている。

2.トリス-塩酸緩衝液はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを,リン酸緩衝液はリン酸緩衝剤粉末をそれぞれ購入すれば,特定のpHの溶液を簡単に調製できる。

313cm3の体積を測るには駒込ピペットを用いる。1cm3未満の体積を測るにはミクロピペット(または1cm3のメスピペット)を用いる。

実験上の留意点

1.操作@では,酵素溶液と基質懸濁液を調製する。予めトリス-塩酸緩衝液やリン酸緩衝液を準備しておくと,短時間で調製できる。調製した酵素溶液や基質懸濁液は冷蔵保存するとよいが,長期保存はできない。

2.操作Aはビウレット反応,Bはキサントプロテイン反応を用いて,リゾチームがタンパク質である事を確かめる実験である。この時リゾチームは変性する。試薬の量がある程度異なっていても呈色するが,指示されている試薬の量が適量である。

3.操作Cでは,尿素とメルカプトエタノールを加えてリゾチームを変性させる。尿素の存在下ではメルカプトエタノールが還元剤として作用し,リゾチームのジスルフィド結合-S-S-が切れ,-SHに変わる事によってリゾチームの立体構造が変化し,変性が起こる。但し,この変性を起こし易くする為には,高濃度の尿素を加える事が必要である。メルカプトエタノールは有害なので,ドラフト内で扱う。

4.操作Dでは,リゾチームの酵素活性を変性の前後で比較する。リゾチームの酵素活性の測定は,教科書p.219実験1操作に掲載されている様に,基質懸濁液3cm3を試験管に取り,酵素溶液0.1cm3を加え,振り混ぜながら溶液の濁りが消えるまでの時間を計る事によって行う。

発展研究

ここでは,操作Cでメルカプトエタノール(還元剤)を加えて変性させた後のリゾチームに酸化型グルタチオン(酸化剤)を加えると,-SH-ジスルフィド結合S-S-に戻り,リゾチームの立体構造が回復し,一度失われた酵素活性も回復する*1事を確認する。但し,この立体構造の回復を起こし易くする為には,リゾチームを含む溶液を希釈する事が必要である。リゾチームの立体構造が回復したかどうかは,操作Dと同様に,リゾチームの酵素活性を調べる事によって確認する。

結果と考察

1.操作Aではビウレット反応特有の赤紫色,Bではキサントプロテイン反応特有の黄色を呈色し,リゾチームがタンパク質である事が判る。無色のリゾチームの溶液が鮮やかな色に変化し,見た目にも美しい。

2.操作Dでは,変性前のリゾチームは酵素活性を示すが,変性後のリゾチームは酵素活性を示さない。変性前のリゾチームでは,1分で溶液の濁りが消える。

<教材・参考資料等の紹介>

*1T.UedaH.YamadaH.AokiT.ImotoJ.Biohem108886892(1990)

 

テキスト ボックス: 準備に要する時間 約1時間
実験に要する時間 約2〜3時間
実験に要する消耗品の価格
ニワトリ卵白リゾチーム 2,000円/1g
ミクロコッカスルテウス菌(凍結乾燥)
10,000円/5g
リン酸緩衝剤粉末   3,700円/20袋

 

I 食品添加物の分析

指導目標

(1) 食品添加物の保存料(ソルビン酸)を抽出して検出する方法を探究させる。

(2) 食品添加物の種類や役割について探究させる。

実験上の留意点

1.沸騰した湯浴に試料の入った試験管を入れ,試験管(試料)の温度が80℃以上になる様に熱する。

2.ブランクにチオバルビツル酸の溶液を加えると着色するが,熱していると色は消える。

3.魚介類(イカ等)では赤褐色に着色する事があり,標準液との比色をし難い場合もある。

結果

ソルビン酸,ソルビン酸カリウムが含まれていると,赤色に呈色する。次表のテスト結果欄の( )内の数値は,試料5g中に含まれている添加物の量である。

 

種頬

商品名

原材料名

添加物表示

テスト結果

加熱食肉製品

ロースハム

豚ロース肉

ソルビン酸

カリウム

呈色した

(5mg)

リテーナ成型

かまぼこ

かまぼこ

すけとうだら

ソルビン酸

呈色した

(5mg)

魚介乾製品

さきいか

いか

ソルビン酸

カリウム

呈色した

(2.5mg)

 

考察

1.保存料は,食品の腐敗または変敗(腐敗まではいかないが,色や味が変わって食用に耐えられない状態)に関与する各種の微生物の増殖を抑制する作用を持つ化学的合成品をさす。

2.ソルビン酸は無色の結晶で,無味無臭である。水に溶け難く(20℃の水100cm30.16g),紫外線265nmに吸収帯をもつ。これを利用し,HPLCによる定量ができる。

ソルビン酸は,ナナカマドの未熟果汁中に含まれ,1955年に食品添加物として認可された。殺菌作用はないが,菌の増殖を抑制する効果(静菌効果)があるので保存料として利用される。微生物の脱水素酵素系の作用を阻害し,菌の発育を阻止する。pHが低い程効力が増大するが,中性付近では効果が期待できない。ソルビン酸は酸味を有するが,酸味が不必要な場合はソルビン酸カリウムを使用する。保存料としての効果は同じである。

3.保存料のソルビン酸やソルビン酸カリウムは,各種食品に使用され,食品1kg当たりに使用できる基準(ソルビン酸の量として)が定められている。

 

食品の種類

使用基準(1kgあたり)

 

 

チーズ

3.0g/kg以下

 

 

魚肉練り製品,食肉製品,

うに

2.0g/kg以下

 

 

いか薫製品,たこ薫製品

1.5g/kg以下

 

 

魚介乾製品,

フラワーペースト類,

煮豆,マーガリン,あん類,

つくだ煮,味噌,

たくあん漬,かす漬,

こうじ漬,醤油漬,

味噌漬,ジャム

1.0g/kg以下

 

 

ケチャップ,

干しスモモ,酢漬

0.50g/kg以下

 

 

甘酒,発酵乳

0.30g/kg以下

 

 

果実酒,雑酒

0.20g/kg以下

 

 

乳酸菌飲料

0.050g/kg以下

 

 

ソルビン酸標準液は,10mg/50mL5mg/50mL2.5mg/50mLの濃度になる。食品5gを使用し,食塩水50mL中に抽出されたソルビン酸の量は,標準液との比色によって,およその量を確認できる。200倍すれば食品1kg当たりとなり,使用基準内かどうかも確認できる。

 

 

<教材・参考資料等の紹介>

テキスト ボックス: 準備に要する時間 約40分
実験に要する時間 全体で約90分
実験に要する消耗品の価格 食品代+約1000円/クラス

 

J 天然色素の抽出と染色

●指導目標

(1) 植物の花,果実,葉等から色素を取り出す事を探究させる。

(2) 木綿布,毛糸で染着に違いがある事,媒染剤を使うと染着できる事を探究させる。

 

●実験上の留意点

1.染色に用いる植物の量は布の重さと同量程度にする。

2.用いる木綿布,毛糸は予め洗濯して表面ののりを落とすか,脱脂したものを用いる。

 

 

●結果

色素と媒染剤による色

ミョウバン

硫酸銅(II)

タマネギの皮

ヨモギの葉

薄い緑色

 

 

●考察

1.アルミニウムや銅等の金属イオンが存在すると,錯塩が生じて鮮やかな発色を生じる。酸,塩基によって発色が濃くなり,これを媒染という。

2.天然色素は,化学構造で次の様に分類できる。

@カロテノイド系色素(Carotenoids):ニンジン,卵黄等広く動植物に分布する黄〜赤色の色素。植物では,クロロフィルを保護し,光合成を促す。動物では,ビタミンA等に変えて利用している。

Aキノン系色素(Quinoids):植物,菌類,昆虫等に分布し,ベンゾキノン,ナフトキノン,アントラキノンに分けられる。

Bフラボノイド系色素(Flavonoids):植物に広く分布する。化学構造から更にアントシアニン系(anthocyanins),カルコン系(chalcones),フラボン系(flavones),フラボノール系(flavonols)に分けられる。アントシアニン系色素は,赤〜紫〜青色を呈し,花,果実の色に含まれる。カルコン系色素では,ベニバナ黄色素のサフロミンがある。フラボン系では,タマネギ色素がある。

Cポルフィリン系色素(Porphyrins):クロロフィルが含まれる。

Dジケトン系色素:ウコン色素が含まれる。

Eベタシアニン系色素:赤ビートの根に含まれる。

Fアザフィロン系色素:ベニコウジカビの紅麹色素が含まれる。

Gその他の色素

 

準備に要する時間 約40

実験に要する時間 全体で約90

実験に要する消耗品の価格 約700/クラス

 

●発展研究

天然色素と繊維(木綿・羊毛・絹),媒染剤による染色の違いを調べ,染色表を作成する。

媒染剤

灰汁あく(炭酸カリウムK2CO3)

石灰(水酸化カルシウムCa(OH)2)

アルミニウム…ミョウバンAlK(SO4)212H2O

鉄…硫酸鉄(II)FeSO4

銅…硫酸銅(II)CuSO4,等の1%溶液

水溶性色素

赤キャベツ色素(赤紫),アカネ色素(黄橙),クテナシ黄色素(),コチニール色素(赤橙〜紫),シソ色素(紫赤),ブドウ果汁色素(紫赤),紅麹赤色素(),ベニバナ黄色素(),紫イモ色素(紫赤),紫コーン色素(紫赤)

染色した各繊維は,下の様な表に貼り付ける。

 

 

K プラスチックのリサイクル

●指導目標

石油から合成されるプラスチックは,資源の有効利用やゴミ埋め立て処分場の逼迫等の問題で,廃棄後の処理が大きな社会問題となっている。ここでは,様々な廃プラスチックの処理(回収と再生)について,文献やインターネット等を利用して調査すると共に,発泡ポリスチレンEPSのリサイクルを実際に行い,その理解を深める。その際,物質の再利用という視点に加え,それに伴うエネルギー(これも現在は石油頼みである)消費についても考察し,エネルギー・環境問題についての総合的な考察を行いたい。

 

●実験上の留意点

1.トルエンでEPSを溶解する方法もある1。その方法では,EPS10gに対してトルエン25mLを加えて溶解し,ドラフト中で1週間程度放置する。ホットプレートで4050℃程度に熱すると,1日で乾燥させる事ができる。エタノールによるポリスチレンPS樹脂の凝集は不要である。また,リモネンを使う場合も同様だが,乾燥が不十分だと発泡剤のペンタンの吸収が悪くなり,発泡し難くなる。

2.ペンタンに浸した後のPS樹脂片は,熱湯中に一摘み入れて発泡する事を確かめてから,ボウル型茶漉しに入れる。ボウル型茶漉しは直径3575mm程度まで10mm刻みで販売されている。ボウル型茶漉し以外にも,アルミホイルに小さな穴を開けたもので,様々な型を作る事ができる。

3.ペンタンの沸点は36℃と非常に低い為,高温になる場所に置かない。また,PS樹脂の発泡用に熱湯を沸かす時も,ペンタンに引火する事がない様十分に注意する。

4PS製のプラスチックコップから,EPSを作る事もできる。コップを数mm角に切り,ペンタンに1時間以上浸してボウル型茶漉し等に入れ,熱湯に浸せばよい。

5PS樹脂を溶解(膨潤)させ,再発泡させるだけなら,次の様な方法もよい。EPSにアセトンを加えて練り,餅状になるまで膨潤させる。これを熱湯に入れると,アセトンが蒸発してEPSに似たものができる2

 

●参考

D-リモネン(d- () -リモネン)  リモネンにはD-体とL-体の鏡像異性体がある。これらは,どちらも天然に存在するが,臭い等が異なる。D-リモネンは,オレンジやレモンの果皮に含まれ,比較的安価に入手できる。

発泡ポリスチレン(EPS)  教科書の図は,一辺が5cmの発泡ポリスチレンの上から,リモネンをかけた後の変化の様子である。2番目,3番目の写真は,それぞれ1分後,3分後の様子である。

発泡ポリスチレンは,工業的にはプロパンまたはブタンをPSビーズに吸収させて,「予備発泡」→型入れ→「成型の為の発泡」の2段階工程で製造される。

<教材・参考資料等の紹介>

1 山本幸子,「化学と教育」,49488(2001)

2 左巻健男編,「たのしくわかる化学実験事典」,東京書籍,p.392(1996)

 

準備に要する時間 約30

実験に要する時間 約1時間(リモネンに溶解し

   たPS樹脂を乾燥させる時間,ペンタンを

   浸透させる時間を除く)

実験に要する消耗品の価格

   D.リモネン      3,600/500mL

    大量に使用する場合は“ヤスハラケ

    ミカル”(TEL0847-45-3530)で,

    750/1kg程度。

  n-ペンタン    約2,400/500mL

  ボウル型茶漉し  1200400円程度

 

 

 

L 頭痛薬の中のアセチルサリチル酸の定量

指導目標

一般用医薬品(市販薬)に含まれるアセチルサリチル酸(アスピリン)の含有量を逆滴定法によって求めさせる。中和滴定におけるアセチルサリチル酸の変化についても考察させる。尚,自らアセチルサリチル酸を合成し,この方法で生成量を求めてもよい。

アスピリンは,サリチル酸系鎮痛・解熱薬としても抗血小板(抗血栓薬)としても用いられる薬剤である。

実験上の留意点

1.中和滴定における各操作については,化学Tでの学習事項を確認させながら進めるとよい。

2.空の試験管にも水酸化ナトリウム水溶液を加えて滴定する意味を理解させて,実験を進めさせる。

3.アスピリンと反応させている溶液は,薬に含まれている他の物質の関係で透明にはならない。

4.通常の中和滴定ではフェノールフタレイン溶液を12滴加えるが,ここでは溶液が無色になる時を終点とするので,数滴位加えて濃赤色にしておく。

結果

測定例

 

溶液A

溶液B

滴定量〔mL

4.92

9.29

滴定量の差〔mL

4.37

 

結果の処理

アセチルサリチル酸に過剰のNaOHを加えた時,アセチルサリチル酸に対して3倍量のNaOHが消費されるので,アセチルサリチル酸の物質量をxmol〕とすると,それと反応したNaOH3xmol〕と表される。また過剰のNaOHの物質量をα〔mol〕とすると,試験管ABにそれぞれ加えたNaOH3x+α〔mol〕と表される。

 

尚,けん化後の溶液は強塩基性でフェノールフタレインを加えると赤色を呈するが,この時アセチルサリチル酸と酢酸は,次の様に共に陰イオンとなっている。

 

希硫酸による逆滴定において,フェノールフタレインの赤色が消失するpH8付近では,アセチルサリチル酸は次の構造に変化する。

 

つまり,試験管Aでは,アセチルサリチル酸の-ONa部への反応と,過剰のNaOH(及び空気中のCO2と反応して生じたNa2CO3)への反応が起こり,試験管Bでは,過剰のNaOH (及び空気中のCO2と反応して生じたNa2CO3)への反応が起こる。

試験管Aで希硫酸と反応したものは x+α〔mol〕,試験管Bで希硫酸と反応したものは 3x+α〔mol〕と表されるので,

((3 x+α)(x+α))mol〕×1()

∴ x1.09×103mol

アセチルサリチル酸の分子量180より,錠剤中のアセチルサリチル酸の含有率は,

尚,市販のアスピリン錠剤中のアセチルサリチル酸の含有率は83%である。

参考

日本薬局方のアスピリンの定量法

アスピリンをデシケーター(シリカゲル)5時間乾燥し,その約1.5gを精密に量り,0.5mol/LNaOH水溶液50cm3を正確に量り取って加え,二酸化炭素吸収管(ソーダ石灰)を付けた還流冷却器を用いて10分間穏やかに煮沸する。冷却後,直ちに過量の水酸化ナトリウムを0.25mol/L硫酸で滴定する(指示薬:フェノールフタレイン溶液23)

 

 

M 水質の検査

●指導目標

河川や湖沼等の水質検査は,比較的取り組み易いテーマであり,身近な環境について知るという意味でも有意義な研究である。しかし,長期に亘る定点調査ならばともかく,課題研究として短期間に水質を調べても,何らかの結論を導き出すのは難しい。そこで,人間の生活による排水と水の汚れとの関係に絞って研究するのに適した,合成洗剤(陰イオン系界面活性剤)濃度測定法を紹介する。

 

●実験上の留意点

1.この検査法は,メチレンブルーやクリスタルバイオレット等のトリフェニルメタン系の陽イオン染料が,陰イオン系界面活性剤とイオン会合体をつくる事を利用したものである。JISでは,メチレンブルーによるイオン会合体をクロロホルム中に抽出し,比色分析する方法がとられている(MBAS分析法)PVCシートに吸着させる方法は,長沼らによって考案されたものであるl・*2

2.実験に用いるPVCシートは,可塑剤を含む軟質のものがよい。書類ケース等が軟質PVC製だが,最近は別の材質に変わってきている。巾90cm程度のロールで売られている透明なシート状のものを購入するのが確実である。

3.クリスタルバイオレット(CV)試薬に塩酸を加えておくのは,塩基性ではCVがそのままでもPVCシートに吸着してしまう為である。試料水のpH35に保つ働きがある。

4.河川水中の陰イオン系界面活性剤濃度は,概ね数mg/Lのオーダーである。この為,比較用(検量線作成用)洗剤標準溶液は,ブランク,0.51.02.03.0mg/L程度の濃度で用意すればよい。洗濯排水等高濃度の洗剤溶液を調べる場合は,適宜純水で希釈する。

5.水温が低い場合はPVCへの吸着が起こり難いので,試料水,CV試薬,PVCシートを入れた試験管を全て試験管立てに立て,50℃の湯に10(同じ時間)浸すとよい。

6.この方法で検出できるのは,陰イオン系界面活性剤のみである。LASに代表される陰イオン系界面活性剤は,安価で衣類の洗濯用洗剤として大量に使用されてきた。しかし,最近は多種多様な合成洗剤が用途に応じて市販されている。その中には非イオン系等,この方法では検出できない洗剤も多いので,注意が必要である。

7.この方法で,都市の中小河川の水質を検査すると,洗濯や食器洗いの排水が流入するとおぼしき時間帯の洗剤濃度が上昇するのが判る。

 

●参考

その他の水質指標

生活排水による水の汚れを調べるには,COD(化学的酸素要求量)の測定が適している。陰イオン系界面活性剤濃度との相関関係も見られる。

<教材・参考資料等の紹介>

1 長沼健ほか,「化学と教育」,38103(1990)

2 長沼健ほか,「化学と教育」,44329(1996)

・洗剤を中心とした水質調査は,合成洗剤研究会編,「みんなでためす洗剤と水汚染」,合同出版(1987)

・様々な水質分析が手軽にできる“パックテスト”が共立理化学研究所(TEL03-3721-9207)から市販されている。pH,残留塩素(ClO)COD測定用等の他,陰イオン系界面活性剤測定用もある(50回分4,000)。この“パックテスト”は,ポリエチレンチューブに付着したメチレンブルーイオン会合体をエタノールで抽出し,比色分析するものである。

 

準備に要する時間 約1時間

実験に要する時間 約1時間(サンプル数による)

実験に要する消耗品の価格

  クリスタルバイオレット 2,300/25g

  ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム

              1,600/25g

 

 








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