トップ化学II 改訂版5部 生命と物質>第1章 生命体を構成する物質>第1節 細胞を構成する物質

1節 細胞を構成する物質

 

◆細胞の成分

細胞は全ての生物の基本的な構成単位である。細胞膜で囲まれた内部は水で満たされており,細胞質と核があり,まとめて原形質という事もある。細胞質からミトコンドリア,ゴルジ体,中心体,葉緑体等の細胞小器官(核も含まれる)を除いたものを細胞質基質といい,イオンや分子,コロイドの水溶液となっている。多くの細胞中の水の割合は約7割で,動物と植物では,タンパク質と炭水化物の割合が異なっている。

 

細胞の成分の例(質量%)

 

動物細胞と植物細胞の図

 

◆細胞の構造

細胞は核を持たない原核細胞と核を持つ真核細胞に分けられる。細胞膜の内側に細胞質と核がある。中心体は動物細胞とシダ等一部の植物細胞に見られる構造体。植物細胞には,葉緑体,細胞壁がある。細胞質からミトコンドリア,ゴルジ体,中心体等の細胞小器官(オルガネラ)といわれる構造体を除いたものを細胞質基質という。多くの細胞中の水の割合は70%であり,動物と植物では,タンパク質と炭水化物の割合が異なっている。

 

動物細胞,植物細胞に共通の構造体

細胞膜:半透膜で,細胞内外への物質の移動を調節する。

核:核膜に包まれている。遺伝物質を中に収め,細胞の生命活動を支配する。真核細胞にのみ存在する。

核小体:核内に12個あリ,染色体の働きに関係する。

核膜:核の最外部にある膜

ミトコンドリア:呼吸に関係する酵素を含み,有機物の酸化によるエネルギーを用いてATPを合成する酸化的リン酸化を行う細胞小器官の1つ。長さ0.51mmで,酵母の様な下等生物からヒトに至るまで全ての好気的真核生物の細胞に含まれる。

染色体:不鮮明な状態で存在するが,細胞分裂の時集まって棒状になる。真核細胞ではDNAがヒストンに巻き付く様に折り畳まれて染色体となっている。

ゴルジ体:合成した物質を細胞外に出す働きがある。植物細胞にも存在するが,動物細胞のゴルジ体より小さく光学顕微鏡では見え難い。

中心体:核の近くに存在し,中心小体2個よりなる粒子。細胞分裂の時,紡錘糸の形成に関係する(動物細胞に見られ,植物では,コケ植物・シダ植物の精子をつくる細胞に見られる)

 

植物細胞の構造体

葉緑体:光合成に関係する酵素や緑色色素(クロロフィル)を含み,光エネルギーを利用して,二酸化炭素と水から有機物を合成する細胞小器官の1つである。

液胞:液胞膜に包まれ,細胞液で満たされている。細胞液には酵素があって分解反応が行われる。成熟した細胞では大きく発達し,糖や色素等を含み,水分の調節に関係している。一般に植物細胞においてよく見られる。

細胞壁:固い構造を持ち,隙間の多い膜で,栄養物質や老廃物を自由に通す。植物細胞では主に多糖類からできている。多糖類の中ではセルロースが一番多く存在している。

 

◆脂質

生命体を構成するタンパク質や糖類と共に重要な物質として脂質がある。脂質は,生体を構成する物質のうち,水に不溶でクロロホルムやエーテル等の有機溶媒に溶ける一群の物質である。この時利用される器具にソクスレー抽出器がある。脂質は,脂肪酸を主構成成分とし,単純脂質,複合脂質等に分類される。単純脂質としては,油脂,ろう等がある。また複合脂質としてはリン脂質,糖脂質等がある。

 

 

誘導物質-コレステロール  単純脂質及び複合脂質の加水分解によって生じる化合物のうち脂溶性のものを指し,脂肪酸,高級アルコール,脂溶性ビタミン,ステロイド,炭水化物等がある。

単純脂質と複合脂質,誘導脂質

 

◆脂肪酸

天然の油脂を構成する脂肪酸は,直鎖で炭素数が偶数個から成り,特に炭素数1618の高級脂肪酸が最も多い。C=Cを全く含まない脂肪酸を飽和脂肪酸,含むものを不飽和脂肪酸という。

飽和脂肪酸は棒状なので,結晶中で分子は配列し易く融点が高い。パルミチン酸(分子量256.43,融点63℃,沸点360),ステアリン酸(分子量284.48,融点70.5℃,沸点383)と分子量が近いアルカンの融点の差を比べてみるとオクタデカンC18H38(分子量254.5,融点28.18℃,沸点217),イコサンC20H42(分子量282.6,融点36.8℃,沸点343)であり,分子量260付近では炭素数が2異なると,融点がほぼ78℃異なる。この様に温度領域は官能基の影響を受けるが,温度差は分子量(炭素数)の差に相関している。

分子量が近い化合物の沸点,融点

分類

化合物

示性式

分子量

融点
〔℃〕

沸点
〔℃〕

飽和炭化水素

オクタデカン

C18H38

254.5

28.2

8.6

317

26

イコサン

C20H42

282.6

36.8

343

飽和脂肪酸

パルミチン酸

C15H31COOH

256.4

63.0

7.5

360

23

ステアリン酸

C17H35COOH

284.5

70.5

383

 

更に,融点,沸点は分子量より分子の立体構造の方が影響している。炭化水素鎖中の二重結合でシス型に折れ曲がる事により配向性が悪くなり,融点が大きく下がる。

 

 

 

◆脂質の機能

脂質の機能は主に2つある。1つはエネルギー物質として中性脂肪(トリグリセリド)が脂肪細胞等に貯蔵される事,もう1つは,リン脂質等が細胞膜の主構成成分である事である。

中性脂肪と異なりリン脂質等は,疎水性基と親水性基を持ち界面活性剤として働ける両親媒性物質である。その為,リン脂質はある程度の濃度以上で条件が揃うと二分子膜小胞体=リポソームliposomeを形成する。この時生じるリン脂質二分子膜は,厚さ56nmの安定な膜である。リポソームには,作り方によって二分子膜が,薄い水層を挟んで何重にも重なった多重膜リポソームができる。これに超音波を照射すると単一膜リポソーム(脂質二分子膜小胞体)になる。

二分子膜は,電子顕微鏡による形態観察や,熱的特性の観測等から,熱的特性として,ゲル(結晶)-液晶相転移現象(肉の脂身を温めると半透明になる様な現象),側方への拡散による相分離(平面内の分子流動性),及びフリップフロップ(二分子膜での上下方向の移動)がある。リン脂質では,フリップフロップは側方拡散より遅い運動である事が知られている。

これらの事から脂質二分子膜は柔らかく膜内で流動性がある事が判る。生体膜が内側と外側を分けるだけでは生きた細胞の膜ではない。細胞膜には種々のタンパク質が埋め込まれ,タンパク質が細胞の内から外,外から内への物質輸送やシグナルの伝達等の役割を果たしている事が知られている。これらの性質を踏まえた生体膜のモデルとしてSinger-Nicolsonの流動モザイクモデルが有名である。

  

多重膜リポソーム   単一リポソーム

参考 細胞膜の構造

細胞膜はタンパク質とリン脂質を含んでおり,その割合は細胞により異なっている。

表 純化された膜標品の化学組成

 

質量比()

 

タンパク質

脂質

炭水化物

 

ミエリン膜

(神経インパルス伝達に関係)

18

79

3

 

ヒト赤血球

49

43

8

 

マウス肝細胞

44

52

4

 

アメーバー

54

42

4

 

ホウレンソウ葉緑体ラメラ

70

30

0

 

好塩基性細菌の紫膜

75

25

0

 

ミトコンドリア内膜

76

34

0

 

分子細胞生物学 3版 p.525

 

純粋なリン脂質から作った人工的な二分子膜は,疎水性気体分子,小さくて電荷を持たない分子を透過させる。水は極一部が透過するが殆ど透過しない。イオンや電荷を持たない大きな親水性分子,電荷を持った大きな分子は透過しない。膜をつくるタンパク質にはリン脂質の作る二分子膜を透過しない分子やイオンを透過させる働きをもったものがある。 (分子細胞生物学 第3p.608)

 

◆タンパク質

分子の形から縦横比が5:1程度迄の分子を球状タンパク質,それ以外を繊維状タンパク質という。多くのタンパク質は,球状タンパク質で,水に溶け易いものが多い。また,アミノ酸のみからなるものを単純タンパク質,アミノ酸以外の化合物(糖,脂質,金属イオン,リン酸等)を含むものを複合タンパク質という。

単純タンパク質の多くは水等に溶解し,表の様に分類されている。

 

単純タンパク質の溶解性

名 称

(aq)

70

アル

コール

所在場所

プロタミン

 

×

生殖細胞

サルミン,クルベイン

ヒストン

×

動物細胞

胸センヒストン

アルブミン

×

細胞,体液

血清・卵白アルブミン

グロブリン

×

×

細胞,体液

血清グロブリン,ペプシン

プロラミン

×

×

穀類の種子

グリアジン,ホルデイン

グルテリン

×

×

×

穀類の種子

グルテニン,オリゼニン

硬タンパク質

×

×

×

×

動物組織

ケラチン,コラーゲン

 

◆アミロース,アミロペクチン,グリコーゲン

アミロースはD-グルコースがα-1,4-グリコシド結合で直鎖状に縮合重合したもので,普通のデンプンに2025%含まれる。平均分子量520×105,熱水には溶解する。水中でアミロースは左らせんとなっている。

アミロペクチンはアミロースの直鎖状分子が,α-1,6-グリコシド結合で分枝したものである。α-1,6-結合は全グリコシド結合の4%で,分子量は1.540×107,熱水にも不溶である。モチ米やモチトウモロコシ等モチ種のものは,アミロペクチンがほぼ100%である。

グリコーゲンは動物の体内に存在し,構造や組成はアミロペクチンと同じで分枝が多く,分子全体としては球状である。平均分子量110×106,分枝はグルコース34個各にあり,先端では67個である。

 

◆セルロース

D-グルコースがβ-1,4-結合で直鎖状に重合したもので,植物の細胞壁に多く含まれる。分子量1100×106,水に溶け難く,酸により長時間煮沸するとグルコースになる。多糖類の中で一番多く存在する。

 

◆その他の多糖類

生体内の多糖類には,グルコースを主体としたデンプンやセルロースの様に炭素,水素,酸素からなるもの以外にも種々ある。キチンやヒアルロン酸は窒素を含む多糖類である。キチンは節足動物(昆虫やエビ,カニ等)の表面の硬い物質で,セルロースの次に多い多糖類である。ヒアルロン酸は眼球のガラス体で発見され,ヒトの皮膚の水分を保持する成分といわれている。その為,美容関係で飲むヒアルロン酸等が発売されているが,飲んだり食べたりして,消化吸収されても,それぞれの部位でヒアルロン酸が再合成されると考えるのは量的に否定される。

 

デンプン,セルロース以外の他種類

 

多糖類(デンプン,

セルロース以外)

構成単糖類

分子量

 

アガロース

ガラクトース

3,6-anhydro-ガラクトースC9H10O5

5×104

3×103

紅藻類

 

アルギン酸

マンヌロン酸C6H10O7

グルクロン酸C6H10O7

4.6×104

3.7×105

褐藻類

 

イヌリン

フルクトース

グルコース

5×103

キク科,

ユリ科の根/根茎

 

グルコマンナン

グルコース

マンノース

2.7×105

コンニャクイモ

 

キチン

N-アセチルグルコサミンC8H15O6N

3×105

昆虫の表皮

エビ,カニの表皮

 

ヒアルロン酸

グルクロン酸C6H10O7

N-アセチルグルコサミンC8H15O6N

1×104

1×107

動物結合組織

 

 

 

 








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