トップ化学II 改訂版4部 生活と物質>第2章 材料の化学>第3節 金属

3節 金

 

天然に遊離銀として存在する事もあるが,多くは輝銀鉱Ag2S,輝安銅銀鉱(主成分CuSAg2S)等として産出する。金属の中で最も熱や電気を伝え易く,展性・延性も大きい。化学的に安定で,空気中では酸化され難い。酸化力のある濃硝酸や熱濃硫酸には溶ける。

Ag 2HNO3 ―→ AgNO3 H2O NO2

2Ag 2H2SO4 ―→ Ag2SO4 2H2O SO2

硫化水素H2Sと反応すると,Ag2Sを生じて黒化する。

銀は貴金属であり,装身具や銀器に用いられる他,金との合金等にも用いられる。また化合物として,写真感光剤に利用される。

 

単体は強磁性体で,細かい粉末は水素を吸着する。酸では,2価の陽イオンになり,錯イオンをつくり易い。鉄は2価,3価とも安定だが,2価のものは3価に移り易い。鉄,コバルト,ニッケルの3元素は,よく似ているが,コバルトとニッケルは単塩では2価が安定だが,錯塩では3価が安定となる。

鉄の単体は,鉄の塩類を電解するか,又は純粋な酸化鉄(III)Fe2O3,シュウ酸鉄(II)FeC2O4を水素気流中で熱すると純鉄が得られる。赤熱した鉄は,水蒸気を分解して水素を生じる。

3Fe 4H2O ―→ Fe3O4 H2

鉄は塩酸,硫酸に溶けるが,濃硝酸には不動態を生じ溶けない。この不動態になった鉄片を硫酸銅溶液中に入れてもその表面に銅が析出しない。鉄は乾いた空気には侵されないが,水分と二酸化炭素を含む空気中では速やかに酸化される。

 

鉄の単体の製造

鉄は,溶鉱炉に鉄鉱石(Fe2O3Fe3O4),コークス,石灰石等の原料を入れ,約2000℃迄熱して製造する。この時,加熱を効果的に行う為に石油を加えたり,酸素を吹き込んだりする場合もある。溶鉱炉内での反応は複雑だが,主に次の様な反応が起こる。

C O2 ―→ CO2  CaCO3 ―→ CaO CO2  CO2 C ―→ 2CO

2C O2 ―→ 2CO  2Fe2O3 3C ―→ 4Fe 3CO2

Fe2O3 3CO ―→ 2Fe 3CO2  Fe3O4 4CO ―→ 3Fe 4CO2

Fe3O4 4C ―→ 3Fe 4CO

この様に,溶鉱炉内では鉄鉱石に含まれる鉄の酸化物が一酸化炭素や炭素によって還元されて鉄になる。石灰石は,鉄鉱石に含まれるSiO2等を除く為に加えられる。

SiO2 CaO ―→ CaSiO3(スラグ)

溶鉱炉から出る鉄は,炭素等を35%含み銑鉄という。銑鉄は硬くてもろい性質をもつ。銑鉄は更に転炉へ移され,炭素等を部分的に除いて鋼鉄とする。精密な圧延技術により種々の形に成型される。

 

電解工業

電気分解を利用して物質を製造したり,材料を加工したりする工業を電気分解工業という。物質製造で大規模に行われているのは,アルミニウム製錬,食塩電解,亜鉛製錬,銅精製等である。その他,フッ素,カルシウム,ナトリウム,リチウム,塩素酸ナトリウム等も,電解法で製造されている。

技術的には,他の製造法でも製造できるが,製品純度等の問題で,電解法で製造しているものもある。例えば,酸化マンガン(W),クロム等である。

その他,めっき,電着塗装等も行われている。

電気分解による製造物質

分 野

製 造 物 質

水電解

H2

食塩電解

NaOHCl2H2

無機電解酸化

NaClO3KMnO4MnO2PbO2NaClO4

金属電解精製

CuPbAuAgNiFeBiInSn

金属電解採取

ZnCrMnNiCoGaTeCdTl

融解塩電解

F2AlMgCaNa

 

アルミニウムの製造

アルミニウムは地殻に非常に多く含まれるが,全て化合物となっている。ケイ素と化合した長石の様に,複雑なケイ酸塩をつくり岩石や土壌を形成している。これらの量は多いが,それからアルミニウムを取り出す事は困難である。アルミニウム製造に用いる主な原鉱は,アルミナを主成分とするボーキサイトである。この製造方法の工業化に成功したのは,1886年にアメリカのホールHall(18631914)とフランスのエルーHeroult(18631913)がそれぞれ独自に発見した。

それ迄は,アルミナは融点が高く,炭素で還元し難い為,塩化アルミニウムをナトリウムやカリウムで還元してつくっていた。

AlCl3 3Na ―→ Al 3NaCl

しかし,ホールらが氷晶石Na3AIF61000に熱して融かし,これにアルミナを加えて融解させ,電解してアルミニウムを製造するという方法を考え出してから,急にアルミニウムの製造量が増加した。

アルミナの電解を行うと,電解槽の内壁が陰極となり,Al3が放電して,アルミニウムが析出して底に溜まる。陽極ではO2が炭素と反応して一酸化炭素や二酸化炭素を生じて,陽極を消耗する。

(陰極) Al3 3e ―→ Al

(陽極) 2O2 ―→ O2 4eO2 C CO2CO2 C ―→ 2CO

(全体) 2Al2O3 3C ―→ 4Al 3CO2Al2O3 3C ―→ 2Al 3CO

電解に用いるAl2O3は純粋でないと上の反応が上手く進行しない。それにはボーキサイトを加圧下で水酸化ナトリウム水溶液と熱する。すると,酸化鉄等の不純物は溶けないで残る。溶液となったテトラヒドロキソアルミン酸ナトリウムを加水分解すると水酸化アルミニウムが沈殿する。これを熱して純粋な酸化アルミニウムを得る。したがって,アルミニウムの製錬は2段階に区別でき,酸化アルミニウムを得る方法をバイヤーBayer法,アルミナの電解法をホール・エルー法という。

最近,電解に代わる方法として溶鉱炉法が開発され,注目されている。これはボーキサイトから直接アルミニウムを取り出す方法であり,電力不要の点から今後の工業化に期待がよせられている。

 

溶融塩電解(融解塩電解)

化合物を融解して電解する方法で,溶融塩電解ともいう。アルミニウム製錬が代表例で,イオン化傾向の大きい金属等の製造法である。

溶融塩電解

生成物

陰極

陽極

電解液

温度〔℃〕

電圧〔V

副生物

F2

NiC

Fe

HFKF

80108

812

H2

AI

C

C

Al2O3Na3AlF6

960980

4.044.20

CO2

Mg

C

Fe

MgCl2CaCl2KClNaCl

660720

510

Cl2

Na

C

Fe

NaClCaCl2

590

6.9

Cl2

Li

C

Fe

LiClKCl

400420

89

Cl2

Ca

C

Fe

CaCl2

780800

1730

Cl2

 

アルミニウム

銀白色の軟らかい軽金属(密度2.7g/cm3)で,展性・延性に富む。地殻の構成成分として,酸素,ケイ素に次いで第3位であり,金属としては第1位を占める。主要鉱物には長石,雲母,氷晶石等があり,酸化物鉱物としてコランダム,サファイア,ルビー等が挙げられ,宝石として珍重されるものも多い。鉱石としてはボーキサイト,カオリンが重要で,工業的には氷晶石とアルミナの溶融塩電解で製造する。融点660.32℃,電気伝導性は銀,銅に次いでよい。

空気中に放置すると,酸化物の被膜を生じ光沢を失うが,内部迄侵され難い。酸には溶けてそれぞれの塩をつくるが,濃硝酸には不動態をつくる為比較的侵され難い。

アルマイトは,工業的にAlの表面にAl2O3の耐錆性被膜をつくったものの商品名である。アルミニウム板を陽極とし,シュウ酸や硫酸等の溶液の中で電解すると,表面に酸化物の被膜ができる。この被膜は硬くて丈夫であり,電気絶縁性がよい。これを更に過熱水蒸気で処理して緻密にする。電解に際して,直流のみでなく交流を併用すると,被膜の性能が一層よくなる。

Alを強熱すると,白光を放って燃え,多量の熱を発生する。

4Al 3O2 ―→ 2Al2O3 3351.4kJ

この性質を利用して,炭素で還元し難い金属酸化物をAl粉末と熱して還元する。これをGoldschmidt法といい,CrMnCo,V等の冶金に用いられる。また,Fe2O3粉末とAl粉末の混合物をアルミノテルミットという。点火すると2500℃の高温を生ずるので,レールの修理等に利用された。

Alは,工業用及び家庭用の器具の製作,銅の代わりに電線,電気器具にも用いられる。Al粉は塗料,火薬,花火に,Al箔はスズ箔の代用にする。また,アルミニウムは種々の合金の原料として用いられる。

アルミ銅は,Al10%Cu90%の合金,ジュラルミンはAlCu3.55.5%Mg等を加えた合金である。

 

酸化アルミニウム

アルミナまたはバン土ともいう。天然には鋼玉として産する。微量のCr2O3を含むものは紅色を呈し,紅玉(ルビー)と呼ばれている。TiO2を含むものは青色で青玉(サファイア)という。色の美しくないものは金剛砂といい,研磨剤として用いる。Al(OH)3を電気炉内で熱し,半融解したものをアランダムという。耐火性が強く,硬度が高いので,るつぼその他の耐火器具及び研磨剤に用いられる。

 

アルミニウム化合物

アルミニウム化合物の中で生産量の多いのは,硫酸アルミニウム,ポリ塩化アルミニウム等である。

Al2(SO4)3は硫酸バン土とも呼ばれ,製紙のサイジング(インキの滲み止め加工),染色の媒染剤,水の浄化剤,皮なめし等に利用されている。50%が製紙用,35%が水処理用である。AlK(SO4)212H2O(ミョウバン)も同様の目的で利用されている。

ポリ塩化アルミニウムとは[Al2(OH)nCl6n]mn3m10)の組成の塩基性塩化アルミニウムの液で,浄水剤として用いられている。多核錯イオンの機造をもつ為,Al2(SO4)3より凝集力が大きく,また中和剤や助剤が不要の為需要が増えつつある。

無水塩化アルミニウムAlCl3は,フリーデル-クラフツ反応(アルキル化,アシル化),クラッキング反応等に触媒として用いられる。結晶は180℃で昇華しAl2Cl6の分子になる。880℃ではAlCl3分子になり,440800℃では2種類の分子が共存する。

 

参考 アルミニウムの再利用

アルミニウムは多量の電力を用いてつくられており,「電気の缶詰」といわれる程である。回収して再利用すると,原料からアルミニウムをつくる時に比べて僅か3%程のコストしかかからない。

 

銅,銀,金の3元素を銅族元素という。どれも最外殻のs電子1個を失い1価の陽イオンになる。しかし内部のd電子を失う事もあり,銅はCu2,金はAu3になり易く,むしろこの方が安定である。どれも錯イオンをつくり易く,[Cu(NH3)4]2[Ag(CN)2]-[AuCl4]-等の例がある。銅(U)イオンは,水溶液中で[Cu(H2O)]2のアクア錯イオンとなっている。銅(U)イオンの示す青色は,アクア錯イオンが示す色であり,水を失うと無色になる。

銅の単体は,展性・延性が大きく,熱・電気の良導体である。酸には溶け難いが,希硝酸,濃硝酸,熱濃硫酸の様な酸化作用のある酸にはよく溶ける。これらの反応は,銅がまず酸化されて酸化銅(U)CuOとなり,次いで酸化銅(U)に酸が作用すると考えると理解し易い。

Cu (O) ―→ CuO  CuO 2H―→ Cu2 H2O

銅は,合金として利用される事も多い。

銅の合金

名称

主元素

添加元素()

特徴

用途

青銅

Cu

Sn(235)

錆びにくい

美術品,鐘,10円硬貨

黄銅

Cu

Zn(3045)

黄色光沢

楽器,仏具,5円硬貨

白銅

Cu

Ni(1525)

白色光沢

50円硬貨,100円硬貨

洋銀

Cu

Zn (1335)Ni (535)

銀白色

食器,時計,装飾品

 

銅の電解精錬

粗銅は純度が悪いので,不純物を除く為電解精錬を行う。粗銅を陽極とし,純銅薄板を陰極として硫酸銅の溶液中で電解する。液温は5060,電圧0.20.5V程度が適当である。

電解で純銅が得られるのは,銅と不純物の金属とのイオン化傾向の差を利用したものである。銅とそれより大きいイオン化傾向の金属は液に溶け出すが,小さい金属(AuAg)は溶けずに陽極下に沈殿する(陽極泥)。液中に溶け出た金属は,イオンのまま溶液中にあるが(硫酸塩の溶解度が小さいイオンはPbSO4の様に沈殿する),銅のみは陰極に析出する。これが電気銅(純度99.99%以上)である。

陽極泥は焼いて,金を含む粗銀とする。これを陽極として,陰極に純銀かステンレス鋼を用い電解する。この時の電解液は,硝酸酸性硝酸銀溶液を用いる。この様にして高純度の純銀を得る。この時できる陽極泥を焼いて粗金を得,更にこれより純金を得る。

 

めっき(鍍金)

めっきとは,対象物の表面に金属薄膜をつける技術の総称である。電気を通じる電気めっきと,電気を用いない化学めっき(無電解めっき)に大別される。めっきは,主として次の()()の様な目的で行われる。

() 表面を美しくする装飾用めっき。外観を装飾し,商品価値を高める。

() 下地を保護し腐食を防ぐ防食用めっき。化学的強度を高める。

() 表面に特殊機能を持たせる機能めっき。機械的,電気的性質等を高める。

(1) 電気めっき  単にめっきという事が多い。めっきしようとする金属を陽極とし,その金属塩を電解液として,直流電流を流して電解し,陰極の金属又は導電性物質の表面に金属を析出させるのが一般的である。水溶液を用いた場合めっきできる金属を下表に示す。標準酸化還元電位が水素より高い金属と,水素より低くても水素過電圧の為水素より高くなる金属が,水溶液でのめっきに用いられる。

水溶液中でめっきできる金属

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

4周期

Cr

Mn

Fe

Co

Ni

Cu

Zn

 

 

 

5周期

 

 

Ru

Rh

Pd

Ag

Cd

In

Sn

Sb

6周期

 

 

Os

Ir

Pt

Au

Hg

Tl

Pb

Bi

溶融塩や有機溶媒を用いれば,殆どの金属のめっきができる。

(2) 化学めっき 化学めっきでは還元剤を用いて金属陽イオンを還元し,金属を析出させる。したがって,その機構は電気めっきと本質的に同じだが,電気を用いないので,プラスチック等の不導体のめっきに用いられる。

プラスチックの場合,表面を前処理し,微細な凹凸と親水性をもつ表面とし,更に還元反応を促進する触媒を付着させた上で,金属イオンを含むめっき浴に入れてめっきする。触媒としてはパラジウムPdが,還元剤にはホルムアルデヒドや次亜リン酸等が用いられる。この様にして,導電性薄膜をもつプラスチックが得られる。化学めっきしたプラスチックを更に電気めっきすると,より堅牢なめっき製品となる。

(3) 電着塗装 自動車の塗装等に用いられている電気めっき技術。塗料を通常負に帯電させて低濃度の水溶液に溶かすか分散させ,電気分解して陽極の被塗装物の表面に析出させ,薄膜をつくる。(参考文献)「教師と生徒のための化学実験」日本化学会編

 

 

 








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