トップ化学II 改訂版4部 生活と物質>第1章 食品と衣料の化学>第1節 食品

1節 食品

 

◆糖類と糖質

糖類は糖質ともいい,単糖類とこれが複数個縮合した少糖類や多糖類の総称。グルコースやスクロース等は一般式Cm(H2O)nで表され,炭水化物ともいう。ポリアルコールのアルデヒド,ケトン,酸,更にポリアルコール自身やそれらの誘導体,縮合体等も含めて糖質或いは炭水化物と称している。

しかし,代表的な糖類である単糖類にも,デオキシリボースC5H10O4やラムノースC6H12O5等の様に,一般式Cm(H2O)nに当てはまらないものもある。また,Cm(H2O)nで表わされる化合物でも,酢酸C2H4O2や乳酸C3H6O3等は糖類には入れない。

糖質は,糖類を主要な成分として持つ物質の総称で,タンパク質,脂質に対応した用語として用いられ,重要な生体成分,又栄養素としての概念を示している。糖のみからなる単純糖質と,その他の物質を含む複合糖質に分けられる。しかし実用上は,炭水化物,糖類と同義に用いられる。

 

◆単糖類と二糖類

加水分解により更に簡単な糖類に分けられないものを単糖類という。単糖2分子から水1分子がとれて結合したものを二糖類という。

単糖類は,Cm(H2O)nで表される一般式をもち,C5のペントースとC6のへキソースが重要である。構造的には-CH(OH)-が直鎖状に連なり,一端は第一級アルコール基であり,他端は,アルデヒド基を持つアルドースか,途中にケトン基のある第一級アルコール基を持つケトースに大別される。環状構造になる場合,環の大きさによりフラノース(五員環),ピラノース(六員環),セプタノース(七員環)に分けられる。

単糖類の例

 

名称

分子式

融点〔℃〕

エタノール

 

グリセルアルデヒド

C3H6O3

オイル状

14

易溶

難溶

 

D-トレオース

C4H8O4

126132

12

易溶

 

D -リボース

C5H10O5

87

23.7

易溶

微溶

 

D -ガラクトース

C6H12O6

168(α)143145(β)

80.2

難溶

 

D -マンノース

C6H12O6

133(α)132(β)

14.2

易溶

微溶

 

 

参考 アスパルテーム

砂糖の200倍の甘味を持つアスパルテーム(α-L-アスパルチル-L-フェニルアラニンメチルエステル)は,酸っぱい味のL-アスパラギン酸と苦味のL-フェニルアラニンのジペプチドのエステルである。

ヒトにとって甘味料は必要なものだが,砂糖等の糖類は肥満,虫歯,糖尿病等多くの問題を含んでいる。一時,合成甘味料としてサッカリンやチクロが用いられていたが,発癌性等の問題があり,使用されなくなった。アスパルテームは,タンパク質と同様に代謝され,安全性にも問題がなく,低カロリーであり,すっきりした甘味を持つダイエット甘味料として広く用いられている。

アスパルテームの甘味は,1965年にアメリカの製薬会社G.D.サール社(現在のNutra Sweet)の研究員シュラッターが偶然発見した。彼は,胃液分泌促進ホルモン「ガストリン」の中間体としてアスパルテームを合成し,これを再結晶しているときに,パラフィン紙をとろうとして指をなめ,強い甘味を感じた。つまり,液が吹きこぼれて指に付着する偶然と,研究員の指をなめる癖とがあいまって,企業の研究方針とは無関係に,全く偶然にアスパルテームは発見された。

アスパルテームは,各種の安全性データをそろえて米国FDA(食品医薬品庁)1973年に認可申請がされた。しかし,研究者や市民団体から異議申し立てがあり,1981年になってようやく乾燥食品用に,1983年に飲料用に認可された。これは,実に発見から18年目であった。日本では1983年に使用が認められた。

尚,アスパルテームは,Nutra Sweet社と日本の味の素()とで共同開発され,両者での生産量は年間数千tにもなる。この様なペプチドの大量生産は,他に例のないものである。アスパルテームはダイエットコーラ等に利用されている他,商品名「パルスイート」として味の素()から発売されているダイエット甘味料にも,利用されている。パルスイートには,アスパルテームの他,エリスリトール,増量剤の還元麦芽糖水飴等も含まれている。

 

 

◆単純タンパク質の溶解性

名称

溶解性

所在場所

塩類

(aq)

 70%ア

ルコール

ヒストン

×

×

動物細胞

アルブミン

×

細胞,体液

プロタミン

グロブリン

×

×

×

生殖細胞

細胞,体液

プロラミン

×

×

穀類の種子

グリテリン

×

×

×

穀類の種子

硬タンパク質

×

×

×

×

動物組織

 

◆複合タンパク質

α-アミノ酸以外に他の有機化合物を結合しているタンパク質。結合している有機化合物の種類により,核酸を含む核タンパク質,リン酸を含むリンタンパク質,脂質を含むリポタンパク質,色素を含む色素タンパク質,糖を含む糖タンパク質等に分けられる。

 

油脂

脂肪酸とグリセリンのエステル,即ちトリグリセリドの構造を持つ物質で,天然の生物界に広く存在し,生物の主要成分となっている。天然油脂は,その出所から植物油脂と動物油脂に,室温での状態から液体のものを脂肪油(または脂油),固体のものを脂肪と分類される。

天然油脂中に存在する脂肪酸には,炭素原子数4個の酪酸から,24個のリグノセリン酸に至る飽和脂肪酸と,各種の不飽和脂肪酸がある。飽和脂肪酸では,C16のパルミチン酸とC18のステアリン酸が大部分を占めている。不飽和脂肪酸にはC18のものが多く,オレイン酸C17H33COOHリノール酸C17H31COOH,リノレン酸C17H29COOH等がある。その他の不飽和脂肪酸では,魚油中のイワシ酸C21H33COOH,蓖麻子油中のリシノール酸C17H33OCOOH,桐油中のエレオステアリン酸C17H29COOH等がある

オレイン酸

リノール酸

リノレン酸

イワシ酸

リシノール酸

エレオステアリン酸

CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COOH

CH3(CH2)4CH=CHCH2CH=CH(CH2)7COOH

CH3(CH2CH=CH)3(CH2)7COOH

CH3CH2(CH2CH=CH)3{(CH2)2CH=CH}2(CH2)2COOH

CH3(CH2)5CH(OH)CH2CH=CH(CH2)7COOH

CH3(CH2)3(CH=CH)3(CH2)7COOH

天然油脂には,グリセリドの他,少量の遊離脂肪酸,複合脂質,ステリン類,ビタミン類,炭化水素,色素等が含まれている。

 

参考 油脂の代謝

油脂のトリグリセリドは,小腸内で酵素リパーゼによって脂肪酸とグリセリンに加水分解される。そして,胆汁酸塩,脂肪酸,ジグリセリド,モノグリセリド等の混合物ができ,これらが未分解の油脂の乳化促進剤として働き,乳化された油脂は腸壁から吸収される。

体内の脂肪の代謝では,まず脂肪酸とグリセリンに加水分解される。グリセリンは,トリオースリン酸(ホスホジヒドロキシアセトン,3-ホスホグリセリンアルデヒド)を経てピルビン酸になり,TCA回路(クエン酸回路)に入っていく。

脂肪酸は,いわゆるβ酸化によって,-COOH基に対してβの位置の炭素原子の部分が切れ,アセチル補酵素が順次生じ,TCA回路に入って代謝され,最後には二酸化炭素と水になる。炭水化物,脂肪,アミノ酸の相互移行も,TCA回路が仲立ちとなって行われる。

 

硬化油

不飽和脂肪酸の脂肪油に,還元ニッケル等を触媒として水素を反応させ,固体状の脂肪に変えたものをいう。その主成分は硬化度により異なるが,普通,飽和脂肪酸やイソオレイン酸のグリセリドである。硬化油の融点は,その不飽和度に関係する。これらは,食品,セッケン等に用いられる。また,硬化条件により選択的に水素と反応させると,イソオレイン酸に富む半硬化油が得られ,特に大豆油,綿実油,落花生油のそれはマーガリン原料として優れている。

 

乾性油と不乾性油

植物油は,その乾燥性の強弱により,一般に乾性油,半乾性油,不乾性油に分けられる。乾燥性は,油脂の脂肪酸中に二重結合を多く含む程強くなる。

(1) 乾性油 ヨウ素価130以上の植物油をいう。薄膜にして空気中に放置すると,比較的短時間に固化乾燥する。塗料として利用され,亜麻仁(あまに)油,荏油(えの),桐(きり)油等がこれに含まれる。

(2) 半乾性油 ヨウ素価100130の植物油をいう。やや乾燥性がある。食用,セッケン製造等に用いられ,胡麻油,菜種油,綿実油,大豆油等がこれに含まれる。

(3) 不乾性油 ヨウ素価100以下の植物油をいう。乾燥性が弱く,固化しない。食用,セッケン,化粧品等の製造に用いられる。椿油,オリブ油,蓖麻子(ひまし)油等がこれに含まれる。

 

◆酵素

酵素は,生体の細胞によって生産されるタンパク質またはそれを主体とする触媒作用を有する物質であり,種々の反応に特異的に作用する。タンパク質が変性する様な条件,高温,低pH,または高pHの様な所では,活性を失う事が多い。それぞれの酵素には,その触媒作用に最も適した,いわゆる最適温度,最適pHがある。

酵素は上述の様にタンパク質だけでできているものもあるが,熱に安定な低分子化合物と結合して酵素としての働きを持つものもある。この場合,タンパク質部分をアポ酵素,低分子化合物を補酵素といい,その結合したものをホロ酵素という。水溶性ビタミンは,この補酵素の成分となるものが多い。

 

酵素の最適pHの例

酵素

ペプシン

カタラーゼ

トリプシン

リボヌクレアーゼ

アルギナーゼ

pH

1.5

6.8

7.8

7.5

9.5

 

 

 

酵素の分類と例

酵素の分類

酵素名

基質

生成物

カルボヒドラーゼ

マルターゼ

マルトース

グルコース

アミラーゼ

デンプン

マルトース

プロテアーゼ

ペプシン

タンパク質

ペプトン

トリプシン

タンパク質

アミノ酸

パパイン

タンパク質

アミノ酸

エステラーゼ

リパーゼ

脂肪

脂肪酸,グリセリン

アミダーゼ

ウレアーゼ

尿素

CO2NH3

チマーゼ

 

へキソース

エタノール,CO2

カルボキシラーゼ

 

ピルビン酸

アルデヒド,CO2

オキシダーゼ

アルコラーゼ

カタラーゼ

アルコール

H2O2

酢酸

H2OO2

 

◆食品添加物

食品添加物は,意図的に食品に添加される化学物質であり,次の様なものがある。

(1) 保存料 食品包装に載っている添加物の安息香酸ナトリウム,プロピオン酸ナトリウムは,カビ,細菌,菌類,酵母の作用から植物を保護する防腐剤である。安息香酸ナトリウムは,パンやその他の焼いた食品によく用いられ,プロピオン酸ナトリウムやプロピオン酸カルシウムは果実製品とマーガリンによく使われる。

 

食品保存に用いられる他の化学物質として酸化防止剤がある。BHTBHAはその例である。油脂類に含まれる不飽和脂肪酸は酸化を受け易く,それと伴って栄養価は低下し,ついには毒性を示す様になる。酸化防止剤は,酸化の際生ずるペルオキシラジカルに作用して酸化の連鎖反応を停止させ,酸素と食品の反応を遅くする。BHA-C(CH3)3基の位置が違う2つの混合物である。

尚,天然に存在する酸化防止剤としては,トコフェロール,NDGA(ノルジヒドログアイアレチン酸),没食子(ぼっしょくし)酸エステル等がある。

(2) 着色料と発色剤 着色料と発色剤はどちらも食品を色彩的に美しく,魅力的にする為の添加物である。前者は食品に色を付ける色素であり,石炭タールを原料として合成された合成着色料(食用タール色素)と生物や鉱物由来の天然着色料がある。合成着色料は,近年,人体に対する有害性があるという理由で大幅な規制が行われ,現在使用認可があるのは,12種類のタール色素である。それらは,食用赤色2号,3号,40号,102号,104号,105号,106号,黄色4号,5号,緑色3号,青色1号,2号である。最近は安全性の面から,β-カロチン,クロシン,カルミン酸,ラッカイン酸,クルクミン酸,ベタニン,紅コウジ菌色素,リボフラビン等の天然着色料が見直されている。

発色剤は食品に含まれる色素と結合して食品本来の色を安定に保つ為に用いる添加物である。ハムやソーセージ等の肉類が変色しないのは,亜硝酸塩が加えられてあるからである。亜硝酸塩が肉中の乳酸と反応して亜硝酸を生じ,更に亜硝酸塩が色素タンパク質と結合し,変色しない肉色を保っている。しかし,発色剤の亜硝酸塩と魚肉タンパク質が分解して生じた第二アミンとが胃の中で一緒になると,発癌性のニトロソアミンに変化する場合がある。第二アミンは特にイカやタコの加工品や焼き魚等に多く含まれる。現在,研究の方向は,亜硝酸塩の代用物の探求に向けられている。

(3) 人工調味料 旨味料として使用されているグルタミン酸一ナトリウムは,それ自体は味に寄与せずに,他の成分の味を引き出す役割をする。その働きは科学的に解明されていないが,アミノ酸の塩であるから,摂取しても危険はあまり無いと考えられる。実際,長期に使用しても有害な結果は殆ど見られていない。

 

人工甘味料として用いられているアスパルテームは,酸性アミノ酸のL-アスパラギン酸と芳香族アミノ酸のL-フェニルアラニンとが結合したα-L-アスパルチル-Lフェニルアラニンメチルの事で,砂糖の200倍の甘味を持つアミノ酸系合成甘味料である。清涼飲料水や卓上の甘味料として使用されている。

 

(4) 食品ゲル化剤と結着剤 食品ゲル化剤は,食品に適度の粘稠性を与え,触感を通して味覚を楽しませる添加物である。カルボキシメチルセルロースCMCのナトリウム塩が市販されている。生理的には全く無害で,アイスクリーム,麺類,ソース,ジャム,ケチャップ,佃煮,菓子パン等に利用されている。

結着剤は肉製品や乳製品の粘結力を増強する為に用いる添加物である。通常,ポリリン酸塩が使用され,代表的なものはトリリン酸ナトリウムである。かまぼこ等水産練り製品にポリリン酸塩を添加すると,タンパク質の保水性や弾力性を増してこしを強くし歯応えをよくする。

 

 









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