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1節 糖類とタンパク質

 

◆糖類

糖類は,単糖類とこれが複数個縮合した少糖類や多糖類の総称である。グルコースやスクロース等は一般式Cm(H2O)nで表せる為,炭水化物ともいう。

しかし,代表的な糖類である単糖類にも,デオキシリボースC5H10O4やラムノースC6H12O5等,Cm(H2O)nの一般式に当てはまらないものもある。

又,Cm(H2O)nの一般式をもつ化合物でも,酢酸C2H4O 2や乳酸C3H6O 3等は糖類には入れない。糖類の厳密な定義は困難だが,一応,次の様にいえる。即ち,炭素原子とほぼ同数の酸素原子をもつポリヒドロキシアルデヒド,ポリヒドロキシケトン,及びこれらの簡単な誘導体(アミノ基をもつアミノ糖,アルデヒド基又は第一級ヒドロキシ基の部分がカルボキシル基となっているカルボン酸,アルデヒド基やケトン基がヒドロキシ基となっている多価アルコール等),並びにそれらの縮重合体を糖類という。

 

◆単糖類

加水分解により更に簡単な糖に分けられない糖類を単糖類といい,一般式Cm(H2O)nをもつ。単糖を構成する炭素数で三炭糖トリオース,四炭糖テトロース,五炭糖ペントース,六炭糖ヘキソース,七炭糖ヘプトースと呼んでいる。

基本的な単糖は,複数のヒドロキシ基をもつアルデヒド又はケトンである。アルデヒド基をもつものはアルドース,ケトン基をもつものはケトースという。光学活性をもつアルドースは炭素数3から,ケトースは炭素数4からである。

単糖が環状構造をとる場合,環を構成する原子数によりフラノース(五員環),ピラノース(六員環),セプタノース(七員環)に分けられる。フラノースはフラン,ピラノースはピランの名に由来している。

鎖状の単糖が環構造をとるに当たっては,アルドースのアルデヒド基,ケトースのケトン基のカルボニル基へのヒドロキシ基の付加が起こり,分子内でのヘミアセタール形成が起こっている。

 

ヘミアセタールが形成される際生じるヒドロキシ基とそれから一番遠いヒドロキシ基の環に対する関係で,相対する側にある時をα-構造,同一側にある時をβ-構造としている。フルクトースではフラノースを基準としてα-β-を決めている。

アルドースのアルデヒド基は還元性を示し,フェーリング液やアンモニア性硝酸銀溶液を還元し,アルデヒド基は酸化されてカルボキシル基となる。ケトースのフルクトースは酸化されてD-エリトロン酸とシュウ酸になる。

 

◆グルコース(ブドウ糖)

単糖類には,DLの光学異性体があるが,天然に存在するグルコースはD-グルコースである。グルコースは植物では熟した果実中に多く,葉・茎・根・花等にも存在し,フルクトースと共にハチミツの主成分でもある。動物では血液・リンパ液中にあり,高等動物では血液中に0.1%の濃度で含まれている。工業的にはデンプンを希酸で加水分解し,分解液を中和した後,減圧濃縮し,活性炭で脱色して結晶化させている。

水から再結晶させたものは1分子の水和水を含み,水に溶け易く,アルコールに溶けにくい。甘味はスクロースの1/2程度だが,甘味剤として菓子・清涼飲料水・合成酒等に加えられている。又医薬用としても多く消費されている。

グルコースは水溶液中ではα-グルコース,β-グルコース,極微量のアルデヒド構造が平衡混合物として存在している。

α-グルコースとβ-グルコースはイス形構造をとっている。

α--グルコースを水に溶かすと,始めは表の比旋光度を示すが,徐々に変化し,

23時間後には+53°程度になる。これは平衡混合物の比旋光度に相当する。β-D-グルコースを溶かした時も,結局は+53°程度になる。この比旋光度の変化を変旋光といい,糖の環状構造が正しい事の重要な根拠の1つである。

α--グルコースとβ-D-グルコースの性質

 

グルコース

比旋光度[α]

融点(無水物)

結晶化

α--グルコース

+112°

146°

水から

β-D-グルコース

+19°

148150°

氷酢酸又はピリジンから

 

フェーリング液

糖の検出・定量に広く用いられる試薬で,1848年,ドイツのフェーリング(H.Fehling18121885)により考案された。通常はA(CuSO4溶液)B(KNaC2H2(OH)2(COO)2NaOHの溶液)に分けて保存され,使用直前に混ぜて使われる。

フェーリング液は深青色で,これに糖を加えて煮沸すると,Cu2が還元されてCu2Oの赤色沈殿が生じる。反応は化学量論的ではないが,ヘキソース1分子は銅の約5原子を還元する。

R-CHO 2Cu2 5OH ―→ R-COO Cu2O 3H2O

尚,ベンズアルデヒドは,強塩基性の時カニッツァーロ反応によりアルコールとカルボン酸になり易く,フェーリング液とは反応し難い。

2R-CHO NaOH ―→ R-CH2OH R-COONa

銀鏡反応

還元性有機物の検出反応の1つ。試料を清浄なガラス器に取り,これにアンモニア性硝酸銀溶液を加えて温めると,Agが還元されてAgとなり,これがガラス器壁に付着して鏡の様になるので銀鏡反応といわれる。ジュワー瓶や鏡の製造に利用される。

R-CHO 2[Ag(NH3)2]OH ―→ 2Ag RCOONH4 H2O 3NH3

尚,アンモニア性硝酸銀溶液や,酸化銀を濃アンモニア水に溶かした溶液,銀鏡反応させた溶液等を長時間放置しておくと,雷銀(窒化銀,一窒化三銀)Ag3Nや銀アミドAgNH2,雷酸銀AgOCN等の爆発性物質が生じる場合がある。これらの化合物は全て不安定であり,少しの摩擦や軽い衝撃,接触でも激しく爆発するので,アンモニア性硝酸銀溶液は,銀鏡反応の実験を行う毎に調製する必要があり,保存しない。

又,銀鏡反応の実験後の溶液は速やかに回収し,塩化ナトリウムNaCl水溶液(食塩水)や塩酸HCl,硝酸HNO3等を加えて塩化銀AgClとして沈殿させるか,溶液を中性〜酸性にしておく必要がある。

その後,一般的には銀廃液溜めの沈殿物をろ過し,ろ液は重金属類を含まない事を確認後,中和して排出し,集めた沈殿物は廃棄物業者に処理してもらう。銀イオンの水溶液は,銀イオン濃度を1ppm未満にすれば,下水に流して捨てられる。

 

◆フルクトース(果糖)

甘い果実,蜂蜜中に多量に存在する。工業的にフルクトースを製造するには,キクイモ(多糖類のイヌリンが主成分)を加水分解する。又,スクロースを転化してグルコースを晶出させた後,フルクトースを取り出す方法もある。フルクトースは結晶し難く,極めて吸湿性が強い。水に溶け易く,アルコールやアセトンにも可溶。結晶は,ピラノース型だけが得られている。

構造式としては,ピラノース型とフラノース型の2種がある。フルクトースがイヌリンやスクロース等の構成成分となっている時には,β-D-フルクトース型で存在する。天然に単独で存在する時,又はスクロースやイヌリンの加水分解によって得られたものは,D-フルクトピラノース型である。フルクトースは水溶液中では大部分がピラノース型だが,一部はフラノース型も存在する。

 

フルクトースの還元性

互変異性体とは,異性体が相互に構造を変えるものをいい,ケト形とエノール形等がその例である。

 

◆二糖類

糖が環構造をとる時関与するヒドロキシ基が他の糖と脱水縮合してできるエーテル結合をグリコシド結合といい,グルコースがα型の時をα-1β型の時をβ-1としている。

二糖類は,単糖類2分子がグリコシド結合で結合したものだが,同じ単糖類からであっても,縮合するヒドロキシ基の位置が異なれば,異なる二糖類が生じる。例えば,グルコース分子からなる二糖類には次の様なものがある。

α,α-トレハロース(α-1-α--結合)    コージオース(α-1,2,-結合)

ニゲロース(α-1,3-結合)        マルトース(α-1,4-結合)

イソマルトース(α-1,6-結合)      ソホロース(β-1,2-結合)

ラミナリビオース(β-1,3-結合)     セロビオース(β-1,4-結合)

ゲンチビオース(β-1,6-結合)

 

◆マルトース(麦芽糖)

デンプンにアミラーゼ(ジアスターゼ)を作用させるとマルトースが生じる。アミラーゼは唾液中にもあるが,特に発芽した大麦,即ち麦芽の中に豊富に存在し,これを用いてデンプンを分解するとマルトースが得られる事から,マルトースに対して麦芽糖の名が用いられる様になった。市販の水飴の主成分はマルトースである。

マルトースは甘味が強く,水には極めてよく溶けるが,アルコールには溶け難い。又,フェーリング液を還元する性質がある。マルトースの構造は,α-グルコースがα-1,4-グリコシド結合したもので,還元末端がα形とβ形の2種がある。α形は融点108℃,β形は融点103℃である。マルトースをマルターゼで加水分解するとグルコースが生じる。

 

アスパルテームを利用したダイエット甘味料パルスイート(味の素())には,還元麦芽糖水飴(マルチトール)も含まれている。これは,マルトースの還元末端のアルデヒド基に水素を付加して還元したものである。

 

◆スクロース(サッカロース,ショ糖)

スクロースは代表的な甘味剤で,サトウキビ(汁液の20%)やサトウダイコン(テンサイ,汁液の1015%)から得られる。純粋なスクロースは白色の結晶で,185℃で融解してあめ状となり,200℃になると,褐色のカラメルになる。

スクロースを希硫酸や希塩酸,又スクラーゼ(スクロースα-D-グルコヒドラーゼ)や腸液中にあるインベルターゼ(β-D-フルクトフラノシンセターゼ)で加水分解すると,グルコースとフルクトースになる。

純粋なスクロースには還元性はないが,加水分解すれば還元性を示す様になる。スクロースは,α-D-グルコースとβD-フルクトースがα-1-β-2-グリコシド結合したもので,それぞれヘミアセタール構造に関係するヒドロキシ基がグリコシド結合に使われている為,還元性がなくなっている。

スクロースの比旋光度は,[α]20D=+66.5°だが,分解して生じる2個の単糖のうちグルコースは右旋性,フルクトースは左旋性の為,加水分解生成物の比旋光度は[α]20D=−20° となり,左旋性を示す。加水分解による旋光性の逆転を転化といい,加水分解で生じるグルコースとフルクトースの等量混合物を転化糖と呼ぶ。転化糖はスクロースとは味が異なり,腸より吸収され易いので,食品添加物として利用されている。

砂糖は,製造法(含蜜糖,分蜜糖),生成過程(粗糖,精製糖),色相(白,赤,黒糖)等で分類される。ザラメ糖は粒子の大きいものを指し,グラニュー糖,車糖になるに従って粒子が小さくなる。家庭で調理に利用されるのは車糖で,精製程度のよいものから上白,中白,三温に分けられる。

 

砂糖の成分()

名称

黒糖

台湾赤糖

カエデ糖

テンサイ白糖

グラニュー糖

上白

三温

スクロース

86.0

80.4

84.5

99.90

99.87

98.20

95.65

還 元 糖

2.09

5.06

3.03

0.01

0.01

0.70

2.11

水   分

5.7

6.1

8.0

0.07

0.01

0.53

1.91

灰   分

1.37

1.45

4.47

0.02

0.01

0.02

0.11

 

◆ラクトース(乳糖)

β-ガラクトースとグルコースがβ-1,4-グリコシド結合で縮合した二糖類。α形一水和物は融点201202℃,α形無水物は融点223℃,β形は融点252℃である。無水物は吸湿性が強く,室温では水を吸ってα形一水和物に変わり易い。

ラクトースは乳汁に含まれ,人乳で7%,牛乳で4.5%を占めている。還元性を示し,ラクターゼ又はエムルシンで加水分解されてガラクトースとグルコースを生じる。

◆セロビオース

2分子のグルコースがβ-1,4-グリコシド結合で縮合した二糖類。β形融点225℃,セルロースの基本構造をもち,天然には遊離のものは存在しないとされていたが,マツ葉やトウモロコシの茎に微量検出された。セルロースの部分アセトリシスにより生じるオクタアセチルセロビオースを脱アセチル化して得られる。

 

◆デンプン,アミロース,アミロペクチン

デンプンは,D-グルコースの重合体で,分子量は種類や製法により異なるが,数十万〜数千万に亘る。それぞれの種類により特有な形のデンプン粒となり存在する。冷水に不溶で,水中で温めると5560℃で粒が膨潤し,粘性の高い半透明なコロイド溶液となる。この現象を糊化という。

デンプン粒にはミセルと称する微結晶部分があり,糊化によりミセルはなくなる。ミセルを有するものをβ-デンプン,糊化状態のものをα-デンプンという。β-デンプンは冷水に不溶でアミラーゼの作用を受け難いが,α-デンプンは冷水で糊となり,酵素により分解し易い。しかし,湿潤状態で放置すると,徐々にβ-デンプンに戻る性質がある。

アミロースはデンプンの成分で,D-グルコースがアミロースの直鎖状α-1,4-グリコシド結合で直鎖状に重合しており,普通のデンプンに2025%含まれる。平均分子量は数万〜十数万である。アミロースは水中で左回りのらせん構造をとり,均一に分散する。

試薬として販売されている可溶性デンプンは,糊化したデンプンのコロイド溶液に酸を作用させ,最初に生ずる加水分解生成物で,アミロースより重合度が低くなっており,水溶液はデンプン糊より透明である。可溶性デンプンはアミロデキストリンともいう。ヨウ素デンプン反応は青色を呈し,還元性はない。

デンプンを加水分解すると重合度の低いデキストリンという多糖が生じる。デキストリンは重合度が小さくなるに従いヨウ素デンプン反応の青色が赤くなり,呈色しなくなる。

アミロペクチンもデンプンの成分で,アミロースの直鎖状分子が枝状になったもので,α-1,6-グリコシド結合で枝分かれしている。全グリコシド結合に対するα-1,6-グリコシド結合の割合は4%で,グルコース単位25個に1個である。アミロペクチンは,普通のデンプンに7580%含まれ,分子量はアミロースより大きく,150万〜4千万になる。モチ米やモチトウモロコシ等モチ種のものは,アミロペクチンが100%近くあり,アミロースが殆ど含まれない。

 

◆ヨウ素デンプン反応

デンプンのグルコース鎖は,グルコース単位67個で1回転して0.8nm進むらせん構造をしている。らせんの中心にヨウ素分子が位置して複合体(包摂化合物)となり呈色するといわれている。最近の研究では,ラマン分光,129Iメスバウアー分光等の分析法により直線状I5イオンの存在が確認された。このイオンは中心にIがありその両端にI2が結合した形になっている。I5イオンは600700nmに幅広い吸収をもっており,青色に見える。デンプンの他にポリビニルアルコールでも,ヨウ素を添加する事によってI5イオンに由来する青色を観察できる。

ヨウ素デンプン反応の色はグルコース鎖の直鎖部分の長さに関係し,アミロースでは青色,アミロペクチン(直鎖部分のグルコース単位は25程度)では赤紫色,グリコーゲン(直鎖部分のグルコース単位は67)では褐色となる。熱すると60℃付近でらせん構造が崩れて無色となるが,冷やすと再び呈色する。

α-D-グルコース68個が環状に結合したものをシクロデキストリンという。シクロデキストリンは疎水性の空孔を持ち,その中にヨウ素分子が取り込まれて抱接化合物を形成し,青色を示す。熱するとヨウ素分子は疎水性の孔から飛び出して青色は消え,冷えると再び抱接化合物となって青色を示す。

 

◆グリコーゲン

グリコーゲンは動物の体内に存在する多糖類で,肝臓に56%,筋肉中に0.51%含まれる。構造や組成はアミロペクチンと同じだが,著しく分枝が多く樹脂状になり,分子全体としては扁平楕円形をしている。グルコース単位約3個でα-1,6-グリコシド結合による分枝が出現し,末端部分はグルコース67個の直鎖になっている。グリコーゲンは水中では白濁した溶液となるが,有機溶媒には溶けない。グリコーゲンの分子量はアミロペクチンよりも大きいとされており,十万〜百万である。アミラーゼや酸で加水分解されてマルトースを生じ,さらに加水分解されるとグルコースになる。

 

◆セルロース

D-グルコースがβ-,1,4-グリコシド結合で直鎖状に重合したものがセルロースである。植物の細胞壁に多く含まれ,分子量は10万〜1千万である。

 

セルロースのグルコース単位にはヒドロキシ基が3つあるが,3,5,6位の炭素原子に結合したヒドロキシ基が,分子内,分子間で水素結合を作り,鎖状構造をとるのに使われている。

セルロースは水に殆ど溶けず,酸により長時間煮沸すると加水分解してグルコースになる。又,酵素セルラーゼでセロビオースに迄分解され,酵素セロビアーゼでグルコースになる。ヒドロキシ基があり硝酸,酢酸等とエステルをつくる。

 

◆綿の繊維

木綿はセルロース分子からなり,平均分子量3050万の天然高分子化合物である。セルロースはβ-グルコースが1,4-グリコシド結合した長鎖状の多糖類であり,セルロース分子が多数集合したミクロフィブリルが,更に並んで繊維をつくっている。乾燥植物体中の主成分(3050)であり,最も豊富な生物資源で,ワタの繊維はその98%がセルロースである。

 

◆ニトロセルロース

セルロースに濃硝酸と濃硫酸の混液を加え,セルロースをエステル化した化合物。エステル化が少ないものはセルロイドに,多いものは火薬等に利用される。これを綿火薬という。

[C6H7O2(OH)3]n 3nHONO2 ―→ [C6H7O2(ONO2)3]n 3n H2O

 

 








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