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2節 平衡移動

 

ルシャトリエの原理

平衡状態にある物質系に,外から影響を与え時の,物質系の変化に関する原理で,1884H.L.Le Chatelierによって提唱され,1887K.F.Braunにより発展させられたもので,平衡移動の原理(または法則)とも呼ばれる。

その一般的な表現はある熱力学的平衡の状態にある系が,外部的な作用でその平衡が乱された場合,この作用に基づく効果を和らげる方向にその系の状態が変化する事になる。

したがって,この原理が適用される対象は,単に化学平衡だけでなく,液体の蒸発・凝固や,固体の溶解・析出等,相平衡に関する諸事象を含む事になる。

 

ルシャトリエ Henry Louis Le Chatelier

1850108日パリに生まれたフランス人。1936917日没。ソルボンヌ大学教授となり,化学の研究と化学教育にその一生を捧げた。平衡移動の原理の提唱者として著名な他,窯業に関する論文が多く,高温化学に関する貢献も大きい。

 

濃度変化と平衡移動

水素,ヨウ素,ヨウ化水素の混合気体が,容積一定のある容器内で平衡状態

H2I22HI (1)

にあるとき,濃度の影響を考えてみよう。平衡状態で,これらの濃度がそれぞれ[H2][I2][HI]とすると,次式が成立し,平衡定数Kは一定である。

 

この容器の中に,新たにある量のH2を加えると,[H2]の値が大きくなる。すると式(2)の分母の値が大きくなるので,式(2)の左辺はKより小さくなる。したがって左辺がKに等しくなる為に式(1)の平衡は右へ移動し,[H2][I2]は減少して,[HI]が増加する。

このとき注意する点は,この平衡移動により[H2]が元の値よりも小さくなるわけではない事である。加えたH2の一部が消費され,同物質量のI2が減少してその2倍の物質量のHIに変化するだけである。

 

圧力変化と平衡移動

N2O4 ()  2NO2 () の平衡状態について,圧平衡定数Kpを用いて,圧力による平衡移動を考えてみよう。ある容器の中にN2O4NO2の混合気体が平衡状態にあり,N2O4の分圧pN2O4aNO2の分圧pNO2bだったとすれば,Kpは次式で表され一定となる。

 

この混合気体の体積を半分に圧縮したとき,平衡移動がなかったとすれば,圧力は2倍になり,分圧も2倍になるから,

 

したがって,Kpを一定に保つためにはpN2O4が大きくなる必要があり,N2O4を生じる方向に反応が進む。

全圧pと分圧との関係は,ppN2O4pNO2pNO22pN2O4×Kpから求められ,

 

また物質量は,次の様になる。

 

温度変化と平衡移動

平衡定数は,温度一定のとき一定値となるが,高温になると,発熱反応では小さくなり(生成物の濃度減少),吸熱反応では大きくなる(生成物の濃度増大)。この変化は,熱力学により導かれる次式から理解できる。反応熱を−ΔH,圧平衡定数をKp,反応温度をTK〕,気体定数をRで表すと,

 

この式を,ΔHが温度により変化しないとして積分すると,

  (Cは定数)

 

どちらの式からも,吸熱反応(ΔHが正)のとき,高温(Tが大きくなる)ではKpが大きくなり,逆に発熱反応(ΔHが負)の時,高温ではKpが小さくなる事が判る。

 

温度変化による平衡移動

N2O4 ()は無色,NO2 ()は赤褐色である。したがって,これらの気体の平衡では,NO2の濃度が大きくなる程赤褐色が濃くなる。

N2O4 ()2NO2 ()57.2kJ

NO2生成反応は吸熱反応だから,温度を変化させるとルシャトリエの原理に従い,高温ではNO2が生じる方向,低温ではN2O4が生じる方向に平衡移動が起こる。したがって,高温ほど赤褐色が濃くなる。

この平衡移動は,気体混合物を氷や湯に浸ける事でも観察できるが,連結した2個の容器内で高温部分と低温部分をつくり,その色の違いからも観察できる。N2O4は低温・高圧では液化し,また高濃度では色の変化を観察し難いので,実際の実験では空気を混合し薄めて行うとよい。

 

アンモニア合成反応の化学平衡

水素と窒素からアンモニアを合成する反応は,

3H2N22NH392kJ(18)

で表され,ガスの容積は左辺が314,右辺が2だから,容積の減少が起こり,また発熱反応である。それゆえ,反応を行う時にガスに圧力を掛けると,容積の減少を促す事になり,また,反応の温度を低くすると,発生した熱が放散し易くなりアンモニアの生成量が増える。つまり,反応の平衡が右辺の方に偏る事になる。

これを実験で確かめてみると,次図の様になる。図において,

曲線(1)温度…圧力を1×107Paで一定にし,温度を変化させた場合の実験で,温度の低い程,アンモニア生成量は大きい。

曲線(2)圧力…温度を500℃で一定にし,圧力を変化させた場合の実験で,圧力の高い程,アンモニア生成量は大きい。

曲線(3) N2…圧力1×107Pa,温度500℃として,窒素と水素の混合ガス中,窒素が25(N2H213)の時アンモニア生成量は最大になる。

この様な実験をいろいろ行うと,圧力を更に大きくして1×108Pa程度にすると,200℃では殆ど全部の窒素と水素が反応する様になり,アンモニアの生成率が100%に近くなる。しかし,温度が低くなると化学反応は不活発になり,全部がアンモニアになるのに非常に長い時間が必要になる。それゆえ,触媒を使ってこの反応速度を速め,また,圧力もむやみに高める事は危険で工業上できず適当な所で留める。すると,1回の反応では窒素と水素がアンモニアにならずに残るから,それはアンモニアを分離した後で新しいガスと混ぜて再び触媒に通して反応を繰り返し,アンモニアをつくる。尚,アンモニアの分離は,深冷器で冷やし,液体として分離する。これは,高圧下にある為,−20℃程度に冷やすだけで液化するからである。

 

アンモニア合成工業

窒素と水素を直接反応させてアンモニアを得る反応の化学平衡は,今世紀の初めから,ネルンストやハーバーにより,種々の温度と圧力の下で系統的に研究された。ルシャトリエの原理より,N23H22NH392kJ(18)の平衡を右に移動させるには,高圧・低温にすればよい。しかし,これを実験で確かめるには,高圧に耐える実験装置が必要であり,また低温でもある程度反応が速く起こる様にする為触媒が必要だった。1908年,オスミウム触媒を使って,550℃以上,1.75×107Paで液体アンモニアを得る合成実験に成功した。

ハーバーらは,ドイツのBASF社で工業化を研究した。その際,化学装置に経験の深いボッシュK.Boschの協力によって,1913年に世界初のアンモニア合成工場の運転を開始した(日産30t)。その時は,触媒として酸化鉄にアルミナと酸化カリウムを加えたものを用い,2×107Pa500℃程度に熱し,容積で1314%のアンモニアが生じる事が分かった。現在でも,基本的にはこの方法でアンモニアが合成されている。

 

 








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