トップ化学II 改訂版2部 反応速度と平衡>第1章 反応速度>2節 反応の仕組み

2節 反応の仕組み

 

 

参考 化学かいろ

使い捨ての化学かいろの材料には,主として鉄粉・活性炭・塩化ナトリウム水溶液・繊維等の混合物が用いられている。発生する熱は,空気中の酸素により徐々に鉄が酸化される時の燃焼熱を利用している。塩化ナトリウムは触媒として作用している。

 

 

活性化エネルギー

化学反応では,反応物が一般に普通の状態よりポテンシャルエネルギーの高い状態(活性化状態)を通って生成物になる。この活性化状態を越えるのに必要な最低のエネルギーを,活性化エネルギーという。

ファントホッフ(18521911年,オランダ)とアレニウス(18591927年,スウェーデン)によって定式化された,反応速度と温度の関係を表す式(アレニウスの式)を次に示す。この式のEが活性化エネルギーで,kは速度定数,Tは絶対温度,Rは気体定数,Aは頻度因子である。

kAe(E/RT)   即ち,logek=−E/RT+定数

したがって,実験で得られる速度定数の対数(logk)を,絶対温度の逆数(1/T)に対してプロットすると,一般に直線となり,その傾きから活性化エネルギーEを求められる。

下図は,反応H2I2―→2HIの反応速度の実験結果から,logkの値を縦軸,103/Tを横軸にとってグラフに表したものである。この直線の傾きから,活性化エネルギー165kJ/molが求められる。

 

気体分子のエネルギー分布と温度

気体分子運動論や統計力学によると,気体分子の速度分布は,次式のマックスウェル-ボルツマンの分布式で表される。

 

ここで,Nは全分子数,vは分子の速度,mは分子の質量,kはボルツマン定数,Tは絶対温度,dNは速度がvvdvの間にある分子数である。この式から計算したN2分子の速度分布を下図に示す。高温程分布が緩やかになり,大きい速度に迄広がっていく事が判る。

また,この式から平均速度,最も分子の存在割合の多い速度vm,根平均二乗速度を求めると,次式の様に表される (Rは気体定数,Mはモル質量)

 

 

気体分子の平均エネルギーはに比例し,次式の様に求められる。

 

気体分子のエネルギー分布も,速度分布とよく似た曲線となる。したがって,温度が高くなる程高エネルギーをもつ分子の数が増え,反応が起こり易くなる事が判る。

尚,温度を上げなくても,触媒を加えると活性化エネルギーEaが下がるので,反応できる分子の割合が増える為,反応が速く進む。

 

固体触媒の働き方

反応速度を増加させ,しかも反応前後で変化しない物質を触媒という。しかし現実の触媒は,反応前後でやや変質する事が多い。

反応物と同一相に共存して作用する触媒を,均一触媒(エステル合成の酸等),異なる相にある触媒を不均一触媒(アンモニア合成の鉄等)という。

触媒の作用は,触媒が反応物と反応中間体をつくり,触媒がない時と異なる反応経路をとらせ,この為活性化エネルギーが低下して反応速度が大きくなる為と考えられる。したがって,触媒は反応系の平衡状態を変化させる事はなく,正逆両反応の反応速度を共に変化させる。

白金の様な金属表面が触媒作用を呈する場合,その表面全部が触媒として働くのではなく,表面上のある幾つかの点のみが触媒作用を呈するものと考えられる。この様な活性点に,例えばヒ素等が結合してしまうと,もはや触媒作用を示さなくなる。この様な現象を被毒という。活性点の数は,表面上の原子の数に比べて極少ないので,僅かの量の毒物で被毒され,触媒はその活性を失う。この様な物質を触媒毒という。

また,ガソリンに添加されるアンチノック剤は,連鎖反応の活性種と反応してこれを除去し,ノッキング(ピストン機関の燃焼過程における急激な爆発反応)を抑制する物質である。この様に反応速度を低下させる物質を負触媒と昔は呼んでいたが,今はこれも触媒と呼んでいる。

 

◆過酸化水素の分解による酸素の発生

過酸化水素の3%水溶液(市販のオキシドール)は特に不安定という事もなく,冷暗所に静置すれば長期間保存できる。過酸化水素は,

酸化剤として, H2O22H2e− ―→ 2H2O  …@

還元剤として, H2O2 ―→ O22H2e   …A

の様に反応する。式@・Aを1つにまとめると,

2H2O2 ―→ 2H2OO2

となり,分解反応だが,式@・Aから判るように,自己酸化還元反応の一種である。この反応が進行するとき,酸化マンガン(IV)が触媒として働く。MnO2は,この反応の活性化エネルギーを小さくし,反応を起こし易くする作用をしている。MnO2によるH2O2の分解は不均一触媒の例である。H2O2の分解は均一触媒によっても反応を大きくできる。

触媒は反応速度を大きくする事に役立つが,反応熱の大きさや平衡時の量的関係等には一切影響しない。触媒は,化学工業の発展に重要な役割りを果たしてきた。化学工業における主要な反応は,殆ど触媒の存在下で進められている。

 

触媒反応の仕組み

生徒への例示に適当な触媒反応の仕組みを示す。

(1) アンモニア合成反応の定常反応経路(二重促進鉄触媒上)

この反応機構は,気相のH2N2とが鉄触媒上に解離吸着し,触媒表面上で会合してNH3となる素反応からなっている。

(2) エチレンの水素添加反応の定常反応経路(金属触媒上)

 

(3) 酢酸メチルへのエステル化反応の反応機構(水素イオン触媒)

硫酸を触媒として酢酸とメタノールを反応させる例を示す。

 

固体触媒の例

代表的な固体触媒の例を以下に示す。

(1) 塩化アルミニウム  微量のH2OHClの共存下で強い触媒作用を示す。アルカンの異性化反応や炭化水素の分解反応,エチレンによるアルキル化反応,エチレン等の重合反応等に有効である。

(2) ゼオライト(モレキュラーシープ)  結晶性アルミノケイ酸塩の総称をゼオライトという。A型,X型,Y型など種々の異なる構造の合成ゼオライトがあり,石油の接触分解反応等に有効である。ゼオライトには分子ふるいとしての作用もある。

(3) 酸化亜鉛  酸化亜鉛触媒は,アルコールからアルデヒドの合成反応,炭化水素の脱水素反応等,脱水素反応に有効な触媒である。また,エチレンの水素化反応にも有効である。

(4) 水銀触媒  水銀は,アセチレンからアセトアルデヒドや塩化ビニルを合成する反応に有効な触媒だった。

(5) バナジウム触媒  酸化バナジウム触媒(V2O5)は,接触法における硫酸製造法の触媒として有名である。その他,ナフタレン或いはオルトキシレンの酸化による無水フタル酸の製造,ベンゼン等の酸化による無水マレイン酸の製造等の触媒として用いられる。

(6) 鉄触媒 アンモニア合成反応に用いられる促進剤を加えた鉄触媒が特に重要である。この他,水性ガスから各種原料ガスをつくる時の転化反応用触媒等にも用いられる。

(7) ラネーニッケル触媒  AlSi等塩基に可溶な金属とニッケルの合金を溶出して得られる金属粉末触媒。フェノール等の水素化に有効な触媒である。

(8) 白金黒  白金黒は,水素化,酸化或いは過酸化水素の分解等に有効な触媒である。

 

◆身近な触媒の利用

化学工業では,その多くの反応工程において触媒が利用されている。石油化学工業,製薬工業だけでなく,石炭,香料,油脂,洗剤,化粧品,食品等の工業への触媒の応用が活発で,また,環境保全及び資源・エネルギー問題や新機能を有する物質の合成に利用され,バイオテクノロジーにも関連している。特にFischer-Tropsch合成,メタノール転換等のCl化学,石炭の液化・ガス化,重質油の分解,不斉合成,光触媒の研究等,触媒開発は非常に盛んである。

触媒反応においては,反応物と触媒が反応性に富む中間体(フリーラジカル,カチオン,アニオン,カルベン)を形成し,その後引き続いて生成物質と共に触媒自体の再生する過程が起こる。その様なサイクルが繰り返され,触媒が存在しない時には進み難かった反応が容易になったり,特定の反応経路が著しく有利に進行したりする。触媒の活性は反応速度で表されるが,触媒の選択性,反応の経路が2つ以上ある場合,どの経路の速度をどの程度促進させるかで決まる,触媒の特性である。したがって,生成物が1種類だけの場合は,その生成物に対する触媒の選択率は100%という事になる。

触媒の性能として最も重要な因子は活性,選択性及び寿命であり,触媒の設計と開発に当たっては,高活性,高選択性,長寿命の3つを考えなければならない。

また,基礎研究を進める上でも工業プロセスで採用する際でも均一触媒と不均一触媒の違いは大きいが,触媒作用としての本質は同じである。

 

自動車触媒

自動車排ガス中の有害物質の除去には,主に触媒による処理が行われている。現在使用されている自動車触媒は,その機能により酸化触媒と,いわゆる三元触媒とに分けられるが,三元触媒が主流となっている。

酸化触媒には,白金とパラジウムが主として用いられ,炭化水素や一酸化炭素を酸化して無害な水や二酸化炭素に変える。三元触媒では更にロジウム等が加えられており,酸化触媒の機能の他に,窒素酸化物を還元して無害な窒素に変える働きも示す。

触媒の構造には,アルミナを担体としたペレット状のものや,一体成形した柱状やハニカム状のものがある。

 

アンモニア合成工業の触媒

アンモニア合成には,反応速度を速くする為に,酸化鉄Fe3O4を主成分にした融解触媒を用いる。

融解酸化鉄は,鉄を酸素中で融解して酸化するか,酸化鉄に電流を通じて融解し,助触媒を加えて冷やした後,砕いて用いる。これは丈夫で崩れず,合成塔の中で窒素と水素の混合ガスで還元され,穴のある塊状のものになる。助触媒としては,アルミニウム・アルカリ金属・カルシウム等の酸化物を加える。

原料ガス中の不純物は触媒の働きを妨害するが,硫黄の害作用が最も大きい。その為,原料ガスの精製は注意して行わなければならない。触媒の寿命は2年。

 

ハーバーFritz Haber

1868129日〜1934129日。ドイツ人。ハイデルベルク・ベルリン・チューリッヒ等の各大学に学ぶ。1906年〜1911年カールスルーエ大学教授。在職中気体反応について多くの研究があり,アンモニアの接触合成もその1つである。これはその後ボッシュK.Boschの手により工業化され,空中窒素固定法としてハーバー-ボッシュ法の名称でよく知られている。1918年ノーベル化学賞受賞。

 

 








本サイトに掲載された記事や画像の無断転載を禁じます。
Copyright(C) 2009-2012 SHINKOSHUPPANSHA KEIRINKAN CO.,LTD. All rights reserved.