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1節 反応の速さ

 

爆発反応

@ 可燃性ガスの爆発  可燃性ガスは,酸素とある組成範囲に混合した時に爆発または燃焼する。ガスの濃度が大き過ぎても,また逆に小さ過ぎても爆発や燃焼は起こらない。爆発を起こすのに適した濃度範囲を,爆発範囲や爆発限界と呼ぶ。

可燃性ガスの爆発限界(常圧)

気体

分子式

爆発限界(体積%)

水素

H2

4.076

一酸化炭素

CO

12.574.2

メタン

CH4

5.015.0

エタン

C2H6

3.012.5

プロパン

C3H8

2.19.5

ブタン

C4H10    

1.88.4

アセチレン

C2H2     

2.5100

 

A 爆発性化合物  ピクリン酸の様なニトロ化合物や,過酸化ベンゾイルの様な有機過酸化物等は,爆発性化合物と呼ばれる。これらは,分解熱がある程度以上大きい発熱反応であり,且つあまり高くない温度で分解して爆発性を示す。

また,硝酸カリウムはそれ自体は爆発性を示さないが,これと硫黄及び木炭の粉末の混合物は黒色火薬として知られており,爆発性を示す。

 

◆燃焼

被酸化性物質と酸素の化合により,激しく光や熱を発生し,火炎を形成する現象を燃焼という。この他に可然物と塩素等との反応でも起こり,また,火炎を発生しない場合(無煙燃焼)もある。燃焼の反応は発熱反応であり,一度火炎が形成されると,その発生熱量によって未燃層を活性化して次々と火炎が伝搬していく。

可燃性物質を燃焼させた場合に発生する熱量を発熱量といい,25℃,1.013×105Paにおいて完全燃焼させた場合の熱量で表す。

 

鉄・銅の腐食

錆は,金属が空気中の酸素・水・二酸化炭素等の作用で表面に生じた含水酸化物である。

@ 鉄の錆  通称赤錆と呼ばれ,主成分は含水酸化鉄(III)Fe2O3H2Oであり,赤色の粗い粉末である。剥がれ易く,腐食は鉄の内部まで進行する。一方,高温酸化で生じる黒錆は,主成分が四酸化三鉄Fe3O4であり,緻密で内部に及ばない。

A 銅の錆  緑青と呼ばれる緑色の錆を生じる。銅が空気中の水分と二酸化炭素の作用で反応すると,水酸化炭酸銅CuCO3Cu(OH)2になる。空気中に二酸化硫黄や硫化水素が微量存在すると,これと反応し,更に酸化されて水酸化硫酸銅CuSO43Cu(OH)2が生じる。

 

ダイナマイトの爆発

ダイナマイトはニトログリセリンを基材とした爆薬で,1866年にノーベルにより発明された。成分のニトログリセリンは,

4C3H5(ONO2)3―→12CO210H2O6N2O2

と反応すると考えられ,爆発生成ガスの体積は715L/kg(標準状態)となる。熱も大量に出るので,更に膨張が起こる。この変化が非常に短時間で起こる為,爆弾薬として用いられている。現在日本で用いられているダイナマイトは「ニトログリセリン又はニトログリコール,或いはこれらの混合物にニトロセルロースを配合してできたニトロゲルを6%以上含むもの」とされている。

 

遅い反応 緑青(ろくしょう)

金属の表面が,大気中の酸素・水蒸気・酸性酸化物等と反応し,次第に別の物質に変わっていく反応は,遅い反応の例である。

緑青は,本来的には水酸化炭酸銅(II) CuCO3Cu(OH)2,別名塩基性炭酸銅,天然産の孔雀石,色素ではマラカイトを指す。金属銅上に生じる緑色の錆は,銅を空気中に放置した際,空気中の水分と二酸化炭素の作用で生じる水酸化炭酸銅CuCO3Cu(OH)2や,空気中に微量に含まれる二酸化硫黄や硫化水素との反応生成物が酸化されて生じる水酸化硫酸銅CuSO43Cu(OH)2があり,後者が自然に生じる緑青の主成分といわれる。

銅は,金属全体の中では比較的反応性が乏しく安定であるので,古くから屋根板や重要建築物の保護板に用いられてきた。今日,保護・保存の対象になっている重要文化財等に緑青が見られるのはこの為である。

 

鉄の酸化

鉄の酸化反応は,酸素濃度によりその燃焼の様子が異なるので実験材料とし易い。また,鉄の表面積による反応速度の違いも観察し易い。即ち,鉄粉をバーナーの炎に入れて燃焼させたり,シュウ酸鉄(II)を栓をした試験管内で加熱分解し,細かい鉄の微粒子にして空気中に出して赤く燃焼させる実験も有効である。

 

反応速度

反応の速度は,単位時間当たりの反応物または生成物の変化量として定義される。例えば,次の反応

aA + bB + …… ―→ a′A + b′B + …

において,反応速度vは次式で表される。

 

また,実験によれば,反応速度は一般に各反応物の濃度のべきに比例する。例えば上記の反応の場合次式で表される。

vk[A]h[B]i

kを反応速度定数,hi+…をその反応の反応次数,または単に次数という。

ここで注意すべきは,この反応次数を表すhiは実験によって決められた数であり,必ずしも反応式の係数abとは一致しない事である。反応次数は反応の機構に関係する。

また,反応によっては,速度式が上記の様な簡単な形式にならないものも存在する。例えば,水素と臭素の気相反応では,次の様になる。

H2Br2 ―→ 2HBr

 

この複雑な式は,反応機構の複雑性に由来している。この様な反応では,反応次数を指定できず,速度式そのもので濃度依存性を示す事になる。

一般の化学反応には正反応と逆反応があり,全体の反応速度はこの正逆両反応の反応速度の差として与えられる。しかし,逆反応の速度が無視できる程小さい場合には,正反応の速度がそのまま全体の反応速度に等しくなる。

 

参考 五酸化二窒素N2O5の分解反応の速度

よく研究されている分解反応として,次の五酸化二窒素分解反応がある。

2N2O5―→4NO2O2

五酸化二窒素N2O5の分解反応は,速度式が次式で表される一次反応である。

 

今,[N2O5]の初濃度をamol/L〕,時間tmin〕後の濃度をxmol/L〕として,式(1)を積分すると,

 

初期条件を式(2)に入れると,logeaC となるから,式(2)は,

logex=−ktlogea 即ち 

 

したがって,x/aの対数をtに対してプロットすれば,グラフの傾きからkが求められる。今,時間t1t2における濃度をx1x2とすると,kは次式から求められる。

 

五酸化二窒素の分解反応は,密閉容器中で行われ,その反応速度は五酸化二窒素の分圧の変化から計算される。表は,五酸化二窒素の分解における分圧の変化データから,各時刻における濃度〔mol/L〕,平均反応速度〔mol/(Lmin)〕,速度定数〔/min〕,速度定数から求めた各時刻における(各濃度における)反応速度〔mol/(Lmin)〕を示した。

これから反応初期を除いて,濃度と反応速度が比例関係になっており,一次反応である事が判る。

* グラフの傾きから求めた反応速度

 

連度定数(反応速度定数)

反応速度が各反応物の濃度のべきに比例する時,その比例定数を速度定数または反応速度定数という。速度定数は,反応の種類に特有であり,温度が高い程大きくなるので,反応速度と温度との関係を決める重要な定数である。

速度式から判る様に,速度定数は単位濃度当たりの反応速度を示す数になっており,比速度ともいう。

 

参考 半減期

ある変化で,反応物の濃度が初めの値の半分になるのに必要な時間をいう。放射性同位体の崩壊等によく用いられる概念だが,一般の化学変化でも反応速度の尺度として用いられる事がある。特に,反応速度がただ1種の反応物の濃度に比例する不可逆な一次反応では,半減期は初濃度aとは無関係に,温度が決まれば一定となる。

例えば,上記のN2O5分解反応の式(4)において,x1/ x22 とすると,

t2t1Δt=半減期

となるから,

 

となり,半減期は初濃度に関係せず一定となる。

 

反応の進み方と速度式

反応式は反応物の量的関係を示すものだが,反応の仕組みを示すものではない。実際の化学変化は,反応式で表される反応物が1箇所に集まり,これから一度に生成物が生じる様な単純な機構では進まず,幾つかの段階的反応(素反応)を経て起こる事が多い。例えば,2H2O2―→2H2Oの反応は次の様な多くの素反応を含むと考えられる。

(1) H2―→2H       (2) HO2―→OHO

(3) H2O―→OHH    (4) HO2―→HO2

(5) HO2H2―→H2OOH  (6) OHH2―→H2OH

(7) HO2OHH等が壁に衝突して吸収されることもある。

H2I2―→2HIの反応では,長い間次の様な1つの素反応のみからなる構造が

考えられてきた。

したがって,速度式は,反応物の濃度の積で簡単に表される。しかし,より高温では,次の様な多段階反応の起こる可能性の高い事が最近示されており,この時は簡単な速度式では表せない。

I 2II

IH2HIH

HI 2HII

これらの例の様に,活性種(HO原子や・OH基,ラジカルという)1つできると,それが安定な分子と反応して生成物をつくり,同時に活性種をつくり,連鎖的に反応が進行する反応を連鎖反応という。

気相における水素と臭素の反応は,連鎖反応の代表的な例の1つである。この場合,反応機構は,

の素反応から成立している。(1)の素反応で生じたBrによって反応が開始され,素反応(2)(3)が連続して起こって2HBrを生じ,次の反応に必要なBrを再生する。HBrは連鎖反応の運搬体(chain carrier)となっているのである。素反応(4)は,素反応(2)の逆反応であり,連鎖妨害反応である。素反応(5)は,活性種Brが安定な臭素分子となる反応で,連鎖反応はここで終わる。この様に連鎖反応は,連鎖開始反応によって始まり,連鎖伝播反応によって次々と反応し,連鎖停止反応によって停止する反応である。しかし初めに述べた水素と酸素の反応の様に,活性種1個から2個活性種が生じる様な連鎖分岐反応では活性種の急激な増加によって反応がどんどん加速する場合もある。この様な場合にはしばしば爆発を起こす。

連鎖反応の速度式は,一般には簡単に示す事ができない。水素と臭素の反応では,その反応機構から,以下の様に速度式が導かれている。上の(1)(5)の素反応の速度定数をそれぞれk1k5とすると,HBrの生成速度は,

 

一方,HBrは不安定で,生じると直ぐ反応し,反応中は一定に保たれると考えられるから(定常状態法)

 

(B)と式(C)から,[Br] [H]が求められる。

 

(D)(A)に代入すると,

 

 

 

ヨウ化水素分解反応

ヨウ化水素分解反応は可逆反応であり,その速度式は一般に次式で表される。

の速度定数kL/(mols)

温度〔K

速度定数〔L/(mols)

温度〔K

速度定数〔L/(mols)

556

3.517×107

683

5.115×104

575

1.217×106

700

1.157×103

629

3.02×105

716

2.501×103

647

8.587×105

781

3.954×101

666

2.195×104

 

 

(Zeitschphysikal.Chem189929295)

 

温度と反応の速さ

操作 (1) 0.01mol/L KMnO4硫酸酸性水溶液を試験管3本に3mLずつ取り,それぞれを,ビーカーに入れた水または湯に浸して5℃,25℃,50℃に保つ。

(2) 各試験管に0.05mol/L (COOH)2水溶液3mLを加え,KMnO4の赤紫色が消失する迄の時間を比べる。

結果 KMnO4は,(COOH)2により還元され,ほぼ無色のMn2に変化する。実験では,高温程反応速度が速く消失時間も短い。5℃では消失時間が長いので生徒実験では10℃程度で行うとよい。

 

 









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