トップ化学II 改訂版1部 物質の構造>第4章 溶液の性質>2節 希薄溶液の性質

2節 希薄溶液の性質

 

溶液の蒸気圧

ある溶媒の蒸気圧をp0とし,これに不揮発性溶質を溶かした時の溶液の蒸気圧をpとすると,同一温度ではp0pとなり,蒸気圧が下がる。を溶液の蒸気圧降下度という。

溶液の濃度があまり大きくない場合には,溶液の蒸気圧降下度は溶質のモル分率に等しい。この関係をラウール(Raoult)の法則という。したがって,溶媒の物質量をNmol〕,溶質の物質量をnmol〕とすると,

 

nNに比べて極めて小さい(濃度が極めて薄い)時は,NnNであり,n/Nは溶液の質量モル濃度に比例するから,溶液の蒸気圧降下度はその質量モル濃度にほぼ比例する事になる(モル分率と質量モル濃度の関係:溶媒の分子量をMとすると,溶媒1kgの物質量は1×103/Mmol〕なので,1kgの溶媒にm molの溶質が溶けている時,そのモル分率はmM/103となり,モル分率mM/103が質量モル濃度mmol/kg〕に比例する事になる)

 

沸点上昇

次図は溶媒および溶液の沸点付近の蒸気圧曲線である。Aは溶媒の蒸気圧p0の点(1.013×105Pa)Bは溶液の蒸気圧p0の点(1.013×105Pa)Cは溶液の蒸気圧pの点である。

溶液が希薄な時両曲線は接近し,曲線は短い部分では直線と考えてよい。純溶媒及び溶液は,蒸気圧が1.013×105Paの時の温度で沸騰するから,T0は純溶媒の沸点,Tは溶液の沸点である。

TT0は溶液の沸点上昇度である。また,p0pは溶液の蒸気圧の降下量である。溶媒と溶液の蒸気圧曲線は平行とみなせるから,直角三角形ABCについて考えると,に比例する。は質量モル濃度にほぼ比例するから,沸点上昇度も質量モル濃度にほぼ比例する事になる。

 

 

参考 モル沸点上昇

溶液の沸点上昇度Dtは質量モル濃度m mol/kgに比例し,その比例定数Kbをモル沸点上昇という。

DtKbm

モル沸点上昇は,溶質の種類に関係せず,溶媒の種類により一定となる。この値は,濃度1mol/kgの時の沸点上昇度に相当するが,希薄溶液の測定値から求めたもので,実際の1mol/kgの値ではない。

 

純溶媒の沸点とモル沸点上昇Kb

沸点〔

Kb

沸点〔

Kb

100.00

0.515

100.56

2.4

メタノール

64.70

0.785

ベンゼン

80.100

2.53

エタノール

78.29

1.160

シクロヘキサン

80.725

2.75

アセトン

56.29

1.71

117.90

2.530

ジエチルエーテル

34.55

1.824

クロロホルム

61.152

3.62

二硫化炭素

46.225

2.35

四塩化炭素

76.75

4.48

 

 

参考 沸点上昇による分子量測定

モル沸点上昇Kbの溶媒Wgに,1molの質量がMg/mol(Mの数値は分子量)の溶質wgを溶かした時の溶液の沸点が,純溶媒よりDt〔℃〕だけ上昇したとすると,質量モル濃度mは次式の様になる。

,したがって,,よって 

 

例題 100gの二硫化炭素CS21.178gの硫黄を溶かした溶液の沸点の上昇は0.107℃である。二硫化炭素に溶けている硫黄の分子式と分子量を求めよ。CS2のモル沸点上昇は2.35℃,硫黄の原子量は32.1とする。

 CS2100gに硫黄をmol〕溶かすと,沸点が0.107℃上昇する。

1mol/kg2.35℃上昇するから,

 

 

よって分子式S8,分子量32.1×8257

 

参考 モル凝固点降下

モル沸点上昇と同様に考え,溶媒1kg中に溶質1molを含む溶液の凝固点降下度をモル凝固点降下という。この値も,希薄溶液の測定値から求めたもので,実際の1mol/kgの値ではない。

 

純溶媒の凝固点とモル凝固点降下Kf

凝固点〔℃〕

Kf

凝固点〔℃〕

Kf

0.00

1.853

ニトロベンゼン

5.76

6.852

16.66

3.90

ナフタレン

80.290

6.94

ベンゼン

5.533

5.12

シクロヘキサン

6.544

20.2

アニリン

5.98

5.87

ショウノウ

178.75

37.7

10.36

6.12

四臭化炭素

92.7

87.1

 

参考 凝固点降下の利用

自動車のラジエーターの不凍液(エチレングリコール水溶液等),道路に散布する凍結防止剤(塩化カルシウム等),寒剤等,凝固点降下の現象は日常的に利用されている。

 

電解質水溶液の沸点上昇,凝固点降下

塩化ナトリウムや塩化カリウム等の塩を水に溶かすと,水溶液中ではNaClの様なイオンになって溶けている。したがって,1molNaClを水に溶かすと,NaClの全イオンの物質量は2molとなる。沸点上昇や凝固点降下では,イオンの全物質量が関係するから,沸点上昇度や凝固点降下度は式量より計算した値の2倍になり,また逆に沸点上昇度や凝固点降下度から形式的に分子量を求めると,NaClとして求めた式量の1/2になる。但し,これらの関係は濃度が十分に小さい時であり,濃度が大きい時は物質量は2倍よりも小さい値となる。これは,イオン間の電気的な相互作用による。

電解質の電離度は,沸点上昇度等の値から,式量から求めた理論値と比較して求められる。

 

半透膜

溶液中の溶媒分子は通すが,溶質である大きい粒子は通さない様な膜をいう。セロハン膜,膀胱膜,腸壁膜,ヘキサシアノ鉄(II)酸銅を素焼きの細かい穴に沈殿させたもの等が半透膜として用いられる。

硫酸銅+ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウム ―→ ヘキサシアノ鉄(II)酸銅+硫酸カリウム

2CuSO4 K4 [Fe(CN)6] ―→ Cu2[Fe(CN)6] 2K2SO4

半透膜の作用は,膜に微細な穴がある為に起こるといわれ,半透性の程度は,穴の大きさによって定まると考えられている。生物の細胞膜も一種の半透膜だが,その作用は極めて複雑である。

 

浸透圧

濃い溶液と薄い溶液を接しておくと,拡散によって同じ濃度になる。両者の間を半透膜で仕切った場合は,薄い溶液の溶媒は半透膜を通して拡散し,同じ濃度の溶液になろうとする傾向があり,この現象を浸透という。広義には,物質が膜を通して拡散していく現象も浸透という。半透膜を通した浸透では,濃い溶液の方に圧力を掛けると,ある圧力で浸透が止まる。この圧力は,溶媒が溶液中に拡散する力に相当する。この時,薄い溶液の代わりに純溶媒を用いた時の圧力を,溶液の浸透圧という。浸透圧は,純溶媒から溶液中に浸透が起きない様に,溶液側に加える圧力で求められる。

浸透圧は濃い溶液程大きく,希薄溶液ではモル濃度に比例する。

 

参考 浸透圧に関するファントホッフの式

溶質nmol〕を含む希薄溶液の体積をVL〕,温度をTK〕とすると,非電解質の溶質の浸透圧PPa〕は,次式のファントホッフの式で表される。

PVnRTPcRT   (cはモル濃度)

この式は,気体の状態方程式と同じ形をしている。即ち,VL〕に溶質nmol〕を含む気体の示す圧力が浸透圧と等しくなる事を示している。

ファントホッフの式は,1877年にドイツのペッファーが発表した実験結果を基に,1886年にオランダのファントホッフが導いたものである。

モル質量Mg/mol(Mの数値は分子量)の溶質wg〕を溶かした溶液ではとなり,

,したがって となる。

 

この式を用いて,浸透圧から物質の分子量が求められる。

 ある解離・会合しない有機化合物1.255gを,水50.0gに溶かした溶液の27℃における浸透圧が,1.25×104Paだとすれば,その物質の分子量はいくらか。

 Pa〕,L〕,w1.255g〕,T27273300K

 

参考 等張溶液

一般的には,浸透圧が相互に等しい溶液をいうが,ヒトの体液と等しい浸透圧をもつ溶液という意味で用いる事が多い。また,これより浸透圧が高い溶液を高張溶液,低い溶液を低張溶液という。人体内の浸透圧は,細胞や体液の種類により少し異なるが,0.9NaCl水溶液の値に近い。その為,これらが生理学や生化学等の実験に用いられてきた。現在は,リンゲル液等が等張溶液に用いられている。

リンゲル液成分;1L中にNaCl8.6gKCl0.3gCaCl20.33gH2O

 

参考 日常生活で見られる浸透の例

(1) 溶血  水の中に血液を入れると,血液の成分である赤血球が膨らみ,やがて破裂する現象。浸透圧の差により,水が赤血球内へ浸透する為に起こる。血の付いたシャツを洗濯するのにシャツをしばらく水に浸けておくのは,この現象を利用したものである。一方,血液を濃い食塩水等に加えると,赤血球内から水分が出ていくので赤血球はしぼむ。その為赤血球の生理機能は失われる。

(2) ナメクジ退治

(3) つけもの作り

 

 

参考 逆浸透法

半透膜を利用して海水を淡水化する方法は,1953年から米・フロリダ大学で研究が開始され,1960年カリフォルニア大学で実用レベルに近い膜が開発された。逆浸透法による淡水化の特徴は,動力が塩水の加圧用ポンプだけで比較的小さなエネルギーで可能である事だが,海水の様な濃厚塩水(35000ppm)に適用するのは不利で,数千ppmの濃度の塩水に対して有効である。この方法で最も重要なものは半透膜の機能性だが,現在では,酢酸繊維素(アセチルセルロース)を素材としたものが最適とされている。海水淡水化の他,病院や製薬用の無菌水用途や電子工業用の超純水の製造,工場廃水の再利用等にも使用されている。

 

 

 








本サイトに掲載された記事や画像の無断転載を禁じます。
Copyright(C) 2009-2012 SHINKOSHUPPANSHA KEIRINKAN CO.,LTD. All rights reserved.