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2節 状態変化とエネルギー

 

昇華

固体の物質を熱していくと,液体を経て気体になるのが普通だが,ヨウ素は,固体から直接気体に変化する。この様に,固体が液化せず直接気体になる状態変化を昇華という。

したがって,昇華は固体の蒸発現象という事もでき,室温ではヨウ素やナフタレン,二酸化炭素(ドライアイス),ショウノウ等の無極性の分子性物質でよく起こる。また,固体とその蒸気が平衡状態にある時,蒸気の圧力を昇華圧といい,昇華圧と温度との関係を示すグラフを昇華曲線という。

砂皿の上にヨウ素を入れたビーカーを置き,ビーカーの上には,ヨウ素蒸気を冷やす為,冷水を入れたフラスコを載せる。熱し始めると,ヨウ素が昇華して紫色の蒸気となり,拡散してビーカー内全体が紫色になる。更に,ヨウ素の蒸気が冷たいフラスコの底や側面に触れると,昇華してヨウ素の結晶が生じる。

昇華性物質は,室温付近でもその蒸気圧が大きい。普通は昇華しない物質でも,外圧を極端に小さくすると,昇華する。氷もその三重点以下の圧力にすると昇華する。(水の状態図を参照)

氷の蒸気圧

温度

蒸気圧

〔℃〕

Pa

0

6.13×102

5

4.01×102

10

2.60×102

15

1.65×102

20

1.02×102

 

蒸気圧(飽和蒸気圧)

一般に蒸気圧といえば蒸気の示す圧力の事だが,教科書では飽和蒸気圧を略して単に蒸気圧という呼び方で用いている。したがって,ここでいう蒸気圧は,蒸気とその液体,または蒸気とその固体との間の平衡状態が成り立っている時の蒸気の示す圧力を意味している。
 純物質の飽和蒸気圧は,物質の種類と温度とによって定まる。温度を一定にして,容器内の圧力を飽和蒸気圧以上に大きくすれば,蒸気は凝縮して液体または固体となり,逆に,容器内の圧力を飽和蒸気圧以下に小さくすると,蒸気だけになる。

また,飽和蒸気圧は一般に温度の上昇と伴に増大する。液体を熱して温度を上昇させ,飽和蒸気圧が外圧と等しくなる様にすれば,液体は沸騰し始める。

 

蒸気圧曲線

飽和蒸気圧を温度の関数として表した曲線をいう。教科書にある図は3種の物質の蒸気圧曲線を示したもので,1.013×105Paを示す線とこれらの曲線の交わる点が各々の物質の沸点に相当する。

蒸気圧〔×105Pa

0.0133

0.0267

0.0800

0.2666

1.013

エタノール

2.45

7.52

25.24

47.94

78.32

ジエチルエーテル

48.97

39.31

21.73

1.66

34.55

 

水の蒸気圧〔×102Pa〕と温度〔〕の関係

温 度

10

()

0

5

10

20

30

40

50

60

80

100

120

蒸気圧

2.60

6.11

8.72

12.3

23.4

42.4

73.8

123

199

474

1013

1985

 

液体の沸騰

液体の沸騰は,その液体の蒸気圧が外圧に等しくなった時に起こる。常圧下で水を徐々に熱していくと,温度の上昇と伴に水の表面から蒸発が起こり,100近くの温度になると,表面だけでなく液の内部にも水蒸気の泡が発生し,表面から発散していく様になる。この現象を液体の沸騰という。

液体が沸騰を始めるまでの温度の変化を測定してグラフに描いてみると,熱するに従って液体の温度も上昇していくが,一旦沸騰を始めると,熱しても液体が全て蒸発し終わるまで温度は変化せず一定値を示す。この温度を液体の沸点という。

教科書の蒸気圧曲線より,水は100における蒸気圧が1.013×105Paとなっている。

この様に,液体はその蒸気圧が外圧と等しくなる温度で沸騰する。したがって,外圧が変化すれば沸点も変化する。例えば2×105Pa下で水を熱していくと,120で沸騰する。

 

粒子間の引力と熱

物質の構造と蒸発熱の間には,一般に次の様な関係がある。(1)イオン性物質は分子性物質より大きい,(2)分子量が大きい程大きい,(3)極性が大きい程大きい,(4)球形分子より平面分子または長鎖状分子の方が大きい。

蒸発熱は一般に融解熱に比べてずっと大きい。融解では粒子間の距離があまり変化しないが,蒸発では距離の変化が大きく,したがって蒸発は融解に比べてポテンシャルエネルギーの変化が大きいので,蒸発熱が大きくなると考えられる。

 

参考 状態変化を利用した物質の精製法

気化し易い物質を含む液体混合物を,純粋な成分物質に分離するには,一般に蒸留法が用いられる。アニリンの精製の様に,水溶液中に分散する揮発性油状物質を取り出す時の水蒸気蒸留法や,圧力を下げて低温でも蒸発し易くする減圧蒸留法等もある。

また,気体混合物を分離精製するには,一旦冷やして凝縮させて液体または固体にした後分離する方法がある。空気を液化して窒素と酸素を取り出すのもその方法の1つである。

固体混合物の分離精製法には,ヨウ素の様に,昇華を利用する方法がある。

 

融解熱

融点にある固体が融解するとき,外部から吸収する熱量をいい,潜熱の一種。通常1g当たり,または1mol当たりの値を用いる。1mol当たりの値は分子融解熱ともいう。水の融解熱は,334J/gまたは6.01kJ/mol(0)である。

 

蒸発熱

物質が蒸発するとき外部から吸収する熱量をいう。通常J/gまたはkJ/molで表す。水では2257J/g40.7kJ/molである(どちらも100)。蒸発熱は温度により変化し,一般に高温になる程小さくなる。例えば,0の水の蒸発熱は45.0kJ/molで,100の値よりも大きい。

蒸発熱は,理論的には,(液体分子の凝集エネルギー)(蒸発した時の分子の運動エネルギーの差)と考えられる。

 

参考 状態図と相律

物質の状態と温度・圧力の関係を示した図を,物質の状態図という。次に水の状態図を示す。

図の様に,状態図は横軸に温度,縦軸に圧力をとって示す。各状態間の境界線は昇華曲線,融解曲線,蒸気圧曲線と呼ばれ,この線上の条件では2つの状態の間で平衡が成り立っており,2つの状態が安定に共存している温度と圧力を示す。

3つの境界線が交わる点Tは,固体・液体・気体の3つの状態が共存している圧力と温度であり,特に三重点と呼ばれる(水では4.58mmHg=0.0061×105Pa0.01)

 

ギブスGibbsの相律によれば,成分物質の数n,共存する相の数Pの時,平衡系の自由度Fは,次式で表される。

Fn2P

水の相平衡では,成分は水だけだからn1になり,自由度F3Pとなる。したがって,水の状態図の各点において,自由度は次の様になる。

() 各曲線の間の部分  全て1つの状態(氷・水・水蒸気のどれか1)だから相の数P1となり,F312 となる。したがって,圧力と温度は両方とも自由に変えられる。
() 各曲線上の部分  2つの状態が共存するから相の数P2となり,F1となる。したがって,温度と圧力の一方は自由に決められるが,それに伴って他方は決まってしまう。
() 三重点上  3つの状態が共存するから相の数P3となり,F0となる。したがって,温度・圧力は共に一定値で決まってしまう。

 

水の状態変化

固相から液相に変わる場合,一般には密度の減少を伴うが,表から判る様に,氷の融解の場合は逆になる。これは,氷が水素結合により隙間の多い構造をとる為で,液体ではその隙間が水分子で満たされる。したがって,状態図の融解曲線も多くの物質と異なり,傾きが負の値をとる。

また,気体中の分子間の平均距離は,表から判る様に液体の12倍になっている。他の物質でも同様であり,約10倍となる。

水の密度,体積,分子間距離(圧力1.013×105Pa)

状態

温度

密度

1molの体積

1分子が占める体積

分子中心間の平

g/cm3

cm3

cm3

均距離cm

固相

0

0.917

19.6

3.3×10-23

3.2×108

液相

0

1.000

18.0

3.0×10-23

3.1×108

液相

100

0.958

18.8

3.1×10-23

3.1×108

気相

100

5.954×10-4

30600.0

5000×10-23

36.9×108

氷の中の酸素原子は,図の様にOHOの様な水素結合によって4つの酸素原子で正四面体状に囲まれている。したがって,1つの水分子は4つの水分子と水素結合で結ばれ,ダイヤモンドに似た結晶構造をとっている。この時の酸素原子間の距離(OHO)0.276nmで,液体の水に比べて体積が大きく,また密度は0.917g/cm3と水よりも小さい。

氷の構造

 

 








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