トップ化学II 改訂版1部 物質の構造>第1章 化学結合>2節 共有結合

2節 共有結合

 

共有結合

H2分子が形成される時,H原子は電子を1個しか持たない1s電子軌道を互いに重ね合わせ,2個のH原子の間で電子の行き来ができる様になる。この様にして,2個のH原子はより安定なH2分子をつくる。この際,重ね合わされた元の電子軌道は消滅し,新しく分子軌道がつくられる。分子軌道は2つの原子を一様に包み込んで原子同士を強く結びつける。この様に,電子を共有する事によってできる結合が共有結合である。

水素分子の解離エネルギーは436kJ/molである事が知られている。これは次式の様に示される。

H2()2H()436kJ

H原子2個が完全に離れている時のポテンシャルエネルギーを0とすると,この2原子が互いに近寄って共有結合を形成する場合のエネルギー変化は,次図の様になる。2つの原子核の間の距離がr(0.07414nm)になった時,2原子は最も強く結合して安定になっている事が分かる。この場合,H2原子が完全に離れている時に比べて,D (436kJ/mol)だけエネルギーを放出している。H原子の共有結合半径と呼んでいる。

テキスト ボックス:  
H2分子のエネルギー

 

分子軌道が形成される場合,その形と電子密度の関係をH2分子について考えてみよう。Heの電子配置は1s2である。1s軌道の形は球状で,図(A)の様になっている。原子核を通る直線を横軸,直線に垂直な面内の電子密度を縦軸にとって図示すれば,図(a)の様に表される。そこで,Heの原子核を二分し,それぞれの+eの電荷を少しずつ離していくと考える。+e2つの核が十分に離れた状態では,2個のH原子が離れて存在しているのと同じ状態とみなす事ができる。その様な状態になるまでの軌道の形は,図の(A)(B)(C)(D)を辿る。実際のH2分子の核間距離は0.074nmであり,この場合の分子軌道は(C)に相当する。この分子軌道は元々1個のHe原子核を包んでいた1s軌道だから,2個の1s電子は2個の核電荷から同じ影響を受けている。

1sの電子配置のH原子2個が,(D)の孤立した状態から近づいて接触した場合,2つの1sが重なり合って変形し,その過程で安定して436kJ/molも熱を放出する。(C)の状態では,どの電子がどの核に所属するかが決められなくなっている。即ち,電子2個は原子核2個に一様に束縛されている。これが分子を安定にしている主要な原因と考えられる。即ち,電子2個は原子核2個に共有され,2つのH原子は共有結合によって強く結び付けられている。

2分子の分子軌動と電子密度

 

分子の構造と結合  主な分子の構造定数

H2

直線

H-H 0.07414nm

CO2 直線

C-0 0.11600nm

H2O

V字形

0-H 0.09579nm

HOH104.50°

 

NH3

三角錐

N-H 0.1012nm

HNH106.7°

 

O2

直線

0-0 0.12075nm

N2 直線

N-N 0.10977nm

 

有機化合物の炭素原子間の結合

炭素原子間の単結合,二重結合,三重結合とその結合エネルギーは,炭素原子の価電子がつくるsp3sp2sp混成軌道を考える事で理解できる。

炭素原子間の結合

炭素原子間の
結合の名称

飽和結合

不飽和結合

単結合

二重結合

三重結合

ベンゼンの結合

共有結合の数

CC

CC

CC

CC

s 結合1

s 結合1

s 結合1

s 結合1

(sp3混成)

(sp2混成)

(sp混成)

(sp2混成)

p 結合1

p 結合2

p 結合0.5個相当

原子間距離〔nm

0.15

0.13

0.12

0.14

 

s 結合は,電子軌道2個の重なり方が大きく,分子軌道が1本の軸の周りに対称的に分布する結合で,当然結合エネルギーも大きい。p 結合は,1つの平面の両側にそれぞれ電子雲が分布する結合で,電子軌道2個の重なり方が小さく,s 結合より結合エネルギーが小さい。単結合はs 結合1個で形成されるが,二重結合・三重結合ではこれにp 結合が1個・2個加わって形成される。結合数の多い結合程結合力が強くなり,原子間距離が小さくなる。しかし,p 結合はs  結合より弱いので,結合エネルギーは単結合の2倍,3倍にはならず,それより小さい値となる。

ベンゼンC6H6の炭素原子間の結合は,単純な単結合でも二重結合でもない。この事は,分子が正六角形である事から証明される。もし,単結合と二重結合が交互に存在するとすれば,炭素原子間距離も,長いものと短いものが交互に存在する事になり,歪んだ六角形になる筈である。ベンゼンではp 結合が特定の原子間に固定されず,炭素原子間では平均して0.5個分のp 結合が存在するとみなせる。尚,結合エネルギーは,p 結合の0.5個分相当より大きくなるが,これはベンゼンが共鳴構造をとる為である。

 

アルカンの立体構造

アルカンの炭素原子の結合が正四面体の中心から頂点に向かう方向にある事は実験的事実である。また原子間の共有結合は,各々の原子の不対電子の軌道がよく重なり合う程結合が強い。この事から,アルカン中の炭素原子には,不対電子が4個あり,その方向は正四面体の中心から頂点に向かう線を軸とするものである事が分かる。

炭素原子の電子配置は,基底状態では2価で1s22s22p2だが,結合時には励起されて1s22s12p3となり,2s2pの軌道が混成して同等の4つのsp3混成軌道になると考えると,これらが上手く説明できる。この事は,量子化学的計算からも証明される。sp3混成軌道はエネルギー的には基底状態より高いが,化合物ができる時には,結合が2つより4つの方が安定になるので,結果としてこの様な混成が起こる。

CH4C3H8の構造定数は次の通りである。

CH4C-H 0.10870nmHCH 109.47°(正四面体)
C2H6C-C 0.15351 nmC-H 0.10940 nmCCH 111.17°(ねじれ形)
C3H8C-C 0.1532 nmC-H 0.1107 nmCCC112°HCH 107°

 

アセチレン分子の構造

三重結合をつくる炭素原子2個と,それに結合する原子2個は一直線上に存在する。この時炭素原子は,2s1つの2pとでsp混成軌道をつくり,他の炭素原子や水素原子との間でs 結合を行う。残った2つの2p軌道は,2個の炭素原子間で2対のp 結合を行う。結局,炭素原子間は1つのs 結合と2つのp 結合の三重の結合で結ばれる。



エチレンの分子構造

アルケンの二重結合をつくる炭素原子と,これに結合する原子は一平面上に存在し,結合角が120°になる事は実験的事実である。これは,炭素原子が励起されて1s22s12p3の電子配置となり,このうち2s2つの2p(例えば2px2py)sp2混成軌道をつくるとすれば上手く説明でき,数学的にも証明されている。

例えばエチレンでこの結合をみると,3つのsp2混成軌道のうち1つは他の炭素原子,残りの2つは水素原子と共有結合(s 結合)している。sp2混成軌道に加わらなかった1つの2p軌道(例えば2pz)は,2個の炭素原子間で共有結合(p結合)するので,炭素原子間はs 結合とp結合との二重の共有結合(二重結合)で結ばれる事になる。

C2H4の構造C=C 0.1339nmC-H 0.1087 nmCCH 121.3°,HCH 117.4°
C3H6の構造C=C 0.1341 nmC-H 0.1104 nm (ビニル基)0.1117 nm (メチル基)
CC 0.1506 nmCCC 124.3°,CCH 121.3°(ビニル基)110.7°(メチル基)

電気陰性度

共有結合の極性(イオン性)は,結合する2原子間の電気陰性度の差によって推定できる。Mullikenは,原子のイオン化エネルギーと,電子親和力の平均値をその原子の電気陰性度と定義した。しかし,歴史的にはPaulingが結合エネルギーから簡単な数値として求めた値がよく用いられる。

原子Aの電気陰性度を*A,原子Bの電気陰性度を*Bとし,ABが共有結合する時,ABの差が大きい程,結合の極性は大きくなる。したがって,この結合のイオン性も増大する。電気陰性度の差と結合のイオン性()の間には次表の関係がある。これを見ると,(AB)の値が1.7あたりで,イオン性が50(共有結合も50)になる。

 

電気陰性度の差と共有結合のイオン性()

*A-B

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

1.8

2.0

2.2

2.4

イオン性

1

4

9

15

22

30

39

47

55

63

70

76

 

分子の極性

分子の極性の大きさは,双極子モーメントmで表される。mは,正負電荷間の距離lと電荷量Qとの積l×Qで表される。

電気素量e4.8×1010Fr(フランクリン)であり,+eと−eの電荷が0.1nm隔てて対している時の双極子モーメントは次の様になる。

mQ l4.8×1010×108Frcm4.8 D1.6×1029 Cm

1018Frcm1D(デバイ)と呼び,双極子モーメントの単位に使われる。

1 D3.34×1030 Cm

テキスト ボックス: 双極子モーメント
分子	D	分子	D
HF 	1.83	H2O2 	1.57
HCl 	1.11	NO 	0.16
HBr 	0.83	NO2 	0.32
HI 	0.45	O3	0.53
H2O 	1.85	SO2 	1.63
H2S 	0.98	CH3Cl 	1.90
H2Se 	0.63	CH2Cl2 	1.62
NH3 	1.47	CHCl3 	1.04
PH3	0.57

分子の極性は,結合する2原子間の極性の他に,3原子以上の分子では,分子の形も関係してくる。個々の結合の双極子モーメントのベクトル和が分子の双極子モーメントになる。

したがって,対称性分子では,双極子モーメントが0になるものがある。メタン,二酸化炭素,三酸化硫黄等がその例である。

分子の形と双極子モーメント

 

分子間に働く力

あらゆる分子の間に引力が働く。この弱い引力はファンデルワールス力とも呼ばれ,その原因として次の3つの効果が考えられる。

(1) 配向効果  双極子モーメントを持つ極性分子の間には静電気的な力が働く。この力は,分子相互の位置と向きの関係より変化し,場合により引力にも反発力にもなる。しかし,平均すると引力になる。この様な双極子間の作用による引力を配向効果という。配向効果のエネルギーは,m 4r 6に比例 (mは双極子モーメント,rは分子間距離)する。

(2) 誘起効果  極性分子は他の分子(極性分子・無極性分子含む)を分極して双極子モーメントを誘起する。そして,この分子間で引力を生じる。この引力を誘起効果という。誘起効果のエネルギーは, am2 r6に比例(αは分子の分極率) する。

(3) 分散効果  希ガス分子は,双極子モーメントが無く,平均すると正電荷の重心と負電荷の重心は一致する。しかし,ある瞬間を考えると両者は一致せず,双極子となる。この瞬間的双極子間の相互作用による引力を分散力といい,その効果を分散効果という。分散効果のエネルギーは,a2 r6に比例する。分散力は,あらゆる分子間に働く。

ここで説明した3つの効果のうち,普通は分散効果の寄与が最も大きい。また,これらの効果は全てr6に比例 (イオン間ではr1に比例)し,遠距離では急激に弱くなる。尚,ファンデルワールス力は不対電子を持たない分子間力の引力の総称だが,一般に分散力を意味する。

 

分子の結合力と性質

分子性物質の融点・沸点は,分子間の結合力の大小によって大きく異なる。

一般には,分子量が大きい,極性がある,水素結合をする,等によって構成分子間の結合力が強くなり,融点・沸点は高くなる。

一方,融点は分子の形によっても大きく変わる。例えば,ベンゼンC6H6の融点は5.5°Cだが,これより分子量の大きいトルエンC6H5CH3の融点は,−94.99°Cであり,ベンゼンよりかなり低い。一般に,分子の形の対称性が高い程融点が高くなる。これは,分子が結晶をつくる時,密に詰まった結晶格子になり易いかどうかに分子の形が関係する為と考えられる。

 

分子量と融点・沸点(*2.63×104hPa)

分子

分子量

融点

°C

沸点

°C

双極子

モーメント

(D)

結合距離

H-X

〔×101nm

結合角

HXH

〔度〕

HF

20.0

-83

19.5

1.826567

0.9169

 

HCl

36.5

-114.2

-84.9

1.1086

1.2746

 

HBr

80.9

-88.5

-67

0.8271

1.4145

 

HI

127.9

-50.8

-35.1

0.4477

1.6090

 

H2O

18.0

0.00

100.00

1.8546

0.9579

104.50

H2S

34.1

-85.5

-60.7

0.978325

1.3366

87.77

H2Se

81.0

-65.73

-42

0.627

 

 

H2Te

129.6

-48

-1.8

 

 

 

NH3

17.0

-77.7

-33.4

1.471772

1.012

106.7

PH3

34.0

-133

-87

0.57397

1.411

93.45

AsH3

77.9

-117

-55

0.217

1.513

92.1

SbH3

124.8

-88

-17.1

0.116

1.704

91.6

CH4

16.0

-182.76

-161.49

0

1.0870

109.5

SiH4

32.1

-185

-111.8

0

1.4707

109.5

GeH4

76.6

-165

-90

0

1.5143

109.5

SnH4

122.7

-150

-52

0

1.6909

109.5

He

4.0

-272.2*

-268.934

0

 

 

Ne

20.2

-248.67

-246.05

0

 

 

Ar

39.9

-189.3

-185.8

0

 

 

Kr

83.8

-156.66

-152.3

0

 

 

Xe

131.3

-111.9

-108.1

0

 

 

水素結合

H原子を間に挟んで,ONF等電気陰性度の大きい原子が結び付く時,これを水素結合という。水素結合は,H原子がその電子を陰性の強い原子に引き付けられて裸の原子核(即ち陽子)に近い状態になり,この為強い静電場を生じ,他の陰性の強い原子の電子と引き合う為に生じると考えられる。

水素結合のエネルギーは数十kJ/mol程度で,普通の共有結合のエネルギー(数百kJ/mol)より小さい。しかし,ファンデルワールス力よりもかなり強い。同族元素の水素化合物のうち,HFH2ONH3の融点・沸点が異常に高く,蒸発熱が大きいのは,水素結合が分子間に存在する事の反映である。

酢酸は,蒸気中やベンゼン溶液中では2分子が会合して二量体となる。ギ酸も気体や液体中で二量体となる。これらは,結晶中では,水素結合で鎖状構造となる。

タンパク質や酵素の働き方を考える上で,水素結合の効果を無視できない。いわゆるタンパク質の変性は,水素結合の変化が原因となる立体構造の変化で生じる。

 

水素化合物の融点・沸点

タンパク質の水素結合

 

 

 

 

(HF)5の構造

分子結晶

二酸化炭素(ドライアイス)は,フアンデルワールス力によって無極性のCO2分子が結びついた分子結晶の例である。分子間の結合力が弱く,昇華し易い。

 

配位結合

三塩化ホウ素BCl3分子では,B原子はsp2混成軌道をとり,2pzの電子軌道は空になっている。一方,アンモニアNH3の分子は,非共有電子対を2pzの電子軌道にもつ。BCl3NH3が近づくと,Nの非共有電子対をB2pz軌道に与え,BNの間でその電子対を共有して結合を形成する。

この結合は共有結合そのものだが,一方の原子の非共有電子対を用いて共結合をしているので,その区別の意味で特に配位結合と呼ぶ。

ここで注意すべき事は,共有結合の極性を考える時,電気陰性度の差から生じる正負と逆になる場合があるという事である。BCl3Bには,Nから非共有電子対が入ってくるから電子は過剰になっており,NH3Nの周りの電子は不足している。したがって,BCl3は負,NH3は正になっている。

 

オキソニウムイオン

水和したプロトンをさす事が多く,普通H3Oで表され,ヒドロニウムイオン,ヒドロキソニウムともいう。水和が重要でない時には,単にHと表し,水素イオンと呼んでいる。

HH2O―→ H3O

非水溶媒,例えばメタノールやジメチルエーテルにHが結合して生じるCH3OH2(CH3)2OH等は,メチルオキソニウムイオン,ジメチルオキソニウムイオンとも呼ばれている。

HCH3OH―→CH3OH2

H(CH3)2O―→(CH3)2OH

水溶液中のHは,O原子の間を急速に移動し,個々のH3Oの寿命は10-13秒程度である。また,H3Oが水和したものも知られている。

 

水和水(結晶水)

結晶中に一定の化合比で含まれる水の事。結晶内で一定の位置を占め,その結晶格子の安定化に必要な水で,一定の温度範囲で一定の水蒸気圧を示す。熱すればある定まった温度で段階的に脱水が起こり,それに伴って結晶構造が変わる。

結晶水には,陽イオンと配位結合してアクア錯イオンをつくっている配位水,陰イオンと強く配位結合しているアニオン水,配位しないで結晶格子の空所を満たしている格子水等がある。例えば,CuSO4·5H2Oの水4分子は配位水,水1分子はアニオン水で,[Cu(H2O)4]SO4(H2O)とも表現できる。

 

錯イオン

中心の金属イオンに幾つかの分子またはイオンが配位結合し,1つの原子集団のイオンとなったものを錯イオンという。これらの分子またはイオンを配位子といい,配位子の数を配位数という。錯イオンは水溶液中で,構成イオンや分子に殆ど解離せず,1つのイオンとして働く。

錯イオンを形成する金属イオンは,主として遷移元素のイオンだが,マグネシウムやアルミニウム等も錯イオンをつくる。錯イオンの配位数は,金属元素の種類によって異なり,246等がある。

錯イオンの構造は直線形,正四面体,正八面体等,種々の形がある。また,配位子はNH3H2Oの様な分子か,CN-Cl-等の安定なイオンがよく知られている。どれも非共有電子対を持ち,その電子対によって中心金属と配位結合で結びつく。配位子が水分子の時は,この水を特に配位水といい,その水和錯イオンをアクア錯イオンと呼んでいる。例えば,次の様なアクア錯イオンがある。

[Ni(H2O)6]2[Co(H2O)6]2[Fe(H2O)6]2[Cu(H2O)4]2

したがって,これら金属イオンの水溶液の色は,イオンそのものの色ではなく,水分子が配位された状態のアクア錯イオンの色である。

配位子1個が金属原子と2箇所以上で結合し,金属原子を含む環状構造になる時,生成化合物をキレート化合物という。例えば,エチレンジアミン銅(U)錯塩[Cu{C2H4(NH2)2}2]2がこれにあたる。

キレート化合物は,金属イオンの分析に利用されるものがある。また,非電解質で水に溶けてもイオンにならないものも存在する。下に示す化合物もその例である。

錯塩,錯イオン,キレート化合物等を総称して錯体と呼ぶ。

錯イオンの例

中心イオン

d電子数

配位数

立体構造

Cr3

3

6

正八面体

[Cr(NH3)6]3

Fe2

6

6

正八面体

[Fe(CN)6]4-

淡黄

Fe3

5

6

正八面体

[Fe(CN)6]3-

Co2

7

6

正八面体

[Co(NH3)6]2

Co3

6

6

正八面体

[Co(NH3)6]3

Ni2

8

6

正八面体

[Ni(NH3)6]2

青紫

Cu2

9

4

正方形*

[Cu(NH3)4]2

深青

Ag

10

2

直線形

[Ag(NH3)2]

*[Cu(NH3)4]2は,更に水分子H2Oが結合して配位数56の構造になる為,実際の形は正方錐や歪んだ正八面体である事が多い。

 

参考 ウェルナーの配位説

錯塩の結合は,19世紀末頃まで説明がつかなかったが,1893Wernerがコバルトアンミンを研究して,解明の糸口を開いた。これをWernerの配位説という。

Wernerによれば,塩化コバルト(III)とアンモニアからなる配位化合物(高次化合物)をコバルトアンミンという。コバルトアンミンには,色の美しい化合物が多くあり,その色によって表の様に名がつけられていた。

これらのコバルトアンミンの水溶液に硝酸銀溶液を加えると,式中のClの数は同じでもAgClの沈殿量は異なるのである。

CoCl3 ·6NH3   からは 3AgClが沈殿

CoCl3 ·5NH3H2O からは 3AgClが沈殿

CoCl3 ·5NH3   からは 2AgClが沈殿

CoCl3 ·4NH3   からは 1AgClが沈殿

Wernerは,1887Arrheniusが発表した電離説を採用して,AgClとして沈殿するClCl-となっているもので,AgClとして沈殿しないものはCoと結合していると考えた。この考え方を基に,[Co(NH3)6]Cl3[Co(NH3)5H2O]Cl3[Co(NH3)5Cl]Cl2[Co(NH3)4Cl2]Clで表される式を導いた。

コバルトアンミン *は,上がトランス形,下がシス形

組 成 式

名称(名称の示す意味)

現在の式

CoCl3·6NH3

ルテオ塩(luteoは黄色)

[Co(NH3)6]Cl3

CoCl3·5NH3

赤紫

プルプレオ塩(purpureoは赤紫)

[CoCl(NH3)5]Cl2

CoCl3·4NH3*

プラセオ塩(praseo)

[CoCl2(NH3)4]Cl

CoCl3·4NH3*

ビオレオ塩(violeoは紫)

[CoCl2(NH3)4]Cl

CoCl35NH3H2O

ロゼオ塩(roseoは赤)

[Co(NH3)5(H2O)]Cl3

Wernerは,この様にして数個の分子や基(イオン)が中心原子と結合する事,即ち配位の考えを明らかにした。

 

結合エネルギー

分子内の各共有結合に対し,その結合を切断するのに必要なエネルギーを割り当てたものを,結合エネルギーという。

二原子分子では,その解離熱(原子化熱)から直接結合エネルギーが求められる。例えば, H-Hの結合エネルギーは,水素の解離熱から436kJ/molとなる。

H2()2H()436kJ

多原子分子では,単に全体としての解離熱は求められるが,個々の結合の解離エネルギーは場合により異なり,単純には決められない。例えば,水分子が順に解離する時のエネルギーは次の様になる。

  H-O-HH-OH499kJ
  H-O   HO 427kJ

    H-O-H2HO926kJ(2×463kJ)

そこで,同等の結合をもつ多原子分子では,便宜的に各結合解離エネルギーの平均をとって,これを結合エネルギーとしている。水分子のO-H結合では,463kJ/molが結合エネルギーとなる。同様に,C-HN-HS-H等の結合エネルギーは,CH4NH3H2S等の値から求められる。また,多種の結合からなる多原子分子では,全体の解離熱の値を基にして,既知の結合エネルギーの値を引いて未知の結合エネルギーを求める。

この様にして,多くの結合の結合エネルギーの値が求められるが,異なる化合物から求めた値は必ずしも一致せず,場合により大きく異なる事がある。例えば,C=Oの結合エネルギーは,ケトン類から求めると615kJ/molだが,CO2から求めると804kJ/molとなる。これは,CO2では単なる二重結合だけでなく幾つかの結合が関係して共鳴構造をとる為である。

この様に,結合エネルギーの値は,元々多くの物質の熱力学的数値を考察して得られたものであり,正確なものではない。したがって,結合エネルギーと反応熱を相互に求めさせる問題は,あくまでも結合と反応熱の関係を理解させる為のものであり,正確な計算には生成熱の値を用いる方がよい。

結合エネルギーの概念は,化学結合の強さを理解する為に大事であり,結合エネルギーが大きい程強く,その結合を切る為にはより多くのエネルギーが必要となる。

 

共有結合の結晶

巨大分子ともいう。有機高分子化合物も巨大分子だが,共有結合の結晶といえば,一般に無機物質の場合を指す。

単体の巨大分子には,立体的なものとしてはホウ素,ダイヤモンド,ケイ素等がある。平面構造を持つものとしては黒鉛,ヒ素等,鎖状構造を持つものにはセレン,テルル等がある。平面構造や鎖状構造の巨大分子では,分子間の結合力はファンデルワールス力であり,ダイヤモンドの様な典型的な共有結合結晶とは性質が異なり,軟らかく,融点も低い。

化合物の巨大分子としては,SiC炭化ケイ素やSiO2二酸化ケイ素等がある。

 

炭素

電子配置がと示され,陽イオンにも陰イオンにもなり難く,共有結合し易い。炭素原子同士が共有結合で長い鎖をつくり易く,これが有機化合物の炭素骨格である。炭素原子同士が共有結合で立体的に巨大分子を形成したものが炭素の単体であり,同素体としてダイヤモンド・黒鉛等が知られている。ここでは,有機化合物には触れず,主に炭素の単体を考える。

(a) ダイヤモンド C原子が他の4個のC原子と共有結合してできている等軸晶系の正八面体構造をもち(111)面の劈開が容易である。硬度10,密度3.51g/cm3で,屈折率はnD=2.417でガラスより大きい。白色または無色だが,着色したものも多い。空気中では710900℃で燃焼し,燃焼熱は396kJ/molである。酸や塩基に侵されない。

天然では,ダイヤモンドは超塩基性火成岩及びその分解物の蛇紋岩質角レキ岩中に産する。ダイヤモンドは,近年人工的に結晶を量産できる様になったが,大きいものでも約4mmで,用途は掘さく機,研摩剤である。炭化水素やアルコールを原料としてダイヤモンドの微粒子をつくる事もできる。

(b) 黒鉛  石墨ともいう。天然に産出するものは六方晶系で,鱗状,粒状,塊状となっている。硬度12,密度2.26g/cm3,ろう状の感触があって曲がり易い。酸には溶けない。

ダイヤモンドと黒鉛の構造

 

普通変成岩中に産する。即ち結晶質石灰岩,片岩,片麻岩,変成岩層から産出するが,火成岩中に産する事もある。インド,オーストラリア等がその産地である。現在では,人工的に多量につくられ,無煙炭,ピッチ等がその原料となる。

(c) 無定形炭素  コークス,ガス炭,木炭,ガスカーボン等は無定形炭素だが,これらは黒鉛と同じ六方平面格子が乱雑な配列をした小結晶の集まりである事が判ってきた。無定形炭素は黒色不透明で粗い感じがし,その表面積を広くしたものは,気体や液体や塩類をよく吸着する。

(d) フラーレン  C60分子の存在は,日本の大沢映二氏が1970年に最初に予想した。p 電子が3次元的に移動できる分子を考察している中で予想されたものである。しかし,C601985年に英米の化学者(H.W.Krotoサセックス大学()R.E.Smalleyライス大学() )の共同研究によって実際に発見された。2人はクラスターについて研究し,一連の物質をフラーレンと呼んだ。

クラスターとは,原子が数個〜数百個集まった集合体の事で,結晶や個々の原子・分子とは異なった性質を示す。真空中で黒鉛に強力なレーザーを照射すると炭素原子となって蒸発するが,真空中で炭素原子が集まると共有結合性の分子即ち炭素クラスターができる。Krotoたちは,炭素蒸気中に極微量のC60と共にC70を見い出し,サッカーボール・ラグビーボール型の分子を想定した。得られたクラスターは微量だったが,その大部分はC60だったという。

KrotoらはC60を検出したものの,これを単離できなかった。C60をグラム単位の量で取り出す事に成功したのは1990年で,W.Krätschmerマックスプランク核物理学研究所()D.R.Huffmanアリゾナ大学()の共同研究による。彼らは,ヘリウムガス中で黒鉛に電流を通じてすすをつくり,その中のベンゼンに溶ける成分をカラムクロマト法で分離して取り出した。

C60の正確な分子構造は,5Kに冷却した結晶の中性子回折により求められた。そして, 5角形12個と6角形20個からなるサッカーボール型である事が確定した。C60分子の直径は0.7nmで,分子内に金属イオンや小さい分子を取り込む余地が十分にある。その様な物質の研究が進んでいる。

C60は空気中で安定である。真空中では600°C以上に熱しても壊れないので,昇華法で精製する事ができる。C60が安定で反応性に乏しいのは,芳香族分子である事の他に,分子に端がない事が挙げられる。また,分子内の炭素原子が全て等価で,p 電子密度に偏りがない事も安定性に寄与している。

1990年以降では,ATTベル研究所が発見した,C60の超伝導性が目を引く。カリウムを添加したC6018Kに冷やすと電気抵抗が0になる。C60そのものは絶縁体だが,種々のアルカリ金属を添加すると,金属になったり超伝導体になったりするのである。この様に,黒鉛とC60は,共に不飽和の結合をもつ同素体であるが,その性質には大きな違いがある。

1996年度のノーベル化学賞は,フラーレンC60の発見に対して,サセックス大学のクロトー(),ライス大学のスモーリーとカール()3人に与えられた。

 

 








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