トップ化学II 改訂版1部 物質の構造>第1章 化学結合>1節 イオン結合

1節 イオン結合

 

 

化学結合と物質の性質

物質が示す固有の性質は,その物質を形成している化学結合の違いによる場合が多い。

 

電子殻

ラザフォードとボーアの原子模型では,原子核の周囲を回る電子が一定半径の球殻面にあると考えて電子殻と呼んだ。内側からKLMN,…殻と名付けられているが,これは量子力学における原子模型で,主量子数n1234,…に対応する。各電子殻にはそれぞれ電子軌道があり,spdfと名付けられているが,これは方位量子数l0123,…に対応する。主量子数nの電子殻には,ln1までのn種類の電子軌道が存在する。また,方位量子数lの電子軌道は,磁気量子数mlによって更に2l1種類に分かれる。例えば,p軌道はl1に相当し,3(=2×11)種類に分かれ,pxpypzの様に区別される。そして1個の電子軌道は2個まで電子を収容できる。

したがって,主量子数nに収容できる電子数は次の様になる。

 

方位量子数

磁気量子数による軌動数道数

収容電子数

l0

 

2×011

 

1×22

l1

2×113

3×26

 

 

 

ln-1

 

n-1+1=2n-1

 

2n-1×2=4n-2

n種類

 

合計 n2

 

計 2n2

 

 

 

 

 

 

電子殻と電子軌道,及び収容電子数

電子殻

K

L

M

N

O

P

Q

電子軌道

1s

2s

2p

3s

3p

3d

4s

4p

4d

4f

5s

5p

5d

5f

5g

6s

6p

6d

6f

6g

6h

7s

電子軌道数

1

1

3

1

3

5

1

3

5

7

1

3

5

7

9

1

3

5

7

9

11

1

最大電子数

2

2

6

2

6

10

2

6

10

14

2

6

10

14

18

2

6

10

14

18

22

2

 

電子配置

一般に,原子番号Zの原子にはZ個の電子がある。これらの電子が,原子の各電子軌道にどの様に配置されるかは,次の様な原理や法則による。

まず,「1つの電子軌道には,2個の電子しか入ることができない」。これをパウリの原理という。量子力学によれば,電子の持つスピンに2種類あり,同一の電子軌道にはスピンの異なる電子が1対しか入れないという原理である。

更に,「電子はエネルギーの低い電子軌道から順に満たされる」という法則がある。一般に,内側にある電子殻の電子軌道程エネルギーが低い。同じ電子殻では,方位量子数lが小さい程エネルギーが低く,sp,…の順に電子が配置される。また,lの値が同じ電子軌道では,電子は異なる電子軌道に順に配置される。例えば,N原子の2p軌道の電子配置はpx1py1pz1となる。これは,同一の電子軌道に入るより電子間の反発が小さい為と考えられる。

次に,電子軌道も考えた1H20Caの電子配置の順を示す

 

最外殻電子と原子の性質

元素の化学的性質の類似性は,最外殻電子の配置の類似性から説明できる。即ち,反応に関係するのは最外殻電子であり,その配置が似ている元素は同様の性質を示す。どの元素が類似した性質を持つかを生徒に考えさせ,周期律の学習の準備としたい。

 

原子やイオンのモデル

教科書に示した様な原子やイオンのモデル図を,ボーアの原子模型という。原子核と電子の間には,距離の2乗に反比例する静電気力が働いている。これは,太陽と惑星の間に働く引力の関係と同じである。したがって,惑星と同様に電子も原子核の周りを回っていると考えられる。ところが原子の示すスペクトルを説明するには,この模型では不十分だった。即ち,古典力学の考え方では,電子がスペクトルに示す光を放射するとエネルギーを失って速度が遅くなり,やがて電子と原子核が結合して,安定な原子は存在できなくなる。この矛盾を解決する為,ボーアは特別の模型を導入した。例えば,水素原子は,陽子1個と電子1個からできているが,この電子はある特別の軌道上しか運行せず,それ以外の軌道はとれないと考えた。原子核に最も近い軌道の半径をrとすると,その外側にある軌道の半径は,22r32 r42 r,…であるとした。電子はこれらの軌道間を移りかわり,その時固有のスペクトルを示すと考え,スペクトルを定量的に説明した。彼が計算で求めた水素のスペクトルの波長は,実測値と完全に一致した。この考え方は,その後の量子力学の発達によって更に発展した。

 

イオン化エネルギー

気体状態の単原子または分子の基底状態,即ち最もエネルギーの低い状態から,電子1個を無限大の距離に引き離して陽イオンにする時に必要なエネルギーを,原子または分子のイオン化エネルギーという。このエネルギーを電子ボルト単位(eV)で示して,イオン化ポテンシャルと呼ぶこともある。また,この電子1個の場合を特に第一イオン化エネルギーといい,更に電子を次々に引き離していくとき必要なエネルギーを,第二イオン化エネルギー,第三イオン化エネルギー,と呼ぶ。イオン化エネルギーは,元素の周期律を考察するよい例である。

 

イオン化エネルギー(eV) 1eV23.0605kcal/mol96.4853kJ/mol

IIIは,第一イオン化エネルギー,第二イオン化エネルギー・・・を示す

原子

番号

元素

I

II

III

 

原子

番号

元素

I

II

III

 

1

H

13.598

 

 

 

36

Kr

13.999

24.359

36.95

2

He

24.587

54.416

 

 

37

Rb

4.177

27.28

40

3

Li

5.392

75.638

122.451

 

38

Sr

5.695

11.030

43.6

4

Be

9.322

18.211

153.893

 

39

Y

6.38

12.24

20.52

5

B

8.298

25.154

37.930

 

40

Zr

6.84

13.13

22.99

6

C

11.260

24.383

47.887

 

41

Nb

6.88

14.32

25.04

7

N

14.534

29.601

47.448

 

42

Mo

7.099

16.15

27.16

8

0

13.618

35.116

54.934

 

43

Tc

7.28

15.26

29.54

9

F

17.422

34.970

62.707

 

44

Ru

7.37

16.76

28.47

10

Ne

21.564

40.962

63.45

 

45

Rh

7.46

18.08

31.06

11

Na

5.139

47.286

71.64

 

46

Pd

8.34

19.43

32.93

12

Mg

7.646

15.035

80.143

 

47

Ag

7.576

21.49

34.83

13

Al

5.986

18.828

28.447

 

48

Cd

8.993

16.908

37.48

14

Si

8.152

16.345

33.492

 

49

In

5.786

18.869

28.03

15

P

10.486

19.725

30.18

 

50

Sn

7.344

14.632

30.502

16

S

10.360

23.33

34.83

 

51

Sb

8.641

16.53

25.3

17

Cl

12.967

23.81

39.61

 

52

Te

9.009

18.6

27.96

18

Ar

15.760

27.629

40.74

 

53

I

10.451

19.131

33

19

K

4.341

31.625

45.72

 

54

Xe

12.130

21.21

32.1

20

Ca

6.113

11.871

50.908

 

55

Cs

3.894

25.1

 

21

Sc

6.54

12.80

24.76

 

56

Ba

5.212

10.004

 

22

Ti

6.82

13.58

27.491

 

57

La

5.577

11.06

19.175

23

V

6.74

14.65

29.310

 

58

Ce

5.539

10.85

20.20

24

Cr

6.766

16.50

30.96

 

59

Pr

5.464

10.55

21.62

25

Mn

7.435

15.640

33.667

 

60

Nd

5.525

10.72

 

26

Fe

7.870

16.18

30.651

 

61

Pm

5.582

10.90

 

27

Co

7.864

17.06

33.50

 

62

Sm

5.644

11.07

 

28

Ni

7.635

18.168

35.17

 

63

Eu

5.670

11.25

 

29

Cu

7.726

20.292

36.83

 

64

Gd

6.150

12.1

 

30

Zn

9.394

17.964

39.722

 

65

Tb

5.864

11.52

 

31

Ga

5.999

20.51

30.71

 

66

Dy

5.939

11.67

 

32

Ge

7.899

15.934

34.22

 

67

Ho

6.022

11.80

 

33

As

9.81

18.633

28.351

 

68

Er

6.108

11.93

 

34

Se

9.752

21.19

30.820

 

69

Tm

6.18

12.05

23.71

35

Br

11.814

21.8

36

 

70

Yb

6.254

12.17

25.2


尚,溶液中で金属が陽イオンになる時は,イオン化エネルギーの他,金属から原子を引き離す昇華熱や溶媒和のエネルギーも関係してくるので,金属のイオン化傾向とイオン化エネルギーを混同しない様に注意が必要である。

 

電子親和力

気体状態の単原子が電子1個を受け取るとき放出するエネルギーを,その原子の電子親和力という。この考え方は,分子にも適用される。理論的には原子または分子Aのエネルギー値と,陰イオンA-のエネルギー値の差と考えられ,量子力学的計算もこの考え方で行われている。

電子親和力の値は,実験から直接得られるものは少なく,他の物理化学的な測定値から計算によって求められる場合が多い。その為,どんな種類の実験に基づくかによって,同一原子の電子親和力の値に多少の違いがある。

 

 

電子親和力eV1eV23.0605kcal/mol96.4853kJ/mol

原子

番号

元素

電子親和力

 

原子

番号

元素

電子親和力

 

原子

番号

元素

電子親和力

1

H

0.754209

 

26

Fe

0.163

 

51

Sb

1.07

2

He

0

 

27

Co

0.661

 

52

Te

1.9708

3

Li

0.6180

 

28

Ni

1.156

 

53

T

3.0591

4

Be

0

 

29

Cu

1.228

 

54

Xe

0

5

B

0.277

 

30

Zn

0

 

55

Cs

0.471630

6

C

1.2629

 

31

Ga

0.30

 

56

Ba

0

7

N

-0.07

 

32

Ge

1.2

 

57

La

0.5

8

O

1.4611215

 

33

As

0.81

 

5871

 

 

9

F

3.399

 

34

Se

2.02

 

希土類

0.5

10

Ne

0

 

35

Br

3.365

 

 

 

11

Na

0.54793

 

36

Kr

0

 

72

Hf

0

12

Mg

0

 

37

Rb

0.48592

 

73

Ta

0.322

13

Al

0.441

 

38

Sr

0

 

74

W

0.815

14

Si

1.385

 

39

Y

0.307

 

75

Re

0.15

15

P

0.7465

 

40

Zr

0.426

 

76

Os

1.1

16

S

2.077120

 

41

Nb

0.893

 

77

Ir

1.565

17

Cl

3.617

 

42

Mo

0.746

 

78

Pt

2.128

18

Ar

0

 

43

Tc

0.55

 

79

Au

2.30863

19

K

0.50147

 

44

Ru

1.05

 

80

Hg

0

20

Ca

0

 

45

Rh

1.137

 

81

Tl

0.2

21

Sc

0.188

 

46

Pd

0.557

 

82

Pb

0.364

22

Ti

0.079

 

47

Ag

1.302

 

83

Bi

0.946

23

V

0.525

 

48

Cd

0

 

84

Po

1.9

24

Cr

0.666

 

49

In

0.3

 

85

At

2.8

25

Mn

0

 

50

Sn

1.2

 

86

Rn

0

 

 

原子とイオンの大きさ

原子の大きさは,化学結合や化合物の種類によって同一原子でも異なる。したがって,一定の大きさがあるわけではなく,どんな状態での値かを示し,他の原子と比べる時も,似た状態で行う。一般には,最外殻電子の存在する電子殻の種類と,原子核の正電荷の大きさに関係する。最外殻がより外側にある程原子は一般に大きくなり,同一の最外殻ならば核電荷が大きい程原子は小さくなる。したがって,同族元素では原子番号が大きい程,同周期元素では原子番号が小さい程原子は大きくなる。

イオンの大きさも,原子と同様に状態によっても異なる。また,同一原子のイオン半径は,陽イオンではイオンの価数が小さい程,陰イオンではイオンの価数が大きい程,大きくなる事が定性的に確かめられている。これは,陽イオンは最外殻の電子を放出して,陰イオンは最外殻に電子を受け入れて生成じる為である。したがって,陽イオン<原子<陰イオン,の順に大きくなる。

 

イオン半径

金属原子が最外殻電子全部を失って陽イオンになるとき,イオンの最外殻は原子より1つ内側になるので,原子半径に比べて陽イオン半径はかなり小さくなる。同族元素では,原子半径と同様の理由で,原子番号が大きくなる程イオン半径は大きくなる。また同一周期の元素では,イオンの電子配置は同じで原子核の正電荷が異なるから,核の正電荷が大きく電子を強く引きつけるイオン,即ち原子番号の大きい元素のイオン程半径が小さくなる。

例 Na+0.116nmMg2+0.086nmAl3+0.068nmSi4+0.054nm

原子の最外殻に電子が入ると,希ガスと同じ電子配置の陰イオンが形成される。同族元素の陰イオンでは,原子や陽イオンと同様の理由で,原子番号が大きい程イオン半径が大きくなる。同一周期の陰イオンでは,陽イオンと同様の理由で,原子番号が大きい程イオン半径が小さくなる。

例 P3-0.198nmS2-0.170nmCl-0.167nm

イオン結合

電荷Q1C〕をもつ陽イオンと電荷Q2C〕をもつ陰イオン間の引力は,イオン間距離をrとすると,クーロン力Q1Q2/r2またはポテンシャル(エネルギー)Q1Q2/ rに比例する。また,イオンが相互に接近し過ぎると,原子核間の反発力が目立ってくる。この反発ポテンシャルは,ber /aの形で表される(abは定数)。したがって,引力と反発力の和を計算すると,イオン結合のポテンシャルエネルギーが求められる。

 

イオン結晶の格子エネルギー

イオン結晶のイオン間の結合エネルギーは格子エネルギーと呼ばれ,結晶1molをばらばらの構成イオンにするとき必要なエネルギーで表される。

格子エネルギーの大きさは,当然,結晶の融点に関係する。次の表にその値を示し,NaCl1とした格子エネルギーの比を示す。

イオン結晶の溶解熱は,その結晶の格子エネルギーとイオンの水和熱の差として,大まかな値を知ることができる。

格子エネルギー〔kJ/mol〕と融点〔°C 全てNaCl型結晶

化合物

イオン

イオン半径

中心間距離

格子エネルギー

kJ/mol〕とその比

融点

°C

〔×10-1nm

〔×10-1nm

NaCl

Na+
Cl-

1.16
1.67

2.827

771

1

801

KCl

K+
Cl-

1.52
1.67

3.188

701

0.909

770

NaI

Na+
I
-

1.16
2.06

3.421

697

0.904

651

MgO

Mg2+
O2-

0.86
1.26

2.016

3760

4.877

2826

CaO

Ca2+
O2-

1.14
1.26

2.330

3371

4.372

2572

BaO

Ba2+
O2-

1.49
1.26

2.734

3019

3.916

1918

(1920)

 

 








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