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付録4 気体の性質

 

水素

 水素には,軽水素1H(プロチウム),重水素2H(ジュウテリウムD),三重水素

3H(トリチウムT)3つの同位体が存在する。その質量存在比は,

1HDT11.6×1041.0×1018

である。水素の同位体は,他の元素の同位体に比べて質量比が大きく,1H2D2

物理的性質にかなり差がある(下表)(液体水素を−259.06(三重点)で分留すると,

重水素D2が得られる。

1H2D2の物理的性質

 

H2

D2

比重(空気=1)

0.0659

沸点

252.7

249.5

三重点

71.75hPa

171.6hPa

259.06

254.4

臨界温度

239.9

232

臨界圧

13152hPa

19150hPa

融解熱

117J/(molg)

218J/(molg)

 

 水素は,H2分子として存在し,室温・常圧で最も軽い物質である。紫外線など

の光エネルギーを与えると解離して,反応性に富む原子状水素になる。

   H22H436kJ

 水素は,室温では比較的安定な気体で,F2以外とは直接反応しない。光を当て

るとCl2とも反応する。高温にすると,ほとんどの元素と直接反応する。

 水素と酸素との体積比21の混合気体を爆鳴気といい,点火すると爆発的に化

合する。この反応は高温(2700)が得られるので,酸水素炎に用いられる。

   2H2O22H2O572kJ

 水素は,非金属性元素とは共有結合で分子性化合物をつくる。電気陰性度が小さ

い金属元素とは水素化物イオンH-となってイオン性化合物をつくる。

 工業的には,水の電解,水性ガスの変性,鉄と水蒸気の反応,また石油類のガス

化,などで製造されている。

 

塩素 1774年,スウェーデンの化学者シェーレK.W.Scheeleは,軟マンガン

MnO2·nH2Oに塩酸を作用させて,初めて塩素をつくった。現在では塩化ナト

リウム水溶液の電気分解で製造されている。塩素は天然には単体として存在しな

いが,化合物としてはNaKMgCaなどの金属化合物として広く多量に存在し,

その種類は非常に多い。海水は塩素の宝庫であるが,岩塩には,NaClの他

に,CaSOCaCl2MgCl2KClなどを含んでいるものが多い。

 塩素の単体は,融点−100.98℃,沸点−34.6℃で,室温では黄緑色・刺激臭を

もつ重い気体できわめて有毒である。液体は淡黄色,固体は黄白色である。

 

塩化水素 天然には火山の噴出ガス中に存在する。また,ヒトの胃液中にも塩

酸として存在する。かなり液化しやすい気体で,臨界温度は51.4℃,臨界圧力は

84100hPaである。湿った空気中で発煙し,水によく溶けて塩酸となる。アンモニア

にあうと塩化アンモニウムの白煙を生じる。

  市販の塩酸は,およそ37.2%,密度1.19g/cm3の塩化水素水溶液であり,濃度

c〔%〕と密度dg/cm3〕との関係は,c200(d1)のようになる。

  20.24%の塩酸(6mol/l)は常圧で110℃の沸点を示す。そして,これより

濃度が大きくても小さくても,塩酸の沸点は下がる。この20.24%以上の濃度の塩

酸を濃塩酸と呼んでいる。塩酸は代表的な強酸で,その電離度は約1である。

  塩化水素の工業的製法では,下図のように,塩素と水素を直接化合させる。

H2Cl22HCl

  わが国での塩酸の生産量は約240.85t (1998)で,その主な用途は,食料品

(L−グルタミン酸ナトリウム,しょうゆ)の製造や,化学工業,製鉄工業などである。

 

酸素(沸点−182.96℃,融点−218.4℃)

典型的な非金属元素である。原子の最外殻の電子配置はで,分子をつくる

ときは最外殻の電子数が8個になる安定な化学結合をしており,00で表

される。また,の電子配置をとる状態も考えられる。これらの電子

配置は02N2に比べて他の元素と反応しやすいことを説明するのに役立つ。

 酸素は化学的に活発で,ハロゲン,希ガス,白金,金,銀以外の元素を直接酸化

する力をもつ。このとき,一般に発熱し,燃焼,爆発に至ることもある。

 酸素は,主に液体空気の分留で得られ,液体や固体は淡青色である。液体酸素は

常磁性のため,ネオジム磁石(など強い磁石)に引きつけられる。

 

オゾン(沸点−111.3℃,融点−193℃)

 酸素の同素体で,空気または酸素中の無声放電で製造されている。

   3O22O3286kJ

 気体は淡青色,液体は黒青色,固体は暗紫色で,特有の生臭いにおいをもつ。

酸素は常磁性体であるが,オゾンは反磁性体である。

 オゾンは光,熱などで分解して酸素になり,強い酸化作用を示す。そのため,殺

菌,漂白などに用いられている。

 

さらし粉

 さらし粉は,消石灰粉末に塩素ガスを通じて製造される。

   2Ca(OH)22Cl2Ca(ClO)2·CaCl2 · 2H2O138kJ

 主成分はCaCl(ClO)· H2Oの複塩で,Ca(OH)2などが不純物として含まれてい

る。カルキ,クロル石灰などともよばれ,有効塩素量3537%で漂白剤,殺菌剤,

消毒剤などに用いられている。さらし粉は過去大量に使用されていたが,不安定で

あること,沈殿物が生じやすいことなど不便な点があり,近年はさらし液や高度さ

らし粉に置き換えられている。さらし液は,石灰乳に塩素ガスを通じたもので,液

体として用いられる。高度さらし粉は,濃い石灰乳に塩素ガスを通じ析出する

Ca(ClO)2をろ別したものである。

 

硫化水素(融点−85.5℃,沸点−60.7℃)

 無色・腐卵臭の悪臭をもつ気体。分子は二等辺三角形で∠H-S-H92°。水に

溶けた硫化水素水は弱酸で,電離度は約0.07%である。

   H2SH+HS    HSHS2

 硫化水素水を空気中に放置すると,空気中の酸素によって徐々に酸化され,硫黄

を遊離する。これは硫黄よりも酸素のほうが水素と化合しやすいためである。また,

硫化水素水を熱したり,過マンガン酸カリウムや二クロム酸カリウムの酸性溶液

あるいは硝酸などと反応させれば,硫黄を析出する。

   3H2S8HClK2Cr2O72KCl2CrCl37H2O3S

 これらの変化は,硫化水素に還元作用があるため起こる。このほか,濃硫酸を分

解させたり,ハロゲンと反応したりする性質も,すべて硫化水素の還元作用による。

   H2SO4H2SSO22H2OS

   SO22H2S2H2O3S    Cl2H2S2HClS

 

二酸化硫黄

気体を亜硫酸ガスという。工業的には硫黄の燃焼,実験室では銅と濃硫酸で加熱

するか亜硫酸水素ナトリウムに強酸を加えて発生させる。無色で刺激臭の気体(

点−75.5℃,沸点−10)。溶解度10.5g/100g(20)。水溶液中には亜硫酸を含

み,還元性を示し,漂白に用いられる。

 

窒素(融点−209.86℃,沸点−195.8)

 窒素N2は空気中に多量に含まれ,安定である。酸素など他の元素との親和力は

小さい。一方,アンモニウム塩や硝酸塩あるいは尿素など重要で多量に消費される

窒素化合物があるので,古くから「空中窒素の固定」は重要な課題であった。地殻

中にはチリ硝石NaNO3,硝石KNO3など硝酸塩の形で存在している。

 硝酸塩は,化学的に活発であり,たとえば,黒色火薬は次式のように爆発する。

   3CS2KNO3K2S3CO2N2

 近年,大気汚染あるいは光化学的大気汚染が問題になっているが,これは,エン

ジンの排ガス中の窒素酸化物,あるいはそれが光エネルギーを受けて生じるオキシ

ダントが原因となっている。

 

窒素酸化物

 窒素の酸化物には,一酸化二窒素N2O,一酸化窒素NO,三酸化二窒素N2O3,二

酸化窒素NO2(低温・液体では二量体の四酸化二窒素N2O4),五酸化二窒素N2O5

どが知られている。

 N2Oは麻酔性があり,これを吸入すると笑いの表情を起こすので笑気ともよぶ。

室温では安定である。300℃以上でN2O2に分解し始め,酸化剤となる。

 NOは空気中で酸化されやすく,NO2になる。高温では分解してN2N2OO2

生じる。

 N2O3は分解しやすく,気体ではNONO2の平衡混合物になると考えられる。

水溶液では亜硝酸となり青色となるが,さらに分解して硝酸とNOを生じる。

 NO2は空気中では比較的安定であるが,高温ではNOO2に分解する。水に溶

けると,亜硝酸と硝酸を生じる。酸化剤となる。

 N2O5は室温でもNO2O2にゆっくり分解する。水に溶けると硝酸になる。固

体中では,NO2NO3になっている。強い酸化剤になる。

 

窒素酸化物の性質

酸化物

N2O

NO

N2O3

NO2  (N2O4)

N2O5

融点〔℃〕

90.8

163.6

102

9.3

30

沸点〔℃〕

88.5

151.8

3.5分解

21.3

分解4550

()

赤褐()

赤褐()

 

 

(液,固)

(液,固)

(),無()

 

水溶性

微溶

不溶

溶,分解

溶,分解

溶,分解

生成熱

82.05()

90.25()

83.72()

33.18(NO2)

11.3()

kJ/mol

 

 

50.3(液〉

9.16(N204)

43.1()

 

 

アンモニア

アンモニアは,きわめて水に溶けやすい。アンモニア水は濃度が大きくなるほど
密度が小さく,軽くなる特色がある。アンモニアは凝縮しやすく,0℃,4256hPa
あるいは33℃,1013hPaで凝縮する。液体アンモニアは蒸発熱が大きいため
(23.35kJ/mol)
,製氷などに利用されている。また,アンモニアは水と似た極性分
子であり,液体アンモニアは溶媒としても使われている。

市販のアンモニア水は約28%水溶液(比重0.9014.76mol/l)である。

アンモニアの空気中の発火点は651℃で,酸素中では黄色の炎をあげて燃え,
窒素と水を生じる。

4NH33O22N26H2O
また,いろいろの金属と反応し,ナトリウムとはナトリウムアミドNH2Naを,

マグネシウムとは高温で窒化マグネシウムMg3N2を生じる。

2NH32Na2NH2NaH2

2NH33MgMg3N23H2

ハロゲンと反応すると,窒素を遊離する。

8NH33Cl2N26NH4Cl

酸とはアンモニウム塩をつくり,金属イオンとは錯イオンをつくることが多い。
アンモニアの存在は,17mg/m3でも臭気によって感知される。

アンモニアの合成法には,装置や触媒,反応温度の違いで様々な方法がある。
一般に30398hPaでの合成では,1tの触媒で1日あたり1020tのアンモニアが得
られ,その寿命期間中に合計200010000tのアンモニアを合成することができる。
触媒はFe25%のAl2030.51%のK2Oとさらに石灰を加え,36メッシュに

したものが使われている(1998年の生産高約168.94t)

全圧1013hPaでのNH3の溶解度〔wt

温度〔

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

溶解度

47.3

40.6

34.6

29.1

24.0

19.0

14.4

10.0

6.1

2.9

0

アンモニア水の濃度wtと密度g/cm3(25)

濃度

0

1

2

4

6

8

10

12

14

16

密度

0.997

0.993

0.988

0.980

0.972

0.964

0.956

0.948

0.941

0.934

 

炭素酸化物

 二酸化炭素CO2は昇華点−78.5℃の無色気体。三重点は,−56.6℃,5269hPa

である。固体はドライアイスといわれ冷媒に用いられる。水に少し溶け弱酸性を示

す。水100gへの溶解度は,0℃で0.3346g20℃で0.1688g40℃で0.0973g

である。濃度が大きくなると窒息するが毒性の仕組みはまだわかってない。

 一酸化炭素COは,融点−205.0℃,沸点−191.5℃の無色気体。水100gの溶

解度は,0℃で0.0044gであり,ほとんど溶けない。引火性で,還元剤となる。

有毒で,濃度500ppm以上では危険である。メタノールの合成原料や,金属酸化

物の還元剤として用いられている。ギ酸に濃硫酸を加え熱するとCOが発生する。

   HCOOHCOH2O

 

アルケンの製法
 エチレンやプロピレンは,主にナフサの熱分解で合成している。主反応は,アル
カンの分解および脱水素反応である。
 (1) C4Hl0CH2=CH2C2H6  (分解反応の例)
 (2) C2H6CH2=CH2H2   (脱水素反応の例)
 (1)の反応は約80kJ/molの吸熱反応で,平衡は300°C以上で生成系に有利となる。
 (2)の反応は約120kJ/molの吸熱反応で,平衡は670°C以上で生成系に有利となる。
 実際の反応は,7001400°C,常圧で行われ,種々のアルケンやアセチレンが生じ

る。生成物は急冷され,低温加圧蒸留でそれぞれの成分に分離精製される。

日本のエチレン生産(1998)707.55tで,その半分はポリエチレン製造に

用いられる。そのほか,塩化ビニル,アセトアルデヒド,エチレンオキシド,エチ

レングリコール,スチレンの製造原料などに利用されている。
プロピレンの用途は,ポリプロピレン,アクリロニトリルなどである。

アセチレンの性質
 融点−81.8°C,沸点−74°Cの気体。分子は直線構造で,CC0.12024nmC-H
0.10625nmである。無色無臭であるが,カーバイドから発生させたものはホスフィ
ンなどを含むので悪臭をもつ。加圧下では単体に分解して爆発しやすい。アセチレ
ンは,溶接切断用やクロロプレンなどの原料に用いられている。

アセチレンの反応
 不飽和結合(三重結合)による付加反応を起こしやすい。水素,ハロゲン,ハロ
ゲン化水素との付加反応は,2段階に起こる。
   CHCHH2CH2CH2
   CH2CH2H2CH3-CH3  (触媒NiPtPdなど)
 水銀(U)塩を触媒として水を付加させると,アルデヒドになる。
   C2H2H2OCH3CHO
 オゾンと反応するとオゾニドを生じこれを水で分解するとカルボン酸となる。
   C2H2O3H2O2HCOOH
 加熱あるいは触媒の作用で付加重合を行う。

   3C2H2C6H6  (ベンゼン)
 ドイツのレッペは,第2次世界大戦中に,高圧アセチレンを用いた合成反応を研

究し,30000hPa以下,100200°Cの条件でいろいろな化合物を合成することに成功

した。これらの合成反応をレッペ反応といい,ビニル化,エチニル化,環化重合,

カルボニル化などがある。

ビニル化の例;C2H2ROHCH2=CH-OR (触媒アルカリ)

カルボニル化の例;C2H2COROHCH2=CH-COOR  (触媒NiBr2)

アセチレンのH原子は,種々の金属で置換されてアセチリドをつくる。アルカ
リ金属や,アルカリ土類金属とは加熱するとアセチリドになる。
   C2H22MM2C2H2 (Mはアルカリ金属)
 銀や銅(I)は,そのアンモニア性溶液にアセチレンを作用させると,アセチリドを
生じ,これらのアセチリドを乾燥させたものには爆発性がある。
   C2H22[Ag(NH3)2]Ag2C22NH4
 アセチレンの検出は,臭素水や過マンガン酸カリウム溶液の脱水で行うが,これ
らは他の不飽和結合と同じであるので,独自の検出法としては銀や銅のアセチリド
の沈殿反応を用いる。銀では白色であるが,銅では赤褐色沈殿が生じる。


 

 








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