付録3 試薬のつくり方
►硫酸の製法
工業的な硫酸の製造では,硫黄や硫化鉄鉱を燃焼させてSO2とし,これを触媒
を用いて酸化しSO3にする。SO3は98〜99%の濃硫酸に吸収させて,さらに濃い
濃硫酸(または発煙硫酸)にした後,希釈して95〜98%の濃硫酸にする。この方法
を接触法という。
接触法で触媒を用いるのはSO3の生成速度が小さいためである。触媒は,過去
には白金石綿(白金塩をアスベストにしみこませて焼いたもの)が使われていたが,
現在では酸化バナジウム(V) V205(V205とK2SO4,SiO2などが含まれており,V205
5〜9%,K2O 9〜13%,Na2O 1〜5%,SO310〜30%,その他はSiO2の組成)が用
いられている。触媒の反応機構は次のように考えられている。
V2O5+SO2→V2O4+SO3
V2O4+2SO2+O2→2VOSO4(硫酸バナジル)
2VOSO4→V2O5+SO2+SO3
硫酸の製法には,このほか酸化窒素を触媒とする硝酸法(鉛室法)もあるが,接触
法のほうが高純度・高濃度の硫酸が得られるので,最近ではほとんど接触法により
生産されている。硝酸法の主反応は,次のようになる。
SO2+H2O→H2SO3 H2SO3+2HNO2→H2SO4+H2O+2NO
4NO+O2→2N2O3 2H2SO4+N2O3→2NOHSO4+H2O
NOHSO4+H2O→HNO2+H2SO4
►硫酸
H2SO4なる化学式で表される純物質またはその水溶液を硫酸という。100%硫酸
に三酸化硫黄SO3を溶かしたものを発煙硫酸という。また,通常90%以上のもの
を濃硫酸といい,これよりずっと低濃度のものを希硫酸という。
市販の濃硫酸は96%(密度1.84g/cm3,約18mol/l)が普通である。
100%の純硫酸は無色粘性の油状液体で,密度1.826g/cm3(25℃),融点10.36
℃である。熱すると,約290℃でSO3を放って分解し始め,317℃で共沸混合
物(濃度98.5%)となる(共沸点338℃というデータもある)。
濃硫酸を水に溶かすと多量の熱を発生して溶ける。希硫酸は強酸であり,硫酸は
化学工業をはじめ広く用いられている(1998年の生産高約673.90万t)。
►硝酸
硝酸は,無色・揮発性の刺激臭の強い液体で,熱や光のために分解してNO2が
でき,これが硝酸中に溶けるので黄味を帯びる。特に,熱すると分解しやすく,
酸素を発生する。還元剤が共存しておれば室温でも容易に分解する。
4HNO3→4NO2+2H2O+O2
工業的には,硝酸は,アンモニアの酸化でNOをつくり,これがO2とH2Oによ
りHNO3に変わるので,結局,空気と水とから硝酸が得られることになり,化学工
業界で画期的な改革がなされた(1998年の生産高約64.36万t)。
オストワルト法の製法を詳しくみると,次のようである。
(1) 体積で約10%のアンモニアを含む空気を白金触媒(通常ロジウム10%を含む
合金で用いる)に通す。NO生成反応はきわめて速く完結する。
4NH3+5O2→4NO+6H2O+1169kJ
(2) 得られた生成物を冷やし,生成水分は希硝酸として分離する。さらに空気を加
えて酸化する。平衡的には,NOの生成する800℃の温度ではNO2はほとんど
存在しないが,100℃程度になればNO2が大部分になり,反応は完結する。
2NO+O2→2NO2+114kJ
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k=8/(hPa2・s) (約100℃) |
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k=1/( hPa 2・s) (約600℃) |
(3) 生成したNO2は水に吸収され硝酸となる。
3NO2+H2O
2HNO3+NO
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( |
aHNO3は硝酸の活量 |
) |
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aH20は水の活量 |
この平衡定数は硝酸濃度が70%近くになると急激に小さくなる。オストワル
ト法は操作圧力によって大別されるが,すべて1013hPaで行うと,得られる硝酸は
濃度45%までである。部分的に3000〜4000hPa,8000〜9000hPaに加圧したと
きは,濃度 60〜65%の硝酸が得られる。
(4) 硝酸は濃度70%に共沸点(121℃)があるので,オストワルト法で得られた希
硝酸から蒸留法で濃硝酸をつくることができない。それで,濃硫酸や硝酸マグネ
シウムなどの脱水剤を加えて蒸留し,98〜99%の濃硝酸を製造している。
純硝酸は,吸湿性の強い発煙性液体で,融点は−42℃,沸点は83℃である。
比重は約1.5で重い。市販の濃硝酸は,通常70%(約16mol/l)または61%(約
13.5mol/lである。純硝酸にNO2を溶かしたものは発煙硝酸と呼ばれる。濃硝
酸は強酸でありまた強い酸化剤でもあるので多くの金属を溶かすが,Fe,Cr,
Ni,Alは不動態となり反応しない。