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第2節 課題研究の展開例
●ダニエル電池
最も基本的な二次電池。亜鉛板が浸されているZnSO4水溶液と,鋼板が浸され
ているCuSO4水溶液は,NH4NO3水溶液をU字管に入れて寒天で固めた塩橋で間
接的につながれている。ダニエル電池は内部抵抵が大きいため,一般に大きい電流
を取り出すことが難しいが,亜鉛板の面積を広くしたり,鋼板のかわりに銅線を数
百回巻いたコイルを用いたりすると,豆電球を点灯することができる。
◆課題研究 テーマI「電池の構造と起電力の関係の検証」
教科書p.274〜278は,ある高校生が実際に課題研究に取り組んだ経過を,課題
研究の展開例として示したものである。この高校生は,「電池の構造と起電力の関
係の検証」をテーマに選んでいる。
1.調査 教科書p.255の展開例でいえば,(2)の段階の作業に相当する。この高
校生は,(A)〜(C)の3点を実験に先立って確認している。要約すると,
(A) 負極ではe−を放出する酸化反応,正極ではe−を受け入れる還元反応が起こ
って,起電力を生じる。すなわち,一対の酸化還元反応の化学エネルギーが起
電力の原因である。
(B) 両極の金属のイオン化傾向の差の大小が,起電力(電圧)の大小と相関する。
(C) かかげたテーマには,ダニエル型電池での研究が最適である。詳しく調査を
していけば,さらに次の(D)〜(F)の内容も予め知ることができる。
(D) 負極材料について 今までに数多くの物質が負極活物質として検討されて
きたが,現在実用化されている負極材料は,一次電池用には亜鉛とリチウム,
がほとんどである。
一次電池においては亜鉛が負極材料として圧倒的に多く使用されるのはなぜ
であろうか。
亜鉛は弱酸性からアルカリ性に至る広範囲(pH3〜16)の電解液の中で安定
に存在することができる(ただし長時間安定に保つには,水銀アマルガム化など
の処理が必要である)。また,微量の鉛やカドミウムを添加した合金は加工性に
富み,押し出し成形や深絞りが可能なため使いやすい。その上,亜鉛は安価で
かつ比較的毒性が低いという特長をもっている。
亜鉛はこのように優れた負極材料であるが,今のところ二次電池に実用され
ていないのは,充電がしにくいという短所をもつためである。
(E) 正極材料について 正極活物質については,主なものだけでも,次のよう
な材料が実用化ないしは検討されている。
(正極活物質) MnO2,HgO,Ag2O,AgO,AgCl,NiOOH,PbO2,(CF)n
正極活物質の主流である固体正極活物質について必要条件を考えてみると,
次の各項目にまとめられよう。
1) 活物質上での電気化学反応速度が速いこと
2) 活物質表面に生じる反応生成物が速やかに表面から離脱・散逸すること
3) 電子伝導性ができるだけ高いこと
4) 電解液との反応性ができるだけ少ないこと
5) 電解液に溶解しないこと
6) できるだけ高い電位を与えること(酸化力が強いこと)
7) 長期間にわたって安定なこと
8) 安価なこと
9) 安全かつ無害なこと
(F) 電解液について 電解液の電解質には,次のような物質が用いられている。
(電解質) NH4Cl,ZnCl2,海水,KOH,NaOH,H2SO4,LiBF4,LiClO4
電解質に必要な条件として,次のようなことが考えられる。
1) イオン溶解性が高いこと
2) イオン伝導性が高いこと
3) 電子伝導性をもたないこと
4) 安定温度領域が広いこと
5) 分解電圧が高いこと
6) 安全かつ無害なこと
7) 安価なこと
8) 活物質と反応しないこと
9) 腐食性が少ないこと
2.仮説 この高校生は,テーマの探究に関して,次の(A),(B)の仮説を立てた。
(A) 起電力は,電極に用いた金属のイオン化傾向の差に伴って大きくなる。
E(M1−M2)+E(M2−M3)=E(Ml−M3)のような相加の関係があるのではな
いか。
(B) 電解液の濃度が起電力に関係する。このことについて定量的な関係があるの
ではないか。
すなわち,この仮説(A),(B)の当否を解明することが,具体的なテーマになる。
「1.調査(C)」で調べたように,この仮説の解明にはダニエル型電池が最適であ
る。
3.実験の計画 前述のテーマ・仮説を解明するうえでポイントになる操作は何だ
ろうか。この点がはっきりしないまま実験を開始しても目に見えるほど良い結果は
得られないだろう。実験を個人で行うときも,グループですすめるときにも,ここ
は十分時間をとって実験計画を立てさせなければならない。追求するポイントが明
確でないと,良い結果が得られないだけでなく,時間・薬品などが無駄になり,さ
らには,化学的探究の面白さに触れずに化学ぎらいの生徒をつくり出すことにもな
りかねないからである。
「電池の構造と起電力の関係」を調べるうえでのポイント,いいかえると実験を
効果的にすすめるコツは,次の2点に要約されよう。
@ 正・負両半電池に用いる金属種の間のイオン化傾向の大きさの差と,生じる電
圧(起電力)の大きさとの関係を調べるときは,両方の半電池を同時に変えたの
では解明したいポイントがはっきり出てこない。一方の半電池は固定しておいて
(電極の金属も電解液の濃度も変えない),他方の半電池だけをいろいろ変えてみ
ることで仮説の(A)に迫ることができる。
A 電解液の濃度と起電力の大小との関係をみるときも,@と同様である。この場
合は,両金属種はもちろん固定しておき,また,一方の半電池の濃度も一定にし
ておく。そして,もう一方の半電池の濃度だけを一定の規則に従って変えていく
(例えば10倍ずつ濃度を小さくしていく)。
以上の@,Aの意味を十分確認してから実験計画を立てるように指導する。生徒
自身がこのことに気付くのが望ましいのであるが,もしこのことに気付かなければ
指導を加えることが必要である。
4.実験の計画と具体的操作
(A) 教科書p.276〜277に述べてあるように,この高校生はZn,Cu,Agの半電池
を仮説(A)の検証に選んでいる。電極に用いる金属板と電解液となる塩が,化学実
験室でほぼ常備の物質であり入手しやすかったからである。電解液は,実験中は
もとより,短期間の保存中に空気の影響などで変化しては困る。ZnSO4,CuSO4,
AgNO3は,その点安心して使用することができる。標準的な電位を示す半電池
としては,1mol/l水溶液を調製するのが望ましい。以上の計画に従って,次の
操作を行った。
<操作>
ビーカーに1mol/l Mlm+aqをとり,これに金属Mlを浸した
半電池をMl/ Mlm+(1 mol/l)と表す。次の(a)〜(c)のように半電池を組み合わせ
てダニエル型電池をつくり,起電力を測定する。
(a) (負極側)Zn/Zn2+(1mol/l) (正極側) Cu/Cu2+(1mol/l)
(b) (負極側)Cu/Cu2+(1mol/l) (正極側) Ag/Ag+(1mol/l)
(c) (負極側)Zn/Zn2+(1mol/l) (正極側) Ag/Ag+(1mol/l)
(B) 電池の起電力は,電池内で起こる酸化還元反応が放出するエネルギーの大小の
反映である。したがって,用いる金属種は変わらなくても電解液の濃度によって,
負極の酸化反応や正極の還元反応の起こりやすさは異なり,その結果,起電力の
大小を生じることになるはずである。
このように考えて,各半電池の電解質溶液の濃度を変えて実験を行ったのが操
作
である。すでに1 mol/l溶液を標準濃度溶液として調製してあるので,
にうすめた溶液の半電池をつくっている。濃度を10倍変えた半電池をつくろう
としているが,10 mol/l溶液は試薬の使用量も多くなり,現実的ではないので,
0.1mol/lとしている。
<操作>
メスシリンダーを使って各電解液を10倍にうすめて0.1mol/lにした
ものをつくる。次の(d)〜(g)のように半電池を組み合わせてダニエル型電池をつく
り,起電力を測定する。
(d) (負極側)Zn/Zn2+(0.1mol/l) (正極側)Cu/Cu2+(1mol/l)
(e) (負極側)Zn/Zn2+(1mol/l) (正極側)Cu/Cu2+(0.1mol/l)
(f) (負極側)Zn/Zn2+(1mol/l) (正極側)Ag/Ag+(0.1mol/l)
(g) (負極側)Cu/Cu2+(1mol/l) (正極側)Ag/Ag+(0.1mol/l)
操作
,
とも,次図のように組み立てて起電力を測定する。

塩橋は以下のように作成する。ポリエチレン製洗浄びんに硝酸カリウムの飽和溶
液を満たしておき,これよりU字ガラス管に液を注ぎ込む。このとき,液が溢れる
まで入れ,両方の口を空気の泡が入らないように止栓する。栓は,脱脂綿またはろ
紙を液で濡らして軟らかくしたものを押し込めば十分である。実験の数だけつくり,
そのつど新しいものを用いる。U字管の数が少なければ,実験ごとにつくり直す。
半電池の種類や濃度が変わったとき,別の実験に用いた塩橋をそのまま用いるのは
やめたほうがよい。

5.実験の結果 温度は25℃。測定した起電力を次の表に示す。
|
番号 |
負極側半電池 |
正極側半電池 |
起電力〔V〕 |
|
|
|
(a) |
Zn/Zn2+(1mol/l) |
Cu/Cu2+(1mol/l) |
1.10 |
|
(b) |
Cu/Cu2+(1mol/l) |
Ag/Ag+(1mol/l) |
0.46 |
|
|
(c) |
Zn/Zn2+(1mol/l) |
Ag/Ag+(1mol/l) |
1.56 |
|
|
|
(d) |
Zn/Zn2+(0.1mol/l) |
Cu/Cu2+(1mol/l) |
1.13 |
|
(e) |
Zn/Zn2+(1mol/l) |
Cu/Cu2+(0.1mol/l) |
1.07 |
|
|
(f) |
Zn/Zn2+(1mol/l) |
Ag/Ag+(0.1mol/l) |
1.50 |
|
|
(g) |
Cu/Cu2+(1mol/l) |
Ag/Ag+(0.1mol/l) |
0.40 |
|
6.実験の考察
イオン化傾向は,Zn>Cu>Agの順である。操作
の結果を
比較すると,イオン化傾向の差の最も大きい(Zn−Ag)の起電力が1.56Vと最も大き
くなっている。また, (a)と(b)の起電力の和は1.56V(=1.10V+0.46V)となり, (c)
の値と等しくなっている。したがって,仮説(A)で予想した通り次式の関係が成立
していることがわかる。
E(Zn-Cu)+E(Cu-Ag)=E(Zn-Ag)
以上より,「ダニエル型電池の起電力は,半電池の金属の種類で決まり,イオン
化傾向の差に伴って大きくなる。」ことが結論できる。特定の金属(たとえばCu)を
基準にして,他の金属との起電力を測定しておけば,この測定値を用いて任意の金
属間の起電力を求めることができる。(後述の「標準水素電極」を参照のこと。)

操作
の測定値を基準にして,電極の種類は同じで電解液濃度が異なる操作![]()
の測定値を比較すると次表のようになる。
|
|
負極 |
正極 |
記号 |
液濃度の減少 |
起電力の差 |
起電力増減 |
|
(1) |
Zn |
Cu |
(d)−(a) |
負極側電解液 |
1.13V−1.10V |
+0.03V 増 |
|
(2) |
Zn |
Cu |
(e)−(a) |
正極側電解液 |
1.07V−1.10V |
−0.03V 減 |
|
(3) |
Zn |
Ag |
(f)−(c) |
正極側電解液 |
1.50V−1.56V |
−0.06V 減 |
|
(4) |
Cu |
Ag |
(g)−(b) |
正極側電解液 |
0.40V−0.46V |
−0.06V 減 |
したがって,負極側の電解液濃度を減少させると起電力は増加し,正極側の電
解液濃度を減少させると起電力は減少することがわかる。
また,電解液の濃度が10分の1になったときの起電力変化は,Zn2+と