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2節 肥

 

肥料

  植物が成長するとき,適当な物質を根から吸収する必要がある。人間が与えるその

ような物質を肥料という。肥料は,植物そのものに直接養分として作用するもの(

とえば窒素肥料−尿素など)と,土の状態を改善するもの(pH調整−石灰CaOなど)

大別される。

 肥料には,化学工業によりつくられる化学肥料(硫安(NH4)2SO4,尿素など)と,ワラ

や野菜くずなどを発酵させてつくる堆肥などの有機質肥料(天然肥料)がある。有機質

肥料は土に施すと土中の微生物により無機成分に分解されてから植物に吸収される

ので,即効性はない。化学肥料は直接無機物(NH4+NO3-など)を施すので施肥の効果が

速くでる。

代表的な肥料の分類

 

 

 

主 な 成 分

特   徴

化学肥料

窒素肥料

硫酸アンモニウム

(NH4)2SO4

即効性で土によく吸収される。

硝酸アンモニウム

NH4NO3

即効性だが土に吸収されず,雨水で流れやすい。

尿素

(NH2)2CO

中性の肥料で葉面散布にも適する。

石灰窒素

CaCN2
(カルシウムシアナミド)

土壌線虫の駆除に効果あり。野菜に適する。

リン肥料

過リン酸石灰

Ca(H2PO4)2H2O2CaSO4

即効性で各種作物に適するが老朽水田に用いない方がよい。

重過リン酸石灰

Ca(H2PO4)2H2O

即効性で高成分,性質は過リン酸石灰と同じ。

カリ肥料

硫酸カリウム

K2SO4

即効性で土によく吸収される。

塩化カリウム

KCl

即効性で繊維作物には適するがタバコ・じゃがいもにはよくない。

複合肥料

化成肥料

N,P,Kのうち2種以上
を含む

バランスのとれた施肥が容易に行える。

有機質肥料

普通肥料

魚粉末

 

遅効性で畑作物に適する。

植物油かす

 

遅効性で配合肥料の原料としても用いられる。

骨粉

 

遅効性で特に永年作物に適する。

特殊肥料

たい肥

 

野菜,果樹,花などに適する。

 

◆植物に必要な元素

植物栄養の10元素は,植物体を構成する炭水化物やタンパク質の成分になる。

微量でよいが,不可欠な微量元素は,酵素のはたらきを助けたりする。

 

 

C

H

O

N

S

P

Mg

Fe

K

Ca

Mn,   B

CO2

H2O

CO2

NH4+

SO42-

H2PO4-

Mg2+

Fe2+

K+

Ca2+

Zn,   Cu

H2O

NO3-

HPO42-

Fe3+

Mo

 

根や葉(気孔から吸収)

 

イオンの形で根から吸収

微量元素

 

肥料は化学物質を含むのでその取り扱い,販売方法などが詳しく肥料取締法お

よび肥料取締法施行令で決められている。インターネットの検索サイトで肥料取

締法を検索することができる。農林水産省のホームページhttp://www.maff.go.jp/

も参考になる。

21  肥料取締法施行令による肥料の分類

種   別

主要な成分*有機質肥料(動植物質のものに限る。以下同じ。)を除く。)

 

三要素系肥料

窒素質肥料*

(1) 窒素(アンモニア性窒素又は硝酸性窒素)

(2)  窒素及びアルカリ分等

リン酸質肥料*

(1) リン酸

(2) リン酸及びアルカリ分等

加里質肥料*

(1) カリウム  (肥料関係では加理と書く)

(2) カリウム及びアルカリ分等

有機質肥料

     窒素,リン酸又はカリウム

複合肥料

(1) 窒素,リン酸及びカリウム

(2)  窒素及びりん酸

(3) 窒素及びカリウム

(4) リン酸及びカリウム

(5) 窒素,りん酸及びカリウム並びにアルカリ分等

(6) 窒素及びリン酸並びにアルカリ分等

(7) 窒素及びカリウム並びにアルカリ分等

(8) リン酸及びカリウム並びにアルカリ分等

その他の肥料

石灰質肥料

(1) アルカリ分

(2) アルカリ分,マグネシウム,マンガン,ホウ素

ケイ酸質肥料

(1) ケイ酸

(2) ケイ酸及びアルカリ分,マグネシウム,マンガン,ホウ素

苦土肥料

   マグネシウム   (苦土はMgOのこと)

マンガン質肥料

(1) マンガン

(2) マンガン,マグネシウム

ホウ素質肥料

(1) ホウ素

(2) ホウ素,ホウ素

微量要素複合肥料

(1) マンガン,ホウ素

(2) マンガン,マグネシウム,ホウ素

 

 

◆リービッヒの最小律とドベネックの桶

  リービッヒの冷却器を考案したとされる19世紀の有機化学者リービッヒは植物生

理学も研究し,植物の生育は最も不足する栄養分に左右されるため,最も不足する栄

養分を施さない限り他の養分を施しても植物の収量はよくならない,という最小養分

律を提唱した。その後,ウオルニーは養分だけでなく水,温度,光,通気(空気)など

の要因を追加し,最小律とした。

 このことをわかりやすく説明したものにドベネックの桶がある。桶の板を各養分ま

たは要因とし,桶の中の水の量をその作物の収量とすると,その水の量は一番低い桶

の板によって決まるというものである。現在では,それぞれの要因は互いに補うこと

があり,最小律が成立する範囲はきわめて限られている,とされている。

 

◆窒素の吸収

  植物は窒素をアンモニウムイオンや硝酸イオンの形で根から吸収している。有機肥

料中のタンパク質は土中の微生物によりアミノ酸に分解され,さらに分解されてアン

モニウムイオンとなる。石灰窒素と言われる肥料はカルシウムシアナミドと炭素の混

合物でカルシウムシアナミドが,コロイド粒子の作用や微生物の作用により尿素に変

換されさらにアンモニウムイオンとなる。硫安(硫酸アンモニウム)や塩安(塩化アンモ

ニウム)は,水に溶けるとアンモニウムイオンが電離してくる。アンモニウムイオン

はそのまま植物の根から吸収されたり,硝酸イオンにまで微生物により酸化され,硝

酸イオンは植物の根から吸収される。

 

◆生態系における窒素の循環

 窒素の存在量(質量)を求めると,大気中の窒素が38×106億t,水中の溶存窒素が

20×104億tなどと計算されている。窒素分子は自然界で直接還元されることはなく,

放電()や細菌(根粒菌)の作用などにより亜硝酸イオンや硝酸イオンに酸化される。

さらに一部は細菌によりアンモニウムイオンに還元される。アンモニウムイオンや硝

酸イオンとして吸収された窒素は植物の葉に運ばれ,アミノ酸,タンパク質,核酸な

どの合成に利用される。

 

◆リン酸

  肥料としてのリンは,無機肥料と有機質肥料の両方がある。有機質肥料としては核

酸に由来するものが多く,微生物により分解されて根から吸収される。

  無機肥料としては,さまざまなリン酸塩が利用されている。リン酸のカルシウム塩

にはリン酸カルシウム,リン酸一水素カルシウム,リン酸二水素カルシウムがあり,

このうちリン酸二水素カルシウムがわずかに水溶性(溶解度,1.8g/100g(30))であ

る。過リン酸石灰はリン酸二水素カルシウムと硫酸カルシウムの混合物で19世紀以

降肥料として利用されてきた。過リン酸石灰はリン酸カルシウムを硫酸で分解してつ

くられる。

Ca3(PO4)2 2H2SO4 H2O 2CaSO4 Ca(H2PO4)2H2O 

  リン酸カルシウムは水に不溶であり,脊椎動物の歯や骨の主成分である。リン酸カ

ルシウムを施肥しても肥料としての効果はなかなか現れないが,骨粉だけはその効果

が速く出るとされている。

 

◆土壌の構造

  畑の土は多くの空気や水分を含んでいる。すなわち,土壌は固相,液相,気

相の複合体である。固相は鉱物と有機物からなり,有機物は落ち葉が腐食して

生じたものなどである。

粒径による土壌粒子の区分

名 称

粒  径

成  分

レ キ

2mm以上

鉱物学的には単一ではない

粗 砂

20.2mm

石英が主成分

細 砂

0.20.02mm

石英が主成分

シルト

0.020.002mm

石英の他,長石,雲母など

粘 土

0.002mm以下

Al2O3SiO32-塩など

 

  肥料などを土壌中に保持する粒子はコロイド粒子で,主として粘土である。粘土は

微細な層状ケイ酸塩であり,モンモリロナイト,カオリナイト,などがある。粘土は

天然物であるため複雑な物質であるが,人工合成されているものもある。合成された

ものは均質であり立体構造が詳しく研究されている。

 モンモリロナイトの一種のスメクタイトは,人工合成されており,多層構造をとり,

層空間に水和水を含み,陽イオンを吸着していることが明らかになっている。合成ス

メクタイトはベンゼンに溶け,水には不溶である。

 

◆土壌のpH

 土は水に溶けないので水溶液にならないから,土壌の酸性,塩基性は次のよう

に評価している。土壌の酸性の程度は大雑把に分けて二通りの方法で測定してい

る。土壌粒子に接している水のpH,および土壌粒子に吸着しているイオンを交換

したときのpHから判断する。

 土のコロイドは負に帯電していて,Ca2+H+が粘土粒子の周りや粘土粒子の層

間に入って吸着している。そのため土を水中に入れても,通常はH+は水中に溶け

出してこない。そのため土の周りに付着していた水溶性の物質がpHに影響を与え

る。これが土壌粒子に接している水のpHということになる。このpHの測定は,

土をとりそれに2.5倍の純水を加えよく混ぜ(30分振とう),濁った状態のまま

液をpHメーターで測定する。

 

水中の土コロイド粒子と周囲のイオン

 

  土の粘土の表面や層間に吸着している水素イオンを水中に取り出すには塩化カリ

ウム水溶液を使う。土をKCl水溶液や酢酸ナトリウム水溶液中に入れ,H+Ca2+

K+Na+と置き換わって水中に出てくる。水中に遊離したH+を水酸化ナトリウム水溶

液で滴定して水素イオン濃度を求めている。

 

KCl水溶液中の土のコロイド粒子と吸着しているイオン

 

農耕地における土のpHが下がる原因は次のように考えられる。硫酸アンモニウム

や塩化カリウムなどを施肥し,アンモニウムイオンやカリウムイオンが植物に吸収さ

れると,土の中に硫酸イオンや塩化物イオンが残る。陽イオンとして,カルシウムイ

オンやナトリウムイオンがあるうちは中性を保っているが,これらのイオンは水に溶

けやすく,雨などで流され,アルミニウムイオンなどと置き換わると酸性に片寄る。

また,アンモニウムイオンは土の中で硝酸イオンに変わり酸性の原因となる。また,

植物はカリウムイオンやカルシウムイオンを吸収すると,硫酸イオンなどの酸性化に

関わるイオンが土中に残ることになる。

 

◆化学者,槌田龍太郎

 1948年頃,第二次世界大戦に敗戦した日本は大変な食糧難で,米の増産は国策

であり,硫安(硫酸アンモニウム)は肥料として大量に用いられた。その結果,農村

にはレンゲの育たない畑があった。これは,長年硫安を使い続けていたためであっ

た。

 硫安の害は,土を酸性にすることのほか,SO42-が根に吸収されると還元されH2S

となり,根に影響が出ると,金属錯体を研究していた大阪大学教授の槌田龍太郎

は考えた。彼は,土からSO42-を土から取り除くために,硫化アリル

((CH2=CHCH2)2S)を含んでいるタマネギを米の裏作として農家に作ってもらい,

表作の米の収量が増えることを確認し,その後イソシアン酸アリル

(CH2=CHCH2-N=C=S)を含むカラシナを奨励した。

  環境問題より食糧増産が優先された時代に,化学的に考えて槌田は土を守るた

めに硫安の追放を呼びかけた。そして彼が特に働きかけていた富山県の単位面積

あたりの米の生産量が1954年に日本一になった。

 

◆マングローブの林と土地の酸性

 熱帯,亜熱帯の遠浅の海岸地帯にはマングローブの森林があり,地球環境の保全の

面から注目されている。しかし,エビの養殖池を作るためなどにより,マングローブ

の林は開発され,減少している。そのため,マングローブの植林の試みも行われてい

る。

 マングローブの果実は木についたまま発芽し,海中に落ちて成長し,マングローブ

が繁りだすと泥が堆積し,陸地を増やしていく。マングローブで作られた土地を切り

開き,土を耕すと,土の中の通気性が高まる。その中に堆積していた硫化物が空気に

触れると,酸化され硫酸が生成し,土が強酸性に変わり,植物の生育には適さない土

となる。これを農地に変えるには,石灰などを施して中性付近の土にする必要がある。

(山村一郎土と微生物と肥料のはたらき”(農山漁村文化協会)p.66(1988))

 

◆主な化学肥料と天然肥料の生産量

  肥料の生産量は,インターネットで調べることができる。今回は,独立行政法人農

業技術研究機構・果樹研究所ホームページから統計資料を引用した。

(http://www.fruit.affrc.go.jp/kajunoheya/fertilizers/toukei.html)

  肥料の生産は第二次世界大戦以降活発になり,化学肥料の増産は戦後の食糧増産に

寄与した。しかし,田龍太郎によれば,1950年代には硫安による土壌の劣化が始

まっていたようである。

  1970年代に入ると無機肥料の生産量が減っていき,1974年に一時的に尿素の生産

量がピークに達している。ちょうどそれと対応するように,197410月から1975

年5月まで有吉佐和子の複合汚染が連載された。そこでは,化学肥料も取り上げられ,

肥料に大きな関心が持たれるようになった。

  1990年代に入りバブルが崩壊するとともに環境問題に対する意識の高まり,無農

薬農法の広まりなどが見られた。これらと関係があるのかはっきりしないが,1990

年以降,肥料の生産量は漸減の傾向にあるように思われる。

 

リンとリン酸
リンは,リン酸カルシウムCa3(PO4)2を主成分とするリン灰石に多く含まれてい

る。動物の骨や歯もリン酸カルシウムを主成分としている。リン灰石をケイ砂SiO2
コークスと混ぜて電気炉で熱すると,まず,リン酸カルシウムがケイ砂と反応して
十酸化四リンP4O10をつくり,次いで,これがコークスによって還元されてリンと
なる。
     
2Ca3(PO4)26SiO26CaSiO3P4O10
      P
4O1010C4P10CO
 リンは,炭素と窒素を除くほとんどすべての元素と直接化合する。特に,酸素,
硫黄,ハロゲンとは激しく化合する。また,黄リンは空気中約35℃で自然発火し,猛

毒で皮膚に触れないように気をつけなければならない。
       4
P5O2P4O102984kJ
 十酸化四リンは水に溶けるときの条件によって,3種類のリン酸を生じる。メタリ
ン酸は,オルトリン酸が3分子以上縮重合して環状になった構造をもつ。ピロリン
(二リン酸)は,オルトリン酸2分子が縮合した構造をもっている。

P4O102H204HPO3

構造式

(-PO(OH)-0-)n

メタリン酸

 

 

P4O104H202H4P207

構造式

(HO)2OP-O-PO(OH)2

ピロリン酸

 

 

P4O106H204H3PO4

構造式

PO(OH)3

オルトリン酸

 

 

メタリン酸水溶液を熱するか,十酸化四リンを熱水に溶かすとオルトリン酸にな
る。オルトリン酸は,単にリン酸ともいう。オルトリン酸を熱するとピロリン酸に
なり,さらに強熱するとメタリン酸に変わる。オルトリン酸が最も安定で,他のも
のは長く放置するとすべてオルトリン酸に変わることが知られている。
 純粋なリン酸は室温で固体であるが,融点は42.35℃で低い。不揮発性で,酸化性

も還元性もない。三価の酸であるからリン酸塩は3種類得られる。

リン酸二水素塩

NaH2PO4

Ca(H2PO4)2

リン酸一水素塩

Na2HPO4 

CaHPO4

リン酸無水素塩

Na3PO4   

Ca3(PO4)2

ナトリウム,カリウム,アンモニウムのリン酸塩は水溶性であるが,他の金属塩
の多くは,リン酸二水素塩が水溶性で,他の塩は不溶性のものが多い。過リン酸石灰
と呼ばれるリン酸肥料は,不溶性のリン灰石を硫酸と反応させ,水溶性のリン酸二
水素カルシウムとしたものである。

Ca3(PO4)2H2SO4

Ca(H2PO4)22CaSO4

 

 

過リン酸石灰

 

 

 

 

 








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