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1節 医薬品

 

◆医薬品

  医薬品は薬事法で定義されたものである。

薬 事 法

第一章 総則

(目的)

第一条 この法律は,医薬品,医薬部外品,化粧品及び医療用具の品質,有効性及び安全性の確保のために必要な規制を行うとともに,医療上特にその必要性が高い医薬品及び医療用具の研究開発の促進のために必要な措置を講ずることにより,保健衛生の向上を図ることを目的とする。

(昭五四法五六・平五法二七・一部改正)

(定義)

第二条 この法律で「医薬品」とは,次の各号に掲げる物をいう。

一 日本薬局方に収められている物

二 人又は動物の疾病の診断,治療又は予防に使用されることが目的とされている物であつて,器具器械(歯科材料,医療用品及び衛生用品を含む。以下同じ。)でないもの(医薬部外品を除く。)

三 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であつて,器具器械でないもの(医薬部外品及び化粧品を除く。)

(以下略)

 

薬事法(厚生労働省のホームページhttp://www.mhlw.go.jp/ より「法令・通知」→「法令等データベースシステム」→「法令検索」から薬事法を見ることができる。

 

 

 

 

 薬事法は医薬品の安全性,品質,有効性等に関連した法律である。薬事法に基

づいて日本薬局法が決められている。薬局法は薬物の規格を定めた制令である。ま

た,薬事法は医薬品を,普通薬,劇薬,毒薬に区分している。似た名称で,実験室

で利用するような試薬類には,劇物,毒物がある。

 医薬品の中で麻薬など薬物依存に関連して社会的に問題となる物質について,麻

薬及び向精神薬取締法と覚醒剤取締法,大麻取締法があり,使用や管理が厳しく制

限されている。

麻薬と覚醒剤

麻薬

1

アヘンアルカロイド:アヘン、モルヒネ、コデイン

2

合成麻薬:ペチジン(オピスタン)、フェンタニル(フェンタネスト)

3

その他:コカイン、LSD-25(幻覚剤)

覚醒剤

 

アンフェタミン、メタアンフェタミン(ヒロポン)

 

 

 

 

薬事法  毒薬,劇薬について

第七章 医薬品等の取扱い

第一節 毒薬及び劇薬の取扱い

(表示)

第四十四条 毒性が強いものとして厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定する医薬品(以下「毒薬」という。)は,その直接の容器又は直接の被包に,黒地に白枠,白字をもつて,その品名及び「毒」の文字が記載されていなければならない。

2 劇性が強いものとして厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定する医薬品(以下「劇薬」という。)は,その直接の容器又は直接の被包に,白地に赤枠,赤字をもつて,その品名及び「劇」の文字が記載されていなければならない。

3 前二項の規定に触れる毒薬又は劇薬は,販売し,授与し,又は販売若しくは授与の目的で貯蔵し,若しくは陳列してはならない。

(平一一法一六〇・一部改正)

 

 

医薬品の分類

 医薬品の分類の仕方にはいろいろある。例えば,治療法から分類すると次のよ

うになる。

原因療法薬

病気の原因を根本的に取り除く治療法を原因療法とよび,そのための薬が原因療

法薬となる。いわゆる特効薬がそれで,ドイツのポール・エーリッヒと秦左八郎が

開発したサルバルサンが,合成特効薬第1号になる。抗生物質も特効薬の一つであ

る。

対症療法薬

熱が出たときに解熱剤を飲んだり,咳が出たときに咳を沈める薬(鎮咳薬)を飲む

ことがある。薬を飲まなくても自然に治る(自然治癒)こともあるが,解熱剤を飲ん

だ方が早くよくなる。このような治療法が対症療法である。

補充療法薬

体の中には色々なホルモンがあることが知られている。そのホルモンが不足した

ときにホルモンを投与する方法が補充療法である。これは,原因療法と対症療法と

の中間的な療法になる。

 

 また,販売方法から分類すると次のようになる。

処方箋薬

日本では,抗生物質を自由に薬局で買うことはできない。医師の処方箋を持って

いくと買える薬が処方箋薬である。

市 販 薬

処方箋がなくても薬局で買える薬が市販薬である。薬剤師の指導助言のもとに購

入することになる。最近では,薬局以外でも医薬品が販売されるようになった。

 このほか,薬理学的な分類など,色々な分類方法がある。

 

◆医薬品のはじまり

 医薬品として薬草は古くから利用されていた。コロンブスの新大陸発見以降,

南米からマラリアの薬としてキニーネがヨーロッパにもたらされた。薬草の成分

を抽出し,合成したものとしては,サリチル酸誘導体やアセトアニリドが解熱剤

として利用された。19世紀には,顕微鏡の発達により細菌(病原菌)が発見された。

特効薬としての化学合成医薬品は,ドイツのポール・エールリッヒと秦左八郎と

の共同研究で梅毒の薬サルバルサン606が開発された。このとき「標的にする病

原菌微生物だけを狙い撃ちする」ので「魔法の弾丸」という言葉が使われた。こ

のことが化学療法の始まりとされており,以降いろいろな化学療法剤が開発され

た。なお,秦左八郎は,サルバルサン発見の功績により1911(明治44),明

治政府から勲章(勲5等双光旭日章)を受けている。

 

◆キニーネ

  キニーネはマラリアの特効薬である。コロンブスの新大陸発見後しばらくして,

ヨーロッパにキナノキの樹皮であるキナがマラリアの解熱剤としてもたらされた。

キナ皮にはキニーネというアルカロイドが入っており,これがマラリアに対しての

解熱剤であった。

  パーキンがこのキニーネを合成しようとして,合成染料のモーブを合成したのは

有名な話である。

 

◆サルバルサン3,3'-ジアミノ-4,4'-ジオキシアルセノベンゼン。慣用名:アルス

フェナミン,アルセノベンゼン

  サルバルサンは商品名であったが,アスピリンと同じように化合物の慣用名とし

ても使われている。エーリッヒと秦左八郎により合成された。スピロヘータおよび

トリパノゾーマ感染症の特効薬であるが,対象細菌は限定されている。

 

◆サルファ剤

  細菌に対する化学療法剤で,抗生物質が開発されるまでは中心的な化学療法剤で

あった。グラム陰性菌,グラム陽性菌とくに溶血性連鎖球菌や髄膜炎菌に有効であ

る。しかし,殺菌作用が弱く,耐性菌が多いため,一般感染症に対する適用価値は

抗生物質に及ばない。

 

◆ペニシリン

  アオカビから産生する抗生物質で,βラクタム構造をもち,βラクタム抗生物質

に属する。1929年,フレミング.A.により発見され,1941年,フローリー.H.W.

チェイン(Chain,E.B.)らの共同研究によって,臨床的に使われた最初の抗生物質で

ある。その後,ペニシリン産生菌の探索と改良が大規模に行なわれ,工業的に利

用されるようになった。

 

サリチル酸

 o-オキシ安息香酸ともいう。融点159℃の針状結晶で,約200℃で分解してフェ

ノールになる。食品の防腐剤に使われている。水に少し溶ける。乾燥したC6H5ONa

を加熱融解して,加圧下でCO2を作用させて合成される。

 

 サリチル酸を無水酢酸でアセチル化すると,アセチルサリチル酸が得られる。

 

アセチルサリチル酸は,白色無臭の結晶(融点約135)で解熱,鎮痛,消炎作用

があり,アスピリンの名称で解熱鎮痛薬に利用されている。

 サリチル酸にメタノールと濃硫酸を作用させると,サリチル酸メチルになる。

 

サリチル酸メチルは,無色の液体(融点−8℃,沸点223)で,香料のほか,10

50%軟こうを消炎塗布剤として医薬品に用いられる。

 

 

 

◆サリチル酸とその誘導体

 ヤナギの葉と樹皮が解熱鎮痛効果があることは,古く民間には知られていたらしい。

1827年にサリシンが発見され,さらにサリチル酸が発見され,マラリアにも効くこ

とがわかり,リウマチにも効果があること発見された。はじめ,サリチル酸はリウマ

チの薬として利用されたが,強い副作用もあった。その後,アセチルサリチル酸の形

に変えると,副作用が弱く,解熱鎮痛剤として効果があること明らかになり,1899

年に商品名アスピリンととして発売されている。

 

◆ニトログリセリンと心臓の冠状動脈

狭心症は胸が締めつけられるように痛み,場合によっては死に至ることもある

病気で,心臓の筋肉の酸素不足が原因とされている。これは心臓の冠動脈の周り

の筋肉(血管平滑筋)が収縮したままになるためである。ニトログリセリンは体内

で分解してNOを生じ,NOは筋肉細胞に入り結果的にCa2+濃度を下げ筋肉を弛

緩させ,血管を拡張させる。

  ニトログリセリンの作用は,これをなめたときしばらくして激しい頭痛におそ

われたことから発見された。ニトログリセリンを飲み込んだときは消化管から血

液中に入り肝臓で代謝されるためほとんど効果がなくなるので,舌の下など口の

中の粘膜を通して吸収させている。

 

◆麻酔薬

 比較的簡単な構造の医薬品に全身麻酔に用いられる吸入麻酔薬がある。ジエチルエ

ーテルや一酸化二窒素はよく知られている。化学IIの教科書にあるクロロエタンやク

ロロホルムも吸入麻酔薬である。沸点の低いアルカンのハロゲン化物に麻酔作用があ

る。

吸入麻酔薬の種類と作用

麻酔薬

ガス性麻酔薬

ジエチルエーテル

ハロタン

メトキシフルレン

エンフルレン

セボフルレン

一酸化二窒素

(エーテル)

笑気ガス

化学式

C2H5OC2H5

CF3CHClBr

CHCl2CF2OCH3

 

 

N2O

燃焼性

(+)

(−)

(−)

(−)

(−)

(−)

濃度

導入時(%)

10

13

0.51

25

45

6080

維持時(%)

35

0.51

0.20.5

1.52.5

24

5070

全身

麻酔

作用

導入

非常に遅い

速い

遅い

速い

非常に速い

速い

作用

強い

強い

強い

強い

強い

弱い

第2期興奮

(+++)

(-)

(+)

(-)

(-)

(-)

鎮痛作用

十分な鎮痛作用

比較的弱い

十分な鎮痛作用

比較的弱い

比較的弱い

強い鎮痛作用

筋弛緩作用

強い

強くない

強い

強くない

強くない

ない

肝毒性

(-)

(++)

(-)

(+)

(-)

(-)

 

◆消毒薬

  かつて,消毒薬としてオキシドールは保健室に常備され,傷口の消毒に利用されて

いた。しかし,オキシドールを知らない生徒が増えている。新しい消毒薬が登場した

からである。オキシドールは約3%の過酸化水素水であり,試薬の過酸化水素水は約

30%で,直接皮膚につけると,皮膚を侵し白くなる。3%水溶液では,毒性が低く,

分解時発生する酸素の泡で洗浄作用を発揮する。分解時生成するヒドロキシルラジ

カルによる脂質膜の攻撃による殺菌作用も考えられている。

 ヨーチンといわれている消毒薬はヨードチンキで,I2-KIのエタノール水溶液であ

る。

 うがい薬(イソジン)は,ポリビニルピロリドン,I2-KIのエタノール水溶液である。

これらは,I2に殺菌作用があるので利用されている。

 

薬品の効果と使用量

  医薬品の使用量が多くなると,致死量を超えることがある。医薬品は,体内で

は肝臓で代謝される。一般に代謝によるよる血中濃度は図のようになっている。

医師は薬を処方するにあたっては,中毒量にならない程度に,その有効時間が症

状に対して適切になるように処方している。

 

  2000年に起きた医療ミスは,1週間に1回投与すべき抗ガン剤を毎日与えてしまっ

たために起きた事故であった。これは抗ガン剤の量が致死量に至ってしまったためと

考えられる。

 

◆医薬品の副作用

 医薬品は生理活性物質であるから,目的外の薬理作用が現れることがある。それら

をまとめて副作用と呼んでいる。薬物アレルギーや発ガン性,薬物依存なども副作用

のひとつである。

代表的な副作用と原因物質

肝障害

抗ガン剤、抗生物質、向精神薬
男性ホルモン、タンパク同化ホルモン、経口避妊薬

腎障害

抗生物質、抗ガン剤

消化管障害

鎮痛薬(アスピリン、インドメサシン)による消化性潰瘍

造血器障害

抗生物質クロラムフェニコールの再生不良性貧血症
甲状腺薬プロピルチオウラシルの白血球減少症

内分泌障害

副腎皮質ステロイド連用による副腎皮質萎縮
男性ホルモン連用による性腺萎縮

神経・精神障害

血圧降下薬レセルピンのうつ病
抗結核薬イソニアジドの神経炎

代謝障害

利尿薬による耐糖能の低下(糖尿病傾向)と高尿酸症

 

副作用の中で薬物依存は麻薬や覚醒剤に関連し社会的に問題となっている。

主な依存性薬物とその依存性

 

薬物名

作用メカニズム

精神依存性

身体依存性

乱用時の主な症状

オピオイド系

モルヒネ
ヘロイン

オピオイドμ−受容体と結合

強い

最強

縮瞳、便秘

特に身体依存が形成されると最強

呼吸抑制、鎮静

陶酔感

各種バルビツール類

バルビタール受容体

短時間作用のものは強い

強い

鎮静、睡眠

運動失調、陶酔感

中枢神経抑制薬系

ベンゾジアゼピン

ベンゾジアセピン受容体と結合

中等

強い

鎮静、傾眠

多幸感

アルコール

脳幹網様体賦活系の抑制

強い

強い

精神発揚→抑制

運動失調、陶酔感

シンナー類

脳幹網様体賦活系の抑制

中等

なし〜軽度

精神発揚→抑制

幻想、多幸感

中枢神経興奮薬系

コカイン

アドレナリン作動性

最強

なし〜軽度

散瞳、発汗

神経の刺激

陶酔感、妄想幻覚

覚醒剤
(
アンフェタミンなど)

神経の刺激

強い

なし〜軽度

散瞳、活力増大

陶酔感、妄想幻覚

ニコチン

ニコチン様受容体と結合

中等

きわめて弱い

覚醒、鎮静

食欲減退、満足感

 

 

◆アセチルサリチル酸の効果と副作用

 アセチルサリチル酸はアスピリンとして解熱鎮痛剤や風邪薬として広く使われて

いる。また,リウマチ薬としても利用されている。使用量が適量のときは解熱鎮痛作

用を示すが,用量が増えると,中毒症状を呈する。その副作用は,図に示してあ

る。

 以前,解熱鎮痛薬を一度に1020錠飲むと気持ちよくなると聞いたことがある。

これは,アセチルサリチル酸の血中濃度が90mg近くなったときの急性中毒症状と

思われる。

 

◆新薬ができるまで

化学を学ぶ者は,新しい薬をつくるには実験室でいろいろな反応を行い,新規

の化合物を合成すればいいと思うかも知れない。しかし実際に新規の医薬品が患

者に届くまでには,化学者の手を離れてからさまざまな関門を通りぬけなければ

ならない。基本的な手順は薬事法で決められており,安全面には非常に注意が払

われているといえる。それでもトラブルが起こることがある。

 

農薬

  農薬は、農薬取締法の第一条に定義されている。農薬取締法は、必要に応じて

改正されているので、農林水産省のホームぺージhttp://www.maff.go.jp/を参考にす

るとよい。「農林水産省」→「農薬コーナー」→「改正農薬取締法について」とた

どっていくと全文を見ることができる。

 

 

 

 








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