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1節 合成高分子化合物

 

◆高分子化合物

 分子量が1万以上の化合物の存在がわかったのは1920年頃であり,その分子を

高分子とよび,それらの化合物は高分子化合物と名付けられた。

 高分子化合物に対して,分子量が小さい化合物を低分子化合物という。純粋な低

分子物質は分子量の等しい分子の集合体とみなされているが,高分子物質は純粋と

いわれるものでも,一般に,分子量の等しい分子の集合体でなく,いろいろな分子

量をもった高分子化合物によって構成されている。したがって,測定される分子量

は平均分子量というべきものである。

 シュタウジンガーは,1912年ケテンを発見し,セルロースが高分子化合物であ

ることを提唱した。その後,彼は高分子合成について研究し,鎖状高分子化合物の

粘度と分子量の関係を示すシュタウジンガーの式を1930年に導き出した。その功

績により,1953年にノーベル化学賞を受賞した。

 

◆高分子化合物の分類

分子の形状から見た分類

 線状高分子化合物  一次元構造のものである。糸状または鎖状高分子化合物と

  もいう。天然に産出する有機高分子はほとんどこれに属する。また,合成高分

  子にもこれに属するものが多い。

 網目状高分子化合物 三次元構造のものである。熱硬化性樹脂によってつくら

  れた成型品がこの構造をもっている。この種の高分子は三次元的に共有結合で

  結ばれた構造をもつために,不溶・不融で熱可塑性がない。フェノール樹脂,

  尿素樹脂,メラミン樹脂,イオン交換樹脂などの合成高分子がこれに属する。

 

◆高分子化合物の分子量

 ごく一部の高分子を除き,高分子化合物は分子量が不均一で,分子量が異なる同

族体の混合物である。分子量が大きくなるほど溶解度が小さくなることを利用して,

高分子化合物を分子量が異なるいくつかの部分に分けることができ,この方法で分

子量分布が求められる。

 平均分子量は,浸透圧法,粘度法,光散乱法などで求められる。また,平均分子

量の表し方にもいろいろあり,分子量Miの分子数をNiとするとき,数平均分子

,質量平均分子量,粘度平均分子量は次式で定義される。

 

 (αは,粘度式[η]Km()αで求められる定数で,0.51である。)

 浸透圧や沸点上昇法ではが,光散乱法ではが,粘度法ではが求めら

れる。天然高分子の分子量の例を次に示す。

 例 ペプシン(ブタ)34644 血清アルブミン(ヒト)66241

   アミロペクチン 2×1057×106  DNA 106109

   セルロース  1×1061×108  m-RNA 2.5×104106

 

◆高分子の分子量と性質

 高分子物質のいろいろな性質は,分子量に左右される。このことは低分子物質に

はみられない大きな特徴の1つである。すなわち,流動領域における粘弾性などが

それである。しかし,一方分子量がある程度大きくなると,分子量の影響をほとん

ど受けない面も現れてくる。たとえば,融点,引張りの強さ,ガラス領域における

粘弾性などである。

 いま,高分子物質が低分子物質と大きく異なる一例として,ポリエチレンについ

て分子量の大きさと,沸点・融点・外観などのようすを次表に示す。

 いろいろなプラスチックの成型や,繊維の紡糸,フィルムの製膜など,われわれ

が日常生活で利用している高分子物質の加工において重要なことは高分子の流動性

である。しかし,高分子の流動性と分子量との関係については,いろいろと研究さ

れているが,まだじゅうぶんな解決が得られていない。

 

ポリエチレンの分子量と性質(高分子合成の化学:化学同人)

重合度(n)

分子量

融点()

沸点()

外観

1

30

183

88.6

気体

10

282

30

174

液体

20

562

38

300

ろう状

60

1682

100

分解

ろう状固体

100

2802

106

分解

もろい固体

1000

28002

110

分解

堅い固体

 

 

◆高分子の固体構造

 低分子固体では,粒子が規則正しく配列して100%結晶化しているのに対し,固

体高分子の場合は,一般に結晶部分と非結晶部分から成り,結晶化は100%ではな

い。このような構造上の特徴が,固体高分子特有の性質を表す結果となっている。

 固体高分子では,たとえば次の図の(1)に示す100%非結晶の高分子は長い分子が

からみ合って構成されている。そして,これを加熱によって結晶化しても,その結

晶核の成長は長い分子がからみ合っているため困難で,非結晶部分の中に多数の微

結晶部分(クリスタリット)が分散したような微細構造図(2)となる。次にこの結晶

化した高分子を延伸すると微結晶部分の配向が起こり,図(3)のようになる。

 このように延伸による分子鎖の配向は,特に糸状高分子である繊維の機械的性質

の向上に重要である。また,高分子全体の質量に対する,このような微結晶部分の

全質量の割合(百分率)を結晶度といい,これは分子量とともに固体高分子の力学的

性質のめやすとして重要な因子の1つである。

 以上のように,一般に固体高分子は非結晶の部分に微結晶部分が混じり合ってい

ることが多いが,最近では数種の固体高分子について100%結晶体からなる高分子

単結晶がつくられるようになった。

 

◆重合反応

 高分子化合物の重合反応は,反応の進み方の違いにより,次のように分類される。

 

 一般に,付加重合は連鎖的に進み,縮合重合は逐次的に進む。環状化合物の環が

開いて進む重合反応は開環重合とよばれ,縮合重合の一種と考えられる。

 そのほか,重合を行う状態によって重合反応を分類することもある。モノマーの

みを用いる塊状重合,溶媒にモノマーを溶かした溶液重合,乳化剤を用いて水溶液

にモノマーを溶かした乳化重合,モノマーを水中にかくはん分散した懸濁重合など

がある。

(1) 付加重合 開始反応,成長反応,停止反応の3段階よりなる連鎖反応で進む付

 加重合反応。開始反応は,反応性の高い中間体(ラジカルまたはイオン)が生成す

 る反応であり,一般には開始剤が用いられる。成長反応は,この活性中間体と単

 量体との反応の繰り返しである。また停止反応は,中間体が何らかの方法で消滅

 する反応である。

 開始 I(開始剤)→A*(ラジカルまたはイオン)

     A*M(単量体)→AM* (活性中間体)

 成長  AM*M→AM2* …… AMn-1*M→AMn*

 停止  AMn*→P(ポリマー)

() ラジカル重合 開始剤には,過酸化ベンゾイル(BPO)やアゾビスイソプチ

ロニトリル(AIBN)などが用いられ,次のようになる。

 

BPOを使った塩化ビニル重合では,次のように反応が進む。

 

生成した高分子ラジカルは,互いに結合するかまたは開始剤のラジカルと結合

して反応が停止する。

 

() カチオン重合 カチオン重合は,カチオンを与える開始剤が存在すると起こ

る。開始剤としては,硫酸やトリクロロ酢酸で起こることもあるが,たいてい

SnCl4ZnCl2TiCl4BF3のようないわゆるフリーデル・クラフツ触媒が用

いられる。

 

カチオン重合も連鎖反応であり,開始,成長,停止のそれぞれの段階があるが,

停止反応は活性体(カチオン)どうしの2分子反応ではなく,Hを出したり,

OHをもらったりして停止する。

 

() アニオン重合 アニオン重合は,成長重合鎖の末端に非共有電子対をもつ

()が,活性をもった形になって進む連鎖反応である。

 

 

この場合,水があれば活性はたいていただちに消失する。

 

 

(2) 縮合重合 単量体が次々と縮合反応を行い高分子化合物になる変化をいう。

 6,6-ナイロンのようにジアミンとジカルボン酸によるポリアミド生成や,ポリエ

 チレンテレフタレートのように二価アルコールとジカルボン酸によるポリエステ

 ル生成などの例がある。なお,ジカルボン酸の代わりにその酸無水物を利用する

 こともある。

(ポリアミド) nH2N-R-NH2nHOOC-R´-COOH

      H- (-HN-R-NH-CO-R´-CO-)n-OH(2n1)H2O

(ポリエステル)  nHO-R-OHnHOOC-R´-COOH

      H- (-O-R-O-CO-R-CO) n -OH(2n1)H2O

 

(3) 付加縮合 付加と縮合を繰り返して高分子になる反応で,一般にホルマリンを

 用いる樹脂化反応がこれに属する。市販ホルマリンには,HCHO37%,

 CH3OH10%,HCOOH0.03%,水約53%が含まれている。HCHOは水中で

 HO- (-CH2-O-) n -Hのように重合する傾向があり,nが大きくなると水から析出

 する。CH3OHがこれに含まれると重合が防止でき,市販のホルマリンでは

 n23の程度と考えられ,いつも透明な均一溶液になっている。

  尿素樹脂では,尿素とホルムアルデヒドが次のように反応する。

 

 こうして付加と縮合を繰り返して大きい分子ができていく。そして付加は酸・

塩基触媒反応であり,縮合は酸触媒反応である。すなわち,両者ともイオン反応

であり,付加はHOHが,また,縮合ではHが触媒となる。

 

合成繊維の製造  低分子化合物を原料として化学的に合成された高分子物質を

繊維化したもので,化学繊維の一種である。天然繊維とは異なり,繊維の長さ,太

さ,断面形状から官能基の種類などの物理的・化学的性質を人為的に変えられるの

で超高強力繊維,耐熱性繊維,光学繊維など自然界にはない新しい機能をもつ繊維

もつくられ,その種類もきわめて多彩になってきている。合成繊維の生産量のほと

んどはポリエステル,アクリル,ナイロンで占められ,三大合成繊維といわれてい

る。これらのうち,ポリエステルは適度のこしと混紡性のよさ,アクリルは共重合

による改質の多様性と嵩(かさ)高性,ナイロンは適度の弾性と弾性回復率が特徴で

ある。これらのほか,ビニロンは吸湿性,ビニリデンは重さと難燃性,ポリウレタ

ンはその大きな弾性などに特徴がある。

 近年,紡糸技術が著しく進歩し,ポリエステル繊維の紡糸速度は1950年代には

1000m/分であったが,1985年頃には50006000m/分の高速紡糸が可能となった。

また,非常に細い繊維(超極細繊維;ファインデニール繊維)もできるようになり,

眼鏡拭き用クロスなど特殊な用途で用いられているほか,合成繊維につきまとう人

工的な冷たさをぬぐうために,制御されたばらつきを加味して暖かみを帯びた繊維

にしたり,繊維の断面を三角形にし外観や性能をできるだけ絹に近づけたポリエス

テル繊維(シルクライク繊維)を開発したり,中空で多孔性のため汗を吸いやすい吸

汗性繊維もつくられるなど,様々な繊維が紡糸技術の発展により開発されている。

 

 

 

 








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