トップ化学II3部 生活と物質>第1章 食品の化学>第1節 糖類

1節 糖

 

 

◆糖類(炭水化物)

 糖類は,単糖類とこれが複数個縮合した少糖類や多糖類の総称である。グルコー

スやスクロースなどは,一般式Cm(H2O)nで表せるため炭水化物ともいう。

 しかし,代表的なグループである単糖類にも,デオキシリボースC5H10O4やラム

ノースC6H12O5などのように,Cm(H2O)nの一般式にあてはまらないものもある。

また,Cm(H2O)nの一般式をもつ化合物でも,酢酸C2H4O 2や乳酸C3H6O 3などは糖

類のうちには入れない。糖類を厳密に定義することは困難であるが,一応,次のよ

うにいえる。すなわち,炭素原子とほぼ同数の酸素原子をもつポリヒドロキシア

ルデヒド,ポリヒドロキシケトン,およびこれらの簡単な誘導体(たとえば,アミ

ノ基をもつアミノ糖,アルデヒド基または第一級ヒドロキシ基の部分がカルボキ

シル基となっているカルボン酸,アルデヒド基やケトン基がヒドロキシ基となっ

ている多価アルコール)など,ならびにそれらの縮重合体を糖類という。

 なお「糖質」は,糖類を主要な成分としてもつ物質の総称で,タンパク質,脂質

に対応した用語として用いられ,重要な生体成分,また栄養素としての概念を示し

ている。糖のみからなる単純糖質と,その他の物質を含む複合糖質とに分けられる。

しかし実用上は,炭水化物,糖類とほとんど同義に用いられる。

 

銀鏡反応

還元性有機物の検出反応の1つ。試料を清浄なガラス器に取り,これにアンモ

ニア性硝酸銀溶液を加えて温めると,Agが還元されてAgとなり,これがガラス

器壁に付着して鏡のようになるので銀鏡反応といわれる。ジュワー瓶や鏡の製造

はこの反応に基づいている。
    RCHO2[Ag(NH3)2]OH2AgRCOONH4H2O3NH3
 

尚,アンモニア性硝酸銀溶液や,酸化銀を濃アンモニア水に溶かした溶液,銀

鏡反応させた溶液などを長時間放置しておくと,雷銀(窒化銀,一窒化三銀)Ag3N

や銀アミドAgNH2,雷酸銀AgOCNなどの爆発性物質が生じる場合がある。これら

の化合物はすべて不安定であり,少しの摩擦や軽い衝撃,接触でも激しく爆発す

るので,アンモニア性硝酸銀溶液は,銀鏡反応の実験を行う毎に調製する必要が

あり,保存しない。

 また,銀鏡反応の実験後の溶液は速やかに回収し,塩化ナトリウムNaCl水溶

(食塩水)や塩酸HCl,硝酸HNO3などを加え,塩化銀AgClとして沈殿させるか,

溶液を中性〜酸性雰囲気にしておく必要がある。

その後,一般的には銀廃液だめの沈殿物をろ過し,ろ液は重金属類を含まない

事を確認後,中和して排出し,集めた沈殿物は廃棄物業者に処理してもらう。銀

イオンの水溶液は,銀イオンの濃度を1 ppm下にすれば,そのまま下水

として流して捨ててもよい。

 

フェーリング液

糖の検出・定量に広く用いられる試薬で,1848年,ドイツの科学者H.Fehling
(1812
1885)により考案された。通常はA(CuSO4溶液)B
(KNaC2H2(OH)2(COO)2NaOHの溶液)に分けて保存され,使用直前に混ぜて使われる。

フェーリング液は深青色で,これに糖を加えて煮沸すると,Cu2が還元されて
Cu2Oの赤色沈殿が生じる。反応は化学量論的ではないが,ヘキソース1分子は銅
の約5原子を還元する。
    R-CHO2Cu25OHR-COOCu2O3H2O
なお,ベンズアルデヒドは,強塩基性のときカニッツァーロ反応によりアルコール

とカルボン酸になりやすく,フェーリング液とは反応しにくい。
    2R-CHONaOHR-CH2OHR-COONa

◆単糖類と二糖類

 加水分解によりさらに簡単な糖類に分けられないものを単糖類という。単糖2

子から水1分子がとれて結合したものを二糖類という。

 単糖類は,Cm(H2O)nで表される一般式をもち,C5のペントースとC6のへキソ

ースが重要である。構造的には−CH(OH)−が直鎖状に連なり,一端は第一級アルコ

ール基であり,他端は,アルデヒド基をもつアルドースか,途中にケトン基のある

第一級アルコール基をもつケトースに大別される。環状構造になる場合,環の大き

さによりフラノース(五員環),ピラノース(六員環),セプタノース(七員環)に分け

られる。

 

単糖類の例

名称

分子式

融点()

エタノール

グリセルアルデヒド

C3H6O3

オイル状

14

易溶

難溶

D-トレオース

C4H8O4

オイル状

12

易溶

D-リボース

C5H10O5

87

23.7

易溶

微溶

D-ガラクトース

C6H12O6

167(α)145(β)

80.2

難溶

D-マンノース

C6H12O6

133(α)132(β)

14.5

易溶

微溶

 

 

◆グルコース(ブドウ糖)

 単糖類には,D系およびL系の光学異性体があるが,天然に存在するグルコース

D系である。グルコースは植物では熟した果実中に多く,葉・茎・根・花などに

も存在し,フルクトースとともにハチミツの主成分である。動物では血液・リンパ

液中にあり,高等植物では血液中に約0.1%の濃度で含まれている。工業的にはデ

ンプンを希酸で加水分解し,分解液を中和した後,減圧で濃縮し,活性炭で脱色し

て結晶させる。

 水から再結晶させたものは,1分子の結晶水を含み,融点は86℃である。水に

溶けやすく,アルコールには溶けにくい。甘味はスクロースの1/2程度であるが,

甘味剤として菓子・清涼飲料水・合成酒などに加える。また,医薬用としても多く

消費されている。

 グルコースは水溶液中ではα-グルコースとβ-グルコースとが,ごく微量のアル

デヒド型とともに平衡を保っている。

  α-D-グルコース(環状) α-D-グルコース(直鎖状) β-D-グルコース(環状)

  グルコースのα型とβ型には,次のような性質の違いがある。 

名称

比旋光度

融点(無水物)

結晶化方法

αD−グルコース

112°

146°

水から

βD−グルコース

19° 

148°〜150°

氷酢酸またはピリジンから

 αD−グルコースを水に溶かすと,はじめは上述の比旋光度を示すが,だんだん

変化し,23時間後には+52°になる。これは平衡混合物の比旋光度に相当する。

β-D-グルコースを水に溶かしたときにも,結局は+52°になる。この現象を変旋

光といい,糖の環状構造式が正しいことの重要な根拠の1つである。

 

 

◆フルクトース(果糖)

 工業的にフルクトースを製造するには,キクイモ(イヌリンを主成分とする)を加

水分解する。また,スクロースを転化してグルコースを晶出させた後,フルクトー

スを取り出す方法もある。フルクトースは結晶しにくく,きわめて吸湿性が強い。

水に溶けやすく,アルコールやアセトンにも可溶である。

 構造式としては,フラノース型とピラノース型の2種がある。フルクトースがイ

ヌリンやスクロースなどの構成成分となっているときには,β-D-フルクトフラノー

ス型で存在する。天然に単独で存在するとき,またはスクロースやイヌリンの加水

分解によって得られたものは,D-フルクトピラノース型である。フルクトースは水

溶液中では大部分がピラノース型であるが,一部分はフラノース型も存在する。

 

 

◆フルクトースの還元性

互変異性体とは,異性体が相互に構造を変えるものをいい,ケト形とエノール形

などがその例である。

 

◆二糖類

 二糖類は,単糖類2分子の縮合したものであるが,同一の単糖類であっても,縮

合するOH基の位置が異なれば,異なる二糖類が生成する。たとえば,グルコース

分子からなる二糖類には次のようなものがある。

 αα-トレハロース(α1-α1結合), コージビオース(α1-2結合)

 ニゲロース(α1-3結合),     マルトース(α1-4結合)

 イソマルトース(α16結合),   ソホロース(β1-2結合)

 ラミナリビオース(β1-3結合),  セロビオース(β1-4結合)

 ゲンチオビオース(β1-6結合)

 

◆マルトース(麦芽糖)

 デンプンにアミラーゼを作用させると生ずる。アミラーゼはとくに発芽した大麦,

すなわち麦芽の中に豊富に存在し,これを用いてデンプンを分解させて,得られるこ

とから,麦芽糖の名が用いられるようになった。

 マルトースは甘味が強く,水にはきわめてよく溶けるが,アルコールには溶けに

くい。また,フェーリング液を還元する性質がある。マルトースの構造は,α−グ

ルコースが1-4結合したもので,還元末端がα形とβ形の2種がある。α形は融点

108℃,β形は融点103℃である。マルトースをマルターゼで加水分解するとグル

コースが生成する。

  C6H11O5-0-C6H11O5H2O2C6H11O5-OH

 

◆スクロース(ショ糖)と転化楯

 スクロースC12H22O11は,代表的な甘味剤で,サトウキビやテンサイから得られ

る。純粋なスクロースは白色の結晶で,185℃で融解してあめ状となり,200℃ぐ

らいになると,褐色のカラメルになる。

 スクロースを希硫酸や希塩酸,あるいは酵母や腸液中にあるインベルターゼとい

う酵素で加水分解すれば,グルコースとフルクトースになる。

C12H22O11H2O

C6H12O6

C6H12O6

 

グルコース

フルクトース

 

 純粋なスクロースには還元性がないが,加水分解すれば還元性を示すようになる。

スクロースはグルコースの分子とフルクトースの分子から水1分子がとれて結合し

た構造をもっているが,スクロースに還元性がないのは,還元性の原因になってい

るグルコースの@Cの炭素の部分とフルクトースのACの炭素の部分とで結合ができ

ているためである。

 スクロースは右旋性で,=+66.5°であるが,分解して生ずる2個の単糖類

のうちグルコースは右に,フルクトースは強く左に旋光する。したがって,この混

合物は偏光を左に旋回することになる。そこでこの分解の過程を転化とよび,分解

して生じる混合物を転化糖とよんでいる。

 砂糖は,製造法(含蜜糖,分蜜糖),精製程度(粗糖,精製糖),色相(白,赤,黒

砂糖),加工形態(粉糖,角砂糖,氷砂糖)や原料(サトウキビ,テンサイ,カエデ

)などで分類される。ザラメ糖は粒子の大きいものをさし,グラニュー糖,車糖

になるに従って粒子が小さくなる。家庭生活でよく用いられるのは車糖で,精製程

度のよいものから上白,中白,三温に分けられる。

 砂糖の分析例を下の表に示す。

 

砂糖の成分〔%〕

名称

黒糖

台湾赤糖

カエデ糖

テンサイ白糖

グラニュー糖

上白

三温

スクロース

86.0

80.4

84.5

99.90

99.87

98.20

95.65

還 元 糖

2.09

5.06

3.03

0.01

0.01

0.70

2.11

水   分

5.7

6.1

8.0

0.07

0.01

0.53

1.91

灰   分

1.37

1.45

4.47

0.02

0.01

0.02

0.11

 

 

◆ラクトース(乳糖)

 β-ガラクトースとグルコースが1-4結合した二糖類。α形一水和物は融点201

202℃,α形無水物は融点223℃,β形は融点252℃である。無水物は吸湿性が強く,

室温では水を吸ってα形一水和物に変わりやすい。

 ラクトースは,乳汁に含まれており,人乳で約7%,牛乳で約4.5%を占める。還

元性を示し,ラクターゼまたはエムルシンで加水分解されて構成単糖を生じる。

 

◆セロビオース

 2分子のD-グルコースがβ-1,4-グリコシド結合した還元性二糖類。融点225(

),セルロースの基本構造をもつ。天然には遊離のものは存在しないとされてい

たが,マツ葉やトウモロコシの茎に微量検出された。セルロースの部分アセトリシ

スにより生じるオクタアセチルセロビオースを脱アセチル化し得られる。

 

 

 

◆デンプン,アミロース,アミロペクチン

 デンプンは,D-グルコースの重合体で,分子量は種類や精製法により異なるが,

数十万〜数千万にわたる。それぞれの種類により特有な形のデンプン粒となって

存在し,冷水に不溶で,水と温めると5560℃で粒が膨潤し,粘性の高い半透明

な溶液となる。この現象を糊化という。

 デンプン粒にはミセルと称する微結晶部分があるが,糊化によりミセルはなくな

る。ミセルを有するものをβ-デンプン,糊化の状態のものをα-デンプンという。

β-デンプンは冷水に不溶でアミラーゼの作用を受けにくいが,α-デンプンは冷水

で糊となり,酵素によりよく加水分解する。しかし,湿潤状態で放置すると,徐々

β-デンプンにもどる性質がある。

 アミロースはデンプンの成分で,D-グルコースがα-1,4−グリコシド結合で直鎖

状に重合したもので,普通のデンプンに約2025%含まれる。平均分子量は,数

万〜十数万,平均重合度は2001000である。

 アミロペクチンもデンプンの成分で,アミロースの直鎖状分子が枝状になったも

ので,分枝する部分ではα-1,6-グリコシド結合をしている。全グリコシド結合に

対するα-1,6-結合の割合は約4%で,普通のデンプンに約7580%含まれる。分

子量はアミロースより大きく,約5万〜5千万で,重合度は6千〜28万になる。

モチ米やモチトウモロコシなどモチ種のものは,アミロペクチンが100%近くあり,

アミロースがほとんど含まれていない。

 

 

◆グリコーゲン

 動物の体内に存在する多糖類。構造や組成はアミロペクチンと同じであるが,著

しく分枝が多く,樹枝状になり,分子全体としては球形になる。グルコース単位は,

分枝から分枝まで約3個,先端では67個である。分子量は数百万である。水に

は白濁した溶液となるが,有機溶媒には溶けない。アミラーゼや酸で加水分解され

マルトースを生じ,さらに加水分解されるとグルコースになる。

 

 

ヨウ素デンプン反応  ヨウ素デンプン反応は,冷デンプン水溶液がヨウ素と反

応して青色〜青紫色に呈色する反応である。デンプン分子が水素結合によりらせん

状となり,このらせん中にヨウ素分子が入って複合体をつくると呈色する。

 この呈色は,アミロースでは濃い青色であるが,分子鎖が短くなると紫や褐色と

なり,アミロペクチンでは赤紫色となる。また,加熱すると色が消え,冷やすと再

び呈色する。高温では水素結合が切れ,らせん構造が破壊されるためと考えられる。

 デンプン水溶液にアミラーゼを加えてしばらく放置し,10 分間おきに34回液

を採取してヨウ素デンプン反応を試みると,長鎖のデンプンが次第に切れていき,

最終的にはマルトースになるので,青→紫→赤紫→褐→無色と色の変化を観察する

ことができる。

 

 

 

◆セルロース

 D-グルコースが,β-1,4-グリコシド結合で直鎖状に重合したもの。植物の細胞

壁に多く含まれ,木綿・麻では分子量が30万〜50万,重合度は2千〜3千である。

 セルロースは水に溶けにくく,酸により長時間煮沸すると加水分解しグルコース

になる。ヒドロキシ基があるので,硝酸,酢酸などとエステルをつくる。

 

多糖類(デンプン,セルロース以外)

多糖類

構成単糖類

分子量

備考

アガロース

ガラクトース C6H12O6

3×103

紅藻類,

 

3,6anhydro−ガラクトース C6H10O5

9×103

寒天

アルギン酸

マンヌロン酸 C6H10O7

5×104

褐藻類

 

グルクロン酸 C6H10O7

1.8×105

 

イヌリン

フルクトース C6H12O6

4×103

キク科・ユリ科

 

グルコース C6H12O6

6×103

の根・根茎

グルコマン

グルコース C6H12O6

2.7×105

コンニャクイモ

ナン

マンノース C6H12O6

 

 

キチン

N−アセテルグルコサミン C8H15O6N

3×105

昆虫の表皮

ヒアルロン

グルクロン酸 C6H10O7

3×104

動物結合組織

N−アセテルグルコサミン C8H15O6N

1×107

 

 

綿の断面 木綿はセルロース分子からなり,その平均分子量は約3050万の

天然高分子化合物である。セルロースはβ−グルコースが1,4−グリコシド結合した

長鎖状の多糖類であり,セルロース分子が多数集合したミクロフィブリルが,さら

に並んで繊維をつくっている。乾燥植物体中の主成分(3050)であり,最も

豊富な生物資源で,ワタの繊維はその98%がセルロースである。

 

◆ニトロセルロース

 セルロースに濃硝酸と濃硫酸の混液を加え,セルロースをエステル化した化合物。

エステル化が少ないものはセルロイドに,多いものは火薬などに利用される。これ

を綿火薬という。

 [C6H7O2(OH)3]n3nHONO2→[C6H7O2(ONO2)3]n3nH2O

 









本サイトに掲載された記事や画像の無断転載を禁じます。
Copyright(C) 2009-2012 SHINKOSHUPPANSHA KEIRINKAN CO.,LTD. All rights reserved.