トップ化学II2部 反応速度と平衡>第2章 化学平衡>3節 電離平衡

3節 電離平衡

 

電離平衡

 溶液中における溶質分子と,それらが電離して生じるイオンとの間の平衡状態を

いう。一般に,弱電解質の水溶液中における電離平衡では,質量作用の法則がよく

成立する。

 たとえば,弱電解質MAの水溶液中では,溶質MAとこれから生じたイオン

MAとの間に次のような平衡が成立する。

   MA(aq)  M(aq)A(aq)

    [ ]は濃度を示す。Kは平衡定数を示す。

 

電離平衡では,Kを電離定数という。弱電解質の濃度をc,電離度をαとすると,

平衡時には,[MA]c (1a)[M][A],となるから,

   

 

となる。この式は,オストワルト(18531932)により1888年に見い出され,オ

ストワルトの希釈律といわれる。

 強電解質については,オストワルトの希釈律が成立しない。この場合には,濃度

ではなく活動度を用いると,同様の関係が成立する。

 

水のイオン積

 非常に鋭敏な計器を用いて水の電気伝導度を測定してみると,純粋な水の場合で

もその値は0にならず,非常に小さい値ではあるが一定の伝導度になる。すなわち,

純粋な水の中にも電気を運ぶイオンが存在するわけで,このイオンの生成は水分子

どうしの衝突と陽子の移行によって起こるものと考えられている。

   H2OH2OH3OOH

 この反応の平衡定数の値は,電気伝導度の正確な測定によって求めることができ

る。水の電離を表す式としては,一般にH2O HOHが用いられ,これに

質量作用の法則を適用して得られる式としては,次の式が用いられる(正確には濃

度でなく活動度を用いる)

   

 

 純粋な水,または希薄水溶液の中では,水分子の濃度[H2O]はほぼ次の値をとり,

一定であるとみなす。25℃では,水1Lの質量は997gなので

1L中の水分子の物質量: 

 

 そこで,[H][OH]constKW KWを水のイオン横と称するように

なった。表にp KW (=−log10 KW)と温度の関係を示す。

pKWと温度の関係

温度〔℃〕

pKW

KW

温度〔℃〕

pKW

KW

0

14.9435

0.114×1014

30

13.8330

1.47×1014

5

14.7338

0.185×1014

35

13.6801

2.09×1014

10

14.5346

0.292×1014

40

13.5348

2.92×1014

15

14.3463

0.450×1014

45

13.3960

4.02×1014

20

14.1669

0.681×1014

50

13.2617

5.47×1014

24

14.0000

1.000×1014

55

13.1369

7.30×1014

25

13.9965

1.008×1014

60

13.0171

9.61×1014

 

 

水素イオン指数pH

 pHは水素イオン指数を表す記号で,英語読みでピーエイチ,独語読みでペーハ

ーと発音する。

 pHを測定するには,水素電極の電位差測定による方法と比色測定による方法と

がある。実際には,次の3つの方法がよく用いられている。

a) pH試験紙:pH指示薬をろ紙にしみこませたもので,標準色と試料水をしみ

 こませた試験紙の示色とを比較する。誤差が大きく,pH0.2ぐらいの差はご

 く普通である。溶液の種類によっては,pH1ぐらいも違ってくる。

b) pH比色計:pH指示薬を緩衝溶液に加えてアンプルに封入した標準色と,同

 量の指示薬を加えた試料水の示色とを比較する。わりあい正確に測定ができて,

 誤差は普通pH0.1以内である。

c) ガラス電極pH計:ガラス電極を用いて,溶液の水素イオンによる電極電位を

 測定する機器である。精密な測定ができるので,研究室などでよく用いられてい

る。普通の測定では,誤差がpH0.1以下である。最近では,ガラス電極の替

わりに半導体センサーを用いたpH計が増加している。pH標準溶液としては,

次の表のようなものがある。

*1 KH3(C2O4)22H2O 12.71gを水に溶解して1lとする。

*2 KHC4H4O525±3〔℃〕の水に飽和させる。

*3 KHC8H4O4 10.21gを水に溶解して1lとする。

*4 KH2PO4 3.4gNa2HPO4 (無水)3.55gとを水に溶解して1lとする。

*5 NaB4O710H2O 3.81gを水に溶解して1lとする。

 

電離度

 電離における解離度に相当し,一般に,電離した物質量を電解質の全物質量で除

した値でこれを表す。記号としてαが用いられ,強電解質溶液では通常α1,す

なわち完全に電離しているものと仮定して扱われることが多い。強酸や強塩基の

0.1mol/l0.05mol/l25℃における電離度は,ほぼ0.9であって,通常これを1とみ

なして扱う。

 弱電解質の溶液では普通1よりもかなり小さいが,低濃度になるにつれて増大し,

無限希釈状態ではすべての電解質についてα1 (完全解離)となる。

 電離度は,溶液の沸点,凝固点,浸透圧,導電率などの測定から求められる。

 

電離平衡  弱電解質の水溶液における電離平衡では,質量作用の法則が成立し,

水溶液の濃度が大きいほど電離度が小さくなる(オストワルトの希釈律)

   

 

氷酢酸は濃度が大きいにもかかわらず,電離度が小さいために

CH3COOHがわずかで電流が通らないのに対して,氷酢酸を希釈していくと,

濃度が小さくなっていくが電離度が大きくなり,CH3COOHが増加し電流が

通るようになることを確認できる。酢酸の場合,0.1mol/l水溶液での電離度は

1.66×1020.01mol/l水溶液での電離度は5.24×102である。

 

多価の酸の電離定数

 電離定数については,解説「電離平衡」ですでに述べた。ここでは,多価の酸や

塩基の電離定数について説明する。

 たとえば,H3Aで表される3価の酸では,3段階に電離が進み,それぞれの段階

で電離定数が考えられる。

H3AHH2A

H2AHHA2

HA2HA3

 

一般に,K1K2K3の関係がある。

 また,このような多価の酸の電離平衡は,H3A 3HA3でも表され,この

ときの電離定数は,次式のように表される。

   

 

 なお,酸・塩基の電離を電離定数で表すほか,電離定数の逆数の常用対数で示す

ことがあり,解離指数といい,記号pKで表す。

   

 

 

 

緩衝液

 一般に,弱酸とその塩,または弱塩基とその塩の混合溶液は,pHの値が変動し

にくいので緩衝液と呼ばれている。溶液のpHを一定に保つ必要がある場合や,

pH測定の際の標準液として利用されている。

 緩衝溶液の水素イオン濃度は,弱酸の平衡定数をKa,弱酸の濃度をCa,塩の濃

度をCSとすると,一般に次式で表される。

   

 

また,弱塩基の電離定数をKb,弱塩基の濃度をCb,塩の濃度をCSとすると,こ

の液では次式が成立する。

   

 

 

 下の表に,緩衝溶液の調製法の具体例を示す。

 生体内で緩衝作用を行う主要なイオンは,H2PO4HPO42である。H2PO4

酸の役割,HPO42がその塩の役割を果たし,pH6.97.4に保たれるようにし

ている。これは,表の(3)とほぼ同様の内容である。

    H2PO4HHPO42

 血液内では,CO2または,H2CO3HCO3とが緩衝作用をしている。

    CO2H2OH2CO3HHCO3

 

           緩衝溶液の調製法とpH

 

生体内の緩衝液

 生物の細胞内液や細胞外液は,これらの体液の正常pHで緩衝剤として作用す

る共役酸塩基対を含む。おもな細胞内緩衝剤はH2PO4HPO42の共役酸塩基対

(pK7.2)である。グルコース6−リン酸やATPのような有機リン酸も細胞内の

緩衝能に寄与している。脊椎動物の血液や間質液中の細胞外緩衝剤として主なも

のは重炭酸緩衝系である。血液の著しい緩衝能は次のような比較で示すことがで

きる。10mol/lHCl1mlを中性の生理食塩水つまり約0.15 mol/lNaCl1.0 lに加

えると,生理食塩水には緩衝能がないから,pH2.0に低下する。ところが,同

じ量のHClを血液1.0 lに加えても,pHはごくわずか,pH7.4から約pH7.2に低

下するだけである。

 重炭酸緩衝系(H2CO3-HCO3)はいくつかのきわだった性質をもっている。これも

他の酸塩基対と同じ方法で緩衝剤として作用するが,比較的強い酸であるH2CO3

pKは約3.8であり,血液pHの正常範囲よりずっと低い。したがって,なぜこ

のように低いpKの酸がpH7.0付近で生理的な緩衝剤として作用するのかという

疑問が起こる。重炭酸緩衝系ではプロトン供与体形である炭酸は溶存している

CO2と可逆的平衡にある。すなわち,

    H2CO3 CO2 (水相)H2O

このような水性系が気相と接触していると,溶存しているCO2はさらに気相と水

相との間で平衡する。

     CO2 (水相)  CO2 (気相)

ヘンリーの法則から水への気体の溶解度は気体の分圧に比例するので,重炭酸緩衝

系のpHは緩衝液上の気相中のCO2分圧の関数となる。他の変数が一定のままCO2

圧が増せば,重炭酸緩衝剤のpHは低下し,その逆も起こる。重炭酸緩衝系はプロ

トン受容体/プロトン供与体比が非常に大きいpH7.0付近でも,少量のプロトン

供与体H2CO3が肺の比較的予備量の大きい気相のCO2と不安定な平衡状態にある

ため,血漿に対し効果的な緩衝作用をもつ。血液が過剰のOHを吸収しなければ

ならないような条件でも,消費されてHCO3となったH2CO3は肺に多量にプール

されている気相のCO2からすみやかに補充される。

 重炭酸緩衝系にはこのほかにもきわだった特徴がある。CO2は,燃料分子の好気

的燃焼の主な終産物であり,哺乳類では最後に肺から排出される。血中の定常状態

[HCO3]/[H2CO3]比は組織内での酸化によるCO2生成速度と呼気によるCO2

失速度を反映している。

 哺乳類の血漿のpH値は著しく安定に保たれている。ヒトの血漿のpHは正常で

7.40である。病気の場合のように,このpH調節機構が正しくふるまわず,血

液のpH7.0以下や7.8以上になると,修復不可能な傷害が起こることがある。

それでは細胞内のどんな分子機構が3×105mol/l(血漿でpH7.47.0の差にほぼ等

しい)程度のわずかな水素イオン濃度変化が致死的であるほど水素イオン濃度に敏

感なのであろうか。細胞の構造や機能のさまざまな局面がpHに影響されるが,酵

素の触媒活性はことに敏感である。下図に示した代表的な曲線から,酵素が至適pH

と呼ばれる固有のpHで最大活性をもち,その活性がその両側で鋭い低下を示すこ

とがわかる。このように,細胞や体液のpHを生物が制御することは中間代謝や細

胞機能のあらゆる局面で非常に重要なことなのである。

 

 

緩衝液  リン酸二水素塩とリン酸水素塩の混合水溶液は,

H2PO4の電離平衡が下記のように成立するので,H2PO4が酸,H2PO42がその塩

とみなされる。下記の電離ではpKa7.20で,[KH2PO4][K2HPO4]の緩衝溶液

pH7.20となるが,実際にはイオンの活量が関係しpH7以下になる。こ

の緩衝液は生体内で緩衝作用をする代表的なものである。

   H2PO4 HPO42H

KH2PO4K2HPO4混合水溶液は,pH5.88.0の液性で使用される緩衝液である。

 

 

塩の分類

 中和反応の観点から,正塩(中性塩),酸性塩(水素塩),塩基性塩に分類される。

正塩は,酸と塩基が過不足なく反応した組成の塩である。酸性塩は,多価の酸が中

和反応したとき生じる塩で,まだ金属原子と置換できる水素原子が残った組成をも

っている。塩基性塩は,多価の塩基が中和反応したとき生じる塩で,まだ酸基と置

換できるOH原子団が残った組成をもっている。

   HClNaOH ―→ NaCl(正塩)H2O

   H2SO4NaOH ―→ NaHSO4(酸性塩)H20

  Mg(OH) 2HCl ―→ MgCl(OH) (塩基性塩)H20

 陽イオンも陰イオンもそれぞれ1種類の塩を,単純塩といい,単純塩が2種類以

上含まれる形の塩を複塩という。

   (単純塩) NaCIK2CO3Al2(SO4)3

 (複塩) AIK(SO4)2KNaCO3

 そのほか,結晶に結晶水(水和水)を含む含水塩と,結晶水を含まない無水塩や,

イオンが錯イオンである錯塩などがある。

 

塩の加水分解

 塩を構成する成分イオンが,水溶液中で水分子と反応して,他の分子やイオンに

なることをいう。この結果,水溶液中にはHまたはOH-が生じるので,溶液は

一般に,酸性または塩基性を示す。

 たとえば,酢酸ナトリウムは,次に示す反応式によってごく少量のOHを生じ

るので塩基性を示す。

  CH3COONa ―→ CH3COO-Na

  CH3COO-H2O  CH3COOHOH-

この反応が起こるのは,酢酸が弱酸であり,水溶液中で分子の形で存在しやすいか

らである。

 炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムの場合は,炭酸(二酸化炭素水溶液)が弱酸

であるので,それぞれ次の反応式によって塩基性を示す。

   Na2CO3 ―→ 2NaCO32-

   CO32-H2O  HCO3-OH-

   NaHCO3 ―→ NaHCO3-

   HCO3-   CO2OH-

 アンモニウムイオンの加水分解では,NH4の中のHが水分子の酸素の非共

有電子対に移り,ごく少量のH30を生じるので,酸性を示す。

    NH4H2O  NH3H30

水分子を省略すると,

    NH4+  NH3H+

この反応が起こるのは,アンモニアが弱塩基であり,水溶液中で分子の形で存在し

やすいからである。

 また,塩化鉄(III)や硫酸銅(II)は,次の反応式によって,ごく少量のHを生じ

るので,水溶液は酸性を示す。

   CuSO4 ―→ Cu2SO42-

   Cu2+H2O  [Cu(OH)]H+……@

   FeCl3 ―→ Fe3+3Cl-

   Fe3+H2O  [Fe(OH)]2H+……A

 なお,実際にはCu2Fe3+はそれぞれ[Cu(H2O)4]2+[Fe(H2O)6]3の水和イオ

ンの形で水溶液中に存在している。したがって,次のように表される。

 [Cu(H2O)4]2H2O  [Cu (OH) (H2O)3]+H3O ‥‥‥B

   [Fe(H2O)6]3H2O  [Fe(OH)(H2O)5]+H3O ‥‥‥C

 式@は,式Bの両辺から4H2Oを省略したものであり,また式Aは,式Cの両辺

から5H2Oを省略したものである。

 一般に,アルカリ金属とアルカリ土類金属のイオンを除く金属水和イオンは,水

溶液中でH+H2Oに与えることができるので,すべて酸性を示す。

 また,強酸の陰イオン(SO42NO3ClBr-T-など)を除いた他の陰イオ

(CH3COOHCO3-CO32-など)は,水溶液中でH+と結合して弱酸分子になりやす

いので,塩基性を示す。

 

塩の加水分解とpH

 塩を構成する成分イオンが,水溶液中で水分子と反応して,他の分子やイオンに

なることをいう。この結果,水溶液中にはH+またはOH-が生じるので,溶液は

一般に,酸性または塩基性を示す。

 加水分解反応の平衡定数は加水分解定数と呼ばれ,記号Khで表される。Kh

酸解離定数Ka,または塩基解離定数Kbに反比例し,KaKbが小さいほど大き

な値をとる。すなわち,塩を形成する酸や塩基が弱いほど大きな値となる。

 いま,酢酸ナトリウムを例にとって,この関係を示してみよう。

   CH3COONaCH3COONa

   CH3COOH2OCH3COOHOH

 この加水分解反応に質量作用の法則を適用すると,次の式が得られる。

   

 

薄い溶液では,[H2O]≒一定 とおけるので,

   

 

また,酢酸の解離定数Kaと水のイオン積KWとは次式で表されるので,

 

 酢酸のKa2.8×105mol/lKW1.0×1014(mol/ l) 2であるから,Kh

×109mol/lとなる。この水溶液の濃度をc mol/lとし,加水分解で生成する

 

酢酸と水酸化物イオンの濃度をmol/lとすると,式(3)より

   

 

αは小さいので,1α1となり,式(4)より  

c0.10 mol/lの溶液では,

   

 

  [OH]0.1×6.0×1056.0×106mol/l

   [H]

 

   pH=−log10[H]

 

したがって,0.1mol/lの酢酸ナトリウム水溶液では,酢酸イオンの約0.006%が

加水分解し,pHは約8.8になると推定できる。

 

弱酸・弱塩基の遊離

 弱酸の塩に強酸を加えると弱酸が遊離してくる反応や弱塩基の塩に強塩基を加え

ると弱塩基が遊離してくる反応は,どちらも塩の加水分解の原理と同じである。

   CH3COOH CH3COOH

   NH4OH NH3H2O

 なお,中性の塩NaClに濃硫酸を加えて熱すると,塩化水素が遊離してくる。

この反応は,濃硫酸が不揮発性であるのに対して塩化水素は揮発性だからである。

   NaClH2SO4 NaHSO4HCl

 

中和滴定曲線

 中和滴定の進行に従って,pH変化を示した曲線を中和滴定曲線という。

下図に(1)強酸と強塩基,(2)強酸と弱塩基,(3)弱酸と強塩基,(4)酸と弱塩基,

の滴定曲線をそれぞれ示した。同時に,よく使われる指示薬の変色域も示した。

中和滴定曲線と指示薬

Na2CO3の中和滴定曲線

(1)AB HClNaOH 

(2)AB¢  HClNH3

(3)A¢B CH3COOHNaOH

(4)A¢B¢ CH3COOHNH3

 

(4)以外は当量点で明確なpH飛躍がみられ,適当な指示薬で当量点を決定で

きる。なお,多価の弱酸や弱塩基では,中和点までの中間点に小さなpH飛躍が

見られることがある。

 また,炭酸ナトリウムのような塩も,上図のように強酸で中和滴定される。

この中和滴定では,次式のように2段階で中和反応が起こる。

  CO32H HCO3

  HCO3H H2OCO2

 

 

 

◆溶解平衡,溶解度積

 一般に,一定量の溶媒に溶解できる溶質の量には限界があり,これを溶解度とい

う。溶解度以上に溶質を加えた場合は,溶質の溶解と析出が同時に起こり,しかも

その量が等しくなる。これを溶解平衡という。

 ここでは,溶解度の小さいイオン性化合物の溶解度について考えてみよう。たと

えば,塩化銀を水に溶かすと,ごくわずか電離して,次の電離平衡が成立する。

   AgCl ()aqAgaq+Claq ……(1)

塩化銀は溶解度がきわめて小さい(105mol/l)ので,解離度はほぼ1となり,水

溶液中ではAgClのような分子は全く存在せず,すべて電離していると考えられる。

(1)式の平衡定数を表す式には,固体の濃度の項は入ってこないので,

   [Ag][ Cl]KKSP …… (2)

が成立する。このような平衡定数を溶解度積といい,KSPの記号で示す。この式は,

水溶液中にAgClが存在するとき,その濃度の積がKSPより大きくなること

ができないことを示している。

一般に,溶解度積の小さい物質ほど沈殿しやすい。溶解度積の差による沈殿生成

の有無などを利用して,金属イオンの分離などが行われている。また,沈殿滴定な

どにより,含まれているイオンの定量なども行われている。

塩化物イオンClの定量には,少量のクロム酸カリウムK2CrO4水溶液を加えて,

硝酸銀水溶液で滴定する。

   AgCl ()aqAgaq+Claq 

    KSP[Ag][ Cl] 1.8×1010

   Ag2CrO4()aq 2AgaqCrO42aq

    KSP[Ag]2[ CrO42]1.1×1012

したがって,

   [Ag] [ CrO42]1/21.05×106

となる。[Ag]に注目して塩化銀とクロム酸銀の溶解度積を比べることは,

[Ag][ Cl] 1.8×1010[Ag] [ CrO42]1/21.05×106とを比べることになる。

したがって塩化銀の溶解度積のほうが小さいので,硝酸銀を加えていくとまず

AgClが沈殿する。そして,溶液中のClが消費されなくなるとAg2CrO4が沈殿し

はじめる。この沈殿は赤色なので,赤色沈殿の現れる点をもって滴定の終点とする。

化学式

KSP

化学式

KSP

化学式

KSP

AgCl

1.8×1010

CaSO4

9×106

NiS(α)

3×1019

AgI

1.5×1016

CdS

2×1028

PbCl2

1.7×105

Ag2CrO4

1.1×1012

CuS

4×1036

PbSO4

2×108

Ag2S

6×1050

FeS

5×1018

SnS

1×1026

BaSO4

1×1010

Fe(OH) 3

4×1040

ZnS(α)

2×1024

CaCO3

3×1019

HgS

1×1052

 

 

 

 

共通イオンの影響  共通イオンを加えることで化学平衡を移動させたり,

沈殿生成をより完結させたりする効果を共通イオン効果という。Clによる変

化は,塩化水素ガスを通しても観察することができる。また,Naを増加させ

ても共通イオン効果を観察できる。飽和水酸化ナトリウム水溶液を加えるほか

に,Naの金属を加えてもよい。

 

共通イオンの影響

塩化鉛PbCl2の溶解度積KSP[Pb2][ Cl] 2[は,1.7×105(mol/l)3〕である。

したがって,PbCl2の飽和水溶液では,[Pb2]1.6×102mol/l

[Cl]3.2×102mol/lとなる。これに塩化ナトリウムNaClを加えて,仮に

[Cl]1×101 mol/lになったと考えてみよう。PbCl2KSPは一定値に保たれ

るので,[Pb2]は次式で計算されるように,きわめて小さい値になる。

   [Pb2]×(1×101) 21.7×105 だから [Pb2]1.7×103mol/l

 このように,ある化合物の構成イオンと同じイオン,すなわち共通イオンを加え

ることで,化学平衡を移動させたり,あるいは沈殿をより完結させたりする効果を,

共通イオン効果という。このような効果は,食塩を濃塩酸で沈殿させるように,溶

解度の大きい場合でも成立する。

 

●硫化銅(U)の沈殿生成反応  Cu2を含む水溶液に硫化水素水を加えると,

[Cu2][S2]の積が溶解度積Kspの値4.0×1036mo12l2を越えたとき,CuS

黒色沈殿が析出する。この沈殿生成反応もきわめて速い反応の例である。S2

濃度は,溶液のpHを変化させることにより変えることができる。金属硫化物

の沈殿の色は,黒〜黒褐色が多いが,ZnSの白色,CdSの黄色,MnSの淡赤色

などもある。

 

硫化物の沈殿

 硫化水素は,水溶液中で次のような電離平衡の状態にある。

   H2SHHS  K18.7×108mol/l

   HSHS2  K23.6×1013mol/l

 

0.1mol/lの硫化水素水中の[S2]は,次式で求められる。

H2S2HS2において[H]2 [S2]

 

一方,0.3mol/lの塩酸酸性のときは,[S2]は,次式のようになる。

 

このように,硫化水素水の[S2]の値は液の酸性が強くなると,急激に小さくなる。

したがって,硫化物の溶解度積がきわめて小さい金属イオンは,硫化水素水により

酸性下でも沈殿するが,溶解度積が大きい金属イオンでは中性やアルカリ性にしな

いと硫化物の沈殿を生じない。

 

ハロゲン塩の溶解度
水に難溶性の塩は,フッ素と他のハロゲン塩とで,金属の種類が異なる。ClBr

Iには共通のものが多い。以下に難溶性塩の例を示す。

(1) フッ素

CaF2()CrF2()CrF3()MgF2()CuF()

(2) 塩 素

AgCl()CrCl3(赤紫)Hg2Cl2()CuCl()
PbCl2()PtCl2(灰緑)

 

(3) 臭 素

AuBr()AgBr(淡黄)Hg2Br2()CuBr()

(4) ヨウ素

AuI (緑黄)AuI3(暗線)AgI ()Hg2I2()HgI 2()

CuI ()PbI2()PtI2()PtI4()

 

また,ハロゲン化銀とPbCl2の溶解度を下表に示す。

 

温 度

0

10

20

25

30

40

50

60

80

100

AgCl103g/l

0.70

1.05

1.55

1.93

2.4

3.6

5.4

21

AgBr104g/l

0.31

0.53

0.97

1.35

1.80

2.93

4.77

7.46

 

37.0

AgI105g/l

3.4

6.0

9.4

13.7

PbCl2wt

0.67

0.80

0.97

1.07

1.17

1.40

1.64

1.92

2.56

3.23

(単位g/lは,溶液1 l中の溶質の質量〔g〕を示す。)

金属元素の硫化物の溶解度

 硫化水素は,多くの金属イオンと反応して硫化物の沈殿をつくる。その硫化物は,

金属イオンの種類によって特有の色を示し,酸に溶・不溶の相違がある。たとえば,

硫化鉄(II)は酸に溶けるが,硫化銅(II)は溶けない。その理由は,次のように溶解

度積によって説明されている。

 硫化鉄(II)の溶解度積は[Fe2] [S2]6×1018(mol/l)2である。酸性のもとでは,

液中の[S2]は減少する。

    S2HHS   HSHH2S

 したがって,[Fe2][S2]の値は6×1018よりも小さくなり,硫化鉄(U)はすべ

て溶けてしまう。これに対して,硫化銅(U)の溶解度積は[Cu2][S2]6×1036

(mol/l)2で非常に小さい。それで,酸性のもとで[S2]が小さくなっていても,ご

くわずか溶けて飽和に達するので,それ以上溶けないことになる。

硫化物の溶解度積(1825)

HgS

[Hg2][S 2]4×1053

CoS

[Co2][S2]=2×1025

Ag2S

[Ag]2[S 2]6×1050

NiS

[Ni2][S 2]1×1024

CuS

[Cu2][S 2]6×1036

ZnS

[Zn2][S 2]2×1024

CdS

[Cd2][S 2]6×1028

FeS

[Fe2][S 2]6×1018

PbS

[pb2][S 2]1×1028

MnS

[Mn2][S 2]3×1013

 

 

 

 








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