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2節 平衡移動と平衡定数

 

ルシャトリエ Henry Louis Le Chatelier

1850108日パリに生まれたフランスの化学者。ソルボンヌ大学教授となり,

化学の研究と化学教育にその一生をささげた。平衡移動の原理の提唱者として著名

であるほか,窯業に関する論文が多く,高温化学に関する貢献も大きい。1936

917日没。

 

濃度変化と平衡移動

 水素,ヨウ素,ヨウ化水素の混合気体が,容積一定のある容器内で平衡状態

   H2I22HI ……(1)

にあるとき,濃度の影響を考えてみよう。今,平衡状態で,これらの濃度がそれぞ

[H2][I2][HI]とすると,次式が成立し,平衡定数Kは一定である。

   

 

この容器の中に,新たにある量のH2を加えると,[H2]の値が増加する。すると(2)

式の分母の値が大きくなるので,(2)式の左辺はKより小さくなる。したがって左辺

Kに等しくなるために(1)式の平衡は右へ移動し,[H2][I2]は減少して,[HI]

が増加する。

 このとき注意する点は,この平衡移動により[H2]が元の値よりも小さくなるわ

けではないことである。加えたH2の一部が消費され,同物質量のI2が減少してそ

2倍の物質量のHIに変化するだけである。

 

圧力変化と平衡移動

  N2O4 ()  2NO2 () の平衡状態について,圧平衡定数Kpを用いて,

圧力による平衡移動を考えてみよう。いま,ある容器の中にN2O4NO2の混合気

体が平衡状態にあり,N2O4の分圧PN2O4aNO2の分圧PNO2bであったとす

れば,Kpは次式で表され,一定となる。

   

 

この混合気体の体積を半分に圧縮したとき,平衡移動がなかったとすれば,圧力は

2倍になり,分圧も2倍になるから,

   

 

 したがって,Kpを一定に保つためにはPN2O4が大きくなる必要があり,N2O4

生成する方向に反応が進む。

 全圧Pと分圧との関係は,PPN2O4PNO2PNO22PN2O4×Kpから求められ,次

のようになる。

   

 

また物質量は,次のようになる。

   

 

温度変化と平衡移動

平衡定数は,温度一定のとき一定値となるが,高温になると,発熱反応では小さ

くなり(すなわち生成物の濃度減少),吸熱反応では大きくなる(すなわち生成物の

濃度増大)。このような変化は,熱力学により導かれる次式から理解できる。いま,

反応熱を−ΔH,圧平衡定数をKp,反応温度をT(K),気体定数をRで表すと,

   

 

この式を,ΔHが温度により変化しないとして積分すると,

     (Cは定数)

 

どちらの式からも,吸熱反応(ΔHが正)のとき,高温(Tが大きくなる)ではKpが大き

くなり,逆に発熱反応(ΔHが負)のとき,高温ではKpが小さくなることがわかる。

 

温度変化による平衡移動  N2O4 ()は無色,NO2 ()は赤褐色である。したが

って,これらの気体の平衡では,NO2の濃度が大きくなるほど赤褐色が濃くなる。

   N2O4 ()2NO2 ()57.2kJ

 NO2生成反応は吸熱反応であるから,温度を変化させると,ルシャトリエの原理

に従って,高温ではNO2が生じる方向に,低温ではN2O4が生じる方向に平衡移動

が起こる。したがって,高温ほど赤褐色が濃くなる。

 この平衡移動は,教科書p.9823のように,気体混合物を氷や湯につけるこ

とでも観察できるが,連結した2個の容器内で高温部分と低温部分をつくり,その

色の違いから観察することもできる。N2O4は,低温・高圧では液化し,また高濃

度では色の変化を観察しにくいので,実際の実験では空気を混合しうすめて行うと

よい。全圧1×105PaのときのN2O4の解離度を次に示す。

 

温度〔℃〕

27

50

64

100

135

解離度

20

40

50

89

99以上

 

 

アンモニア合成反応の化学平衡

 水素と窒素とからアンモニアを合成する反応は,

        3H2N22NH392kJ(18)

で表され,ガスの容積は左辺が314,右辺が2であるから,容積の減少が起こ

り,また発熱反応である。それゆえ,反応を行うときにガスに圧力をかけると,容

積の減少を促すことになり,また,反応の温度を低くすると,発生した熱が放散し

やすくなるから,アンモニアの生成量が増加する。いいかえると,反応の平衡が右

辺のほうにかたよることになる。

 このことを実験で確かめてみると,下図のようになる。図において,

 曲線(1)温度……これは圧力を1×107Pa(100気圧)で一定にし,温度を変化させた

場合の実験で,温度の低いほど,アンモニア生成量は大きい。

 曲線(2)圧力……これは温度を500℃で一定にし,圧力を変化させた場合の実験で,

圧力の高いほど,アンモニア生成量は大きい。

 曲線(3) N2…‥これは圧力1×107Pa(100気圧),温度500℃として,窒素と水素の

混合ガス中,窒素が25(N23H2)のときアンモニア生成量は最大になることを

示している。

 

 このような実験をいろいろ行ったところ,圧力をさらに大きくして1×108Pa

(1000気圧) ぐらいにすると,200℃ではほとんど全部の窒素と水素とが反応するよう

になる。いいかえると,アンモニアの生成率が100%に近くなる。しかし,温度が

低くなると化学反応は不活発になって,全部がアンモニアになるのに非常に長い

時間が必要になる。それゆえ,触媒を使ってこの反応速度を速め,また,圧力も

むやみに高めることは工業上できないから,適当なところでとどめる。すると,

1回の反応では窒素と水素とがアンモニアにならずに残るから,それはアンモニ

アを分離したあとで,新しいガスとまぜて再び触媒にとおして反応をくりかえし,

アンモニアをつくる。 なお,アンモニアの分離は,深冷器で冷やし,液体とし

て分離する。これは,高圧下にあるため,−20℃くらいに冷却するだけで液化す

るからである。

 

アンモニア合成工業

 窒素と水素を直接反応させてアンモニアを得る反応の化学平衡は,今世紀の初め

から,ネルンストやハーバーにより,種々の温度と圧力の下で系統的に研究された。

ルシャトリエの原理より,N23H22NH392kJの平衡を右に移動させるに

は,高圧・低温にすればよい。しかし,これを実験で確かめるには,高圧に耐える

実験装置が必要であり,また低温でもある程度反応が速く起こるようにするため触

媒が必要であった。1906年頃には,温度は600℃以上,圧力は2×107Pa(200atm)

らいの高圧が必要と分かってきた。

 ハーバーらは,ドイツのバージッシュ社(BASF)で工業化を研究した。その

際,化学装置に経験の深いボッシュK.Boschの協力によって,1913年工業化に成

功した。そのときは,触媒として酸化鉄にアルミナとアルカリを加えたものを用い,

2×107Pa(200atm)500℃くらいに加熱し,容積で18%のアンモニアが生成するこ

とが分かった。現在でも,基本的にはこの方法でアンモニアが合成されている。

 

平衡定数

 可逆反応  aAbB+…… ……

が平衡状態にあるとき,各物質の濃度の間に,次式が成立する。

   

 

Kは平衡定数と呼ばれ,反応の種類と温度が決まれば一定値となる定数である

(この式の関係を質量作用の法則ということもある)。平衡定数の値は,温度が変わ

れば変化するが,物質の濃度や圧力によっては変わらない。

 Kは,各物質を濃度単位で表したとき,濃度平衡定数Kcといい,反応が気相反

応の場合で圧力単位で表したときは,圧平衡定数Kpという。KcKpの間には,

理想気体の反応の場合,次の関係がある。

 

 

   

 

 なお,厳密には,平衡定数はおのおのの物質の活動度aAaB,……,aAaB

……を用いて次式のように表され,質量作用の法則も正式にはこの式で表される。

 

 この式は,統計力学や熱力学から導くことができ,KcKpは,この関係を理

想溶液や理想気体に応用したものである。高校段階では厳密に平衡定数を定義する

必要はなく,定性的な理解が得られれば十分であるので,平衡定数を扱うにしても

KcKpなどで十分と考えられる。

 

固体を含む反応の平衡定数

 反応式中に固体を含む反応では,平衡定数を示す式から固体成分を除く。たとえ

ば次の反応式

   aA()bB()  cC()dD()

で,質量作用の法則から平衡定数の式を考えると,次式のようになる。

   

 

 (1)式で,Aは固体であるから[A]は固体の密度になり,温度が決まれば一定値と

なる。したがって,(1)式は次式のように変えたとき,K[A]aも定数となる。

   

 

K[A]aを改めて新しいKと置けば,固体成分を除く式で平衡定数が決まる。

 

平衡定数と反応速度式

 質量作用の法則を,反応速度の考え方から説明することが多い。たとえば,

aAbB cCdDの反応で,右向きの反応速度v1と左向きの反応速度v2

次のように示されるとする。

   v11 [A]a[B] b …………(1)

   v22 [C] c[D] d …………(2)

 平衡状態では,v1v2であるから,

   

 

 このような考え方は,高校段階では理解しやすく便利であるが,いくつか難点が

ある。それは,反応速度式が必ずしも(1)(2)のように表されないことである。いわ

ゆる化学反応の次数と化学反応式の係数とは無関係である。また,化学反応の次数

3になる反応はきわめてまれであり,3より大きい反応は存在しない。したがっ

て,反応速度の考え方から平衡を理解させるときは注意を要する。ヨウ化水素の生

成反応は,たまたま反応式の係数と反応の次数が一致した例であるが,触媒をつか

って反応経路が変わるときは,反応の次数が異なってくる可能性もある。

 

2節 化学平衡の移動

ルシャトリエの原理

 平衡状態にある物質系に,外から影響を与えたときの,物質系の変化に関する原

理で,1884H.L.Le Chatelierによって提唱され,1887K.F.Braunにより発展さ

せられたもので,平衡移動の原理(または法則)とも呼ばれている。

 その一般的な表現は,“ある熱力学的平衡の状態にある系が,外部的な作用でそ

の平衡が乱された場合,この作用に基づく効果を和らげる方向にその系の状態が変

化する”ということになる。

 したがって,この原理が適用される対象は,単に化学平衡だけでなく,液体の蒸

発・凝固や,固体の溶解・析出など,相平衡に関する諸事象を含むことになる。

 

 

 








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