トップ>化学II>第1部 物質の構造>第2章 物質の状態変化>第2節 状態変化とエネルギー
◆昇華
固体の物質を加熱していくと,液体を経て気体になるのがふつうであるが,
ヨウ素は,固体から直接気体に変化する。このように,固体が液化しない
で直接気体になる現象を昇華という。
したがって,昇華は固体の蒸発現象ということもでき,室温ではナフタレン,二酸
化炭素(ドライアイス),ショウノウなどの無極性の分子性物質でよく起こる。また,
固体とその蒸気が平衡状態にあるとき,蒸気の圧力を昇華圧といい,昇華圧と温度
との関係を示すグラフを昇華曲線という。
砂皿の上にヨウ素を入れたビーカーを置き,
ビーカーの上には,ヨウ素蒸気を冷却するため,冷水を入れたフラスコをのせ
る。加熱を始めると,ヨウ素が昇華して紫色の蒸気となり,拡散してビーカー内全
体が紫色になる。さらに,ヨウ素の蒸気が冷たいフラスコの底や側面に触れると,
昇華してヨウ素の結晶が生じることになる。
►昇華
固体から気体となる変化を昇華という。ヨウ素,ショウノウ,ナフタレン,二
酸化炭素などの無極性分子からなる物質に昇華がよく見られる。固体は液体と同
じように,一定温度で物質の種類により定まった蒸気圧を示す。昇華性物質は,
室温付近でもその蒸気圧が大きい。普通は昇華しない物質でも,外圧を極端に小
さくすると,昇華する。氷も,その三重点以下の圧力にすると昇華する。(水の状
態図を参照)
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氷の蒸気圧 |
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|
温度 |
蒸気圧 |
|
〔℃〕 |
〔atm〕 |
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0 |
6.05×10-3 |
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−5 |
3.96×10-3 |
|
−10 |
2.57×10-3 |
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−15 |
1.63×10-3 |
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−20 |
1.01×10-3 |
参考 状態図と相律
物質の状態と,温度・圧力の関係を示した図を,物質の状態図という。次に水の
状態図を示す。
図のように,状態図は横軸に温度,縦軸に圧力をとって示す。各状態間の境界線
は,昇華曲線,融解曲線,蒸気圧曲線と呼ばれていて,この線上の条件では2つの
状態の間で平衡が成り立っており,2つの状態が安定に共存している温度と圧力を
示す。
3つの境界線が交わる点Tは,固体・液体・気体の3つの状態が共存している圧
力と温度であり,とくに三重点と呼ばれている。
(水では4.58mmHg〔=6.03×10−3hPa〕,0.01℃)。

ギブスGibbsの相律によれば,成分物質の数n,共存する相の数Pのとき,平衡
系の自由度Fは,次式で表される。
F=n+2−P
水の相平衡では,成分は水だけであるからnは1になり,自由度Fは(3−P)とな
る。したがって,水の状態図の各点において,自由度は次のようになる。
(ア) 各曲線の間の部分 すべて1つの状態(氷,水,水蒸気のどれか1つ)で
あるから相の数Pは1となり,F=3−1=2 となる。したがって,圧力と温度は
両方とも自由に変えられる。
(イ) 各曲線上の部分 2つの状態が共存するから,相の数Pは2となり,F
は1となる。したがって,温度と圧力の一方は自由に決められるが,それに伴っ
て他方は決まってしまう。
(ウ) 三重点上 3つの状態が共存するから,相の数Pは3となり,Fは0とな
る。したがって,温度・圧力はともに一定値で決まってしまう。
►水の状態変化
固相から液相に変わる場合,一般には密度の減少を伴うが,表からわかるよう
に,氷の融解の場合は逆になる。これは,氷が水素結合により隙間の多い構造を
とるためで,液体ではその隙間が水分子で満たされる。したがって,状態図の融
解曲線も多くの物質と異なり,傾きが負の値をとる。
また,気体中の分子間の平均距離は,表からわかるように液体の12倍になって
いる。他の物質でも同様であり,約10倍となる。
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水の密度,体積,分子間距離(圧力1atm) |
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状態 |
温度 |
密度 |
1molの体積 |
1分子が占める体積 |
分子中心間の平 |
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〔℃〕 |
〔g/cm3〕 |
〔cm3〕 |
〔cm3〕 |
均距離〔cm〕 |
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|
固相 |
0 |
0.915 |
19.7 |
3.3×10-23 |
3.2×10−8 |
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液相 |
0 |
1.000 |
18.0 |
3.0×10-23 |
3.1×10−8 |
|
液相 |
100 |
0.958 |
18.8 |
3.1×10-23 |
3.1×10−8 |
|
気相 |
100 |
5.954×10-4 |
30600.0 |
5000×10-23 |
36.9×10−8 |
氷の中の酸素原子は,図のようにO−H……Oのような水素結合によって4つの酸
素原子で正四面体状にかこまれている。したがって,1つの水分子は4つの水分
子と水素結合で結ばれ,ダイヤモンドに似た結晶構造をしている。このときの酸
素原子間の距離(O−H……O)は0.276nmで,液体の水に比べて体積が大きく,また
密度は0.915g/cm3と水よりも小さい。
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氷の構造 |
►蒸気圧(飽和蒸気圧)
一般に蒸気圧といえば,蒸気の示す圧力のことであるが,この教科書では,飽和
蒸気圧を略して単に蒸気圧という呼び方で使用している。したがって,ここでいう
蒸気圧は,蒸気とその液体,または蒸気とその固体との間の平衡状態が成り立って
いるときの蒸気の示す圧力を意味している。
純物質の飽和蒸気圧は,物質の種類と温度とによって定まる。温度を一定にして,
容器内の圧力を飽和蒸気圧以上に大きくすれば,蒸気は凝縮して液体または固体と
なり,逆に,容器内の圧力を飽和蒸気圧以下に小さくすると,蒸気だけになる。
また,飽和蒸気圧は一般に温度の上昇とともに増大する。液体を熱して温度を上
昇させ,飽和蒸気圧が外圧と等しくなるようにすれば,液体は沸騰しはじめる。
►蒸気圧曲線 状態図において,飽和蒸気圧を温度の関数として表した曲線をい
う。教科書p.30図30は,3種の物質の蒸気圧曲線を示したもので,1atmを示す
線とこれらの曲線の交わる点が,それぞれの物質の沸点に相当する。
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蒸気圧と温度〔℃〕の関係 |
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蒸気圧〔mmHg〕 |
10 |
20 |
60 |
200 |
760 |
1520 |
3800 |
|
エタノール |
−2.45 |
7.52 |
25.24 |
47.94 |
78.32 |
97.5 |
126.0 |
|
ジエチルエーテル |
−48.97 |
−39.31 |
−21.73 |
1.66 |
34.55 |
56.0 |
90.0 |
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水の蒸気圧〔mmHg〕と温度〔℃〕の関係 |
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温 度 |
−10 (氷) |
0 |
5 |
10 |
20 |
30 |
40 |
50 |
60 |
80 |
100 |
120 |
|
蒸気圧 |
1.95 |
4.58 |
6.54 |
9.21 |
17.5 |
31.8 |
55.3 |
92.6 |
149 |
355 |
760 |
1489 |
►液体の沸騰
液体の沸騰は,その液体の蒸気圧が外圧に等しくなったときに起こる。1atm
のもとで水を徐々に加熱していくと,温度の上昇とともに水の表面から蒸発が
起こり,100℃近くの温度になると,表面だけでなく,液の内部にも水蒸気の
泡が発生して,表面から発散していくようになる。
このような現象を,液体の沸騰という。
液体が沸騰を始めるまでの温度の変化を測定してグラフに描いて
みると,加熱するにしたがって液体の温度も上昇していくが,いったん沸騰を始め
ると,加熱しても液体がすべて蒸発し終わるまで温度は変化しないで一定値を示す。
この温度を液体の沸点という。

図30の蒸気圧曲線より,水は100℃における蒸気圧が1013hPaとなっている。
このように,液体はその蒸気圧が外圧と等しくなる温度で沸騰する。したがって,
外圧が変化すれば沸点も変化する。たとえば2000hPaのもとで水を熱していくと,
約120℃で沸騰する。
►融解熱
融点にある固体が融解するとき,外部から吸収する熱量をいい,潜熱の一種で
ある。通常1g当たり,または1mol当たりの値を用いる。1mol当たりの値は分子
融解熱ともいう。水の融解熱は,333J/g,または6.01kJ/mol(0℃)である。
►蒸発熱
物質が蒸発するとき外部から吸収する熱量をいう。通常J/gまたはkJ/molで表
す。水では2255J/g,40.7kJ/molである(いずれも100℃)。蒸発熱は温度により変化
し,一般に高温になるほど小さくなる。たとえば,0℃の水の蒸発熱は45.2kJ/mol
で,100℃の値よりも大きい。
蒸発熱は,理論的には,(液体分子の凝集エネルギー)+(蒸発したときの分子の
運動エネルギーの差)と考えられる。
►粒子間の引力と熱
物質の構造と蒸発熱の間には,一般に次のような関係がある。(1)イオン性物質は分
子性物質より大きい,(2)分子量が大きいほど大きい,(3)極性が大きいほど大きい,
(4)球形分子より平面分子または長鎖状分子のほうが大きい。
蒸発熱は一般に融解熱に比べてずっと大きい。融解では粒子間の距離があまり変
化しないが,蒸発では距離の変化が大きく,したがって蒸発は融解に比べてポテン
シャルエネルギーの変化が大きいので,蒸発熱が大きくなると考えられている。
参考 状態変化を利用した物質の精製法
気化しやすい物質を含む液体混合物を,純粋な成分物質に分離するには,一般に
蒸留法が用いられる。アニリンの精製のように,水溶液中に分散する揮発性油状物
質を取り出すときの水蒸気蒸留法や,圧力を下げて低温でも蒸発しやすくする減圧
蒸留法などもある。
また,気体混合物を分離精製するには,いったん冷却して凝縮させて液体または
固体にしたのち分離する方法がある。空気を液化して窒素と酸素を取り出すのもそ
の方法の1つである。
固体混合物の分離精製法には,ヨウ素のように,昇華を利用する方法がある。