トップ化学II1部 物質の構造>第1章 化学結合>1節 イオン結合とイオン結晶

1節 イオン結合とイオン結晶

 

 

化学結合と物質の性質

 物質が示す固有の性質は,その物質を形成している化学結合の違いによる場合

が多い。

 

●ハロゲン化銀の沈殿

 ハロゲン化物イオンは,Fを除いてAgと結合して難溶性のハロゲン化銀を生

成する。AgClは白色,AgBrは淡黄色,AgIは黄色である。ハロゲン化銀には感

光性があり,光が当たると銀が析出して灰色となる。この反応は写真に利用される。

 

電子殻

ラザフォードとボーアの原子模型では,原子核の周囲を回る電子が一
定半径の球殻面にあると考えて電子殻と呼んだ。内側からKLMN……
と名づけられているが,これは量子力学における原子模型で,主量子数n12
3
4……に対応する。各電子殻にはそれぞれ電子軌道があり,spdf……
と名づけられているが,これは方位量子数l0123……に対応する。主量
子数nの電子殻には,ln1までのn種類の電子軌道が存在する。また,方位
量子数lの電子軌道は,磁気量子数mlによってさらに2l1種類に分かれる。た
とえば,p軌道はl1に相当するから3(=2×11)種類に分かれ,pxpypz
ように区別される。そして1個の電子軌道は2個まで電子を収容できる。
 したがって,主量子数nに収容できる電子数は次のようになる。

方位量子数

磁気量子数による軌動数道数

収容電子数

l0

 

2×011

 

1×22

l1

2×113      

3×26

 

  :

 

 

ln-1

 

n-1+1=2n-1

 

2n-1×2=4n-2

n種類

 

合計 n2

 

計 2n2

 

 

 

 

 

 

 

電子殻と電子軌道,および収容電子数

電子殻

K

L

M

N

O

P

Q

電子軌道

1s

2s

2p

3s

3p

3d

4s

4p

4d

4f

5s

5p

5d

5f

5g

6s

6p

6d

6f

6g

6h

7s

電子軌道数

1

1

3

1

3

5

1

3

5

7

1

3

5

7

9

1

3

5

7

9

11

1

最大電子数

2

2

6

2

6

10

2

6

10

14

2

6

10

14

18

2

6

10

14

18

22

2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電子配置

一般に,原子番号Zの原子にはZ個の電子がある。これらの電子が,原子の各

電子軌道にどのように配置されるかは,次のような法則や原理による。

まず,「1つの電子軌道には,2個の電子しか入ることができない。」これを

パウリの原理という。量子力学によれば,電子のもつスピンに2種類あり,同一

の電子軌道にはスピンの異なる電子が1対しか入れないという原理である。
 さらに,「電子はエネルギーの低い電子軌道から順に満たされる。」という法

則がある。一般に,内側にある電子殻の電子軌道ほどエネルギーが低い。同じ電

子殻では,方位量子数lが小さいほどエネルギーが低く,spの順に電子が

配置される。また,lの値が同じ電子軌道では,電子は異なる電子軌道に順に配置

される。たとえば,N原子の2p軌道の電子配置はpx1py1pz1となる。これは,同一

の電子軌道に入るより電子間の反発が小さいためと考えられる。
 次に,電子軌道も考えた1H20Caの電子配置の順を示す


最外殻電子と原子の性質

元素の化学的性質の類似性は,最外殻電子の配置の類似性から説明できる。す

なわち,反応に関係するのは最外殻電子であり,その配置が似ている元素は同

様の性質を示す。どの元素が類似した性質をもつかを生徒に考えさせ,周期律の

学習の準備としたい。

原子やイオンのモデル

教科書p.117に示したような原子やイオンのモデルを,ボーアの原子模型と

いう。原子核と電子の間には,距離の2乗に反比例する静電気力が働いている。

これは,太陽と惑星の間に働く引力の関係と同じである。したがって,惑星と同

様に電子も原子核の周りを回っていると考えられる。ところが原子の示すスペク

トルを説明するには,この模型では不十分であった。すなわち,古典力学の考え

方では,電子がスペクトルに示す光を放射するとエネルギーを失って速度が遅く

なり,やがて電子と原子核が結合して,安定な原子は存在できなくなる。この矛

盾を解決するため,ボーアは特別の模型を導入した。たとえば,水素原子は,陽

1個と電子1個からできているが,この電子はある特別の軌道上しか運行せず,

それ以外の軌道はとれないと考えた。原子核に最も近い軌道の半径をrとすると,

その外側にある軌道の半径は,22r32 r42 r……であるとした。電子はこれら

の軌道間を移りかわり,そのとき固有のスペクトルを示すと考え,スペクトルを

定量的に説明した。彼が計算で求めた水素のスペクトルの波長は,実測値と完全

に一致した。この考え方は,その後の量子力学の発達によってさらに発展した。

イオン化エネルギー

気体状態の単原子または分子の基底状態,すなわち最もエネルギーの低い状態か

ら,電子1個を無限大の距離に引き離して陽イオンにするとき必要なエネルギー

を,原子または分子のイオン化エネルギーという。
このエネルギーを電子ボルト単位(eV)で示して,イオン化ポテンシャルと呼ぶ
こともある。また,これを第一イオン化エネルギーといい,さらに電子を次々に引
き離していくとき必要なエネルギーを,第二イオン化エネルギー,第三イオン化エ
ネルギー,……とよぶ。第一イオン化エネルギーは,元素の周期律を考察するよい
例である。

            イオン化エネルギー(eV) 1eV23.06036kcal/mol96.48455kJ/mol
        
IIIは,第一イオン化エネルギー,第二イオン化エネルギー・・・を示す。

原子

番号

元素

I

II

III

 

原子

番号

元素

I

II

III

 

1

H

13.598

 

 

 

36

Kr

13.999

24.359

36.95

2

He

24.587

54.416

 

 

37

Rb

4.177

27.28

40

3

Li

5.392

75.638

122.451

 

38

Sr

5.695

11.030

43.6

4

Be

9.322

18.211

153.893

 

39

Y

6.38

12.24

20.52

5

B

8.298

25.154

37.930

 

40

Zr

6.84

13.13

22.99

6

C

11.260

24.383

47.887

 

41

Nb

6.88

14.32

25.04

7

N

14.534

29.601

47.448

 

42

Mo

7.099

16.15

27.16

8

0

13.618

35.116

54.934

 

43

Tc

7.28

15.26

29.54

9

F

17.422

34.970

62.707

 

44

Ru

7.37

16.76

28.47

10

Ne

21.564

40.962

63.45

 

45

Rh

7.46

18.08

31.06

11

Na

5.139

47.286

71.64

 

46

Pd

8.34

19.43

32.93

12

Mg

7.646

15.035

80.143

 

47

Ag

7.576

21.49

34.83

13

Al

5.986

18.828

28.447

 

48

Cd

8.993

16.908

37.48

14

Si

8.152

16.345

33.492

 

49

In

5.786

18.869

28.03

15

P

10.486

19.725

30.18

 

50

Sn

7.344

14.632

30.502

16

S

10.360

23.33

34.83

 

51

Sb

8.641

16.53

25.3

17

Cl

12.967

23.81

39.61

 

52

Te

9.009

18.6

27.96

18

Ar

15.760

27.629

40.74

 

53

I

10.451

19.131

33

19

K

4.341

31.625

45.72

 

54

Xe

12.130

21.21

32.1

20

Ca

6.113

11.871

50.908

 

55

Cs

3.894

25.1

 

21

Sc

6.54

12.80

24.76

 

56

Ba

5.212

10.004

 

22

Ti

6.82

13.58

27.491

 

57

La

5.577

11.06

19.175

23

V

6.74

14.65

29.310

 

58

Ce

5.539

10.85

20.20

24

Cr

6.766

16.50

30.96

 

59

Pr

5.464

10.55

21.62

25

Mn

7.435

15.640

33.667

 

60

Nd

5.525

10.72

 

26

Fe

7.870

16.18

30.651

 

61

Pm

5.582

10.90

 

27

Co

7.864

17.06

33.50

 

62

Sm

5.644

11.07

 

28

Ni

7.635

18.168

35.17

 

63

Eu

5.670

11.25

 

29

Cu

7.726

20.292

36.83

 

64

Gd

6.150

12.1

 

30

Zn

9.394

17.964

39.722

 

65

Tb

5.864

11.52

 

31

Ga

5.999

20.51

30.71

 

66

Dy

5.939

11.67

 

32

Ge

7.899

15.934

34.22

 

67

Ho

6.022

11.80

 

33

As

9.81

18.633

28.351

 

68

Er

6.108

11.93

 

34

Se

9.752

21.19

30.820

 

69

Tm

6.18

12.05

23.71

35

Br

11.814

21.8

36

 

70

Yb

6.254

12.17

25.2


 なお,溶液中で金属が陽イオンになるときは,イオン化エネルギーのほかに,金
属から原子を引き離す昇華熱や溶媒和のエネルギーも関係してくるので,金属のイ
オン化傾向とイオン化エネルギーを混同しないよう注意が必要である。

電子親和力

   気体状態の単原子が電子1個を受けとるとき放出するエネルギーを,その原子の

電子親和力という。この考え方は,分子にも適用される。理論的には原子または分子

Aのエネルギー値と,陰イオンA-のエネルギー値の差と考えられ,量子力学的計算も

この考え方で行われている。
 電子親和力の値は,実験から直接得られるものは少なく,他の物理化学的な測定

値から計算によって求められることが多い。そのため,どのような種類の実験に基づ

くかによって,同一原子の電子親和力の値に多少の違いがある。

 電子親和力eV1eV23.06036kcal/mol96.48455kJ/mol

原子

番号

元素

電子親和力

 

原子

番号

元素

電子親和力

 

原子

番号

元素

電子親和力

1

H

0.754209

 

26

Fe

0.163

 

51

Sb

1.07

2

He

0

 

27

Co

0.661

 

52

Te

1.9708

3

Li

0.6180

 

28

Ni

1.156

 

53

T

3.0591

4

Be

0

 

29

Cu

1.228

 

54

Xe

0

5

B

0.277

 

30

Zn

0

 

55

Cs

0.471630

6

C

1.2629

 

31

Ga

0.30

 

56

Ba

0

7

N

-0.07

 

32

Ge

1.2

 

57

La

0.5

8

O

1.4611215

 

33

As

0.81

 

5871

 

 

9

F

3.399

 

34

Se

2.02

 

希土類

0.5

10

Ne

0

 

35

Br

3.365

 

 

 

11

Na

0.54793

 

36

Kr

0

 

72

Hf

0

12

Mg

0

 

37

Rb

0.48592

 

73

Ta

0.322

13

Al

0.441

 

38

Sr

0

 

74

W

0.815

14

Si

1.385

 

39

Y

0.307

 

75

Re

0.15

15

P

0.7465

 

40

Zr

0.426

 

76

Os

1.1

16

S

2.077120

 

41

Nb

0.893

 

77

Ir

1.565

17

Cl

3.617

 

42

Mo

0.746

 

78

Pt

2.128

18

Ar

0

 

43

Tc

0.55

 

79

Au

2.30863

19

K

0.50147

 

44

Ru

1.05

 

80

Hg

0

20

Ca

0

 

45

Rh

1.137

 

81

Tl

0.2

21

Sc

0.188

 

46

Pd

0.557

 

82

Pb

0.364

22

Ti

0.079

 

47

Ag

1.302

 

83

Bi

0.946

23

V

0.525

 

48

Cd

0

 

84

Po

1.9

24

Cr

0.666

 

49

In

0.3

 

85

At

2.8

25

Mn

0

 

50

Sn

1.2

 

86

Rn

0


原子とイオンの大きさ

   原子の大きさは,化学結合や化合物の種類によって同一原子でも異なる。した

がって,一定の大きさがあるわけではなく,どのような状態での値かを示し,他の

原子と比べるときも,似た状態で行う。一般には,最外殻電子の存在する電子殻の

種類と,原子核の正電荷の大きさに関係する。最外殻がより外側にあるほど原子は

一般に大きくなり,同一の最外殻であれば核電荷が大きいほど原子は小さくなる。

したがって,同族元素では原子番号が大きいほど,同周期元素では原子番号が小さ

いほど原子は大きくなる。
 イオンの大きさも,原子と同様に状態によって異なる。たとえばSi-O-Si
180°
のときのSi4+のイオン半径は,0.052nmとなるが,Si-O-Si140°のとき
Si4+のイオン半径は,0.054nmとなる。同一原子のイオン半径は,陽イオンで
はイオンの価数が小さいほど,陰イオンではイオンの価数が大きいほど,大きくな
ることが定性的に確かめられている。これは,陽イオンは最外殻の電子を放出して,
陰イオンは最外殻に電子を受け入れて生成するためである。したがって,陽イオン
<原子<陰イオン,の順に大きくなる。

イオン半径

  金属原子が最外殻電子全部を失って陽イオンになるとき,イオンの最外殻は原子

より1つ内側になるので,原子半径に比べて陽イオン半径はかなり小さくなる。同族

元素では,原子半径と同様の理由で,原子番号が大きくなるほどイオン半径は大き

くなる。また同一周期の元素では,イオンの電子配置は同じで原子核の正電荷が異

なるから,核の正電荷が大きく電子を強く引きつけるイオン,すなわち原子番号の

大きい元素のイオンほど半径が小さくなる。たとえば第3周期では,次のようになる。
  Na+0.116nmMg2+0.086nmAl3+0.067nmSi4+0.054nm
 原子の最外殻に電子が入ると,希ガスと同じ電子配置の陰イオンが形成される。
同族元素の陰イオンでは,原子や陽イオンと同様の理由で,原子番号が大きいほど
イオン半径が大きくなる。同一周期の陰イオンでは,陽イオンと同様の理由で,原
子番号が大きいほどイオン半径が小さくなる。たとえば,第3周期では次のように
なる。
  P3-0.198nmS2-0.170nmCl-0.167nm

イオン結合

 電荷Q1C〕をもつ陽イオンと電荷Q2C〕をもつ陰イオン間の引力は,イオ

ン間距離をrとすると,クーロン力Q1Q2/r2またはポテンシャル(エネルギー)

Q1Q2/ rに比例する。また,イオンが相互に接近しすぎると,原子核間の反発力

が目立ってくる。この反発ポテンシャルは,ber /aの形で表される(abは定数)

したがって,引力と反発力の和を計算すると,イオン結合のポテンシャルエネル

ギーが求められる。

気体状のNaCl分子についてポテンシャルエネルギーを計算すると,次図のよう

になる。この図の曲線の極小点が,安定な核間距離を表す。共有結合によるポテン

シャルエネルギーも同時に示したが,その値はイオン結合より大きく,イオン結合

のほうが安定であることがわかる。

 

 

NaCl分子のポテンシャルエネルギー(ムーア著,新物理学より)

 

 

イオン結晶の格子エネルギー

 イオン結晶のイオン間の結合エネルギーは格子エネルギーとよばれ,1molの結晶

をばらばらの構成イオンにするとき必要なエネルギーで表される。

 格子エネルギーの大きさは,当然,結晶の融点に関係する。次の表にその値を示

し,格子エネルギーの比(NaCl1とする)を示す。

 イオン結晶の溶解熱は,その結晶の格子エネルギーとイオンの水和熱の差として,

大まかな値を知ることができる。

 

格子エネルギー〔kJ/mol〕と融点〔°C すべてNaCl型結晶

化合物

イオン

イオン半径

中心間距離

格子エネルギー

とその比

融点

°C

〔×10-1nm

〔×10-1nm

NaCl

Na+
Cl-

1.16
1.67

2.82

771

1

801

KCl

K+
Cl-

1.52
1.67

3.15

701

0.909

770

NaI

Na+
T-

1.16
2.06

3.24

697

0.904

651

MgO

Mg2+
O2-

0.86
1.26

2.11

3760

4.877

2826

CaO

Ca2+
O2-

1.14
1.26

2.41

3371

4.372

2572

BaO

Ba2+
O2-

1.49
1.26

2.76

3019

3.916

1918

 

 

 








本サイトに掲載された記事や画像の無断転載を禁じます。
Copyright(C) 2009-2012 SHINKOSHUPPANSHA KEIRINKAN CO.,LTD. All rights reserved.