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2節 酸素を含む芳香族化合物

A フェノール類

フェノール類
 ベンゼン環等の芳香族性の環にヒドロキシル基が直接結合した化合物の総称。ヒドロキシル基の数が1個,2個,のとき,1価フェノール,2価フェノール,…,多価フェノールという。フェノール類は,アルコールと異なり弱酸性を示すが,カルボン酸に比べて弱い。一般に無色の結晶で,水にいくらか溶ける。

フェノール類の性質

名     称

示  性  式

融点〔°C

沸点〔°C

水溶性

Fe3反応

フェノール

C6H5OH

41

182

o-クレゾール

o-CH3C6H4OH

31

191

m-クレゾール

m-CH3C6H4OH

12

203

p-クレゾール

p-CH3C6H4OH

35

202

 

3,5-キシレノール

3,5- (CH3)2C6H3OH

68

220

 

1-ナフトール

1-C10H7OH

96

288

2-ナフトール

2-C10H7OH

122

296

カテコール

o-C6H4(OH)2

105

245

紫 赤

レソルシノール

m-C6H4(OH)2

116

281

ヒドロキノン

p-C6H4(OH)2

174175

285(973hPa)

ピロガロール

1,2,3-C6H3(OH)3

133134

309

褐 色

フロログルシノール

1,3,5-C6H3(OH)3

218219

昇華分解

 

フェノール
 石炭酸ともいう。ヒドロキシベンゼンにあたり,フェノール類の代表的な物質である。石炭・木材・石油等の分解生成物中に存在する。室温では白色結晶,融解すると無色になる。融点41°C沸点182°C密度1.07g/cm3(25°C)で,水とは互いに溶け合わず2層に分かれ65°C以上では任意の割合で混合する。ベークライトやサリチル酸,染料等広く有機合成化学工業の原料となり,強力な消毒・殺菌剤にも利用される。フェノールは弱酸で,アルカリ溶液を作用させると,フェノキシドをつくって溶解する。しかし,フェノールの解離定数1.5×1010mol/Lは炭酸の解離定数4.5×107(mol/L)2より小さいので,フェノキシド溶液に二酸化炭素を通じると,フェノールが遊離してくる。
      C6H5OHNaOH ―→ C6H5ONaH2O
      2C6H5ONaCO2H2O ―→ 2C6H5OHNa2CO3

フェノールの製造
 フェノールの工業的合成法は多数ある。

(1) クメン法  ベンゼンとプロピレンからまずクメンをつくる。この反応は,フリーデル‐クラフツ型のアルキル化反応であり,AlCl3の触媒を用いる液相法と,リン酸系触媒を用いる気相法とがある。次にクメンを酸素で酸化してクメンヒドロペルオキシドとし,これを硫酸で分解してフェノールとアセトンにする。

   C6H6C3H6 ―→ C6H5CH(CH3)2 (気相法,触媒H3PO4)

   C6H5CH(CH3)2O2 ―→ C6H5C(CH3)2OOH (アルカリ水溶液)

   C6H5C(CH3)OOH ―→ C6H5OH(CH3)2CO (1%硫酸)

  アセトンは反応熱により蒸発還流して分離され,フェノールは精留,抽出で不純物(アセトフェノン,メチルスチレン等の副生物)を除き,製品とする。

(2) スルホン化法  ベンゼン,硫酸,水酸化ナトリウムを原料として,次式の反応でフェノールを合成する。

   C6H6H2SO4 ―→ C6H5SO3HH2O (98%硫酸)

   2C6H5SO3HNa2SO3 ―→ 2C6H5SO3NaSO2H2O

   C6H5SO3Na2NaOH ―→ C6H5ONaNa2SO3H2O (340390°Cで溶融)

   2C6H5ONaSO2H2O ―→ 2C6H5OHNa2SO3

(3) 塩素化法  ベンゼン,塩素,水酸化ナトリウムを原料として,次式の反応でフェノールを合成する。

   C6H6Cl2 ―→ C6H5ClHCl (触媒FeCl3)

   C6H5Cl2NaOH ―→ C6H5ONaNaClH2O

   C6H5ONaHCl ―→ C6H5OHNaCl

 

ナフトール

 ナフタレンの置換反応は,普通1の位置(a )に起こるが,濃硫酸によるスルホン化では,低温では1位置,高温では2位置に起こる。ナフタレンスルホン酸をアルカリ溶融すると,ナフトールが得られる。

 ナフトールは,両者ともコールタール中に少量含まれる。

 

クレゾール

 ヒドロキシメチルベンゼンにあたる1価フェノールで,メチルフェノール,オキシトルエン,クレゾール酸ともいう。コールタールや木タールから分留により得られ,殺菌消毒剤,木材防腐剤,可塑剤合成樹脂の原料等に用いられている。m-体は淡褐色で融点が最も低く,o-体,p-体は無色結晶である。消毒力はフェノールよりも強く,m-体が最も強く,水に溶けにくいので,セッケン液に溶かして用い,これをクレゾールセッケン液またはクレゾール水という。

 

B 芳香族カルボン酸

芳香族カルボン酸

芳香族カルボン酸は,ベンゼン環に結合したメチル基を酸化して製造されている。触媒としては,CoMnの酢酸塩に臭化物を加えたもの等がある。

安息香酸は,トルエンを原料として空気酸化を行い,製造される(触媒はCoMnの酢酸塩と臭化物)
   2C6H5CH33O2 ―→ 2C6H5COOH2H2O

テレフタル酸の製造法にはいくつかの方法がある。MC(Mid-Century社法)では,溶媒に酢酸,触媒にCoMnの酢酸塩-臭化物を用い,p-キシレンを空気酸化する。帝人法や東レ法では,酢酸溶媒,Co酢酸塩触媒で,空気酸化を行う。
   p-C6H4(CH3)23O2 ―→ p-C6H4(COOH)22H2O
 イソフタル酸m-C6H4(COOH)2トリメリト酸1,2,4-C6H3(COOH)3トリメシン酸1,3,5-C6H3(COOH)3等は,テレフタル酸のMC法と同様に合成できる。

芳香族カルボン酸と誘導体の融点

名   称

示  性  式

融点〔°C

安息香酸

C6H5COOH

123

フタル酸

o-C6H4(COOH)2

234

テレフタル酸

p-C6H4(COOH)2

300(昇華)

イソフタル酸

m-C6H4(COOH)2

349

トリメシン酸

1,3,5-C6H3(COOH)3

381

無水フタル酸

C6H4C2O3

132

 

安息香酸

アルキルベンゼンを酸化すると,側鎖のアルキル基がカルボキシル基になる。これは,ベンゼン環が側鎖より安定である為である。側鎖が-OH-NH2の場合には,ベンゼン環の電子密度が高くなるので,ベンゼン環の方が酸化される。したがって,安息香酸はベンゼンモノカルボン酸に相当し,トルエンの直接酸化によって,容易に得られる。

安息香酸は,冷水には難溶だが,熱水やエタノール,エーテル,クロロホルム等の通常の有機溶媒に易溶である。天然には,天然樹脂の安息香に遊離酸やエステルとして含まれている。フェノールやテレフタル酸,カプロラクタム等の重要な中間原料として用途が広い。

   C6H5COOH1/2O2 ―→ C6H5OHCO2

 

フタル酸とテレフタル酸

 ベンゼン環にカルボキシル基2個が結合したジカルボン酸には,異性体3種がある。どれも白色の結晶で,水に溶けない。水酸化ナトリウム水溶液には,塩をつくって溶ける。

フタル酸(融点234°C)

イソフタル酸(融点349°C)

テレフタル酸

(昇華点300°C)

    

 この3種の異性体は,それぞれ相当するキシレンの異性体を酸化すると得られる。このうちフタル酸は,ナフタレンの酸化により多量につくられる。

       

 フタル酸を強く熱すると無水フタル酸となる。無水フタル酸は,融点131.8°C,沸点285°Cの白色昇華性結晶で,水やアルコール,二酸化炭素に溶けるが石油エーテルには溶け難い。フェノールフタレインやエオシン等の色素や,アルキド樹脂や可塑剤の原料となる。

 テレフタル酸およびそのジメチルエステルC6H4(COOCH3)2は,ポリエステルやポリアミドの原料となる。

 

ポリエステル

 ポリエチレンテレフタラートが,ポリエステルの主なものである。これは,テトロン(日本),テリレン(イギリス),ダクロン(アメリカ)等といわれ,初期弾性が高く,吸水率が0.4以下で非常に低い。この繊維は衣料品として多量に市販されている。 ポリエステルの合成は,通常2段階で行われる。まず,加圧下で熱し,ビス-b-ヒドロキシエチルテレフタラート(BHET)をつくる。

   HOOC-C6H4-COOH2HOCH2CH2OH ―→ HO(CH2)2O2C-C6H4-CO2(CH2)2OH2H2O

次にBHETを高温・減圧下で縮重合させて,ポリエチレンテレフタラートを得る(触媒Sb化合物)

   nHO(CH2)2O2C-C6H4-CO2(CH2)2OH

    ―→ H- [-O(CH2)2O2C-C6H4-CO-]-nO(CH2)2OH(n1)HO(CH2)2OH

 BHETをつくるとき,原料としてテレフタル酸ジメチルo-C6H4(CO2CH3)2を用いる方法もある。この場合は,常圧で数時間熱する。

   H3CO2C-C6H4-CO2CH32HO(CH2)2OH

     ―→ HO(CH2)O2C-C6H4-CO2(CH2)2OH2CH3OH

 

サリチル酸

 o-オキシ安息香酸ともいう。融点159°Cの白色の針状結晶で,200°Cで分解してフェノールになる。食品の防腐剤に使われている。水に少し溶ける。乾燥したC6H5ONaを加熱融解して,加圧下でCO2を作用させて合成される。

   C6H5ONaCO2 ―→ C6H5OCOONa ―→ o-C6H4(OH)COONa

   o-C6H4(OH)COONaHCl ―→ o-C6H4(OH)COOHNaCl

 サリチル酸を無水酢酸でアセチル化すると,アセチルサリチル酸が得られる。

   C6H4(COOH)OH(CH3CO)2O2 ―→ C6H4(COOH)OCOCH3CH3COOH

アセチルサリチル酸は2-エタノイルオキシベンゼンカルボン酸ともいい,白色無臭の結晶(融点135°C)で解熱,鎮痛,消炎作用があり,アスピリンの名称で解熱鎮痛薬に利用されている。加水分解すると刺激臭がある。

 サリチル酸にメタノールと濃硫酸を作用させると,サリチル酸メチルになる。

   C6H4(OH)COOHCH3OH ―→ C6H4(OH)COOCH3H2O

サリチル酸メチルはサリチル酸のエステルで2-ヒドロキシベンゼンカルボン酸メチルともいう。無色の液体(融点−8°C,沸点223°C)で,冬緑(ウィンターグリーン)油の香気をもつ。香料の他,消炎塗布剤として医薬品に用いる。水に少し溶け,エタノールやエーテル,クロロホルムに易溶。

 

 

 








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