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第1節 芳香族炭化水素

A 芳香族炭化水素

ベンゼンの構造

 ベンゼンは,分子式C6H6からみると非常に不飽和度が高いが,過マンガン酸カリウムにも酸化されない等,飽和化合物と同等に安定である。ベンゼンはその2置換体が3種類(オルト,メタ,パラ)1置換体が1種類しか存在しないこと等から,6個の水素原子は全て同等であること,また,6個の炭素原子も全て同等であること等から,次式(1)(2)のような,いわゆるケクレの構造式で示される2種類の構造の間を振動していると説明されていた。ケクレは,この構造を,夢の中で炎がヘビになって自分の尻尾を飲み込むのを見て着想したといわれている。

 その後,X線分析等により,6個の炭素原子は全て同一平面上にあり,炭素間の結合角は全て120°であることから,正六角形の構造をしていることが解明された。これらの研究結果を総合するとC-C間の距離はどこも0.140nm(C-C単結合間は0.154nmC=C二重結合間は0.134nm)であることがわかった。

 したがって,ベンゼンはC-C0.140nmの正六角形の平面構造をもっていることになるが,このような構造を式で表すことは困難なので,式(1)または (2)の構造の間を共鳴しているといっている。しかし,実際には式(1)または(2)のどちらか1つの式で示したりする。

 ベンゼン環の炭素原子のL殻の電子は,3個のsp2混成軌道と1つの2p軌道に配置される。sp2混成軌道のうち,2つは隣の炭素原子とのs  結合,残りは水素原子とのs 結合に使われる。2p軌道の電子は隣り合う炭素原子とのp  結合に使われ,このp 結合がベンゼン環の炭素原子6個に均等に分布するので,ベンゼン環独特の性質が生まれる。

 

芳香族炭化水素

アレーンともいう。

1845年,A.W.ホフマンHofmannがコールタールの分留によりベンゼンを分離して以来,石炭の乾留やコールタールから,多くの芳香族炭化水素が得られた。芳香族の名称は,一般に芳香をもっていた為で,ケクレによって命名された。

 芳香族炭化水素には,ベンゼンの水素原子を置換したものや,2個以上のベンゼン環をもつもの,縮合環をもつもの等,多数のものが知られている。

 

B 芳香族炭化水素の反応

ベンゼンの置換反応

 ベンゼン環の置換反応では,陽イオンがベンゼン環のp電子に結合して水素イオンがこれから奪われる,いわゆる求電子置換反応の機構で反応が進みやすい。

(A) ハロゲン化  鉄を触媒として,ベンゼンをハロゲン化する反応機構は,次のようになり,(2)が律速段階と考えられる。

(1) 

2Fe5X22FeX32X22FeX4-2X

(2)

(3)

 

 尚,実際にXイオンが生じるのではなく,ハロゲン化鉄(III)がハロゲン分子を分極させているだけと考えられる。

   FeX3X2 ―→ FeX4-X

(B) ニトロ化  硝酸と硫酸の混合物によるベンゼンのニトロ化には, 次の一連の反応が関与していると考えられている。

(1)

HNO32H2SO4H3O2HSO4-NO2

(2)

(3)

(1)の反応は,硫酸がより強い酸として働き,そのため硝酸は普通の解離

HONO2ができずに塩基として働き,HO-NO2にイオン化される為に起こる。尚,律速段階は(2)と考えられる。

 (C) スルホン化  ベンゼンのスルホン化では,次の一連の反応が関与していると考えられている。

  (1)

2H2SO4H3OHSO4-SO3

  (2)

(律速段階)

  (3)

  (4)

(平衡は左に偏る)

 (2)で反応に関与するSO3は次のような電荷分布になり,陽電荷を帯びたS原子がベンゼンのp 電子と反応するものと考えられている。

 

参考 ベンゼンの置換化合物と反応の位置

 ベンゼン環に電子供与性の置換基がついた化合物では,置換基の非共有電子対がベンゼン環にp 電子と共役し,一部がベンゼン環の空いたp 軌道に移動する。すると,ベンゼン環は次の共鳴構造をとり,o-位とp-位のC原子の電子密度が増加する。したがって,求電子試薬Aが反応すると,o-位またはp-位で置換反応が起こる。

電子供与性の置換基には,-NH2-OH-OCH3-NHCOCH3,アルキル基,ハロゲン等がある。

 一方,ベンゼン環に電子吸引性の置換基がついた化合物では,次の共鳴構造により,o-位とp-位の電子密度が減少するので,求電子試薬との反応では,主にメタ位で置換反応が起こる。この反応は,電子供与性置換基がついた場合よりベンゼン環の電子密度が小さいので,より起こり難い。

電子吸引性の置換基には-NO2-COOH-SO3H-CN-CHO-NH3等がある。尚,-NO2は,次の共鳴構造をしており,N原子が電子を吸引する。

 このようにして,塩素化では,o-またはp-ジクロロベンゼンが主に生じ,ニトロ化ではm-ジニトロベンゼンが主に生じる。

 

ニトロ化合物

 ニトロ基をもつ化合物の総称である。狭義には,炭素原子にニトロ基が結合したもの(C-ニトロ化合物)で,窒素原子についたニトロアミン(N-ニトロ化合物),硝酸エステルであるO-ニトロ化合物と区別する。O-ニトロ化合物は,脂肪族ニトロ化合物と芳香族ニトロ化合物とに分けられる。

 単環の芳香族ニトロ化合物は,一般に液体または低融点の固体で,淡黄色を帯び芳香があり,水に難溶である。ジニトロまたはポリニトロ化合物は淡黄色の結晶であり,トリニトロ以上になると爆薬に用いられる。

 芳香族ニトロ化合物は,強く還元するとアミン,弱く還元するとヒドロキシルアミンになる。

RNO26H ―→ RNH22H2O
RNO24H ―→ RNHOHH2O

芳香族ニトロ化合物の性質

名     称

示 性 式

融点〔

沸点〔

ニトロベンゼン

C6H5NO2

6

211

o-ジニトロベンゼン

C6H4(NO2)2

119

319(1030hPa)

m-ジニトロベンゼン

C6H4(NO2)2

92

297

淡黄

p-ジニトロベンゼン

C6H4(NO2)2

175

299(1035hPa)

1,3,5-トリニトロベンゼン

C6H3(NO2)3

124

175

1-ニトロナフタレン

C10H7NO2

61

304

2-ニトロナフタレン

C10H7NO2

79

313(979hPa)

 

スルホン酸
 スルホ基をもつ化合物をスルホン酸という。芳香族スルホン酸は,一般に白色固体で,水によく溶け,吸湿性が強く潮解性がある。硫酸とほぼ同程度の強酸である。酸化剤や還元剤には安定で反応し難い。
 芳香族スルホン酸は,希酸と共に熱すると,加水分解して硫酸を生じる。

   R-SO3HH2O ―→ R-HH2SO4
 芳香族スルホン酸塩をアルカリ融解すると,フェノール類になる。
   R-SO3NaNaOH ―→ R-OHNa2SO3
 芳香族スルホン酸は,スルホ基を-OH-NH2-NO2ハロゲン等で置換できるので,これらの合成の中間体として重要である。

ベンゼンの付加反応
 ベンゼンは,光または適当な触媒を用いると,付加反応を行う。BHCは,代表的な有機塩素系殺虫剤で,12NaOH水溶液とベンゼンに光を当てて塩素付加を行い合成されるが,残留毒性があり現在では製造販売が禁止されている。NaClSO2SO3等を触媒に用いる方法もある。
  シクロヘキサンは,ニッケル触媒を用いて,ベンゼンに水素付加を行い,合成されている。触媒には白金系やラネーニッケル等も用いられる。
 フェノールもニッケル触媒で水素付加を行い,シクロヘキサノールとなる。パラジウム系触媒を用いたときは,シクロヘキサノンが生じる。

 

 

 








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