トップ化学I 改訂版>第4部 有機化合物>第2章 脂肪族炭化水素>第2節 不飽和炭化水素

2節 不飽和炭化水素

A アルケン

アルケン
 炭素原子間に二重結合を1個もち,環状構造を含まない脂肪族不飽和炭化水素をアルケンといい,一般式CnH2nで表される。対応するアルカンの語尾アン(-ane)をエン(-ene)に変えて命名する。エチレン系(エチレン列)炭化水素と呼ばれたり,二重結合に塩素や臭素を付加して油状の液体を生じるので,オレフィン(油をつくる気体olefiant gas)ともいう。

 尚,二重結合を2個以上もつ鎖状炭化水素では,アルカンの語尾アンを,2個のときアジエン-adiene3のときアトリエン-atrieneに変えて命名する。例えば,H2=CHCH=CH21,3-ブタジエンという。

 

アルケンの性質

分子式

名   称

示 性 式

融点°C

沸点°C

C2H4

エチレン(エテン)

CH2=CH2

169.2

103.7

C3H6

プロピレン(プロペン)

CH3CH=CH2

185.25

47.0

C4H8

1-ブテン

CH3CH2CH=CH2

185.35

6.25

シス-2-ブテン

CH3CH=CHCH3

138.91

3.72

トランス-2-ブテン

CH3CH=CHCH3

105.55

0.88

2-メチルプロペン

CH3C(CH3) =CH2

140.35

6.90

C5H10

1-ペンテン

CH3CH2CH2CH=CH2

165.22

29.968

シス-2-ペンテン

CH3CH2CH=CHCH3

151.39

36.942

トランス-2-ペンテン

CH3CH2CH=CHCH3

140.24

36.35

2-メチル-1-ブテン

CH3CH2C(CH3)=CH2

  137.560

31.163

3-メチル-1-ブテン

CH3CH(CH3)CH=CH2

168.53

20.06

2-メチル-2-ブテン

CH3CH=C(CH3)CH3

133.768

38.568

 

エチレンの分子構造
 アルケンの二重結合をつくる炭素原子と,これに結合する原子は一平面上に存在し,結合角が120°になることは実験的事実である。これは,炭素原子が励起されて1s22s12p3の電子配置となり,このうち2s2つの2p(例えば2px2py)sp2混成軌道をつくるとすれば上手く説明でき,量子化学的にも証明されている。
 例えばエチレンでこの結合をみると,
3つのsp2混成軌道のうち1つは他の炭素原子,残りの2つは水素原子と共有結合(s 結合)している。sp2混成軌道に加わらなかった1つの2p軌道(例えば2pz)は,他の炭素原子と共有結合(p結合)するので,炭素原子間はs 結合とp結合との二重の共有結合(二重結合)で結ばれることになる。

 

C2H4の構造C=C 0.1339nmC-H 0.1087 nmCCH 121.3°HCH 117.4°
C3H6の構造C=C 0.1341 nmC-H 0.1104 nm (ビニル基)0.1117 nm (メチル基)

 CC 0.1506 nmCCC 124.3°CCH 121.3°(ビニル基)110.7°(メチル基)


アルケンの異性体
 C4以上のアルケンには,構造異性体とシス-トランス異性体が存在する。また,シクロアルカンの異性体でもある。C4H8の例を,炭素骨格で示す。

 

►アルケンの製法
 エチレンやプロピレンは,主にナフサの熱分解で合成している。主反応は,アルカンの分解および脱水素反応である。
   (1) C4Hl0 ―→ CH2=CH2C2H6  (分解反応の例)
   (2) C2H6 ―→ CH2=CH2H2   (脱水素反応の例)
 (1)の反応は94kJ/molの吸熱反応で,平衡は300°C以上で生成系に有利となる。
 (2)の反応は136kJ/molの吸熱反応で,平衡は670°C以上で生成系に有利となる。
 実際の反応は,7001400°C,常圧で行われ,種々のアルケンやアセチレンが生じる。生成物は急冷され,低温加圧蒸留でそれぞれの成分に分離精製される。

エチレンの生産量の半分はポリエチレン製造に用いられる。その他,塩化ビニル,アセトアルデヒド,エチレンオキシド,エチレングリコール,スチレンの製造原料等に利用されている。プロピレンの用途は,ポリプロピレン,アクリロニトリル等である。

付加反応
 分子2個が結合して1個の分子になる反応の1つで,試薬が分子に付け加わることから付加反応という。付加反応は,必然的に2個以上の電子対を共有する結合をもつ化合物,即ち二重結合や三重結合等の不飽和結合をもつ化合物に限って見られる。
 不飽和結合には,緩く結合した電子対であるπ結合に2個のπ電子があり,これが電子を求めている試薬と反応する。不飽和結合は電子の源として役立つ。即ち塩基として作用する。不飽和結合と反応する試薬は,電子が不足している化合物,即ち酸である。電子対を求めているこれらの酸性試薬を親電子(電子を愛する)試薬ともいう。アルケンの典型的な反応は親電子付加,言い換えれば酸性試薬の付加である。
 例えば,アルケンに臭素Br2が付加する反応では,Br2BrBrのイオン対に分かれ,酸性試薬Brp 結合の電子に作用して結合し,その後Brと結合して付加が完成すると考えられている。

 

アルケンにHClH2SO4が付加するときは,Hが最初に付加し,その後ClHSO4が付加する。

 

ポリエチレンの製造

ポリエチレンはエチレンの付加重合で合成され,いくつかの合成法がある。最初にポリエチレンを製造したのはドイツのチーグラーで,彼の発明したチーグラー触媒TiCl4-Al (C2H5)3を用いた。次に合成法を示す。

 

(1) 低圧法

温度60100°C圧力100010000 hPaチーグラー触媒を用いる。

(2) 中圧法

 

温度100150°C30000hPa触媒はCr2O3-SiO2-Al2O3

温度200250°C70000 hPa触媒MoO3-Al2O3

(3) 高圧法

温度55100°C3000001400000 hPa,触媒はジエチルペルオキシカーボネート

 

ポリプロピレンの製造

 ポリプロピレンがチーグラー触媒TiCl3-Al(C2H5)3で重合体になることが発見されてから,1957年にイタリアで初めてポリプロピレンの工業生産が始まった。重合条件は,室温〜80°C100010000hPaで,ヘキサンやヘプタンの溶媒中で反応させる。

 

シクロアルケン
 環状炭化水素で,炭素原子間に二重結合を1個もち,他は全て単結合であるものをいう。一般式はCnH2n2n3以上である。シクロオレフィンともいい,性質はほぼアルケンと同じで,付加反応を行う。
 環内の二重結合は普通シス形であるが,9員環以上ではトランス形のものも知られている。35員環は平面構造をとり,6員環以上では平面構造から外れ,歪みの少ない構造をとっている。

 

 

シクロアルケンの性質

名称

分子式

分子量

融点

°C

沸点

°C

分子構造

nm

シクロブテン 

C4H6

54.1

31

CC 0.134CC 0.1570.152

 シクロペンテン

C5H8

68.1

135.08

4444.2

(1006hPa)

CC 0.134CC (平均) 0.153

 シクロへキセン

C6H10

82.1

103.51

82.98

CC 0.133CC 0.1540.150

CCC 123.4°

 シクロヘプテン

C7H12

96.2

56

114.5115

 

 

 

B アルキン

アルキン
 炭素原子間に1個の三重結合をもつ脂肪族不飽和炭化水素で,環状構造を含まない。一般式はCnH2n2で表され,アルカンの語尾アン(-ane)をイン(-yne)に変えて命名する。アセチレン系(アセチレン列)炭化水素ともいわれる。

アルキンの性質

分子式

名   称

示 性 式

融点°C

沸点°C

C2H2

アセチレン(エチン)

CHCH

81.8

74

C3H4

メチルアセチレン(プロピン)

CH3CCH

102.7

23.22

C4H6

1-ブチン

CH3CH2CCH

125.720

8.07

2-ブチン

CH3CCCH3

32.260

26.99

C5H8

1-ペンチン

CH3CH2CH2CCH

105.7

40.18

2-ペンチン

CH3CH2CCCH3

109.3

56.07

C6H10

1-ヘキシン

CH3CH2CH2CH2CCH

131.9

71.33

2-へキシン

CH3CH2CH2CCCH3

88

83.85(989hPa)

3-ヘキシン

CH3CH2CCCH2CH3

105.53

81.6581.95

 

アセチレン分子の構造
 三重結合をつくる炭素原子2個と,それに結合する原子2個は一直線上に存在する。このとき炭素原子は,2s1つの2psp混成軌道をつくり,他の炭素原子と水素原子の間でs 結合を行う。残った2つの2p軌道は,他の炭素原子との間で2対のp 結合を行う。結局,炭素原子間は1つのs 結合と2つのp 結合の三重の結合で結ばれる。



アセチレンの性質
 エチン(ethyne)ともいう。融点81.8°C,沸点74°Cの気体。分子はアセチレン系炭化水素で最も簡単な構造で、直線構造をしており,CC0.12024nmC-H0.10625 nmである。無色無臭だが,カーバイドから発生させたものはホスフィン等を含み悪臭をもつ。工業的には石油や天然ガスからアーク分解法や部分燃焼等,炭化水素の熱分解によって製造する。加圧下では単体に分解して爆発しやすい。有機溶媒,特にアセトンによく溶ける。アセチレンは,溶接切断用やクロロプレン等の原料に用いられている。

アセチレンの反応

不飽和結合(三重結合)による付加反応を起こしやすい。水素,ハロゲン,ハロゲン化水素との付加反応は,2段階に起こる。
   CHCHH2 ―→ CH2CH2
   CH2CH2H2 ―→ CH3-CH3  (触媒NiPtPd)
 水銀(U)塩を触媒として水を付加させると,アルデヒドになる。
   C2H2H2OCH3CHO
 オゾンと反応するとオゾニドを生じ,これを水で分解するとカルボン酸となる。
   C2H2O3H2O ―→ 2HCOOH
 加熱あるいは触媒の作用で付加重合を行う。

   3C2H2 ―→ C6H6  (ベンゼン)
 ドイツのレッペは,第2次世界大戦中に,高圧アセチレンを用いた合成反応を研究し,30000hPa以下,100200°Cの条件でいろいろな化合物を合成することに成功した。これらの合成反応をレッペ反応といい,ビニル化,エチニル化,環化重合,カルボニル化等がある。

ビニル化の例: C2H2ROH ―→ CH2=CH-OR (触媒アルカリ)

カルボニル化の例:C2H2COROH ―→ CH2=CH-COOR  (触媒NiBr2)

アセチレンのH原子は,種々の金属で置換されてアセチリドをつくる。アルカリ金属や,アルカリ土類金属と熱するとアセチリドになる。
   C2H22M ―→ M2C2H2 (Mはアルカリ金属)
 銀や銅(I)は,そのアンモニア性溶液にアセチレンを作用させると,アセチリドを生じ,これらのアセチリドを乾燥させたものには爆発性がある。
 アセチレンの検出は,臭素水や過マンガン酸カリウム溶液の脱色で行うが,これらは他の不飽和結合と同じなので,独自の検出法としては銀や銅のアセチリドの沈殿反応を用いる。銀では白色だが,銅では赤褐色沈殿が生じる。

 

 

参考実験 メタン,エチレン,アセチレンの性質

【目的】アルカン,アルケン,アルキンの代表的化合物の性質を調べ,脂肪族炭化水素の性質を理解する。

【準備】ゴム栓付きL字ガラス管,水槽,安全漏斗,温度計,金属容器,無水酢酸ナトリウム,ソーダ石灰,ろうそく,炭化カルシウム,エタノール,濃硫酸,臭素水,硫酸酸性過マンガン酸カリウム水溶液,ガスバーナー,着火器具

【操作】(A) メタンの生成と性質

(1) 無水酢酸ナトリウム2gと,ソーダ石灰5gをよく混合して試験管に入れ,穏やかに熱し,発生気体を水上置換で集める。 

最初の気体は捨て,試験管A3本と,別の試験管B3本に捕集する。Bは,試験管にそれぞれ2/31/31/10だけ取り,押さえた指をずらして空気を入れ,空気との混合気体とする。試験管は,どれもゴム栓で栓をしておく。

(2) 長さ2030cmの太い針金の先に点火したろうそくをつけ,Aの試験管1本に近づけ,メタンを燃焼させる。燃焼後,石灰水少量を加え,試験管口を指で押さえてよく振る。

(3) B3本の混合気体を(2)と同様に燃焼させる。点火には十分に注意する。

(4) A2本に,それぞれ臭素水,硫酸酸性過マンガン酸カリウム水溶液を少量入れ,よく振る。

(B) エチレンの生成と性質

(5) 温度計・安全漏斗・L字ガラス管を取り付けて濃硫酸10cm3を入れた大型試験管を,乾燥した砂をつめた金属容器(ブリキでできた空き缶でよい)中に入れる。この金属容器をバーナーで,硫酸が160°Cになるまで熱する。

 安全漏斗にエタノールを入れ,試験管内に少しずつ滴下し,エチレンを発生させ,

(1)のメタンと同様にして試験管3本に捕集する。

(参考) 十分に乾燥させた五酸化リンとエタノールを混合すれば,室温でもエチレンを発生させることができる。

(6) (2)(3)のメタンと同様に燃焼させ,石灰水と混合する。

(7) エチレンの入った2本の試験管に,それぞれ臭素水と硫酸酸性過マンガン酸カリウム水溶液を入れ,よく振って色の変化を見る。

(C)アセチレンの生成と性質

(8) 炭化カルシウムを45g用いてアセチレンを発生させ,水上置換で試験管7本に捕集する。そのうち4本は,アセチレンが70%,50%,30%,10%の混合気体となるように空気を混入する。

(参考) アセチレンの発生法として,下図のような方法もある。容器は水槽でも,漏斗の入る程度の大きさのビーカーでもよい。この方法は手に水がつく欠点はあるが,空気が混入せず,操作も簡単である。

(9) アセチレンの入った1本に点火し,燃え方を見る。

(10) アセチレンと空気との混合気体にそれぞれ注意して点火し,燃え方の違いを観察する。尚,爆鳴を大きくするため,集気瓶や集気円筒等の大容積の容器を使用することは,危険であるので避ける。

(11) アセチレンの入った2本の試験管に,それぞれ臭素水と過マンガン酸カリウムの硫酸酸性溶液を加えてよく振り,色の変化を観察する。

【結果】(1) メタンが発生する。 CH3COONaNaOH ―→ CH4Na2CO3

(2) 淡い炎を出してメタンが燃える。CH42O2 ―→ CO22H2O

  石灰水が白濁する。  Ca(OH)2CO2 ―→ CaCO3H2O

(3) 混合比により異なるが,どれも爆発的に燃焼する。

(4) 変化しない。

(5) エチレンが発生する。  C2H5 OH ―→ C2H4H2O

(6) 明るい炎と少々のすすを出して燃える。石灰水で白濁する。

  C2H43O2 ―→ 2CO22H2OC2H42O2 ―→ CO22H2OC

 空気との混合気体は,爆発的に燃焼する。

(7) 臭素水,硫酸酸性過マンガン酸カリウム水溶液は,ともに脱色される。

   C2H4Br2 ―→ CH2BrCH2Br

(8) アセチレンが発生する。  CaC22H2O ―→ C2H2Ca(OH)2

(9)       多量のすすを出して燃える。 H2OC

(10) 混合比70%,50%は多量のすすが出る。10%は爆発的に燃え,すすはない。

(11) 臭素水は脱色され,硫酸酸性過マンガン酸カリウム水溶液は茶色になる。

   C2H2Br2 ―→ C2H2Br2C2H2Br2Br2 ―→ C2H2Br4

【考察の要点】(1) 燃焼の仕方の違いを比べ,原因を考える。

(2) それぞれの気体と空気の混合気体について,爆発の様子を比べる。

(3) 気体生成の反応と,臭素水との反応を化学反応式で表す。

 

参考 石油,原油
 石油の成因にはいろいろな説があるが,プランクトンや陸上の有機物等が海底に沈み,そこに土砂が堆積して,その下でこれらが複雑な変化をして生じたといわれている。

 油井から汲み上げられたままの石油を原油という。原油の主成分は炭化水素だがその種類が多いので,組成を完全に知ることはできない。また,産地により組成が大きく異なる。アルカンとシクロアルカンが主で,芳香族炭化水素が多く含まれているものもあるが,アルケンは殆ど含まれていない。

 炭化水素以外の成分として,硫黄,窒素,酸素,金属等がある。硫黄は0.17.5%含まれ,13%のものが多い。窒素は0.050.4%程度含まれている。酸素は有機酸やフェノール類として含まれている。灰分は0.010.05%で,その中ではバナジウムとニッケルが多く,次いで銅や鉄が多い。

 

参考 原油の分留

 原油を処理して各種石油製品をつくることを石油精製という。石油精製の工程の始めに,原油中の各種成分を,その沸点の違いを利用して蒸留により分離する。これを分留(分別蒸留)といい,沸点の低い方から石油,ガス,ナフサ, 灯油,軽質軽油,重質軽油,残油の各留分に分けられる。残油は更に減圧蒸留され,減圧軽油と減圧残油に分けられることもある。各留分の沸点範囲は,石油ガス30℃以下,ナフサ30180°C,灯油180250°C,軽油250320°C,残油320°C以上である。

 ガスはC3C4の炭化水素が中心で,液化石油ガス(LPG)として使われる。軽質ガソリン留分は,自動車ガソリンの混合基材とされる他,石油化学用原料のナフサとして使われる。重質ガソリン留分はオクタン価が低く,接触改質されて自動車ガソリンに混合される。灯油留分は,灯油や航空タービン燃料として用いられる。軽質軽油留分はディーゼル軽油として利用される。重質軽油留分は重油の混合基材としたり,接触分解用の原料となる。減圧軽油は,接触分解でガソリン留分や軽油留分を採取する。減圧残油は重油の基材やアスファルトとして用いられる。

 

 

 








本サイトに掲載された記事や画像の無断転載を禁じます。
Copyright(C) 2009-2012 SHINKOSHUPPANSHA KEIRINKAN CO.,LTD. All rights reserved.