トップ化学I 改訂版>第3部 無機物質>第1章 非金属元素と周期表>第6節 炭素・ケイ素とその化合物

6節 炭素・ケイ素とその化合物

A 炭素

炭素

 原子の電子式はと示され,陽イオンにも陰イオンにもなり難く,共有結合し易い。炭素原子は共有結合で長い鎖をつくり易く,これが有機化合物の炭素骨格である。炭素原子のみ共有結合で立体的に巨大分子を形成したものが炭素の単体であり,同素体としてダイヤモンド・黒鉛等が知られている。ここでは,有機化合物には触れず,主に炭素の単体を考える。

(a) ダイヤモンド 等軸晶系の正八面体構造をもち(111)面の劈開が容易である。硬度10,密度3.51g/cm3で,白色または無色だが,着色したものも多い。空気中では710900℃で燃焼し,燃焼熱は396kJ/molである。酸やアルカリに侵されない。

  天然では,ダイヤモンドは超塩基性火成岩及びその分解物の蛇紋岩質角れき岩中に産する。ダイヤモンドは,近年人工的に結晶を量産できるようになったが,大きいものでも4mmで,用途は掘さく機,研摩剤である。更に炭化水素やアルコールを原料としてダイヤモンドの微粒子をつくることもできる。

(b) 黒鉛  石墨ともいう。天然に産出するものは,六方晶系で,鱗状,粒状,塊状となっている。劈開底面は完全で薄片となり,硬度12,密度2.26g/cm3,ろう状の感触があって曲がり易い。酸には溶けない。

  普通変成岩中に産する。即ち,結晶質石灰岩,片岩,片麻岩,変成岩層から産出するが,火成岩中に産することもある。インド,オーストラリア等がその産地である。現在では,人工的に多量につくられ,無煙炭,ピッチ等がその原料となる。

 

 

ダイヤモンドと黒鉛の構造

 

(c) 無定形炭素  コークス,ガス炭,木炭,ガスカーボン等は無定形炭素だが,これらは黒鉛と同じ六方平面格子が乱雑な配列をした小結晶の集まりであることがわかってきた。

無定形炭素は黒色不透明で粗い感じがし,その表面積を広くしたものは,気体や液体や塩類をよく吸着する。

(d) フラーレン  原子の配列や結合の仕方の相違の為,同一元素から性質の異なる2種以上の単体ができる場合,これらを互いに同素体という。炭素,酸素,リン,硫黄の他に,スズ,セレン,テルル,ヒ素等が知られている。

  よく知られているように,炭素の同素体にはダイヤモンドと黒鉛がある。どちらも無数の炭素原子が連なってつくられた共有結合結晶だが,近年,炭素原子60個でできた安定なC60分子が発見された。炭素の新しい同素体が見い出されたのである。

 C60分子の存在は,大沢映二博士が北海道大学在籍時の1970年に最初に予想された。p 電子が3次元的に移動できる分子を考察しているうちに予想されたものである。しかし,C601985年に英米の化学者(H.W.Krotoサセックス大学(イギリス)R.E.Smalleyライス大学(アメリカ) )の共同研究により実際に発見された。2人はクラスターについて研究し,一連の物質をフラーレンとよんだ。

クラスターとは,原子が数個〜数百個集まった集合体のことで,結晶や個々の原子・分子とは異なった性質を示す。真空中で黒鉛に強力なレーザーを照射すると炭素原子となって蒸発するが,真空中で炭素原子が集まると共有結合性の分子即ち炭素クラスターができる。Krotoたちは,炭素蒸気中に極微量のC60と共にC70を見い出した。得られたクラスターは微量だったが,その大部分はC60だったという。

 KrotoたちはC60を検出したものの,これを単離することはできなかった。C60をグラム単位の量で取り出すことに成功したのは1990年で,W.Krätschmerマックスプランク核物理学研究所(ドイツ)D.R.Huffmanアリゾナ大学(アメリカ)の共同研究による。彼らは,ヘリウムガス中で黒鉛に電流を通じてすすをつくり,その中のベンゼンに溶ける成分をカラムクロマト法で分離して取り出した。

 C60の正確な分子構造は,5Kに冷却した結晶の中性子回折により求められた。そして,五角形12個と六角形20個からなるサッカーボール型であることが確定した。C60分子の直径は0.7nmで,分子内に金属イオンや小さい分子を取り込む余地が十分にある。そのような化合物の研究はこれからである。

 

 C60は空気中で安定である。真空中では600°C以上に熱しても壊れないので,昇華法で精製することができる。C60が安定で反応性に乏しいのは,芳香族分子であることの他に,分子に端がないことが挙げられる。また,分子内の炭素原子が全て等価で,p 電子密度に偏りがないことも安定性に寄与している。

1990年以降では,ATTベル研究所が発見した,C60の超伝導性が目を引く。カリウムを添加したC6018Kに冷やすと電気抵抗が0になる。C60そのものは絶縁体だが,いろいろなアルカリ金属を添加すると,金属になったり超伝導体になったりするのである。このように,黒鉛とC60は,共に不飽和の結合をもつ同素体だが,その性質には大きな違いがある。

1996年度のノーベル化学賞は,フラーレンC60の発見に対して,サセックス大学のクロトー(イギリス),ライス大学のスモーリーとカール(アメリカ)3人に与えられた。

 

炭素酸化物

 二酸化炭素CO2は昇華点−78.5℃の無色気体。三重点は−56.6℃,5269hPaである。固体はドライアイスといわれ,冷媒に用いられる。水に少し溶けて弱酸性を示す。水1cm3への溶解度は0℃で1.71cm320℃で0.88cm340℃で0.53cm3である。濃度が大きくなると窒息する。

 一酸化炭素COは,融点−205.0℃,沸点−191.5℃の無色気体。水100gの溶解度は,0℃で0.35cm3と殆ど溶けない。引火性で,還元剤となる。

有毒で,濃度500ppm以上では危険である。メタノールの合成原料や,金属酸化物の還元剤として用いられている。ギ酸に濃硫酸を加えて熱するとCOが発生する。

   HCOOH ―→ COH2O

 

B ケイ素

ケイ素

 天然には単体の状態で産出しないが,化合物として地殻中に酸素に次いで多く存在している。無定形のものは,けい砂をMgAlで還元しても得られる,褐色の粉末状である。結晶は,四塩化ケイ素をNaで還元すると得られる。

   SiCl44Na ―→ Si4NaCl

 無定形のケイ素は,融点1410℃,沸点2355℃である。結晶形のものの融点や沸点もほぼ同じで,硬度は7,粉砕され易く,化学作用は無定形のものに比べてやや不活性である。半導体の性質を示す。

 フッ素とは室温で激しく化合し,塩素とは430℃,臭素やヨウ素とは500℃,酸素とは400℃,窒素とは1000℃で化合物をつくる。王水には徐々に酸化されて二酸化ケイ素となる。フッ化水素酸と硝酸の混合物とも反応するが,他の酸には侵されない。アルカリ溶液とは反応して水素を発生する。

   Si2NaOHH20 ―→ Na2SiO32H2

 高純度の単体(結晶)は半導体素子として,アモルファス単体は太陽電池等に使われている。

 

二酸化ケイ素

 無水ケイ酸とかシリカといわれ,天然には石英,水晶,玉髄,メノウ,けい砂,鱗ケイ石,クリストバル石等,結晶状あるいは非結晶状で存在する。純粋な二酸化ケイ素は無色透明だが,不純物を含むものは不透明だったり,着色していたりする。融解したものを冷やすと石英ガラスとなる。

 二酸化ケイ素は,SiO4の正四面体が結晶構造の単位となり,Oを共有して空間に広がった巨大な分子である。その四面体の配列の仕方によって,石英,鱗ケイ石,クリストバル石等となり,配列が不規則であると石英ガラスになる。

 二酸化ケイ素は水に溶け難く,アルカリや炭酸塩で融解すると,巨大な分子が小さい分子やイオンとなって溶け易くなる。

   SiO2Na2CO3 ―→ Na2SiO3CO2

 また,フッ化水素HFと反応し,水溶性の気体である四フッ化ケイ素SiF4となる。フッ化水素酸(フッ化水素水溶液)を用いるとヘキサフルオロケイ酸H2SiF6となる。

   SiO24HF ―→ SiF42H2OSiO26HF ―→ H2SiF62H2O

 

水ガラス

 ケイ砂をNaOHまたはNa2CO3と高温で融解すると,ケイ酸ナトリウムとなる。この濃溶液は無色透明だが粘稠で,乾燥するとガラス状になるので水ガラスという。人造石,ガラス,陶磁器の接着剤,耐火塗料等に用いられている。

 

シリカゲル

 吸着力の強いケイ酸のゲルで,成分はSiO2nH2Oで示される。多孔質で,吸着力は含まれている水の量による。高温にして脱水したもの程吸着力が大きい。普通,水ガラスの塩基性を酸で中和してゲル化し,それを脱水してつくる。乾燥剤・吸着剤等に広く用いられている。

 

炭化ケイ素

 炭化ケイ素SiCはダイヤモンドの置換型構造(SiCとが隣り合っている)をとる。即ち,ダイヤモンドの炭素が1つおきにケイ素と入れ替っている構造である。電気炉内で,過剰のコークスとけい砂との混合物を2000℃に強熱してつくる。カーボランダムともいわれ,2700℃で分解する。硬度が大きいので研磨剤や砥石に,また,高温(1000℃程度)でも不活性なので耐火物,反応容器としての用途もある。

 

ケイ酸塩化合物

 ケイ酸塩は,岩石の主成分として広く分布している。その構造はSiO4の正四面体の結合の仕方で,次のように大別される。

(1) 次元的鎖状構造のもの SiO4の基本構造がO原子1個を共有して,繰り返し1列に結合し,鎖状の細長いイオン[SiO32]nとなったもの。また,鎖2本が結合した形のものもある。これらのイオン間に種々の陽イオンが配列する。アスベストが繊維状になるのは,このような構造をとるためである。

(2) 二次元的平面構造のもの [SiO4]構造が,平面状に結合したイオン[Si2052]nになり,これが更に種々の陽イオンをはさんで層状に結合したケイ酸塩で,雲母やカッ石等劈開性をもった鉱物等がこれにあたる。粘土もこの構造をもち,水に濡れると粘土が滑り易くなるのはこの為である。

(3) 三次元的網目状構造のもの [SiO4]構造が,全て共有結合で,三次元の網目状の巨大分子をくるとき,その組成式はSiO2となり,極めて融点の高い結晶となる。SiO2の組成をもつ二酸化ケイ素は,天然には水晶または石英として産出する。

  水晶または石英を1600℃以上に熱して融解し,これを冷やすと,一定の融点をもたない石英ガラスとなる。石英ガラスを熱すると,歪みをもった切れ易い部分から次第に切れていき,徐々に軟らかさを増す。

  一般に用いられるガラスは,SiO2Na2Oが加わった構造であり,SiO2の三次元的網目構造が部分的に切断されている為,石英ガラスよりもはるかに低い温度で軟化する。

 

ケイ酸塩工業(窯素)

 主要構成物が無機質,非金属からなり,加熱過程を経てつくられるとき,これを窯業という。また,主要原料として岩石や土壌類を用い,これらは殆どSiO2Al2O3を伴うケイ酸塩やアルミノケイ酸塩からなっているので,窯業をケイ酸塩工業ともいう。窯業製品は,不燃性,耐熱性,耐候性,耐化学薬品性,電気絶縁性等に優れ,これらの性質を生かして様々な方面で使用されている。窯業はその起源を1万年前の土器まで遡れる古い工業だが,最近では人工原料を使用した新しいセラミックス類が製造されている。

(1) 陶磁器  陶土という良質の粘土を水で練って形をつくり,陰干しの後,窯の中で焼いて素焼きをつくり,これに上薬を塗って,もう一度焼いてつくる。陶器の素地は多孔質・吸水性であり,叩くと濁った音を出す。磁器の素地は緻密で吸水性がなく,水を通さない。叩くと澄んだ音を出す。上薬(釉薬)は,石英・長石・陶土・CaCO3等を水に混ぜ,かゆ状にしたもので, 陶器や磁器の素焼きにこれを塗って1200℃くらいで焼くと,上薬は融けてガラス状となり,美しい表面をつくるとともに水を通さなくする。

  尚,土器は,不純物を含む有色の粘土を比較的低温で焼成してつくったものである。素地は多孔質で吸水性が大きい。屋根瓦,土管,植木鉢等で土器が使われている。陶器は比較的焼成温度が高く,磁器は一般に高温で焼成する。

(2) 耐火物  一般に1500℃以上の耐火度をもつ物質を耐火物という。主に溶鉱炉等の耐火れんがに使用されている。用途により酸性,中性,塩基性の耐火物に分けられ,酸性ではSiO2,中性ではAl2O3,塩基性ではMgOCaOを主成分とするものが用いられている。

(3) ガラス  けい砂,石灰岩,炭酸ナトリウム等の粉末の混合物を高温で融解し,一定の形にして冷やしたもので,主成分はCaNaのケイ酸塩である。代表的なガラスの組成と用途を下表に示す。ガラスは水にいくらか溶ける。温度の高いときや塩基性の水溶液には長い年月の間にかなり侵される。
 窓ガラスには鉄が含まれており,青緑色に着色している。色ガラスは金属のイオンやコロイドを着色剤として用いたものである。Co2で青色,Ni2で褐色,Cr3で緑色,Mn3で赤紫になる。またコロイドでは,CdSが黄色,Auが金赤,紫,青等,Agが黄色,Cuが銅赤となる。

 

(4) ほうろう  ほうろうとは,金属表面にほうろう薬(ガラス質)を焼き付けたもので,金属の機械的強さとガラスの性質を兼ね備えたものである。家庭では台所の調理台や浴槽等で,その他耐熱部品等に用いられている。七宝焼等もほうろうに含まれる。

  ほうろう薬は,ケイ石,長石,炭酸ナトリウム,硝酸ナトリウム,ホウ砂等を主成分とし,金属の耐熱温度以下で融着させる為,融点が低く,膨張係数が金属に近いものを用いる。

(5) セメント  石灰岩と粘土の混合物を細砕して混ぜ,回転炉で高温に熱し,出てくる小さい塊(クリンカー)に少量のCaSO4を加えて細粉にしたものである。水を加えてよく練り,放置すると結晶化して硬い固体となる。このセメントは,ポルトランドセメントといわれ,広く用いられている。その他,硬化の速さや強度等,その目的に応じていろいろなセメントがつくられている。

セメントは水と反応すると,不溶性水和物ができる為硬化すると考えられている。このような反応を起こすセメントの主な成分は, Ca2SiO4Ca3SiO5である。

 

 

 








本サイトに掲載された記事や画像の無断転載を禁じます。
Copyright(C) 2009-2012 SHINKOSHUPPANSHA KEIRINKAN CO.,LTD. All rights reserved.