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2節 水素と希ガス

A 水素

水素

 水素は,H2分子として存在し,室温常圧で最も軽い物質である。紫外線等の光エネルギーを与えると解離して,反応性に富む原子状水素になる。

   H22H-436kJ

 水素は,室温では比較的安定な気体で,F2以外とは直接反応しない。光を当てるとCl2とも反応する。高温にすると,殆どの元素と直接反応する。

 水素と酸素との体積比21の混合気体を酸水素爆鳴気といい,点火すると爆発的に化合する。この反応は高温(2700)が得られるので,酸水素炎に用いられる。

   2H2O22H2O572kJ

 水素は,非金属性元素とは共有結合で分子性化合物をつくる。電気陰性度が小さい金属元素とは水素化物イオンH-となってイオン性化合物をつくる。

 工業的には,水の電解や水性ガスの変性,石油類のガス化等で製造されている。

 

水素化合物

 化合物中の水素の酸化数は,相手元素が水素より陽性か,または陰性かにより,+1または−1である。それらのうち,水素の酸化数が−1の水素化合物を水素化物と呼んでいるが,明確な区別はない。

 

水素化物

 次の3種類に区別される。

  塩類似水素化物:水素の酸化数は−1で,イオン結合的な結合をしている。

   LiHNaHMgH2CaH2等,1族,2族の水素化物に多い。

  金属類似水素化物:水素の酸化数は−1が多い。金属結合的な結合をしている。

   FeHNiHNiH2CuH等,遷移元素の水素化物に多い。

  揮発性水素化物:水素の酸化数は+1または−1で,共有結合的な結合をしてい    る。CH4等,非金属元素の水素化物に多い。ハロゲン化物や硫化物は酸性,アンモニアは塩基性,メタンは中性を示す。

 以上のように,同周期元素では,原子番号が大きくなるにつれて,イオン性から分子性へと変化する。

 水素化リチウムLiH水素化ナトリウムNaH  共に白〜灰色のイオン結晶。密度は0.82および0.93g/cm3LiHの融点は680℃,NaH800℃で分解する。どれも水と激しく反応してH2を発生し,還元剤となる。

   LiHH2O ―→ LiOHH2

LiHNaOHと熱したものは,金属の錆び落としに用いられる。

 水素化カルシウムCaH2  白色結晶〜灰色塊状。イオン性化合物であり,カーバイドに似て取り扱いは容易である。金属酸化物の還元剤として用いられる。水と反応して,1gあたり1LH2を発生し,缶詰めにしてポータブル水素源に使われている。NaP4O10に勝る乾燥剤である。

 水素化ランタンニッケルLaNi5H6  黒色粉末。水素解離圧は室温で数千hPaにもなる。室温での水素化および分解反応の速度がかなり大きく,可逆性に優れているので,水素吸蔵合金として注目されている。

 水素化アルミニウムリチウムLiAlH4 無色結晶。エーテル,テトラヒドロフランに可溶。溶液は有機化合物の還元に用いられる。

 

ホスフィン

リンの水素化物,およびそのアルキル,アリル置換体の総称だが,通常,単にホスフィンといえばPH3をいう。

 PH3は無色,悪臭のある気体で,有毒である。融点−133℃,沸点−87℃,密1.53g/L (標準状態)。リンと水素を直接反応させるか,黄リンをNaOH水溶液やKOH水溶液と煮沸して得られる。空気中で燃焼して十酸化四リンP4O10と水を生じ,酸素中では爆発的に反応する。アンモニアよりはるかに弱い塩基である。

 

シラン

 広義には水素化ケイ素SinH2n+2の総称であるが,狭義にはn1のモノシランSiH4を指す。

 SiHは無色,刺激臭のある気体で,ケイ化マグネシウムMg2Siに硫酸を作用させて得られる混合気体を分留してつくる。融点−185℃,沸点−111.8℃。空気中で自然発火し,また塩素とも激しく反応する。赤熱管に通すとケイ素と水素に分解し,固体のNaOHKOHと反応して水素とケイ酸アルカリになる。

 

B 希ガス

希ガスの発見
 空気は水蒸気と二酸化炭素が僅かに含まれた,酸素21%と窒素79%の混合気体であると長い間考えられていた。1785年,キャベンディシュは,空気中の窒素を酸化して得た酸化窒素をアルカリ溶液に吸収させると,最初の空気の1/120以下の吸収されない気体の泡が残ることを見いだした。
 1894年,イギリスのレイリーは,空気をアンモニアと混合して,赤熱した銅の上を通過させた。
   4NH33O2 6H2O2N2
 これを硫酸中に通して過剰のアンモニアを除くと,純粋な窒素が得られると考えた。ところが,アンモニアと空気からつくった窒素の密度の方が,酸化窒素あるいは硝酸アンモニウムを分解して得た純窒素よりも僅かに大きいことに気づき,ラムゼーと共にキャベンディシュの実験をくり返し行い,分光器で調べて,次々と希ガスを見い出した。

 

希ガスの性質
 存在量が少ないことから希ガスと呼ばれるが,化学的に不活性で化合物をつくりにくいため「不活性ガス」といわれることもある。単原子分子として存在する。分子間力も非常に小さいので,融点・沸点ともに極端に低い。不活性であること等の性質を利用して,気球用安全ガス,ガス封入電球,不活性ガス中での熔接,極低温の研究等に用いられている。

 

 希ガスは何ものとも安定な化合物をつくらないと長い間考えられてきたが,カナダのバートレットが1962年,XePtF6の合成に成功して以来,アメリカのアルゴンヌ国立研究所のクラッセンらによってXeF4の固体化合物が合成され,最近ではいくつかの希ガス化合物がつくられている。

(1) 放電管中に生じる希ガスの2原子イオンHe2Ar2HeNe

(2) 包接化合物:ヒドロキノン3分子当たり1原子の希ガスがファンデルワールス力で収まり,結晶をつくる。その他Ar(H2O)6Kr(H2O)6Xe(H2O)6等の水和物,Ar(C6H5OH)4Kr(C6H5OH)4等のフェノール包接化合物もある。

(3) 六フッ化白金と分子状酸素から得られるイオン結晶O2[PtF6]-にヒントを得 て,バートレットがXePtF6- (黄色)を合成した。

(4) F2Xe400℃でニッケル管中に通すとXeF6の固体が得られる。

 

ヘリウム

 空気中のヘリウムの存在量は少ないが,宇宙における存在量は水素についで多い。クレーブ石,フェルグソン石,モナズ石等の放射性元素を含む鉱物には,α崩壊によって生じたヘリウムが含まれている。また,テキサスやカンザスの天然ガスには1%程度含まれており,これらはヘリウムの重要な供給源になっている。

 ヘリウムの臨界温度は5.2Kだが,オランダのオンネスは1908年,初めてヘリウムの液化に成功した。このときの液化温度は4.2Kで極めて低い温度なので,超低温を得る材料としてヘリウムは使われている。

(1) 超伝導現象 1908年に初めて液体ヘリウムが得られてから,1K付近の極低温で金属の電気抵抗がどのようになるかの研究が,オンネスをリーダーとするグループによって始まった。下表に示す金属は,それぞれの転移温度以下では電気抵抗が殆どなくなる。

 電気抵抗が殆ど認められないこの状態では,その金属の中を流れる電流は殆ど減衰しない。このような現象を超伝導と呼んでいる。そして,超伝導体の中を流れる電流を永久電流と呼んでいる。1年以上も永久電流が流れ続けた実験もある。

 近年,超伝導物質の研究が急速に進み,転移温度が窒素液化温度(195.8)や室温に近いものも報告されている。( YBa2Cu4O8 層状ペロブスカイト構造 80K(193)で抵抗0)

 

超伝導の転移温度

金 属

転移温度〔K

アルミニウム

1.175±0.002

亜    鉛

0.85±0.01

ス    ズ

3.722±0.001

水    銀

4.154±0.001

7.196±0.006

 

(2) 超流動現象 4He 2.18Kより低い温度では「液体ヘリウムII」に相転移し,奇妙な現象が起こる。液体ヘリウムIIを入れた容器を傾けなくても,ヘリウムは器壁を伝わって器外へ流出する。また,ヘリウムに空の容器を接触させると,ヘリウムが器壁を伝わって容器内へ流入する。このような流出,流入は,容器の内外の液面の高さが等しくなるまで続く。液体が重力に無関係に容器の内外に出入りするこのような現象を超流動という。

超流動の説明は量子力学を使わなければできないが,全原子のエネルギー状態がほぼ同一になり,1つの原子のもつ流動性が巨視的なスケールに拡大された現象として説明されている。

 

レーリー(レイリー)

 イギリスの物理学者。18421112日生,1919630日没。前名John William

StrnttCambridge大学の研究員,教授,名誉総長Royal Societyの会員,会長National

Physical Laboratory所長等を歴任した。音響学,光学での研究が多く,黒体輻射のエネルギー分布を示すレイリー-ジーンズの輻射式を導き,青空の色を示すレイリー散乱の理論を出した。気体の密度の研究とそれに伴うアルゴンの発見(1894)で,1904年にノーベル物理学賞を受賞した。

 

ラムゼー

 イギリスの化学者で,1852102日,グラスゴーに生まれた。グラスゴー,ブリストル,ロンドンの各大学教授を歴任した。化学量論に関する発見もあるが,希ガスの発見は彼の大きな功績といえる。1894年,レイリーと伴にアルゴンを発見し,1898年にはトレバースと伴にネオン,クリプトン,キセノンを発見した。これらの業績により,1904年にノーベル化学賞を受賞した1916723日没。

 

 

 

 








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