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4節 電池と電気分解

A ダニエル電池と電池の仕組み

ダニエル電池

1836年,イギリスの化学者ダニエルによって考案されたもので,起電力の変化が少なく,気体も発生しないので,ボルタ電池よりも数段優れたものとして評価された。当初は銅イオンが亜鉛室に移って自己放電を起こすという欠点があったが,いろいろな構造の改良を行い,電話交換機用電源として実用化された。

 ダニエルJ.F.Daniellは,1790年ロンドンに生まれ,1845年没。1831年,ロンドンのキングスカレッジ設立の際に化学教授となる。1831年以降,英国学士院会員。ダニエル露点湿度計,ダニエル電池,銅‐亜鉛熱電対の発明で有名である。塩類の水溶液の電解による研究もある。

 電池の原理を理解するには,ダニエル電池の方が解り易いので,最近は,電池の学習ではダニエル電池から入るのが一般的になっている。

 

参考実験 海水電池(塩化銀電池)の原理

【目的】海水電池(正極に塩化銀,負極にマグネシウム合金,電解液に海水を用いた電池)の原理を,より簡略化した実験で理解させる。

【準備】3%食塩水,Mgリボン,銅板,銀板,炭素棒,電子ブザー,発光ダイオード,導線,ペトリ皿

【操作】(1)  ペトリ皿に3%食塩水を入れ,Mgリボンと銀板を入れて導線で結び, ブザーが鳴ることや発光ダイオードが光ることを見せる。

(2) 電極の組み合わせをいろいろ変え,(1)と同様の実験を行う。

【結果】ブザーはほぼ鳴るが,発光ダイオードは2V近くないとよく光らない。

 

参考 ボルタ電池

 イタリアの医学者ガルバーニ(17571796)は,カエルを金属板の上に置いたときけいれんを起こすことを観察し,この現象を筋肉中の生物電気だと考えた。しかし,イタリアの物理学者ボルタは,カエルに起こるけいれんは,動物自身がもつ電気ではなく,金属の接触電気によるものと考え,これにヒントを得て,水に濡らした紙や布を亜鉛と銅で挟むと,そこに電気が生じることを発見し,後にボルタ電池を考え出した(1800)。これが電池の起源で,ボルタはこの電池はいつまでも使えると考えたが,実際は,水素イオンの吸着により銅表面の触媒能力が低下し,直ぐに使えなくなった。

 ボルタAlessandro Voltaは,1745218日生,182735日没。初め,Pavia大学,1815年以後Padova大学の教授。ボルタ電池を発明し,定常的な電流を得て,化学反応が電流を生み出すことを明らかにした。電位,電圧の単位ボルトvolt(記号X)は,彼の名にちなんでつけられた。

 

B 鉛蓄電池

鉛蓄電池

鉛電池とも呼ばれる。電圧が2Vと高く,品質安定性に優れ,ニッケル-カドミウム電池等よりも安価なのが特徴で,寿命は放電の深さに大きく依存する。両極の表面が白いPbSO4結晶で完全に覆われると(サルフェーション),使用に耐え得るまで復帰させることは困難となる。

 

C さまざまな実用電池

マンガン乾電池

乾電池にはマンガン乾電池やアルカリマンガン乾電池等があり,マンガン電池が古くから生産されていた。1999年以来アルカリマンガン乾電池の生産量がマンガン乾電池にとって替わり,一番多くなった。

 日本で,1999年まで最も一般化されている乾電池は,ルクランシェ形乾電池だった。ルクランシェ電池の乾電池化は,19世紀末(18801890)に多くの人によって研究され,工業製品として市場に出るようになったのは1890年である。

 現在使用されているマンガン乾電池は,メーカーによりその成分や構造が少しずつ違っており,教科書では,最も多くの専門書に記載されているものを示した。マンガン乾電池の反応は複雑で,簡単に説明できないが,一般には次のように説明されている。

 負極では亜鉛が溶けて電子が放出される。このときの生成物は,pHによって次のように変化する。
(1)
 pH5.15.8 Zn2NH4Cl ―→ ZnCl22NH42e-

Zn ―→ Zn22e- (Zn2として溶ける)

(2) pH5.87.85 Zn2NH4Cl2H2O ―→ Zn(NH3)2Cl22H3O2e-

(Zn(NH3)2Cl2が沈殿析出する)

(3) pH7.859.3 Zn4NH4Cl4H2O ―→ Zn(NH3)4Cl24H3O4e-

([Zn(NH3)4]2として溶ける)

正極では,MnO2の粒子内部に,NH4H30から分離したHが拡散してくる。また,負極から導線を通して炭素棒に電子が流れ込み,MnO2は還元されてMnO(OH)(またはMn2O3H2O)になる。そして,このMnO(OH)は未反応のMnO2中に拡散していくと考えられる(1.50.75Vくらいの放電の間の反応)
   MnO2NH4e- MnO(OH)NH3
   MnO2H3Oe- ―→ MnO(OH)H2O     (MnO2He ―→ MnO(OH))
 正極での反応もpHにより,また反応が進むと変化する。反応が進んだときはMn2が生じると考えられている(主としてpH0.56)
   MnO24H2e- ―→ Mn22H2O
 全体の反応としては,次式が一般に受け入れられている。
   2MnO22NH4ClZn ―→ 2MnO(OH)Zn(NH3)2Cl2
 また,電解液に塩化亜鉛を多く含む塩化亜鉛型電池の場合は,全体の反応が次式のようになると考えられている。
   8MnO28H2OZnCl24Zn ―→ 8MnO(OH)ZnCl2Zn(OH)2
 マンガン乾電池は,休み休み使うと起電力が少し回復する特徴がある。

 

実用電池の種類
 実用電池は,一次電池,二次電池(蓄電池)に大別される。

実用一次電池

名   称

負極活物質

電解質

正極活物質

電圧〔V

マンガン乾電池

Zn

ZnCl2+NH4Cl (またはZnCl2)

MnO2

1.5

アルカリマンガン電池

Zn

KOH

MnO2

1.5

酸化銀電池(銀電池)

Zn

KOH(またはNaOH)

Ag2O

1.55

空気電池

Zn

KOH (またはNaOH)

O2 (または空気)

1.35

リチウム電池

Li

LiBF4 (LiClO4)

(CF)n (MnO2)

3.0

 

実用二次電池

名     称

負極活物質

電解質

正極活物質

電圧〔V

鉛蓄電池

Pb

H2SO4

PbO2

2.1

ニッケル‐カドミウム電池

Cd

KOH

NiO(OH)

1.3

ニッケル‐水素電池

MH

KOH

NiO(OH)

1.35

リチウムイオン電池

Cx Li

Li

Li1-x MO2

4.0

 

燃料電池

一般に,電池は化学変化のエネルギーを電流という形に変換するものである。ここで,化学物質のエネルギーを電気的エネルギーに変換する例として,燃料電池について考察してみよう。

 いま,白金板を水に浸し,その表面に水素を吹きつけると,水素の一部分はHイオンとなって水に溶け込もうとする。したがって,白金板は水素から電子を与えられて負に帯電する。ある程度帯電すると,この負電気が上の反応を押し止めるので,電位は一定値より大きくはならない(平衡状態の電位)

 同様に,他の白金板に酸素を吹き込むと,酸素の一部はH2Oとなって水に溶け込み (O24e- ―→ 2O2-2HO2- ―→ H2O),極板は正に帯電する。この電極の電位も,平衡状態の値に達する。ここで,この2つの極を結び付けると,その間の電位差によって電極間に電流が流れ,液の中では水が生じる。

   H2 ―→ 2H2e-

   O24H4e- ―→ 2H2O

 これらの反応をまとめると,結局,水素2molは酸素1molと化合して水2molを生じたことになる。その際に,化学エネルギーの一部を電気エネルギーに変換することができる。このような電池を燃料電池という。この燃料電池から発生する最大の電圧は,それぞれの電極が独立の状態でもっていた平衡の電位の差になる(1.2V)。但し,燃料電池としての発電をしている時には,流れる電流とともに電圧は低下してくる。

尚,上の例では水素が燃料となっているが,メタノール,エタノール,メタン等の可燃性物質を使うこともできる(但し,多くは触媒によって燃料物質から水素を分離し,水素を燃料として利用している)。燃料電池では,燃料を酸素と化合させ,即ち燃焼させ,その際に出る熱によって発電機を回して発電する方法に比べて効率が高く,有毒な排ガスを生じず,装置も比較的簡単で,無人でも働く等の利点がある。その為,灯台や宇宙船の発電装置として使われている。携帯電話・モバイルコンピュータや自動車への応用も注目されている。

 

燃料電池

名   称

燃料(負極)

電 解 質

酸化剤(正極)

アルカリ性電解液燃料電池

H2  (CH3OHN2H4)

KOH

02

酸性電解質燃料電池

H2  (CH3OH)

H3PO4  (H2SO4)

02  (空気) 

溶融塩電解質燃料電池

H2  (CO,炭化水素)

Li2CO3K2CO3  (Na2CO3)

02CO2

固体電解質燃料電池

H2  (CO,炭化水素)

ZrO2CaO  (Y2O3)

02  (空気)

 

 

D 電気分解

電気分解

 電気分解では,電極表面で溶液との間に生じる電位差のために強い電界が生じ,電極と溶液の間で正負のイオンや電子の授受が起こる。電極間の電位差を0から少しずつ上げていった場合,陽極では液中で最も電子を放出しやすい物質または電極が酸化される。陰極では最も電子を受け取りやすい物質が還元される。

 水溶液の電気分解では,水とイオンおよび電極の反応を考えればよい。陰極では,水と主に陽イオンを考えればよい。ph7.0における水の標準電極電位は−0.828Vであり,このpHにおいてこれより標準電極電位の高い陽イオンがあれば,一般にはこの陽イオンが還元される。また,水より標準電極電位が低い陽イオンがあれば,水自身が還元される。

   Zn22e-Zn        E0=−0.7626V

   2H2O2e-20H-H2()  E0=−0.828V

   Al33e-Al       E0=−1.676V

AlAlより標準電極電位が低い金属イオンがあれば水が反応し,ZnZnより標準電極電位が高い金属イオンがあれば,イオンが反応する。

 陽極では,水,陰イオンの酸化を中心に考えればよい。この場合は,標準電極電位の低い反応(酸化反応だから,反応式の逆反応について考える)の方が進み易く,この値が水より小さいときは,陰イオンが反応し,水より大きいときは水自身が反応すると考えてよい。また,電極の標準電極電位がより低い場合は,電極が酸化される。

 尚,Fe(CN)63-I3-等陰イオンであっても還元され易いもの,V3+Fe2+等陽イオンであっても酸化されやすいものがあることにも注意する。

 

O22H2O4e-40H-

E00.401V

I 2()2e-2 I-

E00.5355V

Age-Ag

E00.7991V

Br2()2e-2Br-

E01.0874V

O24H4e-2H2O

E01.229V

S2O82-2e-2SO42-

E01.96V

 以上,電気分解の反応を標準電極電位の値を中心に説明してきたが,実際の反応では,濃度や温度,電気化学反応の過電圧等の影響により,必ずしも前述の通りにはならない。化学反応に例えれば,標準電極電位は標準状態の反応熱に似たものと考えることができ,活性化エネルギーや反応速度を考えると,反応熱が大きくても必ずしも反応するわけではないことが理解できる。高校段階では,標準電極電位を1つの基準と考え,実際の指導では代表例について理解させれば十分と考えられる。(ここでも標準状態は,水素ガスの標準圧力を常圧としたときの標準水素電極を基準として,25℃のときである)

 

参考実験 電気分解

【目的】NaCl水溶液やCuSO4水溶液の電気分解を寒天ゲル中で行い,電気分解における物質移動を理解させる。

【準備】3NaCl水溶液とフェノールフタレインを少量含む寒天ゲル,0.1mol/LCuSO4水溶液の寒天ゲル,ステンレス棒2本,電源(乾電池),導線,ガラス板,OHP投影装置一式

【操作】(1) NaClの寒天ゲルを適当な大きさに切り,ガラス板上に載せてOHP投影台上に置く。電源と導線で結んだステンレス棒2本を寒天に差し込み,変化を見る。

(2) 0.1mol/L CuSO4寒天ゲルに(1)と同様の操作を行い,OHP投影台上で変化を見る。

【結果】(1)では,陰極付近が赤くなる。これは,OH生成によりpHが高くなり,フェノールフタレインが発色する為である。

(2)では,陰極に銅が析出することがわかる。

【参考】(1) 寒天ゲル中の塩の濃度は,1%程度でもよい。

(2) どちらの寒天ゲルにも少量のKIとデンプンを加えておくと,ヨウ素デンプン反応により陽極にも変化が見られる。  2I―→ I22e

(3) ガラス板に+,−の記号を書いておくと,反応が見易くてよい。

 

 

E 各極の電解反応

電気分解と電極

 電気分解は,電極表面に電位差を生じさせ,電気エネルギーによって化学反応を起こさせるもので,電力(エネルギー)を消費して化学ポテンシャルの高い物質を生産するという点で,電池と逆の変化に相当する。

 電気分解では,電源の負極と連結した電極を陰極といい,正極と連結した電極を陽極という。しかし,反応は,負極・陽極で酸化反応,正極・陰極で還元反応が起こり,電極の名称と反応の内容が一致せず,生徒には判り難いので,電極の名称については,十分な指導が必要である。

 電極の名称として,アノード,カソードを用いることもある。この場合には,上記の負極・陽極をアノード,正極・陰極をカソードという。つまり,酸化反応が起こる電極がアノードであり,還元反応が起こる電極がカソードである。

 

F 電気分解の量的関係

ファラデーの法則

 この法則は,1833年,ファラデーM.Faradayによって導かれた電気分解に関する法則であり,電気分解の法則とも呼ばれている。

同じ物質については,電気分解において析出(または溶解)する物質量は,通じた電気量に比例する。

 電気分解では電子1molあたりの電気量9.6485×104C/molを単位に用い,これをファラデー定数という。この法則は,電気分解において変化する物質の量と電気量の関係が,電解質・電極の種類や量,溶液の温度や濃度に無関係であることを示している。

 

ファラデー

イギリスの化学者,物理学者。1791922日生,1867825日没。1813年,デービーH.Davyの助手として王立研究所に入り,1833年に同研究所の化学教授となる。同年電気分解の法則を導く。他にも多くの業績がある。ベンゼンの発見(1825),ナフタレンスルホン酸の発見(1826)等は化学でのものであるが,塩素の液化(1823),電磁誘導現象の発見(1831),電場・磁場の概念の確立(1837),真空放電におけるファラデー暗部の発見(1838),反磁性物質の発見(1845)等,物理学での功績が大きい。

 

 

 








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