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3節 酸・塩基の中和

A 中和と塩

中和と水

 今日,中和反応に伴う水の生成は,中和の本質的内容と理解されている。しかし,酸塩基の研究の初(18世紀末〜19世紀初)には,中和は(酸+塩基 )という型で理解されていた。このような考え方は,水の出入りに関心が払われることなく,電離の概念もなかった時代の研究としては当然でもあった。

 中和における水の生成に初めて注目したのは,P.L.デュロン(フランスの化学者,デュロン-プティの法則で有名,17851838)あった。彼は,酸化カルシウムの様な酸化物と酸とが反応すると,塩と共に水が生じることに注目し,酸と塩基の反応の際に水が生じることを指摘した。

 

B 中和滴定

参考実験 酸・塩基の中和反応における導電率の変化

【目的】中和反応に伴う導電率の減少から,HOH-―→H2Oの反応に注目させる。演示実験として行う。

【準備】電源装置(610V),演示用大型電流計,スターラー,導線,200cm3ビュレット,ステンレス鋼板,割り箸,輪ゴム,200cm3ビーカー,0.1mol/L NaOH水溶液,0.01mol/L塩酸,安全ピペッター

【操作】(1) 下図のような装置をつくり,塩酸100cm3をビーカーに入れ,ビュレットにNaOH水溶液を入れる。

(2) 電極を塩酸中に入れ,電流値が100mA程度になるように電圧を調整する。

(3) ビュレットからNaOH水溶液を滴下し,電流値の変化を見る。

【結果】滴下量と電流値の関係は,上右図のようになる。Hはよく電流を導くことから,最初の電流値の減少は,Hが中和反応により減少した為であることを理解させる。後の増加はNaOHの増加による。

 

中和滴定

【実験上の留意点】

l.  標準溶液の調製にシュウ酸が用いられる理由を指導しておきたい。シュウ酸二水和物の結晶は純度が高く,安定だからである。

2. シュウ酸結晶の秤量は,上皿天秤では無理である。電子天秤を用い,予め秤量しておいたものを配布すると,実験時間が短縮できる。また,シュウ酸結晶を乳鉢で磨り潰して粉末状にしておくと,溶解が早い。

3.  l.のシュウ酸標準溶液の調製は,次のようにしてもよい。シュウ酸0.63gをメスフラスコに入れ,水を少し加えて栓をし,よく振って溶かす。その後,水を標線まで加えてよく振り混合する。

4. ホールピペットと安全ピペッターの使用法を実験前によく指導し,練習させておく。まず,液を標線の上まで吸い上げるときは,ピペットの先端が液面上に出ないよう注意する。液面上に出ると,液が安全ピペッターの中に入ることになる。液面を標線と一致させるときは,押さえた指を調節して液を自然に流下させる。尚,アルカリ溶液を測った場合は,使用後直ぐによく洗浄する。

5. ビュレットの活栓(ガラス製)は,ワセリン等で滑らかに回転するようにしておく。しかし,ワセリンを付け過ぎると穴が塞がるので,付け過ぎないように注意する。

6 ビュレットの最小目盛は0.1cm3であるが,その1/10を読み取らせて0.01cm3の位まで測定させる。予め練習させる必要がある。

7. 一定程度まではNaOH aqを加え,中和点の少し前から1滴ずつ加えさせてもよい。この方が能率的である。

8. 指示薬を加え過ぎないように注意する。指示薬はそれ自身が酸・塩基だから,多量に入れると誤差を生じる原因になる。

 

【実験の結果】

I. 測定例を示す。

3回の平均値は,9.54cm3になる。

 

1

2

3

測定例I

開始時の目盛

0.85

10.40

1.33

終了時の目盛

10.40

19.92

10.87

NaOH液の体積〔cm3

9.55

9.52

9.54

測定例II

NaOH液の体積〔cm3

6.52

6.49

6.50

 

II. 測定例を示す。

 3回の平均値は,6.50cm3になる。

考察の解答

(1) 

 

(2) NaOHの濃度をxmol/Lとすると,

   x0.105mol/L

 

(3) 薄めた食酢の濃度をy mol/Lとすると,

   y0.06825mol/L

 

  よって,元の食酢の濃度は,y×100.683mol/L

  食酢の質量パーセント濃度は,

 

(4) 採取する液を少量使って,2回程内部を洗浄(共洗い)する。洗浄液が少量残っていても,採取液の濃度に近いので構わない。尚,コニカルビーカー(三角フラスコ)は,液が薄められても構わないので,水洗したものが,そのまま使える。

(5) シュウ酸は弱酸であり,NaOHは強塩基である。したがって,弱塩基性で変色す るフェノールフタレイン(変色域はpH8.09.8)を指示薬に用いるのが合理的である。メチルオレンジはpH3.14.4で変色するので,弱酸性を中和するこの滴定の指示薬として不適当である。

 

C 滴定曲線

中和滴定曲線

 中和滴定の進行に従って,pH変化を示した曲線を中和滴定曲線という。

下図に(1)強酸と強塩基,(2)強酸と弱塩基,(3)弱酸と強塩基,(4)酸と弱塩基,の滴定曲線をそれぞれ示した。同時に,よく使われる指示薬の変色域も示した。

中和滴定曲線と指示薬

Na2CO3の中和滴定曲線

(1)AB HClNaOH

(2)AB¢  HClNH3

(3)A¢B CH3COOHNaOH

(4)A¢B¢ CH3COOHNH3

 

(4)以外は当量点で明確なpHジャンプ(pH飛躍)がみられ,適当な指示薬で当量点を決定できる。尚,多価の弱酸や弱塩基では,中和点までの中間点に小さなpHジャンプが見られることがある。

 また,炭酸ナトリウムの様な塩も強酸で中和滴定される。この中和滴定では2段階で中和が起こる。

   CO32-H ―→ HCO3-

   HCO3-H―→ H2CO3

尚特殊な場合を除き,H2CO3は水中でのみ存在する。

 

D 塩の水溶液

塩の分類

 中和の観点から,正塩(中性塩),酸性塩(水素塩),塩基性塩に分類される。正塩は,酸と塩基が過不足なく反応した組成の塩である。酸性塩は,多価の酸が中和反応したとき生じる塩で,まだ金属原子と置換できる水素原子が残った組成をもっている。塩基性塩は,多価の塩基が中和反応したとき生じる塩で,まだ酸基と置換できるOH原子団が残った組成をもっている。

   HClNaOH ―→ NaCl(正塩)H2O

   H2SO4NaOH ―→ NaHSO4(酸性塩)H20

  Mg(OH) 2HCl ―→ MgCl(OH) (塩基性塩)H20

 陽イオンも陰イオンもそれぞれ1種類の塩を,単純塩といい,単純塩が2種類以上含まれる形の塩を複塩という。

   (単純塩) NaCIK2CO3Al2(SO4)3

 (複塩) AIK(SO4)2KNaCO3

 その他,結晶に結晶水(水和水)を含む含水塩と,結晶水を含まない無水塩や,イオンが錯イオンである錯塩等がある。

 

塩の加水分解

 塩を構成する成分イオンが,水溶液中で水分子と反応して,他の分子やイオンになることをいう。この結果,水溶液中にはHまたはOH-が生じるので,溶液は一般に,酸性または塩基性を示す。

 例えば,酢酸ナトリウムは,次式の様に極少量のOH-を生じるので塩基性を示す。

   CH3COONa CH3COO-Na

   CH3COO-H2O  CH3COOHOH-

この反応が起こるのは,酢酸が弱酸であり,水溶液中で分子の形で存在しやすいからである。

 炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムの場合は,炭酸(二酸化炭素水溶液)が弱酸なので塩基性を示す。

   Na2CO3 ―→ 2NaCO32-

   CO32-H2O  HCO3-OH-

   NaHCO3 ―→ NaHCO3-

   HCO3-  H2O  CO2H2OOH-

 アンモニウムイオンの加水分解では,NH4中のHが水分子の酸素の非共有電子対に移り,極少量のH30を生じるので酸性を示す。

    NH4H2O  NH3H30

水を省略すると,

    NH4+  NH3H+

この反応が起こるのは,アンモニアが弱塩基であり,水溶液中で分子の形で存在し易いからである。

 また,塩化鉄(III)や硫酸銅(II)は,極少量のHを生じるので,水溶液は酸性を示す。

   CuSO4 ―→ Cu2SO42-

   Cu2+H2O  [Cu(OH)]H+……@

   FeCl3 ―→ Fe3+3Cl-

   Fe3+H2O  [Fe(OH)]2H+……A

 尚,実際にはCu2Fe3+はそれぞれ[Cu(H2O)4]2+[Fe(H2O)6]3の水和イオンの形で水溶液中に存在している。

 [Cu(H2O)4]2H2O  [Cu (OH) (H2O)3]+H3O+ ‥‥‥B

   [Fe(H2O)6]3H2O  [Fe(OH)(H2O)5] 2+H3O+ ‥‥‥C

 式@は,式Bの両辺から4H2Oを省略したものであり,また式Aは,式Cの両辺から5H2Oを省略したものである。

 一般に,アルカリ金属とアルカリ土類金属のイオンを除く金属水和イオンは,水溶液中でH+H2Oに与えることができるので,全て酸性を示す。また,強酸の陰イオン(SO42-NO3-Cl-Br-T-)を除いた他の陰イオン(CH3COOHCO3-CO32-)は,水溶液中でH+と結合して弱酸分子になり易いので,塩基性を示す。

 

弱酸・弱塩基の遊離

 弱酸の塩に強酸を加えると弱酸が遊離してくる反応や弱塩基の塩に強塩基を加えると弱塩基が遊離してくる反応は,どちらも塩の加水分解の原理と同じである。

   CH3COO-H―→ CH3COOH

   NH4OH- ―→ NH3H2O

 尚,中性の塩NaClに濃硫酸を加えて熱すると,塩化水素が遊離してくる。この反応は,濃硫酸が不揮発性であるのに対して塩化水素は揮発性だからである。

   NaClH2SO4 ―→ NaHSO4HCl

 

 

 








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