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第1節 酸と塩基

A 酸と塩基の性質


 acidは,ラテン語のacidus(すっぱい)に由来し,感覚的な意味を表している。最初に化学的に定義したのはボイルで,植物性の青色色素(1itmus)を赤変させ,多くの物質を溶かす力をもつものを酸といった。後にラボアジエはSPN等の酸化物を酸(オキソ酸)といい,酸は全て酸素を含むと考えたが,NaKCa等の酸化物の水溶液が塩基性を示すこと等からこの説は崩れ,次第に現在の酸の基礎が確立してきた。

オキソニウムイオン
 水和したプロトンで,普通H3Oで表される。水和が重要でないときには,単にHと表し,水素イオンと呼んでいる。
    HH2O ―→ H3O
 非水溶媒,例えばメタノールやジメチルエーテルにHが結合して生じるCH3OH2(CH3)2OH等は,メチルオキソニウムイオン,ジメチルオキソニウムイオンと呼ばれている。
    HCH3OH ―→ CH3OH2
    H(CH3)2O  ―→ (CH3)2OH

水溶液中のHは,O原子の間を急速に移動し,個々のH3Oの寿命は10-13秒程度である。また,H3Oが水和したものも知られている。

 

 

塩基,アルカリ
 狭義には,水溶液中で水酸化物イオンを生じ,酸を中和して塩を生じる物質を塩基という。塩基には,水に難溶性のものも存在する。
 alkaliはアラビア語で,al-は定冠詞,kaliは灰分を意味する。アラビア人は,植物の灰をアルカリとよんだ。その後,灰の浸出液の様に強い塩基性を示すものの名称になった。かつては水溶性の塩基を示すものの総称として用いられていたが,現在では塩基とアルカリは同じ意味で用いられている。

 

広義の酸・塩基

酸・塩基の定義は,化学の進歩に伴い発展拡張されてきた。ブレンステッドとローリーによる定義,およびルイスによる定義を,広義の酸・塩基という。

(1) アレーニウスの定義 Arrhenius acid and base  1884年,アレーニウスは,水溶液中でHを放出する物質が酸,OH-を放出する物質が塩基であると定義した。

   ()HA ―→ HA-   (塩基) BOH ―→ BOH-

(2) ブレンステッドとローリーの定義Brfnsted-Lowry acid and base 1923年,ブレンステッドとローリーは,それぞれ独立に,酸とはH+を相手に与える陽子供与体,塩基とはHを相手から受け取る陽子受容体であると定義した。

   

 

  即ち,HAH3OHを放出するので酸,H2OA-Hを受容するので塩基である。このとき,HAA-H3OH2Oを,互いに共役な酸・塩基であるという。共役酸が強い酸である程,共役塩基は弱い塩基となる。この酸・塩基の定義は非水溶媒にも適用できる。

  ブレンステッド Johannes Nicolaus Brfnstedはデンマークの物理化学者(18791947)で,バルドに生まれ,コペンハーゲン大学に学び,デンマーク工業大学教授,コペンハーゲン大学教授を歴任した。

  ローリー Thomas Martin Lowryはイギリスの物理化学者(18741936)で,ヨークシャー州に生まれ,現在のロンドン大学に学び,1920年ケンブリッジ大学教授となった。

 (3) ルイスの定義 Lwis acid and base 1916年,ルイスは電子の授受に注目して,電子対を与えて相手と結合する電子対供与体が塩基,逆に電子対を相手から受け取る電子対受容体が酸であると定義した。(2)の定義は,全てこの(3)の定義に含まれ,非水溶媒中でも適用できる。

    BF3+:NH3 ―→ F3BNH3

    酸  塩基

 

参考 酸と塩基の歴史

 ヨーロッパが中世に入る頃,酸としては食酢と酸性果実の果汁が知られており,王水の性質についても知られていたようである。また塩基としては,ソーダ(水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,炭酸ナトリウム,炭酸カリウム)や石灰について知られていた。

 中世におけるヨーロッパの化学は,その多くをギリシャ科学を受け継いだアラビアの錬金術(Khemeiaalchemy)に負っている。錬金術の1つの重要な発見は,鉱酸(硝酸,硫酸,塩酸)の発見である。

16世紀頃から,ヨーロッパは文芸復興期に入り,化学の発展も急テンポになった。ボイルの法則で有名なR.Boyle(イギリス,16271691)は,酸がリトマスを赤変させることを確認し,ホムベルグWilhelm Homberg(オランダ,16521715)は,酸がアルカリを中和することを見い出し,K.W.シェーレ(スウェーデン,17421786)はシュウ酸,クエン酸,安息香酸等の有機酸を見い出した。
 18世紀の中頃から酸・塩基の性質をより根本的に説明しようという動きが出始めた。まずラボアジエA.L.Lavoisier(フランス,17431794)は,酸素が全ての酸の基であり,酸は必ず酸素を含むと考えた。この考えは,J.J.ベルセーリウス(スウェーデン,17791848)によって,“酸とは酸となり得る元素(非金属)と酸素の化合物で,塩基とは金属と酸素の化合物である”と修正された。しかし1810年,H.デーヴィー(イギリス,17781829)によって塩酸には酸素が含まれないことが明らかにされ,酸の働きに酸素が必要であるという考えは否定されたP.L.デュロン(フランス,17851838)は,酸と塩基(酸化物の塩基)の反応の際には,酸の中の水素と酸化物の中の酸素から水が生じることに注目した。
 デーヴィーとデュロンの考えを基に,
J.F.リービッヒ(ドイツ,18031873)は,1838年,“酸は水素の化合物であり,その水素は金属イオンで置き換えられる”という考えを発表した。この定義が今日の酸の定義の出発点となっている。

酸の発見史

年代

酸の名称

発 見 者

年代

酸の名称

発 見 者

1600

硫酸,硝酸,王水

――

1785

リンゴ酸

K.W.Scheele

1630

二酸化炭素

J.B.van Helmont 

1786

没食子酸

1646

塩酸

J.R.Glauber

1786

フッ化水素酸

1703

氷酢酸

G.E.Stahl

1813

ヨウ化水素酸

J.L.Gey-Lussac

1743

リン酸

A.S.Marggraf

1814

塩素酸

1764

ヒ酸

H.Cavendish

1833

ベンゼンスルホン酸

E.Mitscherlich

1769

酒石酸

K.W.Scheele

1834

次亜塩素酸

A.J.Balard

1776

シュウ酸

1841

フェノール

A.Laurent

1777

硫化水素

18461852

アミノ酸

J.Liebig

1778

モリブデン酸

1886

五酸化二リン

T.E.Thorpe

1779

乳酸

1890

三酸化二リン

1784

クエン酸

 

 

 

 

B 酸・塩基の価数

酸・塩基の価数

 degree of acidity and basicity であり,イオンの価数charge numberと混同しないように注意が必要である。

 

C 酸・塩基の強さ

電離度

電離平衡の場合の解離度,即ち電解質の電離した物質量を元の全物質量で除した値で表し,記号としてaを用いる。弱電解質weak electrolyteの溶液では普通1よりもかなり小さいが,低濃度になるにつれて増大し,無限希釈状態では全ての電解質についてa1(完全解離)となる。

 強電解質strong electrolyteの溶液では,濃度が高くても完全解離していると考えられ,a1とみなすことができる。
 電離度は,溶液の沸点・凝固点,浸透圧,導電率等の測定から求められる。

 

酸・塩基の強さ

 酸・塩基の強さは,電離度の大小によって議論できる。しかし,電離度は同一物質でも濃度により異なるので,議論がやや判り難い。本来は,その電離定数の大小によって決められる。

 

 

 








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