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2節 ヘスの法則

A ヘスの法則

ヘスの法則(総熱量不変の法則)

 この法則は,エネルギー保存の法則が物理変化のみならず化学変化にも適用できることを示した科学史的意義をもつ法則で,その発表はエネルギー保存の法則に先立ち,1840年スイス系ロシア人G.H.ヘス(18021850)によって行われた。

 ヘスの法則の内容は,「反応熱は,その反応の初めの状態と終わりの状態で決まり,途中の経路には関係しない」というもので,化学反応に伴う熱現象を扱う熱化学の基本法則である。また,エネルギー保存の法則を化学変化に適用したものであることから,「総熱量保存の法則」とも呼ばれている。

 ヘスの法則により,直接に測定することの困難な反応熱を,別の反応の反応熱から計算により求めることができるようになった。

 

ヘス

1802年,スイスのジュネーブで生まれ,1850年,ペテルスブルグで没した。化学者にして医者。父は教師で,1805年,ロシアのペテルスブルグにつれていかれた。1822年〜1825年,ドルバトの大学で医学教育を受け,その他化学と地質学を学んだ。スウェーデンの化学者ベルツェリウスと1か月過ごした後,ウラル山脈の地質探険隊に参加し,その後イルクーツクで医師となった。1830年には再びペテルスブルグに戻り,2年後にペテルスブルグ工科大学の教授となった。1838年まで,主として鉱物と有機化学の研究を行い,1840年と1842年に熱化学の古典的論文を出版した。これが有名なヘスの法則の発見である。

 彼の著書純粋化学の基礎は,ロシアの代表的教科書として使われたが,1860年にメンデレーエフの著書にとって代わられた。

 

生成熱

 物質1molを,その成分元素の単体(25°C103hPaで最も安定な同素体)からつくる場合の反応熱を,特に生成熱という。例えば,二酸化炭素の生成熱は,次に示した反応の反応熱に等しい。

   C(黒鉛)O2()CO2()394kJ

 生成熱という概念の最大の利点は,非常に沢山ある熱化学の資料を,化合物の生成熱という形で整理しておける点にある。任意の反応の反応熱は,その反応に関与する物質の生成熱からヘスの法則に基づき計算によって簡単に求めることができる。即ち,生成物の生成熱の総和と反応物の生成熱の総和との差が,反応熱に等しくなる。例えば,COの燃焼反応の反応熱は次式で求められる。
   2COO22CO2Q kJ

Q 2×(CO2の生成熱) {2×(COの生成熱)(O2の生成熱)}

 

生成熱kJ/mol25°C 103hPa の生成熱を示す。

物 質

生成熱

物 質

生成熱

物 質

生成熱

CO(g)

110.53

NH3(g)

45.94

CH4(g)

74.9

CO2(g)

393.51

HNO3(l)

174.1

C2H6(g)

83.8

H2O(g)

241.83

CuO(s)

157.3

C3H8(g)

104.7

H2O(l)

285.83

Fe2O3(s)

824.2

C2H4(g)

52.5

NO2(g)

33.18

MgO(s)

601.7

C2H2(g)

226.7

SO2(g)

296.83

KCl(s)

436.75

CH3OH(l)

239.1

HCl(g)

92.31

NaCl(s)

411.15

C2H5OH(l)

277.0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結合エネルギー

分子内の各共有結合に対し,その結合を切断するのに必要なエネルギーを割り当てたものを,結合エネルギーという。

二原子分子では,その解離熱(原子化熱)から直接結合エネルギーが求められる。例えば,H-Hの結合エネルギーは,水素の解離熱から436kJ/molとなる。

  H2()2H()436kJ
 多原子分子では,単に全体としての解離熱は求められるが,個々の結合の解離エネルギーは場合により異なり,単純には決められない。例えば,水分子H-O-Hが順に解離するときのエネルギーは次のようになる。

 

 

H-O-H
H-O 

H-OH499kJ

HO 427kJ

 

H-O-H

2HO926kJ(2×463kJ)

 

 

 

 

そこで,同等の結合をもつ多原子分子では,便宜的に各結合解離エネルギーの平均をとって,これを結合エネルギーとしている。水分子のO-H結合では463kJ/molが結合エネルギーとなる。同様にして,C-HN-HS-H等の結合エネルギーはCH4NH3H2S等の値から求められる。また,多種の結合からなる多原子分子では,全体の解離熱の値を基にして,既知の結合エネルギーの値を引いて未知の結合エネルギーを求める。

このようにして,多くの結合の結合エネルギーの値が求められるが,異なる化合物から求めた値は必ずしも一致せず,場合により大きく異なることがある。例えば,C= Oの結合エネルギーは,ケトン類から求めると615kJ/molとなるが,CO2から求めると804kJ/molとなる。これは,CO2では単なる二重結合だけでなくいくつかの結合が関係して共鳴構造をとるためと考えられる。

このように,結合エネルギーの値は,元々多くの物質の熱力学的数値を考察して得られたものであり,正確なものではない。したがって,結合エネルギーと反応熱を相互に求めさせる問題は,あくまでも結合と反応熱の関係を理解させるためのものであり,正確な計算には生成熱の値を用いるほうがよい。

結合エネルギーの概念は,化学結合の強さを理解するために必要なものであり,結合エネルギーが大きい程強く,その結合を切るためにはより多くのエネルギーが必要となる。

 

B 生成熱と反応熱

熱量計

 反応熱の測定には,一般に熱量計(カロリメーター)が用いられる。熱量計は,その測定方法から,次の3種類に分類される。

  (1) 等温熱量計  (2) 等温壁熱量計  (3) 断熱型熱量計

 等温熱量計は,熱量計のあらゆる部分の温度を一定に保つ工夫をしたもので,純物質の一次の相変化,融解または蒸発における潜熱を利用している。氷熱量計が代表的な等温熱量計であり,これは融けた氷の量から発熱量を求めるものである。

 等温壁熱量計は,周囲の温度を一定にするため十分熱容量の大きい一定温度の恒温槽につけてあり,熱量計からの熱の出入りが常に一定温度壁の条件下に行われるようになっている。この熱量計で,測定したい化学反応によって起こった変化と全く同一の変化を起こすのに必要な電気エネルギーを測定して,反応熱を決定する。この型の熱量計は,反応熱測定用の熱量計として最も広く利用されている。燃焼熱の測定に用いるボンベ熱量計もこの型に属する。

 断熱型熱量計は,反応熱測定部があらゆる形式の熱の移動から遮断されるように工夫されたもので,測定の原理は等温壁熱量計とほぼ同じである。特に遅い反応の反応熱の測定に有効である。

 簡易熱量計として利用できるものを次に挙げる。

(A) 簡易氷熱量計 ジュワー瓶に氷と水の混合物を入れ,毛細管と反応容器をさしこんだゴム栓で密閉し,氷と水の入ったビーカーに浸したもの。反応によって生じた水の量を毛細管で測定し,反応熱を計算する。

(B) 簡易液体熱量計 発泡ポリスチレンや新聞紙等を用いて断熱した反応容器(ビーカー,三角フラスコ)や断熱効果のあるポリスチレンカップやジュワー瓶中で溶液または液体を反応させ,温度変化と予め決めておいた熱量計の水当量を用いて,反応熱を計算する。水当量は,熱量測定に際して反応部分以外の熱量計部分に出入りする熱量を温度1K当たりで表した値で,熱量計の熱容量を水の比熱で割ったものに等しい。

 

 

 








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