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第2節 物質量
A アボガドロ数と物質量 ►モル SI基本単位の7種の物理量の1つである「物質量」の単位の名称で,記号はmolである。12gの12 Cに含まれる12 C原子の数(アボガドロ数)と同数個の粒子集団を1molと定義する。原子・分子・イオン・遊離基・電子等の粒子からなる物質の量を示す時に用いられ,粒子の種類を明示する必要がある。 ►アボガドロ数 アボガドロ数は,]線による結晶格子の研究と密度の測定,単分子膜の測定,電解における析出量と電気素量,α線の放出量と生じたヘリウムの量の測定等の方法で,実測されている。その値は,1875年には30%の誤差で知られていた。 1909年になるとミリカンの油滴実験によって誤差1%迄に縮められ,1930〜1940年の間の実験物理学者の研究によって誤差0.1%迄精度が高められた。現在,最も精密な値は6.0221367×1023とされている。異なった方法で求められた値がほぼ一致するという事実は,物質の原子・分子的構造の理論が単なる仮説では無く,十分な実験的根拠をもつものである事を説明している。 塩化カリウムの単位格子はK+とCl−を4個ずつ含む。その1辺は,]線解析から0.629nmと求められている。一方,密度は1.99g/cm3と測定され,式量は74.6だから,アボガドロ数をNAとすると, B 質量や体積と物質量の関係 ►気体のモル質量(molar mass) ある物質1molがもつ質量の事。 ►気体のモル体積 気体1molの体積が,0℃,1013 hPa (1atm)の標準状態において,22.4L (正確な理想気体のモル体積は,22.41410L)である事は,化学の重要な基礎知識である。しかし,実在気体では,この値からいくらかずれる。 気体1molの質量を,その気体の標準状態における密度で割ると,標準状態のモル体積を求めることができる。気体のモル体積の例を次に示す。 (1) 22.4Lとみなすことができる実在気体 H222.43 Xe22.30 Ne22.42 He22.42 CO22.41 N222.40 F222.40 Ar22.39 0222.39 (2) 22.4Lから少しずれる実在気体 CO222.26 C2H422.26 HCl22.24 H2S22.14 NH322.09 C3H821.83 CH3OCH321.85 ►参考実験 気体のモル体積の測定 【目的】簡便に短時間に,気体のモル体積を求めてみる。 【準備】100cm3丸底フラスコ,1L三角フラスコ,1Lメスシリンダー,誘導管,ゴム管,ゴム栓,天秤,水槽,ドライアイス 【操作】(1) 表面の氷をぬぐい取った約1.7gのドライアイスの塊を取り,天秤を使って手早く測る。 (2) これを100cm3のフラスコに入れて直ぐにゴム栓をし,下図の様にする。 (3) 掌でフラスコを温め,ドライアイスを昇華させる。 (4) この方法で測り取った二酸化炭素の体積を求める。 (5) この時の大気の圧力と気体の温度を測り,気体の状態方程式から分子量を求める。 注1.二酸化炭素はいくらか水に溶けるが,本法ではそれは殆ど問題にならない。生じたCO2の気体は丸底フラスコや三角フラスコ中に存在する空気を追い出す。したがって,水上に置換される気体はCO2ではなく,殆ど空気である。即ち,発生したCO2と同体積の空気が捕集されたことになるからである。 注2.ドライアイスは刻々と昇華するから,厳密な質量は求められない。本法はその程度の概略値を求める実験である。よって,メスシリンダーの内外の水面の高さを一致させる操作等も不要である。 【実験結果】ドライアイスを1.5g用いたとすると,分子量CO2=44より,27°C,常圧下での捕集気体の体積は, となる。820cm3〜860cm3の結果なら標準状態のCO2のモル体積は, 21.9L〜22.9Lになる。 ►溶解の機構 イオン結晶の溶解 塩化ナトリウムは水によく溶けるが,ベンゼンには溶けない。塩化ナトリウムの結晶中では,Na+とCl−が静電気力で強く結ばれている。これに対し,Na+やCl−とベンゼン分子との間にはこのような力は働かない。その為に,結晶から溶液中へこれらのイオンが移るのは容易でない。一方,これらのイオンが水の中に入ると,イオンの静電気力によってイオンの周りに水分子が強く吸引される(水和)。そのためにこれらの結晶は水によく溶ける。 一般に,ある物質が1つの液体によく溶けるかどうかということを考えるには,次の点に基づかなければならない。 (1) 溶質物質の粒子間に働いている力 (2) 溶媒分子間に働いている力と溶媒の液体構造 (3) 溶質粒子と溶媒分子の間の力 分子結晶の溶解 ナフタレンの様な固体がベンゼン等に溶ける無極性物質相互の溶解の場合には,固体内の分子間の力,固体の分子が液体中に溶けた時の溶質分子と溶媒分子の間の力,及び溶媒分子間の力は,同じ様な性質のもので同程度の大きさである。このような場合には,分子がよく混じり合って乱雑さの大きい状態に移っていこうとするのでよく溶ける。 ►溶液の濃度の表し方 目的により,いろいろな表し方がある。 (1) 直観的に判るので便利だが,化学変化の量的関係を考えるには不向きである。水溶液では無水物の溶質について示す。 (2) 体積モル濃度ともいう。c mol/Lの溶液がV mLあれば,溶質はcV×10-3mol存在することになるので,溶液に関する化学反応では量的計算を行うときモル濃度を用いると便利である。 参考 その他の濃度の表し方 (1) ppm 微量の成分を体積や質量の百万分率で示す濃度である。
ppmはparts per millionの略記号。mg/kgやcm3/m3等の単位で示すこともある。他に千分率(パーミル),十億分率(ピーピービー, ppb)等も特別な場合に用いられる。 (2) 温度により値が変わらないので便利である。 溶媒の質量をその分子量で割れば溶媒の物質量が求められるから,この濃度表示は溶質〔mol〕/溶媒〔mol〕と考えることもでき,換言すれば,溶質粒子の個数/溶媒分子の個数 ということもできる。もし,溶媒の物質量に対し溶質の物質量が極めて小さく,溶媒〔mol〕≒溶液〔mol〕とみなせるときは,次のモル分率と同じ意味になる。 (3) モル分率 溶質の物質量を溶液全体の物質量で割ったものを,モル分率という。無名数で単位はない。液体同士や気体同士の混合物を表すのに用いられる。 (4) 当量濃度,規定濃度ともいう。酸・塩基,酸化・還元等で用いられ,化学反応の量的関係を表すのに便利である。SI単位ではないので,教科書には記述されていないが,化学の世界では未だ根強く用いられている。 |