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4節 粒子の結びつきと物質の性質

A イオンからなる物質

イオン結合

 電荷Q1C〕をもつ陽イオンと電荷Q2C〕をもつ陰イオン間の引力は,イオン間距離をrとすると,

クーロン力またはポテンシャル(エネルギー)

 

に比例する。また,イオンが相互に接近しすぎると,原子核間の反発力が目立ってくる。この反発ポテンシャルは,の形で表される(a bは定数)。したがって,引力と反発力の和を計算すると,イオン結合のポテンシャルエネルギーが求められる。

気体状のNaCl分子についてポテンシャルエネルギーを計算すると,下図のようになる。この図の曲線の極小点が,安定な核間距離を表す。共有結合によるポテンシャルエネルギーも同時に示したが,その値はイオン結合より大きく,イオン結合の方が安定であることがわかる。

 

NaCl分子のポテンシャルエネルギー(ムーア著,新物理学)

 

イオン結晶のイオンのつまり方

 イオン結晶では,陽イオンと陰イオンとが規則的に配列され,クーロン力で結合している。各イオンは,反対電荷をもつイオンに囲まれている。この取り囲むイオンの数を配位数といい,主として陽イオンと陰イオンの半径比によって決まり,結晶型も変わってくる。

(1)  NaCl型結晶 NaClの結晶は, Cl-がつくる面心立方格子の八面体間隙にNaが配置された構造をしており,それぞれのイオンは異なる6個のイオンに取り囲まれ,配位数は6である。この構造でCl-が互いに密着していると仮定するとき,Cl-がつくる八面体間隙よりNaが小さいときは,Naは全てのCl-と密着できず,不安定となる。したがって,安定な結晶をつくるには,Cl-に対してNaの半径が一定以上の大きさでなければならない。

 

 

 NaCl型結晶の陽イオン半径をr,陰イオン半径をrとして,r/ r -限界値を計算すると次のようになる。

 三平方の定理より,

   

したがって,

 

 つまり,であれば,NaCl型結晶は安定となる。

 

 

 (2)セン亜鉛鉱ZnS型結晶

 S2-が面心立方格子をつくり,その四面体間隙の半分(8個のうち4)Zn2が配置された構造である。それぞれのイオンは4配位で,SZnを区別しなければダイヤモンドと同じ構造となる。

 NaCl型と同様の考え方で,半径比を考えると,

 

 rrr

したがって,

 

つまり,であれば安定となる。

 

 

(3)CsCl型結晶  Cl-が単純立方格子をつくり,その立方体の中心にCs1個が

配置される構造である。それぞれのイオンは8配位である。

 

 NaCl結晶型と同様に半径比を考えると,

   

   

したがって,

 

 つまり,であればCsCl型結晶は安定となる。

 

 

ここまで説明した3つの結晶型以外にもいろいろな結晶型があり,配位数にも212までいろいろなものがある。そして,それぞれに適当な半径比がある。

ここで説明した3つの結晶型について考えると,の半径比の値で可能な結晶型は次のようになる。

   半径比0.2250.414  ZnS

   半径比0.4140.732  ZnS型,NaCl

   半径比0.732以上   ZnS型,NaCl型,CsCl

 また,イオン結晶では,配位数の多い程安定である。したがって,半径比が0.732

以上では,ZnS型やNaCl型の結晶型も可能だが,配位数の多い方が安定であり,

CsCl型となる。もちろん例外もあるので,単純に結晶型が決まるものではない。実際

を計算してみよう。

 

    

    

 

イオン結晶の格子エネルギー

 イオン結晶のイオン間の結合エネルギーは格子エネルギーとよばれ,結晶1molをばらばらの構成イオンにするとき必要なエネルギーで表される。

 格子エネルギーの大きさは,当然,結晶の融点に関係する。下表にその値を示し,格子エネルギーの比(NaCl1とする)を示す。

 イオン結晶の溶解熱は,その結晶の格子エネルギーとイオンの水和熱の差として,大まかな値を知ることができる。

 

格子エネルギー〔kJ/mol〕と融点〔°C 全てNaCl型結晶

化合物

イオン

イオン半径

中心間距離

格子エネルギー

とその比

融点

°C

〔×10-1nm

〔×10-1nm

NaCl

Na+
Cl-

1.16
1.67

2.827

771

1

801

KCl

K+
Cl-

1.52
1.67

3.188

701

0.909

770

NaI

Na+
T-

1.16
2.06

3.421

697

0.904

651

MgO

Mg2+
O2-

0.86
1.26

2.016

3760

4.877

2826

CaO

Ca2+
O2-

1.14
1.26

2.330

3371

4.372

2572

BaO

Ba2+
O2-

1.49
1.26

2.738

3019

3.916

1918

 

B 分子の構成と分子からなる物質

共有結合

 H2分子が形成されるとき,H原子は電子を1個しかもたない1s電子軌道を互いに重ね合わせて,2個のH原子の間で電子の行き来ができるようになる。このようにして,2個のH原子はより安定なH2分子をつくる。この際,原子が結合して生じる安定な分子の結合力や性質を解明する為に原子間にまたがった分子軌道を考える。電子は分子軌道に従って両原子間を行き来し,原子同士を結びつける。このように,電子を共有することによってできる結合が共有結合である。

 水素分子の解離エネルギーは436kJ/molであることが知られている。これは次式のように示される。

   H2()2H()436kJ

 H原子2個が完全に離れているときのポテンシャルエネルギーを0とすると,この2原子が互いに近寄って共有結合を形成する場合のエネルギー変化は,下図の様になる。2つの原子核の間の距離が0.074nmになったとき,2原子は最も強く結合して安定になっていることがわかる。この場合,H2原子が完全に離れているときに比べて, 436kJ/molだけエネルギーを放出している。H原子の共有結合半径と呼んでいる。

H2分子のエネルギー

 

 分子軌道が形成される場合,その形と電子密度の関係をH2分子について考えてみよう。Heの電子配置は1s2である。1s軌道の形は球状で,図 (A)のようになっている。原子核を通る直線を横軸に,直線に垂直な面内の電子密度を縦軸にとって図示すれば,図(a)の様に表される。そこで,Heの原子核を二分し,それぞれの+eの電荷を少しずつ離していくと考える。+e2つの核が十分離れた状態では,2個のH原子が離れて存在しているのと同じ状態とみなすことができる。そのような状態になるまでの軌道の形は,図の(A)→(B)→(C)→(D)を辿る。実際のH2分子の核間距離は0.074nmであり,この場合の分子軌道は(C)に相当する。この分子軌道は元々He原子核1個を包んでいた1s軌道だから,2個の1s電子は2個の核電荷から同じ影響を受けている。

 1sの電子配置のH原子2個が,(D)の孤立した状態から近づいて接触した場合,2つの1s軌道は単に重なり合うだけでなく,436kJ/molもの熱を放出することによる安定化で大きな影響を受ける。(C)の状態では,どの電子がどの核に所属するかが決められなくなっている。即ち,電子2個は原子核2個に一様に束縛されている。これが分子を安定にしている主要な原因と考えることができる。即ち,電子2個は原子核2個に共有され,2つのH原子は共有結合によって強く結びつけられている。

2分子の分子軌動と電子密度

 

分子の構造と結合  主な分子の構造定数を次に示す。

H2

直線

H-H 0.07414nm

CO2 直線

C-0 0.11600nm

H2O

V字形

0-H 0.09579nm

HOH104.50°

 

NH3

三角錐

N-H 0.1012nm

HNH106.7°

 

O2

直線

0-0 0.12075nm

N2 直線

N-N 0.10977nm

 

C 金属の結晶

金属結合

 ナトリウムを例に,金属結合を考えてみる。隣接するNa原子2個の間では,それぞれの3s軌道から2個の分子軌道がつくられる(一般に,分子軌道は用いられた原子軌道の数だけできる)。そして,それぞれの3s軌道の電子は対となって,エネルギー準位の低い分子軌道に入る。更にNa原子が増加して3個,4個,5個,となると,Na原子の3s軌道からつくられる分子軌道の数も345と増加する。そして,Na原子の3s軌道の電子は,エネルギー準位の低い分子軌道から順に2個ずつ配置される。

ナトリウムの単体1molでは,原子の3s軌道から6.02×1023個の分子軌道がつくられ,その数が多いので各エネルギー準位の間隔は極めて小さくなり,事実上連続した帯のようになる。このような帯をエネルギー帯やバンドとよんでいる。エネルギー帯を構成する全ての分子軌道は,全原子に行き渡っている。したがって,どの電子も特定の原子に属することはないので,金属結合は,全原子が全電子を共有する1種の共有結合であるといえる。

 ナトリウムでは,3s軌道から構成されるエネルギー帯の半分が空なので,電圧をかけると電子は容易くエネルギーを得て移動し,電流が流れる。Mg3s軌道に2個の電子をもち,3s軌道から構成されるエネルギー帯に電子が充満するので,Naとは電気伝導の仕組みが異なる。この場合は,3p軌道から構成されるエネルギー帯の一部が3s軌道によるものと一部重なり,電子は空の3p軌道を使って移動でき,電気が流れる。

 

参考 半導体(金属・不導体・半導体)

 原子の中の電子のもつエネルギーは不連続であり,価電子を上のエネルギー準位に上げるのにエネルギーが必要である。原子が多数集まって結晶をつくるときは,原子が互いに作用し合う為,多くのエネルギー準位が密に集まって,帯のように幅のあるエネルギー準位が形成される。これをエネルギー帯またはバンドとよび,原子にいくつかのエネルギー準位があるように,エネルギー帯にもいくつかの段階がある。エネルギー帯とエネルギー帯の間に,電子の存在することができないエネルギーの範囲があるとき,これを禁制帯とよんでいる。

 結晶中の電子は,エネルギーの低いエネルギー帯から順に配置され,価電子はエネルギーの大きい部分に配置される。価電子が入るエネルギー帯は,特に価電子帯とよばれている。そして,電子が全部エネルギー帯に配置されたとき,電子が入っていない部分との境界になるエネルギーを,フェルミエネルギーという。

 

 

 金属とは,(A)のように,フェルミエネルギーが価電子帯の中にくる結晶である。この場合,価電子帯のフェルミエネルギーより上の部分は空だから,結晶に電圧をかけると,フェルミエネルギーの値に近い電子から次々とこの空の部分に移動し,電流が流れる。これが,金属の電気伝導現象で,このとき電子が移動できるエネルギー帯を伝導帯とよんでいる。

 不導体は,図(B)のように,価電子帯に電子が充満した結晶である。伝導帯は,禁制帯をはさんだ直ぐ上のエネルギー帯になり,フェルミエネルギーはこの禁制帯にある。したがって,結晶に電圧をかけても,電子の運動エネルギーが増すだけで,電子は容易に伝導帯に移動することができず,電流は流れない。

 半導体は,図(C)のようなエネルギー帯をもち,その基本構造は不導体と同じである。ただ,価電子帯と伝導帯とのエネルギー差が不導体よりは小さいので,より少ないエネルギーで電子が価電子帯から伝導帯に移動することができ,ある程度電流が流れる。

 ケイ素やゲルマニウムに少量のリンやヒ素を加えると,電気伝導率が大きくなる。

これは,禁制帯の途中に不純物のエネルギー準位ができ,そこに存在する電子が比較的容易に伝導帯に移動できるためである。このような不純物半導体をn(negative)半導体という。一方,ホウ素やアルミニウムを少量加えると,同様に禁制帯にエネルギー準位ができ,ここに価電子帯から電子が容易に移動するので,価電子帯に電子の存在しない部分ができる。これを正孔といい,正孔が移動して電流を通し,電気伝導率が大きくなる。このような不純物半導体をp(positive)半導体という。

金属の結晶構造

 結晶格子における原子の配列を結晶構造という。

(1)  面心立方格子(面心立方構造,立方最密構造)

 大きさの同じ球を,なるべく密に規則正しく並べる方法の1つに下図のようなものがある。第2段の球Bは,第1段の球Aがつくるくぼみに1つおきに入る。第3段の球Cは,球Bが埋めた球Aのくぼみのうち,残ったくぼみの真上にくるように配置される。第4段は,第1段の上にくる。このようにABCの順に次々と球を重ねた構造が面心立方格子である。単位格子を構成するのは,第1段のA1個,第2段のB6個,第3段のC6個,第4段のA1個の14個の粒子で,2個のAを結ぶ線が格子の対角線にあたる。BCの球は,それぞれ3個が格子の頂点,残りの3個が格子の面の中心に配置される。

この構造では1個の球は12個の球と接し,球は空間の74%を占める。

面心立方格子の球のつまり方

(2)  六方最密構造

 面心立方格子の第3段を第1段と同じ位置に配置したのが六方最密構造になる。単位格子は,第1段および第3段の球A4個,第2段の球B1個で構成される。

 この構造も,球は他の12個の球と接し,球は空間の74%を占めて最密構造となる。

 

六方最密構造の球のつまり方

(3)  体心立方格子(体心立方構造)

下図のように,同じ大きさの球をABの順に次々と積み重ねた構造が体心立方格子である。ABの球は接しているが,A同士やB同士の球は接していない。したがって隙間が多く,球は空間の68%を占める。1つの球は,8個の球と接し,次に近い球は6個である。

体心立方格子の球のつまり方

 

単位格子の大きさと,粒子半径,体積比,密度

 半径r,質量mの粒子を,互いに接するようにして単位格子に配置したときの,格子の辺の長さや粒子の占める体積,物質の密度との関係を示す。acは結晶格子の辺の長さである。

 

 (1)  体心立方格子

粒子数=(頂点)1(中心)2()

 

 図(A)の関係から,

(4r)2a2(a)2 より,a4 r/

 単位格子の体積=a364 r3/3

粒子1個の体積=4πr3/3



(2)  面心立方格子

(B)の関係から,

 

(4 r)22a2 より,a2r

 

(3)  六方最密構造

 

 

    2()

 図(C)の関係から,

  

 六方最密構造のcの長さは,球4個がつくる正四面体の高さの2倍に等しく,acの比は,

 

単体の状態

単体の状態は,その結合の種類に関係しており,室温で気体のものは,全て分子性物質である。高融点・高沸点の単体は,共有結合性物質や自由電子の多い金属である。各単体を,融点・沸点の低いものから並べると,次のようになる。
 室温で気体(沸点の順) HeH2Ne<<F2O2N2O3ArKrXe

Cl2Rn(11元素)
 室温で液体(融点の順) HgBr2(2元素)
 室温で固体(融点の順) FrGaCsRbP4KNa(100°C)
             <SI2SeInLi(200°C)<………
               <(3000°C)OsReWC3530°C

 

 

 








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