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第3節 カルボン酸とエステル
A カルボン酸
カルボン酸
►カルボン酸
カルボキシル基-COOHをもつ有機化合物をカルボン酸といい,一般式R-COOH
で表す。分子中のカルボキシル基の数が1個,2個,3個のものを,それぞれモノ
カルボン酸,ジカルボン酸,トリカルボン酸という。また,鎖状構造のみのモノカ
ルボン酸は,特に脂肪酸と呼ばれる。
遊離酸,または塩やエステルの形で生物界に広く存在する。脂肪やロウにはエス
テルの形で含まれている。
炭素原子数の少ない脂肪酸は無色の液体であるが,炭素原子数が多いものやジカ
ルボン酸,芳香族カルボン酸はすべて固体である。炭素原子数3以下は水に溶ける
が,5以上はほとんど水に溶けない。アルコールやエーテルにはよく溶ける。
カルボン酸の沸点や融点は,分子量にほぼ等しいアルコールよりも高いが,これ
はカルボン酸が水素結合で二量体になっているためである。
カルボキシル基中の>C=OのOは電気陰性度が大きいため,水素原子から電子が移
動し,水素原子がH+として離れやすくなるので,カルボン酸は酸性を示す。ただし,
その酸性は弱い。

カルボン酸は酸としての性質を示す他,アルコールと反応してエステルを生成
する。ソーダ石灰と加熱すると二酸化炭素を放出して炭化水素になる。五酸化二リン
などで脱水すると酸無水物になる。酸化剤や還元剤には比較的安定で反応しにくい。
ギ酸
►ギ酸(蟻酸)
メタン酸ともいう。無色の刺激臭のある液体で,酢酸より強い酸である。水素結
合で二量体になるので沸点・融点が高い。アリの体中に含まれている。融点8.4°C,
沸点100.08°C,密度1.2202g/cm3(20°C)で,水・エタノール・エーテルに可溶である。
アルデヒド基をもつので還元性を示す。
酢酸
►酢酸
エタン酸ともいう。食酢の主成分で3〜5%含まれている。無色で,刺激性の強
い臭気と酸味のある液体で,ほぼ純粋なものは氷酢酸という。合成繊維,医薬品の
原料や,食品調味料に用いられる。融点16.635°C,沸点117.8°C,密度1.0492g/cm3
(20°C),水・アルコール・エーテルに溶ける。
工業的には,Mn(CH3COO)2やCo(CH3COO)2を触媒として,55〜65°C,1200〜
1300hpaの条件下で,アセトアルデヒドを酸素で液相酸化して合成する。
CH3CHO+O2→CH3COOOH
CH3CHO+CH3COOOH→2CH3COOH
また,ロジウム系触媒を用い,ヨウ化メチルを活性剤として,メタノールと一酸
化炭素を175°C,28371hpaで反応させて合成する。
CH3OH+CO→CH3COOH
そのほか,LPG,ナフサなどを種々の触媒を用いて空気で酸化して合成する方
法もあるが,この場合はギ酸,プロピオン酸なども同時に生じる。
無水酢酸
►無水酢酸
融点−86°C,沸点140.0°C,密度1.0871g/cm3(15°C)の無色の液体。水には12wt
%(20°C)まで溶ける。活性水素を有する化合物とは比較的容易に反応して,アセ
チル化物と酢酸を生じる。また,アミンと反応して酢酸アミドを生じる。用途とし
ては,酢酸セルロース,アスピリン,酢酸エステル,染料などの合成がある。
工業的には,アセトアルデヒドから酢酸を製造するとき,反応条件を変えて無水
酢酸を得るか,酢酸を熱分解してケテンCH2=COとし,ケテンを酢酸に吸収させて
製造している。
CH3COOH→CH2=CO+H2O(700〜720°C)
CH2=CO+CH3COOH→(CH3CO)2O
►酸無水物
カルボン酸2分子が水1分子を失って縮合した化合物で,一般式(RCO)2Oで表
される。ジカルボン酸では,分子内から水分子が失われて,環状の酸無水物をつく
ることもある。低級脂肪酸の酸無水物は刺激臭のある液体で,高級なものは無臭の
固体である。ジカルボン酸や芳香族カルボン酸の酸無水物は,一般に無色の固体で
ある。
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酸無水物の性質 |
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名 称 |
示 性 式 |
融点〔°C〕 |
沸点〔°C〕 |
水溶性 |
|
無水酢酸 |
(CH3CO)2O |
−86 |
140.0 |
溶 |
|
無水プロピオン酸 |
(CH3CH2CO)2O |
−45 |
167 |
不 |
|
無水安息香酸 |
(C6H5CO)2O |
42〜43 |
360 |
不 |
|
無水コハク酸 |
|
120 |
261 |
微 |
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無水マレイン酸 |
|
52.6 |
202 |
— |
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無水フタル酸 |
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131.8 |
285 |
溶 |
マレイン酸・フマル酸
►マレイン酸,フマル酸
マレイン酸(シス形)を加熱していくと,約130°Cで融解し,約150°Cで水を失
って無水マレイン酸になる。
フマル酸(トランス形)は,封管中で約300°Cで融解し,空気中では150°Cに加
熱しても無水物を生成せず,約200°Cで昇華しはじめる。約230°Cで無水物をつ
くるが,生成物は無水マレイン酸である。
無水マレイン酸C4H2O3は,融点52.6°C,沸点202°C,比重1.5の白色昇華性固
体である。水と反応するとマレイン酸となり,眼や粘膜を刺激する。主に飽和ポリ
エステル樹脂の原料として用いられている。無水マレイン酸は,ベンゼンを空気酸
化して製造されている(触媒はVとMoの複合酸化物)。
2C6H6+9O2→2C4H2O3+4CO2+4H2O+3755kJ
アジピン酸
►アミド
アンモニアの水素原子をアシル基で置換した化合物をアミドまたは酸アミドとい
い,通常第一級アミドRCONH2をいう。第二級アミド(RCO)2NHはイミドという。
一般に無色の固体で,低級なものは水に溶ける。アルコールやエーテルに溶ける。
►ナイロン
ナイロンは,ポリアミド系合成繊維を総称する語として今日用いられている。ア
ジピン酸とヘキサメチレンジアミンからつくられる6,6-ナイロンのほかに,ε-カプ
ロラクタムから得られる6-ナイロンや,そのほか6,10-ナイロン,11-ナイロン,
9-ナイロン,4-ナイロンなどがある。
ナイロンの命名は,H2N(CH2)mNH2とHOOC(CH2)n−2COOHから合成されるものを
|
m,n-ナイロン,H2N(CH2)n−1COOHまたは |
|
から合成されるものをn-ナイロンと呼んでいる。
ナイロンは摩擦に対する耐久性が大きく,希酸や塩基などの薬品にも侵されにく
いので,くつ下・衣服・漁網・化学工業のろ布など広く使われている。
6,6-ナイロンを初めて合成したのは,米国のカロザースで(1936年),その後ド
イツでは1940年に6-ナイロン(パーロンL)と,6,6-ナイロン(パーロンT)を出し,
わが国では1941年に6-ナイロン(アラミン)を出している。
6,6‐ナイロンの合成では,ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の等モルを水に
入れて混合し,生じた50〜70%の塩水溶液に少量の酢酸を加える。これを釜に
仕込み不活性ガスを満たして熱する。生じた水蒸気は圧力を15000〜20000hpaに
調節しながら逃がし,約280°Cで重合させる。冷却後,ポリマーをチップとする。
6,6-ナイロンは約260°Cで溶融するので,溶融紡糸で繊維とする。
6-ナイロンの合成では,カプロラクタムを溶融し,これに少量の水などを加えて
220〜300°Cに加熱して重合させる。6-ナイロンの融点は220°Cで,溶融紡糸で繊
維とする。
C エステル
エステル
►エステル
酸とアルコールから水分子が取れて縮合したような構造をもつ物質をエステルと
いい,普通カルボン酸エステル(一般式RCOOR′)をさすことが多い。アルコールの
代わりにフェノール類を用いたものもー種のエステルであるが,フェノールエステ
ルの名称をつけて区別する。分子内エステルをつくり環状のものは,ラクトンとい
う。
中性エステルは,一般に芳香のある揮発性の液体で,水に溶けにくく,有機溶媒
によく溶ける。比較的低級な脂肪酸とアルコールのエステルは,天然に植物精油中
に含まれており,果実の芳香があるので人工果実エッセンスとして食品の香料に使
われている。高級な脂肪酸とアルコールのエステルはロウとして存在する。高級な
脂肪酸とグリセリンのエステルは油脂の成分である。
エステルは,無機物を触媒として,酸とアルコールを混合し熱すると得られる。
この反応は可逆反応であり,エステルに水を加えて熱すると逆に加水分解反応が
起こり,酸とアルコールが得られる。
RCOOH+HOR′
RCOOR′+H2O (触媒は酸)
エステルにアルカリを作用させる反応はけん化といわれ,酸の塩とアルコールが
得られる。
RCOOR′+MOH→RCOOM+R′OH

►エステル化
エステルを生成する反応をエステル化といい,カルボン酸とアルコールによるエス
テル化は次の機構で進むと考えられている。

これらの反応はすべて平衡反応であるから,酸性触媒によるエステルの加水分解
反応は,これらの反応の逆反応になる。
酢酸エチル
►酢酸エチル
酢酸とエタノールから得られるエステル。強い果実様の香気をもつ無色の液体。
融点−83.6°C,沸点76.82°C,密度0.907g/cm3(15°C)で,水にあまり溶けない。
天然にパイナップルなどの果実油や,ブドウ酒,日本酒にも含まれている。香料と
して飲料・菓子などに用いられている。
けん化
►けん化
もとは,油脂・ロウからセッケンをつくる反応をさしていた。すなわち,油脂・ロ
ウを水酸化アルカリと処理すると,セッケンとグリセリンまたは高級アルコールと
を生じる。しかし,更に広く,油脂を加水分解してグリセリンと脂肪酸を得る
反応,あるいは脂肪酸を炭酸アルカリなどで中和してセッケンをつくる反応をも含
めて,けん化というようになった。
更に意味が広くなって,一般にエステル類が水によって分解し,カルボン酸と
アルコールを生じる加水分解反応をけん化というようになった。
RCOOR’+H2O→RCOOH+R’OH
この場合,通常水だけでは反応が遅いので,酸またはアルカリを触媒として用い
る。酵素もまた触媒の中に含まれる。アルカリによるけん化の促進作用は,一般に
非常に大きいので,アルカリ性けん化が最もよく用いられる。
D 油脂と洗剤
油脂
►油脂
脂肪酸とグリセリンのエステル,すなわちトリグリセリドの構造をもつ物質で,
天然の生物界に広く存在し,生物の主要成分となっている。天然油脂は,その出所
から植物油脂と動物油脂に,室温での状態から液体のものを脂肪油(または脂油),
固体のものを脂肪と分類される。
天然油脂中に存在する脂肪酸には,炭素原子数4個の酪酸から,24個のリグノ
セリン酸に至る飽和脂肪酸と,各種の不飽和脂肪酸がある。飽和脂肪酸では,C16
のパルミチン酸とC18のステアリン酸が大部分を占めている。不飽和脂肪酸には
C18のものが多く,オレイン酸C17H33COOH,リノール酸C17H31COOH,リノレン
酸C17H29COOHなどがある。その他の不飽和脂肪酸では,魚油中のイワシ酸
C21H33COOH,ひまし油中のリシノール酸C17H33OCOOH,きり油中のエレオステアリン酸
C17H29COOHなどがある