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第2節 有機化合物の分析
A 成分元素の検出
►元素分析
有機化合物の構成元素を検出し,その量を決める方法。有機化合物は,C,H,
Oなどの一連の化合物であり,元素の検出だけでなくその成分比を求めなければ化
合物を判別できないので,元素分析が行われる。
有機物の元素分析を行うときは,化合物を分離精製した後,まず物理的性質(色,
臭い,結晶形,融点,沸点など)を観察して,一定の見当をつけてから行う。
B 組成式・分子式の決定
組成式の決定
►組成式の決定
C,H,Oを含む化合物は,燃焼させ,CO2,H2Oとして定量する。装置の概要
は,以下の通りである。
(1) 酸素または空気の精製 酸素または空気は,精製管を通して妨害ガスや水分
を除く。このとき,線状CuOを詰めた加熱管で800°Cに熱して不純物は完全に燃焼
させ,生じたCO2はアスカライト(NaOHとアスベストからつくられたCO2吸収剤。
吸収能はソーダ石灰の3〜4倍),水分はアンヒドロンMg(ClO4)2に吸収させる。
(2) 試料の燃焼 試料は質量測定後,白金ボートに入れ燃焼管中に置く。試料は
約850°Cで加熱分解して酸素で燃焼させ,これをCuOを詰めた固定炉(温度
800°C)に通し完全燃焼させる。燃焼は約5分間行う。
(3) 生成物の吸収 燃焼ガスは,まず550°Cに熱したAgに通す。これは試料
中のSとハロゲンを,Ag2SO4及びハロゲン化銀として除くためである。続い
て水吸収管,窒素酸化物吸収管,二酸化炭素吸収管に通す。水吸収管ではアンヒ
ドロンMg(ClO4)2,窒素酸化物吸収管ではMnO2,二酸化炭素吸収管ではアスカ
ライトが通常用いられる。N2は外部にそのまま放出される。
(4) 質量測定 水吸収管,二酸化炭素吸収管はそれぞれ装置から取り外し,質
量を測定し,反応前の質量と比較して,生じたH2OとCO2を求める。この値
から,もとの試料中のHとCの割合を求める。
►分子量測定
主要な分子量測定法を以下に示す。低分子量物質では,分子量よりも他の物理
的・化学的性質で化合物を推定することが多いが,高分子では分子量を知ることが
基本的な量として重要である。
(1) 質量分析計による測定 分子をイオン化して質量分析計で測定する方法で,
分子量10000以下の物質に適用できる。この方法は測定時間も短く,試料も1
mgもあれば可能である。多くは,化学式の決定も同時にできる。
(2) 蒸気密度の測定 気体を理想気体と仮定し,その質量,体積,圧力,温度を
測定して,状態方程式
から求める方法である。
(3) 気体の流出速度測定 小穴より,一定圧で一定体積の気体を噴出させる
とき,気体が流れ出るのに要した時間tは分子量Mの平方根に比例する。既知の
気体の流出時間t 1,M1と未知の気体のt2,M2を比べて,M2を求める。
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(4) 沸点上昇測定,凝固点降下測定 試量の質量,溶媒の質量,及び沸点上昇度
または凝固点降下度を測定して,分子量を計算する方法である。
(5) 浸透圧法 試料の質量,溶液の体積,温度,浸透圧を測定して分子量を計算
する方法である。高分子に主に用いられる。
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(6) 粘度測定 固有粘度[η]は,[η]=KM aで表され,同じ高分子と溶媒では,
K,aは定数となる。したがって,粘度の値から分子量が求められる。高分子に
用いられる。
(7) 超遠心法 試料をセルに入れ超遠心機で高速回転させると,分子量が大きい
ほど速く沈降する。したがって沈降速度から分子量を推定できる。この方法は生
化学分野の高分子に主に用いられている。
(8) 光散乱法 高分子の希薄溶液は,分子量や分子の形によって,散乱される光
の強度が異なる。その強度と分子量は一定の式(Zimmの提出した式)で関係づけ
られ,この式から分子量が求められる。この方法では,分子の形や大きさを同時
に測定できる利点がある。
分子式の決定
►構造の決定
分子式が決まった物質は,種々の物理的性質や官能基による化学的性質をもとに,
その構造が決められる。ここでは,構造決定に関係する主な物理的性質を解説する。
吸収スペクトルについては別項で解説する。
(1) 色 ニトロ化合物やヨウ素化合物,キノン類,アゾ化合物などは着色してい
る。一般に有機物で着色しているものには,共役二重結合や発色団を含む。した
がって,着色物質であればこのような構造をまず考える。
(2) 臭い 臭いはあまり信頼性のおけるものではないが,一定の物質の存在
を推定できる。特有の臭いをもつものには,フェノール類,芳香族炭化水素,
アミン類,脂肪酸,カルボニル化合物,チオール(メルカプト)類などがある。
(3) 結晶形 有機物は,結晶をつくる方法によって外形の異なることもあるが,
参考データとなる。
(4) 融点,沸点,分解点 融点・沸点は物質を固定する重要なデータである。
(5) 比重 炭化水素などでは,二重結合を有するものほど比重が一般に大きい。
(6) 溶解度 溶解度により物質の構造を直ちに推定することはできないが,一
般に次のようなことがいわれている。「物質は似た構造をもつ溶媒に溶けやすい。
対称的構造をもつ物質は溶解度が小さい。パラ化合物はオルトまたはメタ化合物
と比較して溶けにくい。」
(7) 燃焼熱 燃焼熱が小さい物質は,不飽和結合が多く,生成熱が小さいと考え
られる。
(8) 燃焼試験 芳香族は黒いすすの多い炎を出す。低級脂肪族は殆どすすを
出さない。また,酸素の多い化合物の炎は青味がかった淡い色となる。ハロゲン
があるとすすの多い炎となる。タンパク質では特有の臭いを出す。
爆発するものとしては,ニトロ化合物などがある。
金属塩のときは,燃焼後灰分を残す。灰分に塩酸を加えたとき発泡すれば,
NaやKのアルカリ金属があるものと推定できる。
►吸収スペクトル
試料にいろいろな波長の光を当てて,透過してくる光の強さを求めると,波長に
よって異なる割合で光が吸収されることがわかる。この吸光度を,波長毎にグラフ
で表したものが吸収スペクトルである。
物質による光の吸収は,光のエネルギーに応じて,物質のエネルギー状態が変わ
ることにより起こる。光のエネルギーは,波長が短いほど大きく,吸収される光の
波長により,物質の分子構造を推定することができる。
各波長の範囲により,スペクトルがどのような原因で生じるかを次に示す。
(1) X線領域 主に,原子の内殻にある電子が,外殻または外へたたき出される場
合に対応し,元素分析や原子の性質の研究に用いられる。
(2) 紫外線・可視光線領域 原子の外殻電子をより高いエネルギー単位の励起状
態に上げる場合に対応する。分子の場合は,結合電子や非共有電子対をより高エネ
ルギー準位の励起状態に押し上げる過程に対応する。
(3) 赤外線領域 分子中の原子間の振動状態の変化に対応する。物質中のC=O,
O-H,N-Hなどの基によって,それぞれ特有の吸収スペクトルが現れる。また,
分子の形によっても特徴ある変化をするので,分子構造や性質についての知見
を得ることができ,物質の化学研究に広く用いられている。
(4) マイクロ波領域 分子の回転エネルギーの準位の変化に対応する。これから
分子の慣性モーメントを求めて,ひいては分子構造(原子間隔や原子価角など)を
精密に決定することができる。
参考 質量スペクトル
気体試料に電子線を当ててイオン(主に陽イオン)とし,これをまず電界で加速し
て,続いて磁界をかけてイオンの進行方向を曲げると,イオンの質量と電荷の違い
によって進行方向がいろいろ変わる。このときのイオンの分布を質量スペクトルと
いい,これを行う機器を質量分析計という。質量スペクトルには,はじめ導入した
分子から電子1個が取り除かれた陽イオン(親イオンという)と,それが分解して生
じた小さなイオンが出てくるのが普通である。これにより,分子量の決定ができ
て,また,混合物試料との分析も可能である。