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第3節 ハロゲンとその化合物
A ハロゲンの単体
ハロゲン
►ハロゲン
F,Cl,Br,T,Atは周期表17族元素で,ハロゲンと総称されている。Atは人工
的に1940年につくられた。放射性があり,天然にごくわずかしか存在しない。それ
で,普通Atを除いた4元素についてハロゲンを論じることが多い。ハロゲンという
言葉はギリシア語のHalo(塩)とgen(素)から造られたもので,「造塩元素」の意味をも
つ。
それぞれの元素名の由来は,フッ素fluorineが蛍石fluorite,塩素chlorineが単体の色
(ギリシア語の黄緑chloros),臭素bromineが単体の臭い(ギリシア語の悪臭bromos),ヨ
ウ素iodineが単体蒸気の色(ギリシア語のスミレ色ioeides),アスタチンastatineが放射
性による不安定さ(ギリシア語の不安定astatine)である。
►ハロゲンの単体と化合物
(1) フッ素 フッ素は,天然に蛍石CaF2,氷晶石Na3[AIF6] (AIF3・3NaF),フッ素リ
ン灰石CaF2·3Ca3(PO4)2などの化合物として存在する。植物の灰からは平均0.1%
ほど見いだされ,哺乳動物の歯に約0.3%含まれている。
フッ素は,フランス人のH.Moissanによって初めて単体として取り出された。
彼は,1886年,液体フッ化水素にフッ化カリウムを溶解し,白金イリジウムの容
器と電極を使って電気分解を行い,フッ素の遊離に成功した。その後,W.L.
Argoは,1919年にフッ化カリウムの溶融塩電解でこれを取り出している。
フッ素は淡黄色の気体で激しい刺激臭をもち,空気よりも重い。沸点−188.14℃,
融点−219.62℃で,液体は淡黄色,固体は無色である。電気陰性度最大で,ほと
んどの元素と室温で反応する。水とは激しく反応し,HFと02の他03やH2O2,
OF2などが生じる。Pt,Auとも500℃以下で反応するが,Ni,Al,Cuは表面
にフッ化物をつくり,侵されにくい。
(2) 塩素 1774年,スウェーデンの化学者シェーレK.W.Scheeleは,軟マンガン
鉱MnO2·nH2Oに塩酸を作用させて,初めて塩素をつくった。現在では塩化ナト
リウム水溶液の電気分解で製造されている。塩素は天然には単体として存在しな
いが,化合物としてはNa,K,Mg,Caなどの金属化合物として広く多量に存在し,
その種類は非常に多い。海水は塩素の宝庫であるが,岩塩には,NaClの他
に,CaSO4,CaCl2,MgCl2,KClなどを含んでいるものが多い。
塩素の単体は,融点−100.98℃,沸点−34.6℃で,室温では黄緑色・刺激臭を
もつ重い気体できわめて有毒である。液体は淡黄色,固体は黄白色である。
(3) 臭素 臭素はフランスの化学者A.J.Balardによって1924年に発見された。
塩素に比べると存在量が少なく,海水中にはわずか0.015%しか含まれていない。
工業的には,海水のにがり中にある臭化物を塩素で酸化して製造する。
MgBr2+Cl2→MgCl2+Br2
臭素は水に比較的よく溶け(3.5%),臭素水になる。臭素水は塩素水より安定で,
水を分解する作用も弱い(Br2+H2O→HBr+HBrO)。
臭素の融点は−7.2℃,沸点は58.78℃で,室温では赤褐色で不快な刺激臭のあ
る重い液体である。
(4) ヨウ素 ヨウ素は1811年にフランスのB.Courtoisによって発見された。こ
れにiodineと命名したのはGey–Lussacである。
ヨウ素は動物・植物・鉱物の3界を通じて広く分布しているが,その存在量は非
常に少なく地殻の0.0001%,海水には約0.001%含まれているにすぎない。海草の
灰の中には1%程度存在しているので海草からもヨウ素を採取できる。ヨウ素の一
般的な製法は,塩素によるヨウ化物の酸化である。
2NaI+Cl2→2NaCl+I2
融点113.6℃,沸点184.4℃。固体は黒紫金属光沢,液体は赤色,気体は紫色で,
昇華しやすい。
B ハロゲンの化合物
ハロゲン化水素
►ハロゲン化水素
(1) フッ化水素(沸点19.5℃,融点−83℃)フッ化水素は,蛍石に濃硫酸を加え
て300℃に熱すると得られる。
CaF2+H2SO4→CaSO4+2HF
フッ化水素は,無色,刺激臭の気体で,水に溶かすと電離し,弱酸性を示す。
HF
H++F− F-+HF
HF2−
フッ化水素酸中のHFの解離定数は6.7×10−4で,0.1mol/l溶液における電離度
は0.1以下である。HFの電離度が小さいのはH‐Fの結合エネルギーが大きいこと
と,HF分子間に水素結合が働き,会合分子(HF)n(nは2〜6)が生じることに
よる。
フッ化水素やフッ化水素酸は,ガラスや陶磁器の成分である二酸化ケイ素SiO2
や,ケイ酸カルシウムCaSiO3と反応するので,ガラスに文字や目盛りを刻むのに
利用される。
SiO2+6HF→H2SiF6+2H2O
フッ化水素は有毒で,皮膚を激しく侵す性質があるから,取り扱いには注意が必要
である。
(2) 塩化水素 天然には火山の噴出ガス中に存在する。また,ヒトの胃液中にも塩
酸として存在する。かなり液化しやすい気体で,臨界温度は51.4℃,臨界圧力は
84100hPaである。湿った空気中で発煙し,水によく溶けて塩酸となる。アンモニア
にあうと塩化アンモニウムの白煙を生じる。
市販の塩酸は,およそ37.2%,密度1.19g/cm3の塩化水素水溶液であり,濃度
c〔%〕と密度d〔g/cm3〕との関係は,c=200(d−1)のようになる。
20.24%の塩酸(約6mol/l)は常圧で110℃の沸点を示す。そして,これより
濃度が大きくても小さくても,塩酸の沸点は下がる。この20.24%以上の濃度の塩
酸を濃塩酸と呼んでいる。塩酸は代表的な強酸で,その電離度は約1である。
塩化水素の工業的製法では,塩素と水素を直接化合させる。
H2+Cl2→2HCl
わが国での塩酸の生産量は約240.85万t (1998年)で,その主な用途は,食料品
(L−グルタミン酸ナトリウム,しょうゆ)の製造や,化学工業,製鉄工業などである。

(3) 臭化水素(沸点−67.0℃,融点−88.5℃) 刺激臭のある無色の気体で,塩
化水素と同じ様に空気中の湿気により白煙を生じる。化学的性質も塩化水素によ
く似ている。酸素を加えて熱すると水と臭素を生じ,オゾンとは爆発的に化合す
る。また,過酸化水素により酸化されて臭素を遊離する。
(4) ヨウ化水素(沸点−35.1℃,融点−50.8℃) 刺激臭のある気体で,冷やす
と無色の液体及び固体となる。液体は光によって容易に分解してヨウ素を析出
する。化学的性質は塩化水素や臭化水素とほとんど同じであるが,これらに比べる
と最も酸化されやすく,強い還元剤となる。酸素と加熱するかまたは光の作用によ
って水とヨウ素を生じる。フッ素とはきわめて激しく反応してヨウ素のフッ化物
を生じ,塩素とは直ちに反応して塩化水素とヨウ素になる。臭素とも塩素と同様
に反応する。
参考実験 フッ化水素の性質
【目的】市販のフッ化水素酸を用いて,そのガラスを浸す性質を確かめる。
【準備】フッ化水素酸,ガラス板(100×100×2mm),ろうそく,筆,鉛筆,へラ
【操作】(1) 図のように,ろうそくを用いてガラス板の表面をろうで覆う(薄くて
よい)。
(2) 鉄筆またはシャープペンシルの先で,ガラス板の表面のろうをひっかくように
して,字や絵をかく。
(3) 筆にフッ化水素酸をつけ,(2)でつけた溝をなぞる。2〜3回操り返すとよい。
(4) ヘラなどを用いて,ガラス板の表面のろうをけずり落とす。

【実験上の注意】(3)の操作は,ドラフト内か通気性のよい所で行う。
【結果】フッ化水素酸に触れたところは,ガラスが浸されるので,これを利用し
て字や絵がかける。
塩素酸カリウム
►塩素酸塩
NaClO3は食塩水の電解で製造される。
2NaCl+2H2O→2NaOH+H2+Cl2 (電解反応)
6NaOH+3Cl2→NaClO3+5NaCl+3H2O
NaClO3水溶液を電解するとNaClO4が生じる。
NaClO3+H2O→NaClO4+H2
塩素酸塩は,一般に無色の結晶で,加熱すると分解して酸素や塩素を放出する。
急熱や,有機物または可燃性物質が存在するとき打撃などにより爆発する。Li,
Mg,Caの塩は潮解性で,Na塩にも少し潮解性がある。一般に水溶性であるが,
K,Agの塩は溶解度が小さい。酸化剤になるが,次亜塩素酸よりは弱い。酸性溶
液中では強い酸化剤となる。
ClO3−+6H++6e−→Cl−+3H2O E0=0.622V
酸性で還元剤と反応させると,爆発性の二酸化塩素ClO2が発生する。ClO2はリ
グニンなどの着色物質を分解する性質があり,パルプの漂白剤に用いられる。
2NaClO3+2NaCl+2H2SO4→2ClO2+Cl2+2Na2SO4+2H2O
ClO2をアルカリに吸収させ,還元剤と反応させると亜塩素酸塩になる。
2ClO2+2NaOH+H2O2→2NaClO2+2H2O+O2
NaClO3の融点は248℃で,300℃で分解し始める。主な用途(1976年)は,紙
パルプ工業70.5%,亜塩素酸塩製造13.0%,過塩素酸塩製造3.2%,除草剤7.2%,
酸化剤5.5%である。
KClO3は,他の塩素酸塩にKClを加えて複分解するか,KCl水溶液の電解で製造
される。融点356℃で,400℃で酸素を放って分解し始める。MnO2などの触媒
があると,70℃付近から分解し始める。用途としては,マッチ,煙火,火工品の
製造や医薬(うがい薬,収れん剤)などがある。
さらし粉
►さらし粉
さらし粉は,消石灰粉末に塩素ガスを通じて製造される。
2Ca(OH)2+2Cl2=Ca(ClO)2·CaCl2 · 2H2O+138kJ
主成分はCaCl(ClO)· H2Oの複塩で,Ca(OH)2などが不純物として含まれてい
る。カルキ,クロル石灰などともよばれ,有効塩素量35〜37%で漂白剤,殺菌剤,
消毒剤などに用いられている。さらし粉は過去大量に使用されていたが,不安定で
あること,沈殿物が生じやすいことなど不便な点があり,近年はさらし液や高度さ
らし粉に置き換えられている。さらし液は,石灰乳に塩素ガスを通じたもので,液
体として用いられる。高度さらし粉は,濃い石灰乳に塩素ガスを通じ析出する
Ca(ClO)2をろ別したものである。
塩の溶解度
►ハロゲン塩の溶解度
水に難溶性の塩は,フッ素と他のハロゲン塩とで,金属の種類が異なる。Cl,Br,
Iには共通のものが多い。以下に難溶性塩の例を示す。
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(1) フッ素 |
CaF2(無),CrF2(緑),CrF3(緑),MgF2(無),CuF(赤) |
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(2) 塩 素
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AgCl(無),CrCl3(赤紫),Hg2Cl2(無),CuCl(無) |
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(3) 臭 素
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AuBr(黄),AgBr(淡黄),Hg2Br2(無),CuBr(無) |
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(4) ヨウ素
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AuI (緑黄),AuI3(暗線),AgI (黄),Hg2I2(黄),HgI 2(赤), CuI (無),PbI2(黄),PtI2(黒),PtI4(黒) |
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溶解度 単位g/lは,溶液1l中の溶質の質量〔g〕を示す。 |
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温 度〔℃〕 |
0 |
10 |
20 |
25 |
30 |
40 |
50 |
60 |
80 |
100 |
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AgCl〔10−3g/l〕 | ||||||||||