トップ>化学I>第2部 物質の変化>第3章 酸化還元反応>第4節 電池と電気分解
第4節 電池と電気分解
A ダニエル電池と電池のしくみ
►参考実験 海水電池(塩化銀電池)の原理
【目的】海水電池(正極に塩化銀,負極にマグネシウム合金,電解液に海水を用い
た電池)の原理を,より簡略化した実験で理解させる。
【準備】3%食塩水,Mgリボン,銅板,銀板,炭素棒,電子式ブザー,発光ダイ
オード,導線,ペトリ皿
【操作】(1) ペトリ皿に3%食塩水を入れ,Mgリボンと銀板を入れて導線で結び,
ブザーが鳴ることや発光ダイオードが光ることを見せる。
(2) 電極の組み合わせをいろいろ変え,(1)と同様の実験を行う。
【結果】ブザーはほぼ鳴るが,発光ダイオードは2V近くないとよく光らない。
►ダニエル電池
1836年,イギリス人の化学者ダニエルによって考案されたもので,起電力の変
化が少なく,気体も発生しないので,ボルタ電池よりも数段優れたものとして評
価された。当初は銅イオンが亜鉛室に移って自己放電を起こすという欠点があった
が,いろいろな構造の改良を行い,電話交換機用電源として実用化された。
ダニエルJ.F.Daniellは,1790年ロンドンに生まれ,1845年没。1831年,ロン
ドンのキングスカレッジ設立の際に化学教授となる。1831年以降,英国学士院会
員。ダニエル露点湿度計,ダニエル電池,銅‐亜鉛熱電対の発明で有名である。塩
類の水溶液の電解による研究もある。
電池の原理を理解するには,ダニエル電池の方がわかりやすいので,最近は,電
池の学習ではダニエル電池から入るのが一般的になっている。
参考 ボルタ電池
イタリアの医学者ガルバーニ(1757〜1796年)は,カエルを金属板の上に置いた
ときけいれんを起こすことを観察し,この現象を筋肉中の生物電気だと考えた。し
かし,イタリアの物理学者ボルタは,カエルに起こるけいれんは,動物自身がもつ
電気ではなく,金属の接触電気によるものと考え,これにヒントを得て,水に濡ら
した紙や布を亜鉛と銅ではさむと,そこに電気が生じることを発見し,後にボル
タ電池を考え出した(1800年)。これが電池の起源で,ボルタはこの電池はいつま
でも使えると考えたが,実際は,水素イオンの吸着により銅表面の触媒能力が低下
し,すぐに使えなくなった。
ボルタAlessandro Voltaは,1745年2月18日生,1827年3月5日没。初め,
Pavia大学,1815年以後Padova大学の教授。ボルタ電池を発明し定常的な電流
を得て,化学反応が電流を生み出すことを明らかにした。電位,電圧の単位ボルト
volt(記号X)は,彼の名にちなんでつけられた。
電極と起電力
電池の構成
B 実用電池
►マンガン乾電池
乾電池にはマンガン乾電池やアルカリマンガン乾電池などがあり,マンガン電池
が古くから生産されていた。1999年以来アルカリマンガン乾電池の生産量がマンガ
ン乾電池にとってかわり,一番多くなった。
わが国で,1999年まで最も一般化されている乾電池は,ルクランシェ形乾電池だ
った。ルクランシェ電池の乾電池化は,19世紀末(1880〜1890年)に多くの人によっ
て研究され,工業製品として市場に出るようになったのは1890年である。
現在わが国で使用されているマンガン乾電池は,メーカーによりその成分や構造
が少しずつ違っているようであり,教科書では,最も多くの専門書に記載されてい
るものを示した。マンガン乾電池の反応は複雑で,簡単に説明できないが,一般的
には次のように説明されている。
負極では亜鉛が溶けて電子が放出される。このときの生成物は,pHによって次
のように変化する。
(1) pH5.1〜5.8 Zn+2NH4Cl→ ZnCl2+2NH4++2e-
Zn→Zn2++2e- (Zn2+として溶ける)
(2) pH5.8〜7.85 Zn+2NH4Cl+2H2O→Zn(NH3)2Cl2+2H3O++2e-
(Zn(NH3)2Cl2が沈殿析出する)
(3) pH7.85〜9.3 Zn+4NH4Cl+4H2O→Zn(NH3)4Cl2+4H3O++4e-
([Zn(NH3)4]2+として溶ける)
正極では,MnO2の粒子内部に,NH4+やH30+から分離したH+が拡散してくる。
また,負極から導線を通して炭素棒に電子が流れ込み,MnO2は還元されて
MnO(OH)(またはMn2O3・H2O)になる。そして,このMnO(OH)は未反応のMnO2
中に拡散していくと考えられる(1.5〜0.75Vくらいの放電の間の反応)。
MnO2+NH4++e-→ MnO(OH)+NH3
MnO2+H3O++e-→ MnO(OH)+H2O (MnO2+H++e-→ MnO(OH))
正極での反応もpHにより,また反応が進むと変化する。反応が進んだときは
Mn2+が生じると考えられている(主としてpH0.5〜6)。
MnO2+4H++2e-→ Mn2++2H2O
全体の反応としては,次の式が一般的に受け入れられている。
2MnO2+2NH4Cl+Zn→2MnO(OH)+Zn(NH3)2Cl2
また,電解液に塩化亜鉛を多く含む塩化亜鉛型電池の場合は,全体の反応が次式
のようになると考えられている。
8MnO2+8H2O+ZnCl2+4Zn→8MnO(OH)+ZnCl2・Zn(OH)2
マンガン乾電池は,休み休み使うと起電力が少し回復する特徴がある。
►実用電池の種類
実用電池は,一次電池,二次電池(蓄電池)に大別される。
|
実用一次電池 |
||||
|
名 称 |
負極 |
電解質 |
正 極 |
電圧〔V〕 |
|
マンガン乾電池 |
Zn |
ZnCl2 ,NH4Cl (ZnCl2) |
MnO2,C |
1.5 |
|
アルカリマンガン電池 |
Zn |
KOH(NaOH) |
MnO2 |
1.5 |
|
酸化銀電池(銀電池) |
Zn |
KOH(NaOH) |
Ag2O |
1.55 |
|
塩化銀電池 |
Mg |
海水 |
AgCl |
1.7 |
|
空気電池 |
Zn |
NH4Cl,KOH (NaOH) |
OA(空気) |
1.35 |
|
リチウム電池 |
Li |
LiBF4(LiClO4) |
(CF)n
(MnO2) |
3.0 |
|
実用二次電池 |
||||
|
名 称 |
負極 |
電解質 |
正 極 |
電圧〔V〕 |
|
鉛蓄電池
|
Pb |
H2SO4 |
PbO2 |
2.1 |
|
ニッケル‐カドミウム電池
|
Cd |
KOH |
NiO(OH) |
1.3 |
|
酸化銀‐カドミウム電池(銀電池) |
Cd |
KOH |
AgO |
1.1 |
|
ニッケル‐水素電池 |
MH |
KOH |
NiO(OH) |
1.3 |
|
リチウムイオン電池 |
Cx Li |
Li塩 |
Li1-x MO2 |
4.1 |
参考
►燃料電池
一般に,電池は化学変化のエネルギーを電流という形に変換するものである。ここ
で,化学物質のエネルギーを電気的エネルギーに変換する例として,燃料電池につい
て考察してみよう。
いま,白金板を水に浸し,その表面に水素を吹きつけると,水素の一部分はH+イオ
ンとなって水に溶け込もうとする。したがって,白金板は水素から電子を与えられて
負に帯電する。ある程度帯電すると,この負電気が上の反応をおし止めるので,電位
は一定値より大きくはならない(平衡状態の電位)。
同様に,他の白金板に酸素を吹き込むと,酸素の一部はH2O (O2+4e-→2O2-,2H++
O2−→H2O)となって水に溶け込み,極板は正に帯電する。この電極の電位も,平衡状態
の値に達する。ここで,この2つの極を結びつけると,その間の電位差によって電極
間に電流が流れ,液の中では次のように水が生じる。
H2→2H++2e-
O2+4H++4e-→2H2O
これらの反応をまとめると,結局,水素2molは酸素1molと化合して水2molを生じ
たことになる。その際に,化学エネルギーの一部を電気エネルギーに変換することが
できる。このような電池を燃料電池という。この燃料電池から発生する最大の電圧は,
それぞれの電極が独立の状態でもっていた平衡の電位の差になる(約1.2V)。ただし,
燃料電池としての発電をしている時には,流れる電流とともに電圧は低下してくる。
なお,上の例では水素が燃料となっているが,メタノール,エタノール,メタンな
どの可燃性物質を使うこともできる(ただし,多くは触媒によって燃料物質から水素を
分離して,水素を燃料として利用している)。燃料電池では,燃料を酸素と化合させ,
すなわち燃焼させ,その際に出る熱によって発電機を回して発電する方法に比べて,
原理的に(途中削除)効率が高く,有毒な排ガスを生じないし,装置も比較的簡単で,無
人でも働くなどの利点がある。そのため,無人灯台や宇宙船の発電装置として使われ
ている。携帯電話・モバイルコンピュータや自動車への応用も注目されている。
|
燃料電池 |
|||
|
名 称 |
燃料(負極) |
電 解 質 |
酸化剤(正極) |
|
アルカリ性電解液燃料電池
|
H2 (CH3OH,N2H4)
|
KOH |
02 |
|
酸性電解質燃料電池
|
H2 (CH3OH) |
H3PO4 (H2SO4)
|
|