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第2節 単体・化合物・元素
B 元素
元素
►元素
教科書では,「物質をつくる基本成分」と述べているが,厳密には「原子番号に
よって区別される原子種」と定義される。学習の最初の段階であるので初めから厳
密な定義を述べることができずあいまいな表現になっているが,同位体の学習が終
わった段階で,もう一度見直して指導するのがよい。
元素と単体
►単体
純粋な物質で,ただ1種類の元素のみからなるものをいう。よって,単体以外の純
物質は化合物ということになる。元素の単体は1種類だけのこともあるが,同素体の
あることが多い。たとえば,酸素には酸素(O2)とオゾン(O3)とがある。
同素体
►同素体
原子の配列や結合のしかたの相違のため,同一元素から性質の異なる2種類以上
の単体ができる場合,これらを互いに同素体という。教科書に示した炭素,酸素,
リン,硫黄の他に,スズ,セレン,テルル,ヒ素などが知られている。
よく知られているように,炭素の同素体にはダイヤモンドと黒鉛がある。どちら
も無数の炭素原子が連なって作られた共有結合結晶であるが,近年,60個の炭素
原子でできた安定なC60分子が発見された。炭素の新しい同素体が見いだされたの
である。
C60分子の存在は,豊橋技術科学大学の大沢映二教授が,北海道大学時代の1970
年に最初に予想した。p 電子が3次元的に移動できる分子を考察しているなかで予
想されたものである。しかし,C60は1985年に英米の化学者(H.W.Krotoサセックス
大学(英),R.E.Smalleyライス大学(米) )の共同研究により実際に発見された。二人は
クラスターについて研究し,一連の物質をフラーレンとよんだ。
クラスターとは,原子が数個〜数百個集まった集合体のことで,結晶や個々の原
子・分子とは異なった性質を示す。真空中で黒鉛に強力なレーザーを照射すると炭
素原子となって蒸発するが,真空中で炭素原子が集まると共有結合性の分子すなわ
ち炭素クラスターができる。Krotoたちは,炭素蒸気中にごく微量のC60とともに
C70を見いだし,サッカーボール・ラグビーボール型の分子を想定した。得られたク
ラスターは微量であったが,その大部分はC60であったという。
KrotoたちはC60を検出したものの,これを単離することはできなかった。C60
をグラム単位の量で取り出すことに成功したのは1990年で,W.Krätschmerマッ
クスプランク核物理学研究所(独),D.R.Huffmanアリゾナ大学(米)の共同研究に
よる。彼らは,ヘリウムガス中で黒鉛に電流を通じてススをつくり,その中のベン
ゼンに溶ける成分をカラムクロマト法で分離して取り出した。
C60の正確な分子構造は,5Kに冷却した結晶の中性子回折により求められた。
そして,12個の5角形と20個の6角形からなるサッカーボール型であることが確
定した。C60分子の直径は約0.7nmで,分子内に金属イオンや小さい分子を取り込
む余地が十分ある。そのような化合物の研究が進んでいる。

C60は空気中で安定である。真空中では600°C以上に加熱しても壊れないので,
昇華法で精製することができる。C60が安定で反応性に乏しいのは,芳香族分子で
あることの他に,分子に端がないことがあげられる。また,分子内の炭素原子がす
べて等価で,p 電子密度に偏りがないことも安定性に寄与しているであろう。
1990年以降では,ATTベル研究所が発見した,C60の超伝導性が目を引く。カ
リウムを添加したC60を19.28Kに冷却すると電気抵抗が0になる。C60そのもの
は絶縁体であるが,いろいろなアルカリ金属を添加すると,金属になったり超伝導
体になったりするのである。このように,黒鉛とC60は,ともに不飽和の結合をも
つ同素体であるが,その性質には大きな違いがある。
1996年度のノーベル化学賞は,フラーレンC60の発見に対して,サセックス大
学のクロトー(イギリス),ライス大学のスモーリーとカール(アメリカ)の三教授に
与えられた。
►オゾン
オゾンは乾燥酸素中の放電で得られる。また,フッ素と水との作用,リンの酸化,
硫酸の電解,紫外線・X線・陰極線を空気に当てたときなどにも発生する。簡単な
オゾン発生とその確認には,下図のように黄リンを用いる方法がある。オゾンは,
成層圏上部において酸素分子が太陽からの波長240nm以下の紫外線を受けて酸素
原子に解離し,この酸素原子が酸素分子と結合して生成する。
O 2+hn→2 (O) (O)+O 2→O 3

一方,オゾンは主として波長320nmの紫外線を吸収して分解し,酸素分子に戻る。
成層圏中ではオゾンの生成と分解のバランスによってオゾン濃度が一定に保たれて
いるオゾン層が形成され,生物にとって有害な太陽光線中の320nm以下の紫外線の
地表への進入を防いでいる。
ところが,電子部品の洗浄剤や,エアコンや冷蔵庫の冷媒,スプレーの噴射剤な
どに用いられてきたフロンによりオゾンの生成と分解のバランスが崩され,オゾン
層が破壊されているという事実が,近年になって明らかになり,深刻な問題になっ
ている。
フロンは,炭素,塩素,フッ素からなる一群の化合物の総称である。これらが大
気中に放出されると大気中では壊れにくい(大気寿命100年程度)ため,成層圏まで
拡散し,太陽からの紫外線を受けて塩素を遊離し,連鎖的にオゾンを分解する。こ
のため,成層圏のオゾン層は所々で薄くなった部分が観測されるようになってきた。
特に,南極大陸上空のオゾンホールは1980年代後半から定常的に観測されている。
オゾン層の破壊によって地上まで到達する紫外線量は増加しており,これによっ
て最も心配されるのは紫外線による皮膚がんの増加である。今日,皮膚がんの増加
の原因がオゾン層の破壊による紫外線量の増加によるという正式な報告は出されて
いないが,この種の環境問題は地球規模であり,時間的には,100年以上の歳月を
かけて進行するものである。
このようなことから,1990年のモントリオール議定書で西暦2000年までのフロ
ン全廃が決議されるに至った。また,フロン使用後の回収方法ならびに代替物質の
開発も急ピッチで進められている。
►参考実験 同素体をつくる ((A)オゾン,(B)リン,(C)硫黄)
【目的】供覧実験で同素体をつくり,理解と関心を高める。
【準備】
(A) オゾン オゾン発生器,誘導コイル,蓄電池(6V),洗気びん,ゴムふいご,
濃硫酸,ヨウ化カリウムデンプン紙,ゴム管
(B) 赤リンと黄リン 一端を封じた硬質ガラス管,スタンド,鉄板,蒸発皿,
ピンセット,赤リン,黄リン(水中に保存),二硫化炭素,ろ紙
(C) 硫黄 時計皿,漏斗,試験管はさみ,ビーカー,薬さじ,ルーペ,粉末硫黄,
二硫化炭素,ろ紙
【操作】(A)オゾン
(1) 図Aのように,オゾン発生器にゴムふいごを使って乾いた空気を送る。一方,
誘導コイルを作動させて高電圧をかけ,無声放電をさせる。
(2) オゾン発生器の排気口から出る気体の臭いをかぐ。また,湿らせたヨウ化カリ
ウムデンプン紙を排気口に近づけてみる。
(3) 電源を一度切った後,排気口にゴム管をはめ,もう一度オゾンを発生させる。
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図A オゾン発生装置 |
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図B 赤リンから黄リンへの変化 |
図C 赤リンと黄リンの発火と燃焼 |
(B) 赤リンと黄リン
(1) 一端を封じた硬質ガラス管に少量の赤リンを入れ,図Bのようにスタンドにと
め,赤リンの入っている部分を加熱する。
(2) 試験管に黄リン1粒をピンセットでとり,少量の二硫化炭素を加えて振り,溶
かす。蒸発皿にろ紙を入れ,黄リンの二硫化炭素溶液をふりかけ,暗くして観察
する。赤リンについても,二硫化炭素に溶けるか試す。
(3) 図Cのように,スタンドの輪の鉄板上に赤リンと黄リンを少量とり,加熱する。
どちらが先に発火するか,また燃焼の様子を観察する。
(C) 硫黄
(1) 粉末硫黄を小さじ1杯試験管にとり,二硫化炭素2cm3を加えてよく振り,溶
かす。この溶液を,ろ紙の上端を指で押さえて広がらないようにして,漏斗でろ
過する。ろ液は時計皿にとり,通風のよいところで放置して二硫化炭素を蒸発さ
せる。析出した斜方硫黄の結晶を,ルーペで観察する。
(2) 粉末硫黄を試験管に1/4とり,弱火でゆっくり加熱して融かす。全部融解して
黄色液体になったとき,図Dのように,漏斗に水で張りつけたろ紙上に流し込む。
冷えて表面が固まりかけたころ,ろ紙をとりだして広げる。十分に冷えたところ
で,生じた単斜硫黄の結晶をルーペで観察する。
(3) (2)で用いた試験管に粉末硫黄を1/3とり,振りながら強く熱して融解する。融
解硫黄は,加熱を続けると,さらさらした状態から流動性のない状態に変わり,
さらに加熱すると再び流動性を示すようになり,やがて沸騰が始まる。このとき,
図Eのように冷水を入れたビーカーに流し込む。冷えてから生じたゴム状硫黄を
とりだし,引き伸ばして観察する。
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図D 単斜硫黄の生成 |
図E ゴム状硫黄の生成 |
【実験上の注意】
(A) T.オゾン発生器の作動中は,高電圧がかかっている。触れないよう注意する
こと。生徒には臭いをかがすだけにして,近づけないよう注意する。
(B) T.黄リンは毒性が強いから,触れないよう注意する。生徒に,黄リンの二硫
化炭素溶液に関する操作をさせてはいけない。
U.実験終了後,ガラス管中の黄リンを除くには,希硝酸を加えて放置してお
けばよい。酸化してリン酸に変わるので心配ない。
V.Aは,暗い場所で観察すると,リン光を見ることができる。
(C) T.二硫化炭素は有毒かつ引火性である。火気から遠ざけて実験すること。
U.Aでは,弱火でゆっくり加熱するよう注意すること。高温になると粘い赤
褐色の液体になるので,その手前の黄色流動性のときにろ紙に流し込む。
V.観察終了後,つくった同素体は全部回収してびんに保存する。1年後くら
いには,すりつぶして粉末硫黄として再び使用できる。
【結果】(A) (1)火花を出さずに放電する。
(2) オゾン特有のなまぐさい臭いがする。ヨウ化カリウムデンプン紙が青紫色
に変わる。 2KI+H2O+O3→2KOH+O2+I2
(3) ゴム管が切れてボロボロになる。したがって,ゴム中に二重結合のあるこ
とがわかる。(二重結合に対するオゾンの反応)
(B) (1)だんだん黄白色に変わる。(ガラス管の口が狭いので,空気が中に入って
リンが燃えることはない。)
(2) 黄リンは二硫化炭素に溶けるが,赤リンは溶けない。ろ紙にふりかけた黄
リンの溶液から二硫化炭素が蒸発するとともに,黄リンは室温で酸化され,
暗い場所で見るとリン光が観察できる。
(3) 黄リンのほうが先に発火し,遅れて赤リンも燃え始める。火がついた後の
燃える様子は両者とも同じで,ともに白煙を激しく出す。赤リンの発火点は
260℃,黄リンは室温で自然発火する。 4P+5O2→P4O10
(C) 斜方硫黄,単斜硫黄はルーペで観察し,結晶形が異なることを理解する。ゴム
状硫黄は無定形固体であり,弾性があって変形しやすいことを確かめる。
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図F 斜方硫黄,単斜硫黄の結晶 |
C 成分元素の検出
炎色反応
►炎色反応
一般に,塩化物のような揮発性化合物中の金属原子が,加熱で励起されて発する
輝線スペクトルのうちで,ある波長の光が特に強いために生じる発色現象。定性分
析の補助法として重要である。普通,白金線の先端に検体をつけて無色炎に入れて
観察するが,検体が水溶液の場合には,ろ紙片に十分浸して直接無色炎に入れても
十分観察できる。
花火の色は,炎色反応によるものである。花火の閃光は,マグネシウムまたは
アルミニウムの燃焼による。現代の花火は酸化剤として塩素酸カリウムのような
能率のよいものを用いているので,燃焼温度が高く,炎色反応も非常に鮮やかであ
るが,江戸時代の花火は酸化剤として硝石(硝酸カリウム)を用いており,燃焼温
度が低いため色はあまり鮮やかではなかったと想像される。
炎色反応のまとめ
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元素 |
炎色 |
コバルトガラスを |
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Li |
赤 |
赤紫 |
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Na |
黄 |
無色 |
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K |
赤紫 |
赤紫 |
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Ca |
橙赤 |
橙緑 |
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Sr |
深赤 |
紫 |
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Ba |
緑 |
青緑 |
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Cu |
青緑 |
淡青 |
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実験1 大理石の成分元素
►大理石の成分元素
【実験上の留意点】

1. 大理石片は,ふたまた試験管の突起のある足に入れる。二酸化炭素の発生を止
めたいときは塩酸を元の足へ戻せばよいが,突起があれば固体の大理石片は塩酸
と容易に分離できる。(図1)
2. ガスバーナーの操作を知らない生徒は多い。炎色反応を始める前に操作の練習
を十分行うのがよい。(図2)
3. ふたまた試験管の一方の足に入れた大理石片へ塩酸を加えるとき,一度に大量
の塩酸を加えないようにする。一度に大量に加えると,急激に二酸化炭素が発生
するので,ふたまた試験管内の反応液が石灰水中に吹き出すことがある。二酸化
炭素が少しずつ石灰水に吹き込まれるように,塩酸を少しずつ大理石に加える。
4. 炎色反応を行うとき,白金線はあらかじめよく焼いて別の物質が付着していな
いことを確かめてから行う。
【実験の結果】
操作A 石灰水が白濁する。白濁した状態の液にさらに続いて二酸化炭素を吹き込
むと,白濁が次第に溶け,やがて無色透明の液になる。
操作C 無色炎が橙赤色に着色する。
【考察の解答】
(1) 初め白濁し,やがて溶けて透明になることから,発生した気体は二酸化炭素で
あることがわかる。 Ca(OH)2+CO2→CaCO3+H2O
CaCO3+H2O+CO2→Ca(HCO3)2
(2) 橙赤色を呈したことからカルシウムの存在がわかる。
(3) CO2が発生したことから,炭素と酸素,また炎色反応からカルシウムが含まれ
ていることが考えられる。