トップ新編生物I 改訂版>第6部 環境と植物の反応>第2章 植物の反応と調節D 発芽の調節

D 発芽の調節

 

◆発芽と環境

植物の生活史は種子の発芽から始まる。種子は幼植物が胚の状態で休眠状態にあり,細胞が水分をほとんど失った状態で生活作用がほとんど行われていないものである。したがって,その種子を水を与えるなど好適な条件においてやると,胚が成長して根や芽が種皮を破って外に出てくる。この現象を発芽という。発芽には様々な外的条件が関係していることが知られており,次にいくつかの環境条件と発芽との関係をまとめておく。すべての種子の発芽に必要な条件としては,次の3つがあげられる。植物の種類によっては,これら以外に光や化学的刺激が発芽に必要な場合もある。

@ 水:含水率が10%未満の種子が発芽するためには,まず,吸水を行うことが必要である。すぐに吸水できるものもあれば,種皮が硬いために種皮を物理的に傷つけたり,硫酸などの化学物質によって処理することが必要なものもある。

A 適当な温度:植物の種類によって発芽適温は異なるが普通は1530℃で,5℃以下や40℃以上では発芽はほとんど起こらないと考えてよいだろう。

B 酸素:発芽時の急激な成長のためには,活発な呼吸が生じる。そのためには,大量の酸素が必要である。

 

◆種子発芽とジベレリン

次の図はオオムギの種子発芽の過程を示したのであるが,オオムギのようにデンプンを貯蔵養分とする種子を例にして,発芽の際に種子内で生じる変化を見てみよう。

@ 種子が十分吸水すると,胚内でジベレリンが合成される。

A ジベレリンが種皮の内側にある糊粉層へ移動して,そこでアミラーゼの合成を促進する。

B このアミラーゼの作用によって,胚乳に貯蔵されているデンプンが分解され,マルトースやグルコースなどの糖が形成される。

C これらの糖が呼吸基質となって,好気呼吸が行われてATPが形成される。

D また,胚の細胞が分裂増殖して,植物体が成長して際に,例えば細胞壁の成分であるセルロースを生成するための材料としても糖が利用される。

このような事実が明らかにされたのは,次のような実験による。まず,オオムギの種子を胚のある方とない方に2分して吸水させると,胚のあるほうの糊粉層だけにアミラーゼが生じ,胚乳のデンプンが分解された。このことから,胚では糊粉層におけるアミラーゼの合成を促進する物質がつくられていると考えられた。その後の研究で,胚のない方にジベレリンを加えると,アミラーゼの合成が見られたことから,胚ではジベレリンが合成されることが発芽の引き金になることが明らかになったのである。

 

◆発芽と光

多くの種子の発芽には光は無関係であるが,発芽に光が必要な光発芽種子や,反対に光によって発芽が抑制される暗発芽種子が知られている。

暗発芽種子はケイトウなどのヒユ科植物やカボチャなどが知られている。また,光発芽種子には教科書にあげたタバコやレタス以外にも,マツヨイグサやタガラシ・イワタバコ・ヤドリギ・ムシトリスミレなど多くの野生植物で知られており,この性質は暗所で発芽すると芽生えが成長できないために,地表面がある程度明るい場合にのみ発芽することで,芽生えが生き残れる確率を高める効果があると考えられる。また,これらの種子は吸水中に光を感じ,その反応は光の強さ・光の波長・温度や種子の古さなどによっても変化する。

 

上の図中に示す赤色光と遠赤色光の発芽に対する効果は,レタスの一品種で初めて発見された。光発芽種子の発芽に有効な光は赤色光(波長580700nm)で,最も有効なのは波長660nmの光であり,反対に遠赤外光(波長735 nm)が発芽を抑制する。また,赤色光の発芽促進効果は遠赤外光によって打ち消され,両者は何回でも繰り返して打ち消しあうことから,フィトクロムとよばれる色素タンパク質が存在し,この色素は赤色光を照射すると遠赤色光を吸収するタイプ(PFR)となり,遠赤色光を照射すると赤色光を吸収するタイプ(PR)に変化すると考えられるようになった。レタスの発芽に対する光照射の効果は,ジベレリンの投与によって置き換えることができる。つまり,暗黒条件でもジベレリンを加えれば,このレタスは発芽が可能であり,このことは,光の照射がジベレリンの合成を促進することで種子の休眠を破る効果があることを示している。

 

◆発芽と低温

休眠状態にある種子を,湿潤状態で05℃の低温に数日から数か月さらすことで,種子の休眠を破って,発芽を促進する効果があることが知られている。この処理は「冷湿処理」とよばれ,冬の低温期の前に発芽すると,芽生えが低温のために枯死する危険性があるので,それを避ける生態的意義がある。一定期間の低温を経て温度が上昇すれば発芽するということは,温帯では春になって発芽するということであり,芽生えの確実な成長を保障することができる。この冷湿処理の効果もジベレリンの投与で置き換えることが可能である。

 

 

 








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