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C 光合成と環境要因

 

◆光合成−地球上のすべての生命活動を支える−

地球上のすべての生物が営む運動・成長・生殖などのすべての生命活動のエネルギーは太陽の光エネルギーに依存しており,その光エネルギーを生物が利用できる有機物中の化学エネルギーへと変換できるのは緑色植物と光合成細菌だけである。細菌の中には太陽の光エネルギーに依存せずに,無機物を酸化する際に生じる化学エネルギーによって,有機物を合成できる化学合成細菌もあるが,地球全体の有機物生産の大部分は緑色植物によって行われている。

光合成によって大気中や水中の二酸化炭素が有機物に同化され,この有機物が緑色植物自身の構成成分となるだけでなく,呼吸の基質として使われたり,動物に食物として摂取されて動物体の構成成分となったり呼吸の基質として使われる。呼吸に使われた有機物は最終的には二酸化炭素として排出される。また,これらの動物や植物の遺体や排出物は,土壌中の細菌や菌類によって分解され,再び二酸化炭素として排出される。そして,それらの二酸化炭素を緑色植物が吸収して再び光合成に利用することで,炭素は自然界を循環しているのである。

 

◆葉緑体

 色素体の一種である葉緑体は,ふつう直径510μmで厚さ23μmほどの楕円体で,高等植物では1つの細胞に10〜数100個含まれている。しかし,原核生物である藍藻類は葉緑体をもたず,原始的な紅藻類では1個の球状の葉緑体が見られるだけである。その他の藻類では,らせん状(アオミドロ)・板状(ヒザオリ)・星状(ホシミドロ)・半球状(コンテリクラマゴケ)など大きな葉緑体を1〜数個含んでいる。

 多くの高等植物では,内外2枚の膜で包まれ,内部構造としてはストロマ(基質)や内膜系(ラメラ構造,チラコイド)・プラスト顆粒がある。内膜系の微細構造の基本となっているのがチラコイド(扁平な袋状の構造)で,異なった大きさのチラコイドが積み重なったり複雑な折りたたまれたグラナチラコイドと,それを連絡する膜系のストロマに直接に接するストロマチラコイドとに分化している。

 成分の70%を占める水分を除いた固形成分のうち,60%はタンパク質で30%が脂肪である。また,クロロフィルやカロテノイドなどの色素が7%を占めている。それ以外に葉緑体は独自のDNAをもち,2個に分裂して増殖したり,細胞外へ取り出しても光合成を行うなど,高い自律性をもっている。

 

◆光の強さと光合成

光の強さを変えて,単位葉面積当たりの二酸化炭素の吸収速度を測定すると,次の図のようになる。

この図からわかるように,光の強さと光合成の関係は,光合成速度が光の強さとほぼ比例関係にある段階と,光の強さが増加しても光合成速度が増加しない飽和状態にある段階とに分けられる。最適温度のもとでは,前者の比例段階で二酸化炭素濃度が十分に与えられたら,光合成速度の限定要因は光の強さとなる。それに対して,飽和状態にある段階では,それ以上光の強さを強くしても光合成速度は増加せず,二酸化炭素濃度や温度が限定要因となる。

光合成によって吸収される二酸化炭素量(または発生する酸素量)と,呼吸によって発生する二酸化炭素量(または吸収される酸素量)とが同じになる光の強さを補償点といい,呼吸によって排出された二酸化炭素がすべて光合成に使われるので,見かけ上は二酸化炭素の出入りはない。また,温度が一定ならば,光の強さには関係なく呼吸によって発生する二酸化炭素の量はほぼ一定である。光の強さが0(暗黒条件)では,呼吸だけが行われているので,二酸化炭素の吸収量はマイナスの値であるが,しだいに光の強さを強くすると光合成によって吸収される二酸化炭素量は多くなり,補償点で両者の値が等しくなる。

 

◆温度と光合成

次の図は二酸化炭素を十分に与えた条件下で,光の強さと温度が光合成速度に及ぼす影響をわかりやすく説明するための模式図である。いま,いろいろな温度条件のもとで,光をしだいに強くしながら光合成速度を測定すると,図の左のような結果が得られる。これを見ると,光の強さがA点に達するまではどの温度条件でも光合成速度は一定であることがわかる。このように弱光下では光合成速度は温度とは無関係で,光の強さが限定要因になっている。

さらに光の強さを強くすると,温度によって光合成速度に差が生じてきて,図のB点ではどの温度条件でも,もはやこれ以上光を強くしても光合成速度は増加せず,温度によって光合成速度が決まってしまうことがわかる。この条件では温度が限定要因になっているのである。これらのことから,光合成には2つの反応,つまり,温度には無関係で光の強さに比例する反応(光化学反応)と,光の強さには無関係で温度に比例する反応(酵素反応)とがあることが推測できる。

◆二酸化炭素濃度と光合成

 下の図は,温度を一定にして2段階の光の強さのもとで,二酸化炭素濃度を変化させたときの光合成速度を示したものである。このグラフを見ると,二酸化炭素濃度が低い場合は,光の強さにかかわらず光合成速度は等しく,二酸化炭素濃度に比例して増加することがわかる。この条件では,二酸化炭素濃度が光合成の限定要因になっている。さらに,二酸化炭素濃度が増加すると,光の強さによって光合成速度に差が生じてきて,0.2%に達するとこれ以上二酸化炭素濃度が増加しても光合成速度は増加せず,この条件では光の強さが限定要因になることがわかる。

 

 また,図の横軸の二酸化炭素濃度が0.037%という値は,現在の地球大気中の二酸化炭素濃度の平均的な値である。グラフを見ると,この条件下では温度が適温で強い光が当たっている晴天時には,植物にとっては二酸化炭素濃度が最も不足していることがわかる。その上,無風状態では葉の周辺の二酸化炭素濃度はさらに低下し,二酸化炭素濃度が光合成の限定要因になる。ところが,光が弱い条件下では,現在の大気中の二酸化炭素濃度で光合成速度が飽和状態であることがわかる。

 

 

 








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