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B 吸水と蒸散

 

◆吸水のしくみ

陸上植物の吸水は主として根で行われており,根毛または根の表皮細胞から内部の細胞へと浸透的に行われている。吸収された水分は,表皮細胞から皮層を通過して内皮を経て,維管束系の木部道管細胞に入る。吸水の大部分は,次の項で述べるように,葉の蒸散作用に依存しており,蒸散のさかんな日中には吸水も活発に行われている。このほか,植物を茎の基部で切断すると,切口から水が排出されることからもわかるように,根圧による能動的な吸水のしくみも働いている。この吸水はイオンを利用した能動的なもので,低温や酸素の欠乏で抑制される。

根毛から道官にいたる水分の経路を詳しく見ると,2通りの経路がある。一つは,細胞壁間を通過する経路で,この場合は細胞壁を構成する多糖類の水和水として水分が移動しており,これをアポプラスミック吸水と呼ぶ。もう一方は,水分がいったん表皮細胞の細胞膜を通して細胞内に入り,隣接する細胞内を順次道管まで移動していくという経路で,これをシンプラスミック吸水という。このうち,前者が主たる経路と考えられている。

 

◆水の運搬−水分が上昇するしくみ−

大気圧は1気圧なのでこれだけでは水は約10mまでしか上昇できないはずであるが,樹高が100mを越える樹木の先端の葉にも水分が運ばれているのはどのようなしくみのよるのだろうか。この水の移動のメカニズムについては,様々な説が提唱されて議論されてきた。まだ,十分に解明されているわけではないが,ディクソン(1909)らによって提唱された「凝集力説」に基づいて,おおよそ,次のようにまとめることができる。

(1) 葉における蒸散によって,葉の基本組織系の細胞が水分を失う結果,細胞の溶液の濃度が高まり,浸透圧が上昇する。

(2) 浸透圧が高まったそれらの細胞は,より低い浸透圧を持つ隣接する細胞から水分を浸透的に吸収する。このように,次々に隣接する細胞間に浸透圧の勾配が生じ,葉の道管と隣接する細胞は,道管内から浸透的に吸水する。

(3) その結果,道管内には負の圧力が生じ,道管内の水柱を上に引き上げようとする力が生じる。

(4) 道管内の水分子どうしの間には凝集力が働くために,管内の水柱全体が引き上げられ,結果的に根の道管にも負の圧力が及ぶことになる。

(5) 根でも葉と同様に細胞間に浸透圧の勾配が生じて,水が内部へと吸収されて,最終的には表皮細胞から土壌中の水分が吸水される。

 

◆蒸散の調節

蒸散作用は,前の項でも述べたように,根における吸水とそれに伴う無機栄養塩類の吸収のために非常に重要である。それとともに,水が水蒸気となる際に奪う大量の気化熱のために,高温時の日中には葉の温度を低下させる効果があると考えられている。

細胞が空気と直接接していると,洗濯物を干して乾かす減少と同様に自然に水分が蒸発していってしまう。また,植物は光合成量を増加させるために,葉面積を大きくすることによって受光量を増やしているが,葉面積の拡大によって水分の蒸発量が増加し,植物は水分を失って枯れてしまう危険性がある。この問題を解決するために,陸上植物は水分の蒸発を防ぐ手段として,葉の表面にクチクラ層を発達させた。しかし,葉の全面をクチクラでおおえば,光合成などに必要な二酸化炭素や酸素の出し入れもできなくなるため,気孔という構造を発達させた。

蒸散の調節はこの気孔によって行われている。気孔は一般には昼間開いて夜に閉じる。また,晴れた高温の日にはよく開き,雨や寒い日には閉じる。さらに,風の強いときや葉の水分が不足している時にも閉じることが知られている。気孔の周囲にある孔辺細胞の浸透圧が高くなると,吸水が生じて膨圧が高くなり細胞がふくらむ。すると,孔辺細胞の形が変形して気孔のすき間が大きくなり,蒸散作用が活発になる。孔辺細胞の内側の細胞壁が厚く外側が薄いために,吸水が生じると,細胞壁の薄い外側がよく伸び細胞は弓なりに曲がって気孔が開くのである。その反対に孔辺細胞から水分が失われると,気孔は閉じてしまう。

 

◆気孔開閉のメカニズム

では,孔辺細胞の容積の変化はどのようにして生じるのだろうか。かつては,孔辺細胞だけに葉緑体があることから,昼間に光が当たると光合成が行われ,形成された糖分が細胞液に溶けてその浸透圧が高まる結果,吸水が生じると説明されていた。しかし,その後の研究によると,気孔が開くときにはカリウムイオンの孔辺細胞への取り込みが増加することが確認され,孔辺細胞の膨圧の変化は,カリウムイオンの吸収と放出によるという考え方が有力とされている。増田芳雄(1992)は「植物生理学」の教科書の中で,「気孔の孔辺細胞にカリウムイオンが入り,孔辺細胞の水ポテンシャルが低下すると水が孔辺細胞に移り,このため気孔の細胞壁の薄い部分が伸びて気孔が開くと考えられている。しかし,孔辺細胞から細胞壁にプロトンが分泌され,気孔の細胞壁の伸びやすい部分がさらに伸びやすくなったために気孔が開くという考え方が近年有力になってきた。」と書き,このように,気孔の開閉のメカニズムについては,まだ,十分解明されてはいないのが現状である。

 

 

 









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